2020.03.04
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「データに基づいて、選択せよ! 」統計的概念を用いてデータを読み解く(前編) 東京学芸大学附属世田谷中学校・峰野宏祐 教諭

新学習指導要領において統計教育の重要度が高まっている。小学校の算数では今年から「データの活用」領域が新設され、これまで中学校1年で扱っていた代表値を小学校6年生がすでに学びはじめている。新学習指導要領が来年より施行される中学校では、これまで中学2学で扱っていた統計的確率が中学1年に移行されるほか、高校数学で扱っていた四分位数・箱ひげ図が中学2年に移行されることとなった。

前編では、東京学芸大学附属世田谷中学校で行われた中学校1年生の「資料の活用」の授業をリポートする。授業を行った峰野宏祐教諭は、近年統計教育の分野でも注目されている「数学的モデリング」を専門分野としている教員だ。後編では、この峰野教諭にインタビューした。統計教育の指導について悩んでいる先生方は、峰野教諭の指導法や統計教育に対する考え方をぜひ参考にしていただきたい。

授業を拝見!

学年・教科:中学校1年生 数学
単元:1年D領域「資料の活用」
目標:目的に応じた資料を収集し、読み取った資料の傾向から意思決定ができるようになる
指導者:峰野宏祐 教諭
使用教材:スクリーン、教員用パソコン、発表ボード(小型ホワイトボード)、ワークシート
※本時においては、生徒はパソコンを使用しなかったが、グラフを作成することもある単元なので、コンピュータ教室で授業を行っている。

本時にいたるまでの経緯と単元計画

現行の学習指導要領では、小学校6年生の段階で、資料を度数分布表、それをグラフに表した柱状グラフなどに整理する方法や、平均値などの概念を学ぶことになっている。中学校1年生の「資料の活用」領域では、目的に応じて集めた資料を整理するとともに、資料の傾向を読み取って自分の考えを主張できるようにすることが学習の目標となる。

今回リポートする授業のテーマは「データに基づいて、選択せよ!」。今回の授業に至るまで、生徒たちは「階級」や「度数」、「相対度数」といった統計的概念を学んできた。今回のテーマは「資料の活用」領域における応用編ともいえるテーマであり、いままで学んできた統計的概念を用いて自分なりの答えを導き出すことを目標としている。

(1)導入:前時の振り返り

ルーラーキャッチは、2人1組で片方が他方の親指と人差し指の間に定規を落とし、他方がこれを瞬時に掴み、下から何cmのところを掴めたかで単純反応時間を測る実験である。

峰野教諭は前時で、「ルーラーキャッチの度数分布表」を用いて相対度数の概念を理解する授業を行った。

右の度数分布表は、東京学芸大学附属世田谷中学校の生徒たちがルーラーキャッチの実験を行い、運動部の生徒と運動部以外の生徒では反射神経に差があるのかを調べた結果である。

前時では、運動部の学生が93人なのに対し、運動部以外の生徒が31人であることから、合計人数が違う場合には「相対度数」の概念を用いる必要があることを学んだ。

峰野教諭は「相対度数ってどういう時に使うの?」「相対度数を使って運動部とそれ以外の人たちを比較するには、どうやって計算すればいいの?」などの質問を投げかけ、既習事項を振り返るところから授業をスタートさせた。

(2)課題の提示

「データに基づいて選択する」という課題に対して、峰野教諭は次の設定を提示。

「都内在住の20代中盤の女性、熊田伊代さんが軽い鼻炎にかかり、うさぎクリニックとパンダ耳鼻科という2つの耳鼻科のうち、どちらかを選んで通おうとしています」

ここで、どんなデータを基に判断すればいいのかを生徒たちに考えてもらうため、峰野教諭は次の質問を投げかけた。

「皆さんに確認です。耳鼻科を選ぶ観点ってどんなものがありますか?」

「駅からの近さ」「設備」「先生がやさしいかどうか」「混み具合」「漫画が置いてあるか」「業績」「新しい治療かどうか」などのさまざまな観点があがる中、峰野教諭は「混み具合」に着目した。

「いろいろと出してもらいましたが、今回のケースでは熊田さんが軽い鼻炎だということもあり、待ち時間が短いほうに通いたいということにしましょう」

ここで峰野教諭は、熊田さんが通おうとしている曜日・時間帯に、うさぎクリニック、パンダ耳鼻科のそれそれで受診した患者さん一人ひとりの、受付してからの待ち時間のデータを整理した度数分布表が書かれたワークシートを配布。

「まず、直感でどちらの耳鼻科のほうが待ち時間が短いと思うか手をあげてください」

多くの生徒がうさぎクリニックで手をあげていた。生徒たちはどのデータに着目してうさぎクリニックを選んだのだろうか。また、授業の終わりにこの結果は変わっているのだろうか。

(3)個人ワーク

「うさぎクリニックのほうが多かったですね。次は個人作業です。データから判断してどちらかの病院を選び、選んだ理由をワークシートに記入してください。さっき手をあげなかったほうの病院を選んでもかまいません」

ワークシートを見て回ったところ、度数や平均値、中央値に着目して答えを導き出そうとしていた生徒が何人かいた。また、前時で学習した相対度数に着目している生徒も多かった。

(4)グループワーク

「もう一度聞きます。どちらの病院を選びましたか?」

依然うさぎクリニックのほうが多かったものの、パンダ耳鼻科を選ぶ生徒が増えてきた。

「パンダ耳鼻科が追い上げてきましたね。これって、データの見方によって答えが変わってくるということだよね。じゃあどういう見方が妥当なんだろう? ここからはグループで考え、答えと選択の理由をホワイトボードに書き込んでください。その前に一回前のモニターを見てください」

「この説明って、データに基づいていないですよね。これはいわゆる主観的な考えだと思います。皆さんがワークシートに記入した説明のなかにも『長いほうの階級、短いほうの階級』という言葉を使っている人がいましたが、どこまでを長い待ち時間だと感じるかは人それぞれです。とはいえ、主観はあっていいし、あやふやな言葉を使っていても、データに基づいて説明ができるならそれでもかまいません。一方で、データに基づいて説明ができたとしても、データの見方そのものが正しいかどうかは別問題ですので、そこの部分も考慮する必要があります。10分ほど時間をとりますので、まずは自分の意見をグループ内で表明してからグループ内で話し合ってください」

(5)グループワークの共有

意見がぶつかり合う班が多く、結果グループワークに多くの時間をとることとなった。峰野教諭は当初グループワークで考えたことを発表するところまでを1時間と考えていた。しかし、時間が足りず、各班のホワイトボードを生徒たちが見て回り、考えを共有するところまでで終えることにした。

「皆さんいろいろな視点から考えましたね。すばらしいと思います。ここで少し着目しておきたいのが、相対度数の使い方です。E班とG班の理由を見てみると、相対度数を足し算して使っているのがわかりますね。相対度数の足し算ってなんの意味があるの?」

「その階級までの割合」

「じゃあ、たとえばうさぎクリニックの場合、45分未満の割合は何%になりますか?」

「59%」

「パンダ耳鼻科のほうは?」

「68%」

「ということは、うさぎクリニックでは59%、パンダ耳鼻科では68%の人の待ち時間が45分未満だということになりますね。いまの見方を累積相対度数といいます。これもひとつの観点かなと思います」

峰野教諭は最後にもう一度、どちらの病院を選ぶのかを質問。多くの生徒が「パンダ耳鼻科」と答えたところで授業が終了した。

後編では授業を担当した峰野教諭のインタビューをお届けする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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