2018.01.24
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新学習指導要領で求められる中学校理科の授業(vol.1) 講義型授業から「主体的・対話的で深い学び」へ ―平成29年東久留米市中学校授業改善研究会―

新学習指導要領で求められる中学校理科の授業とはどのようなものだろうか? 中学校の新学習指導要領を見ると、「自然の事物・現象を科学的に探究する力と態度を養う」ことを目指そうと書かれている。そこで今回は、理科授業の研究と実践に取り組んでいる、東久留米市中学校授業改善研究会の理科部研究授業(平成29年・第2回)を取材。前編では、東久留米市立久留米中学校で行われた研究授業の様子と、授業者のインタビューをお送りする。

新学習指導要領で求められる中学校理科の授業 講義型授業から「主体的・対話的で深い学び」へ ―平成29年東久留米市中学校授業改善研究会―

授業を拝見!

話し合い活動で教え合い・学び合いが活発化し、全員が理解へ

学年・教科:中学校1年 理科
単元:光の世界(全6時間・2時間目)
ねらい:光の反射の法則を活用して、鏡に反射する光の範囲を予測し、検証する
授業者:池森泰啓 教諭
使用教材・教具:実物投影機、ワークシート、話し合い活動用小型ホワイトボード、鏡

前時に習った知識をしっかり復習

東久留米市立久留米中学校 教諭 理科担任 池森泰啓 氏

東久留米市立久留米中学校 教諭 理科担任 池森泰啓 氏

「今日は、光の反射について学ぶ2時間目です。前時では、光の反射について実験し、その法則について学びましたね。今日はその法則を用いて、大がかりな実験をしたいと思います。その前に、まずは復習をしましょう」

と、池森泰啓教諭はワークシートを配り、前時で学んだ光の反射の法則を使った練習問題に取り組ませた。鏡に当たった光がどの方向に反射するか、ワークシート上で作図するのだ。
作図の仕方を実演し、実物投影機で映す

作図の仕方を実演し、実物投影機で映す

すぐに鉛筆を走らせ始めた生徒もいれば、考え込んでしまった生徒もいる。そこで池森教諭は、実物投影機でワークシートを映しながら、作図の仕方を実演し始めた。
「光がこの角度で鏡に当たっているね。分度器で測ってみます……何度になっている?」
テレビに大きく映し出されたワークシート上の分度器を見て、生徒が
「45度」
と回答すると、池森教諭は
「そうだね」
と言いながら、45度と書き込んだ。
池森教諭「この角度を、なんと呼ぶのでしたか?」
生徒「入射角」
池森教諭「入射角は何かに等しいと習ったよね?」
生徒「反射角と等しい」
池森教諭「では反射角は何度になる?」
生徒「45度」
と、池森教諭は少しずつ発問しながら反射する光を作図していった。その様子を見て、考え込んでいた生徒の手も動き始めた。全員が理解できる、とてもわかりやすい復習方法だ。

個人で仮説を立ててから班で話し合い活動を行う

後ろの壁一面に貼った文字列

後ろの壁一面に貼った文字列

10分ほどで前時の復習を終えると、いよいよ本時のメイン活動へ。今日は普通教室内で大がかりな実験を行う。前方の黒板一番端にA4大の鏡を設置し、その鏡越しに教室の後方を見たら、後ろの壁一面に貼った文字列「いけもりせんせいのたのしいりか」のどこからどこまで見えるかを実験で確認するのだ。

まず、生徒に仮説を立てさせる。
「勘ではなく、今までに習ったことを使って、科学的に考えてください」
と指示した池森教諭が用意したのは、鏡の位置や大きさ、教室の広さ、床の正方形タイル、後ろの壁に貼った文字列などの実験環境を縮小して再現した図。生徒はこの図上で光の反射を作図し、鏡に映る範囲を考えるのだ。

