2018.02.28
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新学習指導要領で求められる中学校理科の授業(vol.2) 生徒が「科学的に考える」大人になるよう支援する ―平成29年東久留米市中学校授業改善研究会―

東久留米市中学校授業改善研究会では、研究授業発表に続き研究協議会が行われた。参加した約20名の教員が今日の授業について良い点や改善点をグループで話し合った後、全国中学校理科教育研究会(全中理)の元会長である高畠勇二氏が、新学習指導要領で求められる中学校理科教育と絡めて本授業の講評を行った。後編では高畠氏の講評と、東久留米市立授業改善研究会・理科部部長である東久留米市立久留米中学校校長・齋藤実氏のインタビューをお送りする。

新学習指導要領で求められる中学校理科の授業 ~生徒が「科学的に考える」大人になるよう支援する ―平成29年東久留米市中学校授業改善研究会― 後編

講評者に聞く

教育とは生徒が持つ概念が変容するのを支援すること

教育とは何か、学習とは何か

授業後に行われた研究協議会

授業後に行われた研究協議会

「新学習指導要領では、育成すべき資質・能力3つの柱として、『知識・技能』『思考力・判断力・表現力』『学びに向かう人間性等』が示されました。皆さん、そもそも『教育』とは何だと思いますか?」
東久留米市中学校授業改善研究会に集まった約20名の教員に向かって高畠勇二氏はまずこう問いかけた。
「教育とは、学習を支援することを目的とした行為です。そして学習とは、生活体の概念が経験によって変容することです。では、『概念が変容する』とはどういうことでしょうか?」
そう言いながら、高畠氏は2枚の写真を提示した。柴犬と椅子の写真だ。
「皆さんは、『犬』と『椅子』を簡単に見分けられますよね? でも、犬と椅子は結構似ています。まず名前が似ています。『いぬ』『いす』で1文字しか違いません。色も同じ薄茶色で似ていますし、形も同じ4本足です。

全国中学校理科教育研究会支援センター 代表理事 高畠勇二 氏

全国中学校理科教育研究会支援センター 代表理事 高畠勇二 氏

似ているのに、皆さんが犬と椅子を見分けられるのは、経験によって犬と椅子の概念を変容させてきたからです。例えば、これは何ですか?」
と、高畠氏は2枚の写真を提示した。1枚目は、毛をまん丸くカットした白いプードルの写真。耳も毛に埋もれていて、まるで雪だるまのよう。もう一つは、毛がほとんどないヘアレスドッグの写真。尖った大きな耳と、ギョロッとした大きな目、そして骨と皮だけのようなシュッとした細身なのが特徴だ。

「この2匹は一見すると全く別の生き物にも思えますけど、皆さんはすぐに『どっちも犬だ』とわかりますよね。なぜわかるかというと、『こういう犬種の犬もいる』『こういうヘアカットの仕方もある』と学習して、『犬』の概念を変容させているからです。

逆に言うと、ヘアレスドッグを見たことのない幼い子は、この画像を見ても犬だとわからないと思います。そういう子に、『こういう犬もいる』と理解させて、『犬』の概念を変容させ、次にヘアレスドッグを見た時には『これは犬だ』と答えられるようにする。これが、『学習』です」
とてもわかりやすい例え話に、参加した教員は大きくうなずきながら聞き入っていた。

研究授業の良い点と改善点

作図の仕方を実物投影機で実演しながら前時の復習

作図の仕方を実物投影機で実演しながら前時の復習

「今日の授業で言えば、生徒の持つ『光』の概念が変容するのが学習です。そして生徒が学習しやすいように支援するのが教育であり、教師の役目になります。今日の授業では、生徒の光の概念が、しっかり変容していましたね。最初は『どういうこと?』と首を傾げていた生徒も、授業の最後には『わかった! こういうことか!』とうなずいていました。生徒が光の概念を変容できたのは、池森先生が授業を工夫したおかげです」
と、高畠氏は今日の授業で良かった点を次のように指摘した。

  • 個別に仮説を立てる→班で話し合い仮説を立てる→実験で検証する→なぜそうなったか考える、という順番が良かった。自分の意見を持った上で話し合いに臨むからこそ、他者の意見と比較して疑問を指摘したり、他者からの疑問に答えたりと議論が深まる。その上で実験して仮説が正しいかどうかを検証し、間違っていたならその原因は何かと考えさせることで、生徒全員の理解が深まり、光の概念が変容した。

  • 話し合い活動にも工夫が見られた。4人1組なのも絶妙。4人よりも大人数だと「傍観者」が出てくる。4人よりも少ないと、多様な意見が出てこず、議論が発生しない。また、司会者役、ワークシートに書く役など、役割分担をしたのもいい。役割を与えることで、全員が話し合いに参加する。

