2012.01.24
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小中一貫で独自に「在り方生き方」領域を設定(vol.1) 総合と特活を統合、教科等との関連も図る ―船橋市立若松小・中学校「小中一貫教育公開研究会」より― 前編

千葉県船橋市の臨海部、若松地区に隣り合う市立若松小学校と同若松中学校は、2009年度から文部科学省研究開発学校の指定を受けて4-3-2制の小中一貫教育を実践してきた。小学校第1学年からの英語教育のほか、「総合的な学習の時間」と特別活動を統合した独自領域「在り方生き方」(全学年で年間35~105時間)を設置したのが特色。3年間の研究のまとめとして昨年11月に行われた公開研究会には全国から約350人が集まり、12月にも中央教育審議会の作業部会で事例を発表する等注目を集めている。まずは前編として若松中学第1学年の「在り方生き方」授業をリポートする。

授業を拝見!

地域をよく知り、自分もその一員だという心を育てる

学校・学年・教科: 船橋市立若松中学校 1年生 在り方生き方(生徒55名)
単元: つながろう、地域とわたしたち(全26時間)
本時の学習: 発表の方法について考える(18時間目)
ねらい: 地域の方々の思いを的確に捉え、発表内容に生かすことができる。
指導者: 加藤真美 教諭、ほか学級担任・副担任(計3名)
使用教材・教具: 短冊型の用紙(赤・白)、ワークシート

地域の人々の思いが伝わる発表方法を考える

「今日は、地域の方々の思いを発表に生かそう、ということで発表の内容を考えてみましょう」
 研究会での公開授業の冒頭、加藤教諭がこう呼び掛けて学習が始まった。学年2クラスの生徒は各6人前後の9班編成に。周りには多くの学校関係者と、地域調査に協力した住民の人々が目を細めながら生徒たちの活動を見守る。
 加藤教諭は
「大事なのは内容です。どういう発表内容にし、どういう発表方法なら地域の方々に伝わるか、考えていきましょう」
 と続け、これまでの学習を振り返りながら、板書や掲示によって活動方法を説明していった。

「在り方生き方」では、各学年でテーマを設定している。9年間を3期に分けた第II期(小学校第5学年~中学校第1学年)の最終学年である中1のテーマは「地域を愛する」。地域学習は小3・4の社会科でも行っているが、国土や世界に視野が広がった小5・6を経た後で再度、地域を振り返り、自分も地域の一員であることを気付かせた上で中2以降の学習活動を深めたいという願いも込められている。

「短冊」を使って構成を考える

この後、白い短冊には発表する内容を、赤い短冊には発表の演出方法を各自書いていき、机の上にどんどん並べていく。それらを班内で相談しながら取捨選択し、並べ替え、発表の構成を磨き上げていく。
 単元の始まった7月にもウェビング(思いついた言葉をクモの巣のようにつなげながら、思考や活動の方向を整理していく手法)で地域に関して知っていることや調べたいことをまとめており、生徒はこうした活動はお手のものだ。3人の先生も机間指導に忙しい。

加藤教諭は作業の途中経過を班ごとに報告させると、あえて厳しい口調で注意を入れる。
「ニュース形式にする、という班が多かったけど、まだ『地域の人の思い』が十分反映されていないように感じます。今回は、楽しく伝えることが目的ではありませんからね」。
 6月に小6を招いて校外学習の発表をした時には「楽しく伝える」ことが主目的だったため、今回も伝え方ばかりに関心が向きがちな班があったようだ。真剣な表情で聞いていた生徒たちは加藤教諭がそう言い終わるや否や、一斉に新たな短冊に記入し始め、話し合いも一層盛り上がっていた。

目標、内容、評価の観点を綿密に計画

若松小・中の「在り方生き方」は、三つの領域(個の内面、個と集団、個と社会)と、七つの内容(1.キャリア、2.自分づくり、3.健康・生命、4.課題の探究、5.コミュニケーション、6.地域社会、7.国際理解)で構成される。各領域と内容を格子状に組み合わせ、それぞれに活動をはめ込むことで9年間のカリキュラムができる。こうした手法は全教科等に共通しており、これにより9年間を見通した計画的な子どもの育成が可能になる、というわけだ。評価の観点としては「自己形成」「人間関係力」「課題設定・解決力」の3点を設定した。

今回の単元でも、六つの目標のうち例えば「地域のことを知り、地域と自分のつながりを作る」では「自己形成」の観点で2.の内容、「地域訪問や発表会を通じて地域の方々へ自分の思いを伝えることができる」では「人間関係力」の観点で5.の内容、といったように柱ごとに明確に計画されている。

単元ではウェビングを通して地域への関心を高めた後、青少年健全育成委員など地域を守る人たちの講演を聴いて関心を深め、彼らの思いをどう受け止め、どんな感想を持ったか意見を交換。地域に対する思いにあふれている人たちがいて、自分たちもそうした地域に守られていることに気付かせた上で、団地自治会や商業施設、工場、競馬場などを訪問してインタビューを行ってきた。

本時の授業は、そうした地域調査の成果をどうやって発表するかを考えるもの。話し合った内容を記録したワークシートをのぞくと、みな記入欄にびっしり。にぎやかな中で、あっという間に50分が過ぎた。 後編へつづく

記者の目

「今回は、楽しく伝えることが目的ではありませんからね」。加藤教諭のこの一言で教室の雰囲気が引き締まっただけでなく、学習の意図も明確に生徒に伝わり、その後の活動も活性化した。授業は生き物であり、ポイントを踏まえた的確な発問には力があることを、改めて感じさせられる瞬間だった。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

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