3分間、個人で考え作図する。すぐさま鉛筆を走らせる生徒もいる中、ワークシートをにらんだまま考えこんでしまった生徒が多数出てしまった。ハラハラしながら見ていると、机間指導していた池森教諭が悩んでいる生徒に1枚のカードを手渡している。カードには、「まずは視点の位置から鏡のどこか1点まで線を引いてみよう。そのあとの光の道すじを自分で考えて書いてみよう」と書かれていた。ヒントカードだ。困っている生徒にだけ、ヒントを与える支援方法である。このカードを読んで、止まっていた生徒の手が動き始めた。

3分が経過すると、池森教諭は
「4人1組の班になって」
と指示した。今度は個人で考えた仮説を持ち寄り、4人で話し合って班としての仮説を立てるのだ。各班には、先述と同じ実験環境を再現した図を拡大印刷してラミネート加工したB3大ほどのホワイトボードとペンを配った。

個人で考えた仮説を持ち寄り、4人で話し合う

個人で考えた仮説を持ち寄り、4人で話し合う

そして池森教諭は、
「一人ひとりの役割を決めましょう」
と指示した。各班で司会係、話し合いの記録係、ホワイトボードに作図する係、発表する係を決めた上で話し合うようにという指示だ。生徒達はすぐに役割を決め、自分のワークシートを見せながら、互いに仮説を説明し始めた。

しかし、中には4人全員が考え込んでしまう班や、光が反射する範囲を考えなければいけないのに光の線を1本だけ引いて満足している班もいる。そんな班を発見した池森教諭は、ヒントカード(2)を渡していった。今度のヒントカードには、「光が鏡の中央に当たった場合、はじっこに当たった場合などで色々考えてみよう」と書かれていた。このヒントカードのおかげで、止まっていた班も話し合い活動が動き始めた。

「まず入射角を決めて、同じ角度で反射角を決めて、光の道すじを伸ばしていこうよ」
などと活発に話し合いながらホワイトボード上で作図していく生徒達。
「どうしてこうなるの? わからない」
と眉間に皺を寄せる生徒に、同じ班の生徒が
「入射角と反射角は等しいでしょ? だから光の道すじを作図するとこうなるよね」
と丁寧に教える。このような姿があちこちで見られた。

各班の仮説を発表した上で、実験で確かめる

班ごとに仮説をホワイトボードに書き込み発表

班ごとに仮説をホワイトボードに書き込み発表

15分ほどの話し合い活動の後、班ごとに仮説を発表。作図したホワイトボードを黒板に貼って指し示しながら、
「鏡の左端に反射した光と、右端に反射した光の道すじを作図しました。この2本の線の間が、鏡に映って見える範囲です」
と、わかりやすく説明する班もあった。しかし、どの班の予想も少しずつ異なっており、
「なんで?」
「どれが正しいの?」
と、生徒達はざわめいた。

実物投影機のカメラを鏡に向けて実験

実物投影機のカメラを鏡に向けて実験

そこでいよいよ実験。
「どの班の仮説が正しいのか、実験で確かめましょう」
と池森教諭は言い、観察地点に置いた実物投影機のカメラを鏡に向けて、その様子をテレビに映し出した。身を乗り出して、テレビ画面に見入る生徒達。
「やった! 合っていた!」
と歓声が上がる班もあれば、
「間違っていた……なんで?」
と首をかしげる班も。それらの声に応えるように池森教諭は、ワークシートを実物投影機で映しながら、正しい作図方法を実演。実験結果と合致することを証明した。生徒達は、
「あー、入射角の角度が少しズレていた」
などと間違いに気づき、納得していた。