  • 前時の復習が、とてもわかりやすかった。作図の仕方を実物投影機で実演しながら、「入射角=反射角」の既習事項を復習した点が、言葉で説明するよりもわかりやすい。見ればわかるので、特に理科が苦手な生徒は助かる。だから生徒は皆、迷わず作図できていた。

  • ヒントカードが効果的だった。困っていた生徒も、ヒントカードのおかげで考えることができていた。

その上で、高畠氏はより良い授業にするための改善点も指摘した。

  • ワークシートの鏡のサイズがマス目より微妙に小さいため作図しづらい。マス目と同じ大きさの鏡を用意した方が良い。

  • 光が進む順を矢印で書かせたが、ほとんどの生徒が「壁に貼った文字列→鏡→目」ではなく、逆になっていた。光の進む順を書かせるならもっと指導すべき。あるいは、混乱を防ぐために省くのもあり。

最後に、高畠氏はこう締めくくった。
「生徒の概念を変容する“支援”を行うのが、教師の役割なのだと自覚しましょう。教師が一方的に教えるのではなく、生徒が自分で考え、生徒が自分で概念を変容できるのを支援する授業を作っていきましょう」。

実践者に聞く

理科で学んだことが「社会でどう役立っているか」、大人になっても科学的視点を持ち続けられるように

どんな生徒を育てたいか、どんな授業をすべきか

東久留米市立久留米中学校 校長、東久留米市中学校授業改善研究会 理科部長 齋藤実 氏

東久留米市立久留米中学校 校長、東久留米市中学校授業改善研究会 理科部長 齋藤実 氏

――新学習指導要領では、中学校理科でどんな力を育むべきとお考えですか?

齋藤実(敬称略 以下、齋藤)理科の授業で学んだことが、「社会の中でどう役立っているか」を、関連づけて考えることができる力を育みたいと考えています。例えば「羽根のない扇風機」があります。多くの大人は、この扇風機を見ても「変わった形だな」で終わってしまいます。そうではなく、「どうやって風を発生させ、送り出しているのだろう?」と好奇心を持ち、理科の授業で学んだことを活かして自分で考えたり、調べたりするような大人になってほしいのです。

――新学習指導要領が求める「自然の事物・現象を科学的に探究しようとする力と態度を育む」とは、そういうことなのですね。

齋藤子どもの頃は、誰しも理科の実験を見て「なぜだろう? 不思議だ!」と感動し、知的好奇心を刺激されます。しかし、大人になるにつれ知的好奇心を持たなくなり、考えるのを止めてしまいがちです。大人になっても科学に対する好奇心を持ち続け、日々の生活の中には理科で学んだ自然現象や理論を応用したモノがあふれていることに気づき、「なぜだろう?」と自分で課題や疑問を見つけ出し、その答えを探究しようとする姿勢や力を育みたいと思います。

――そのような「考える」生徒を育てるには、どんな授業を行えばいいのでしょうか?

齋藤従来のような教師主導の講義型の授業から脱却する必要があります。教師が一方的に解説し、生徒は受け身で聞く講義型授業では、生徒が「自分で考える」機会がとても少ない。特に若い教師は、自分が生徒の頃丁寧に教わってきた経験があるので、自分も丁寧にわかりやすく教えようとして、解説しすぎる傾向があります。生徒に「どうしてこうなるの?」と尋ねられたらすぐに答えを教えたり、尋ねられる前に答えを解説したりすることも少なくありません。

もっと生徒が考える時間をたくさん作り、考える練習を重ねることが大事です。池森先生が今日の授業で行った「話し合い活動」も、考える練習として効果的です。まず自分の意見を持ち、自分の言葉で考えを説明する。そして他者の意見にも耳を傾けて理解し、疑問を尋ね、間違っていると感じたことを指摘する。こういう活動をたくさん経験していくと、生徒は考えるようになっていくでしょう。

一方、考える活動だけをやればいいというのではありません。考えるためには、考えの基盤となる知識の習得が不可欠です。今日の授業も、前時に習得した反射の知識を活用して考える展開になっていましたよね。まずはしっかり知識を「習得」する。その知識を「活用」して考える練習を行う。これを繰り返していくと、「なぜこうなるのだろう?」と生徒は自分で課題を見出し、問題解決に取り組む「探究」を行うようになる。この「習得・活用・探究」のプロセスを授業で作ることが大切だと思います。

――授業時間は限られていますが、「習得・活用・探究」をどんな配分で行えばいいのでしょうか?