最初の頃は「わからない……」と頭を抱えていた生徒も、「なるほど! わかった!」と大きくうなずいていたのが、とても印象的だった。

授業者に聞く

主体的・対話的な学びで理解を深め、自然現象と理論を結びつける

話し合い活動を行う理由と工夫

東久留米市立久留米中学校 教諭 理科担任 池森泰啓 氏

東久留米市立久留米中学校 教諭 理科担任 池森泰啓 氏

――今日の授業では、話し合い活動がとても印象に残りました。教え合い学び合うことで、班全員の理解が深まり、皆で力を合わせ仮説を立てていましたね。

池森泰啓(敬称略 以下、池森)今までの理科の授業は、教師が話す時間がとても長かったと思います。私自身、「わかりやすく教えよう」と意気込むあまり、黒板にたくさん書いて、長々と説明していました。

しかし、教師の説明を聞くだけでは、いくら丁寧にわかりやすく説明しても、理解が浅いまま終わると私は感じています。わかったような気にはなるけどわかっていなかったり、応用ができなかったり、自然現象と理論が結びつかなかったり。だから「主体的・対話的で深い学び」を行って、全員の理解を深めたいと考えました。話し合い活動も、その一環です。

話し合い活動を行うと、まず生徒が主体的になります。話し合い活動では発言機会が必ず回ってくるので、「わかっているふり」ができませんし、あやふやな理解は友達から鋭くつっこまれます。だから自分なりに必死に考えますし、それでもわからなければ友達に説明を求めます。わかっている子は、わからない子に理解してもらえるように、自分なりに噛み砕いて説明します。教師の解説説明を受け身で聞くのと違って、生徒同士で主体的に学ぶようになるのです。

――話し合うことで「対話的な学び」にもなりますね。

池森「対話的な学び」になるので、思考力・判断力・表現力も鍛えられます。自分の考えを整理し、相手にわかりやすく表現しようと工夫するようになります。そして話し合いを重ねることで、考えが整理されて知識が定着し、応用もできるようになり、「深い学び」につながっていくと思います。

――実りある話し合いにするために、どんな工夫をしていますか?

池森まず課題の難易度設定が重要です。簡単すぎると全員があっさり正解にたどりつき議論の余地がありませんし、逆に難しすぎると意見を持つことさえできません。目の前の生徒に合ったちょうどよい難易度に設定してこそ、意見の違いが出て、議論が活性化するでしょう。

話し合い活動に臨む前に、まずは一人ひとりで個別に考えさせるのも大事です。自分の意見を持たない状態で話し合いを行っても、他者の意見を受け身で聞くだけになってしまいます。

ホワイトボードも、話し合いを活性化させるのに有効なツールです。ホワイトボードは紙よりも書いたり消したりがしやすいので、皆の多様な意見を書き込んで、ああでもないこうでもないと試行錯誤することができます。

生徒の課題1:自然現象と理論が結びつかない

――実験方法もとてもユニークでした。特に実験環境を再現した図を使って仮説を立てさせ、実験で検証する方法は、参観した先生方も感心していました。どんなねらいで授業を作ったのですか?

池森このクラスの生徒は理科への興味関心は高く、発言も積極的に行いますし、実験も大好きです。例えば、食塩の飽和水溶液を急激に冷やして再結晶させる実験を行った時は、突然食塩の結晶が出現するのを見て、「すごい!」と歓声を上げ、「なぜ? 不思議!」と興味を持っていました。

一方、自然現象を理論的に学ぶ段階になると、途端に苦手意識が出てきます。飽和水溶液の再結晶の授業では、溶ける食塩の量と水温の関係を示したグラフを読み解き、水温が下がると溶ける食塩の量が減るから再結晶するのだと理論で理解する必要がありますが、ここで多くの生徒がつまずきます。

要は、自然現象と理論を結びつけて考えるのが苦手なのです。自然現象と理論をどうやって結びつけて理解させるか、どの単元でも苦労しています。

そこで今回の「光」の単元も、自然現象(光の反射)と理論を結びつけて理解しやすくするために工夫を凝らしました。今までは机上で考えて作図するだけでしたが、実験を多く取り入れてみたのです。