齋藤目の前の生徒の実態に合わせて考えるべきでしょう。池森先生もおっしゃっていましたが、生徒には能力差があります。理科が苦手な生徒には、知識の習得に時間をかけて、しっかり定着させたい。理科が得意な生徒には、短時間で知識の習得を行えるから、今日の話し合い活動のような活用・探究の時間を取ってあげたい。

生徒の実態に合わせて、どこからどこまでを教師が教え習得させるか、どこからは生徒自身に考えさせるか、まず線引きをする。その上で、どのように知識を習得させるか、その知識を活用してどのような考える練習を行うか、授業場面を考えていくと良いと思います。

最終的には、授業で学んだことや考えたことが、「世の中でどう役立っているのか」と結びつけられるように教師が導いてあげるのが理想です。

夏休みの子ども科学電話相談室のラジオを聞いていると、「扇風機の後ろに座っても涼しくないのはなぜですか?」といった、素朴だけどとても鋭い子どもの疑問に対し、識者の方々が専門的な内容をとてもわかりやすく噛み砕いて答えています。そして疑問に答えるだけでなく、興味関心が広がるような解説も行っています。それを聞いて、子どもは「そうなのか!」と驚き、「もっと自分で調べてみます!」と、科学への興味関心をかきたてられています。

こんな風に、理科の授業でも生徒の疑問に答え、理科が世界とつながっていることを実感させ、さらに興味関心を引き出し、主体的に探究していけるよう導いてあげたいと思います。

若い教師の育成が急務。生徒だけでなく先生も学ぼう!

齋藤とは言え、教師一人で授業改善しようとしても限界があります。たくさんの授業を見て参考にしたり、たくさんの人に授業を見てもらってアドバイスをいただいたりと、教師自身にも積極的に学んでもらいたいと思います。

――東久留米市中学校授業改善研究会は、教師が学ぶ場を作るのがねらいなのですか?

齋藤そうです。特に若い教師に学んでほしいと思っています。本校には25名の教員がいますが、そのうち10人が20代の若手で占められています。本校に限らずどの学校でも若手教師の比率は高く、彼らの育成が急務になっています。若い皆さんにベテラン教師が持つ授業力や指導力を学んでほしいと思います。短時間で知識を習得する方法や話し合い活動を活発にさせる方法、生徒の興味関心を引く実験や教材開発のノウハウ、発問技術、授業時間内に習得と活用をバランス良く行う授業設計力など、学べることはたくさんあります。

――教師の皆さんがたくさん学べるように、どんな工夫をしていますか?

齋藤研究授業の後に、必ずグループ協議を行うようにしています。「今日の研究授業を参観して、意見はありますか?」と全員に尋ねても、「良かったです」と社交辞令に終わりがち。授業を改善するには、時には耳の痛い指摘も必要です。グループ協議でざっくばらんに話し合うことで、評価できる点と改善すべき点の両方の意見が出てきます。

今日のグループ協議でも、授業者の頑張りを褒めたたえつつ、「鏡の大きさとマス目の大きさが微妙に異なるので作図しにくい。反射シートを切って、マス目と同じ大きさの鏡を作れば、もっと作図しやすくなる」といった建設的な意見が寄せられました。

グループ協議には、若い教師も発言しやすくなる効果があります。若手教師はベテラン教師に遠慮してなかなか発言しにくいのですが、4人1組でグループ協議すると発言の機会が必ず回ってくるので、意見を述べやすくなります。

――少人数グループにして発言を促すのは、生徒達の話し合い活動と同じですね。

齋藤はい。ベテランから若手まで、たくさんの方々から多様な指摘やアドバイスをもらうことが、授業改善につながります。同時に、ベテラン教師も若手教師から学んでほしいというねらいもあります。例えば、授業で効果的にICTを活用する方法は、若手教師から学べると考えています。ベテランと若手とで学び合ってほしい。皆で力を合わせ、授業を改善していってほしいと思います。

生徒の未来を見据え、授業を作ろう

――最後に、読者の先生方へのメッセージをお願いします。

齋藤目の前の授業だけにとらわれず、生徒の未来を考えましょう。「教科書に載っているから教える」のではなく、将来こんな大人に育ってほしい、そのために今こんな授業をして、こんな力を育みたいという長期的な視点で授業を作りましょう。

教師は忙しいから、なかなか長期的な視点を持ちにくいのが現実です。特に若い教師は、目の前の授業を行うのに精一杯になりがちです。しかし、「生徒の未来を考えよう」との視点で授業を作ることを意識すれば、少しずつでも変わっていけるはずです。

そのためには、生徒を学ばせるだけでなく教師自身も学びましょう。教師の成長なくして生徒の成長もありません。広く学び、専門性を高め、より良い授業を作っていきましょう。

記者の目

高畠先生と齋藤先生に共通していたのは、「生徒達の未来」を考えている点だった。お二人とも、目の前の授業をどう作るかだけでなく、大人になった時に理科で学んだことを活用して社会と関わっていける力と態度を育んであげたいと未来を展望し、そのために今学校でどんな教育を行うべきかを考えていた。特に齋藤先生がおっしゃった「教師は目の前の授業を行うのに一生懸命で、生徒の未来まで考えられていない」という言葉は、とても真摯で、胸に突き刺さった。「生徒の未来を考えて教育する」という視点は、中学校理科に限らず、どの校種どの教科でも、そして子育てにも共通する大事なことだと強く感じた。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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