まず前時では、鏡に向かって様々な角度からレーザーポインターを照射する実験を行いました。「反射した光が、教室のどの辺りに映るか」を生徒に予想させてからレーザーを照射し、予想が正しかったかを確かめるという流れで、照射する角度や位置を変えて7回行いました。光の反射について興味関心を高めると共に、「入射角=反射角」を体感させるのがねらいです。その後ワークシートで作図させ、「入射角=反射角」など、光の反射の理論を学習しました。

本時も、今までなら「壁に置いた鏡をA地点から見ると、どの範囲まで見えるか」といった練習問題を与えて、作図して考えるだけで終了していました。しかしこれだけでは、自然現象と理論が結びつきにくい。このため、図上で仮説を立てさせ、それが正しいかどうかを実験で確かめるようにしました。実験環境を縮小した図を用意したのは、これなら図上で考えた仮説と実験結果の差を見比べやすいので、自分の考えた理論と自然現象を結びつけて考えることができると思ったからです。

――前時からの流れを整理すると、実験→理論の学習→理論を活用して仮説を立てる→実験で検証→実験結果から理論を再確認という流れで、実験と理論を行き来させるようになっていますね。

池森実験を観察して、自然現象から理論を学ぶ。逆に、学んだ理論を活用して仮説を立て、その仮説が正しいかどうか実験で検証する。この両方が、理科の授業では必要です。これを繰り返すことで、生徒の頭の中で、自然現象と理論が結びついていくと感じています。

生徒課題2:個人差が激しい

池森本クラスには成績上位者と下位者の両者が在籍しており、学力が二極化している点も課題です。この対策として、今回はヒントカードを使ってみました。「ここでつまずく子が多いだろう」と事前に予想し、2種類のヒントカードを準備しました。

――ヒントを板書したり全員に指導したりせずに、ヒントカードを個別に渡したのはなぜですか?

池森支援を必要としている生徒にだけ必要最低限のヒントを与え、ピンポイントで指導するためです。学力が高い生徒はヒントを与えなくてもできますし、必要以上に情報を与えると自分で考えなくなってしまいますから。ヒントカードなら、生徒の様子を見ながらヒントを小出しにして、なるべく自力で考えさせられることができます。

――授業冒頭の前時の復習もとてもわかりやすかったですね。

池森理科は、暗記して覚えなければいけない知識もたくさんあります。今日の授業なら「入射角=反射角」が暗記すべき知識で、これを習得していないと作図して仮説を立てることもできません。だから実物投影機でワークシートを映して作図の仕方の手本を示しながら、全員で知識を確認し、定着を図りました。

理科での学びを活かして世界を考察できる大人になってほしい

――最後に、生徒達には将来どんな大人になってほしいですか?

池森理科的な視点で世界を考察できる人間になってほしいと思います。世の中は、理科の理論を応用したモノに満ちあふれています。例えば「光の反射」の自然現象と理論を応用した道具が鏡ですし、「光の屈折」を応用したのが、虫眼鏡やカメラです。

このように、身の回りにあるモノには理科の自然現象と理論が活かされていると意識し、「これはどんな理論を応用して作られ、機能しているのだろう?」と自ら考え、調べ、疑問を解決できるようになってほしい。モノだけでなく自然現象を見た時にも、学校で習ったことのどれに該当する現象なのか、なぜこういう現象が起きるのかを考えたり調べたりできる、力と態度の両方を身につけてほしいと思います。

記者の目

池森教諭の授業を拝見して最も印象に残ったのが、生徒達が成長していく姿だった。最初は何をどう作図していいかわからず固まっていた子が、かなり多かった。しかし話し合い活動では、「どうしてそうなるの?」と率直に疑問をぶつけ、それに対して他の生徒が懇切丁寧に、粘り強く教えていった。その結果、多くの生徒が授業終了後には、「わかった!」と手応えを感じていた。教え合い学び合って成長していく様子に、改めて教育の底力を感じ、池森教諭の授業計画の素晴らしさと、全員に理解させる指導力の高さに感心した。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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