2019.03.27
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ありがとうのシャワーを~4月のスタートを気持ちよく~

もう少しで新年度が始まります。学級担任としては4月のスタートを気持ちよく切りたいものです。気持ちよくスタートを切る秘訣はいったい何でしょうか?楽しい授業をする、面白い授業をする、全員が活躍できる場面をつくる、学級のシステムをつくる・・・色々浮かびます。このようないろんな「秘訣」が浮かぶ中で私が提案したいのは子どもたちに「ありがとう」を伝えること、それもシャワーのように。学級がスタートする4月にどのような場面で「ありがとう」を子どもたちに伝えたのか、その様子を今回は紹介いたします。

佛教大学大学院博士後期課程1年 篠田 裕文

初日の様子を書き綴った学級だよりから

具体的な様子は学級だよりに詳しく記録しています。ある年の4月11日。始業式の次の日に発行した学級だより3号です。(ちなみに、初日の様子は3号・4号・5号と3回にわたって書いています。)
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↓ここから学級だよりの本文(内容が大きく変わらように調整して、複数年の学級便りを組み合わせています。)
〇年〇組指導!!~初日の様子~
始業式に先立ち、新任式が行われました。児童代表として前に立ったのはKさん。「ハイッ」と気持ちの良い返事で前に立ちました。約600人の前でとても立派でした。新任式が終わるといよいよ始業式。子どもたちの関心事はおそらく校長先生からの担任発表。
「〇年〇組 篠田裕文先生」と校長先生から呼ばれ子どもたちの前に立ちました。最初に目に飛び込んできたのはAさん、Nさんたちの笑顔。この素敵な笑顔に緊張も解け、ほっとします。式は進み「〇〇小合言葉」。代表の一人として前に立ったのはIさん。前に立つだけでも緊張するのに、一人ひとりに届くよう呼びかける。素晴らしい姿でした。〇組の列に目を向けるとMさんが口を縦横にはっきり開いています。こういうところで力が発揮できるとうれしくなります。

始業式が終わると入学式の練習。〇年生の位置まで移動しようとすると「どっちまで(さがるんですか?)」とMさんから質問。質問ができる、これもうれしい。自分で考えながら行動している証拠です。歌の練習に入ると急遽人数が足りないことが判明。M君にお願いすると快く引き受けてくれる。全校児童の前にたち、体を動かしながら歌詞を紹介する仕事。「やってみよう」そのような積極性がありがたい。

入学式の練習も終え、いよいよ教室に。教科書を運搬しようと考えていたので十数人にお願い。これも快く引き受けてくれる。教室に帰って教科書配付。進んで仕事に気付き、行動する姿が見える。教科書を一人ひとりの机の上に配るKさん・Fさん・O君。両手で教科書を持ち、大事に配るN君。「これ配りますか?」と封筒を受け取り、机の上に置いていくF君。同じく「配りましょうか?」と学級だよりを受け取るMさん。ふと後ろを見ると、Rさんたちが他に配るものはないかと、待っています。極みつけはF君の一言。
「先生、このヒモ(教科書を縛っていた)捨てましょうか?」と教卓の上にたまっていたヒモ等をさっとかき集めごみ箱へ捨てていました。

まだまだたくさんの人が進んで行動していました。自分から動ける、人のために自分の力が使える子がこんなにもいる。〇組の子どもたちのすごさを初日から感じさせてもらいました。
配り終えると休憩をはさんで、私の自己紹介。強い視線をN君・Uさんから感じます。私の方をじっと見つめてくれています。「先生の名前が一文字でもわかる人?」(次号に続く)

行動の後に、読んだ後に「ありがとう」

ちょっと長くなりましたが、学級だよりの実際をお読みいただきありがとうございます。

・いわゆる「ほめる」ことではないか?

そのようなご指摘が聞こえてきそうです。確かに文面だけ見ますと直接「ありがとう」と書いている箇所は数えるほどしかありません。ではなぜ「ありがとう」のシャワーなのか。それは、子どもたちの行動に対する実際の声掛けの最後には「ありがとう」がつくのです。
 例えば、学級だよりではKさんの挨拶について「立派でした」と賞賛、もしくは評価する言葉で終わっています。しかし教室に帰ってKさんに直接声をかけるときには

・Aさん、みんなの前での返事、キレがあったね。立派だったよ。ありがとう。

となるのです。また、学級だよりを配布する際にも同様に「ありがとう」を付け加えます。3号であれば新学期2日目に子どもたちに配布します。学級だよりを配布すると私は必ず子どもたちの前で音読します。

・C君の行動、うれしかったなあ。ありがとう。
・B君、手伝ってくれて助かったよ。ありがとう。

と本文に少し言葉を加えながら音読していくのです。3号には15人程度の子どもの行動が掲載されていますから、実際の場面、もしくは直後に「ありがとう」が15回、そして学級だよりを読む際に15回、計30回のありがとうが子どもたちに向けて発せられたことになります。もちろん、学校生活の全ての様子を学級だよりに書くことはできませんので、実際の「ありがとう」の回数はもっと増えることになります。

「ありがとう」が増えるために

「ありがとう」を増やすというのもなんだか変な感じもしますが、ここでは「ありがとう」が増えるための3つの視点を書いてみます。

1.しかける
写真を見てください。初日の下駄箱の様子です。この様子を見ただけで「ありがとう」と言いたくなりますよね。でも黙っていてこのような下駄箱になる学級はそれほど多くはないはず。ではどうするか。このような状況になるようしかけるのです。この時は帰りの会で次のような声掛けをしました。

〇2つお願いがあります。1つ目は、靴を揃えて帰ってください。2つ目は…


なんてことはない声掛けですね。日本各地でこのような声掛けがなされていると想像できます。しかし「しかける」とはこのようなこと、「ありがとう」が生まれる場面を意図的に作り出すのです。ただし、もちろん声をかけただけでは難しいでしょう。このようなお願いをした後、私は下駄箱までついていき、次のような独り言?をつぶやきます。

〇〇君、脱いだくつをそろえようとしてくれている。ありがとう。
◇◇さん、音を立てないように片付けているね。ありがとう

と。行動を起こす前から、子どもたちがポジティブな行動を起こしたくなるような独り言で(もちろん子どもに聞こえるようにですが・・・)しかけています。また、ポジティブな行動をしている子どもへの独り言は、他の子どもがそうしたくなるような(そうせざるを得ないような・・・)しかけになっています。

2.不完全な指示を
始業式が終わると入学式の練習。〇年生の位置まで移動しようとすると
「どっちまで(さがるんですか?)」
学級だよりの本文で上記の箇所がありました。ここでは移動する具体的な場所をあえて子どもたちに伝えませんでした。それはきっと子どもたちから質問があるだろうと予想してのことです。指示は分かりやすくするのがセオリーなのかもしれません。しかしその先にあるのは「指示に従う行動」しか出てきません。不完全な指示に対しては「質問」という子どもたちの自主的な創造的な反応が期待できます。

掃除に関しても同じです。掃除当番の割り当て、及び掃除計画書の作成は指示しますが、中身については全くのノータッチ。掃除計画書を書きながら子どもたちは実際の掃除場所へ出かけて行って掃除道具の数を確認したり、実際にかかる時間を計測したり。自主的・創造的な行動のオンパレード。「ありがとう」の言葉が自然とでてきます(広く考えると「しかける」に入るのかもしれません)。

3.当たり前こそ

  • 教師と目があう
  • 返事ができる
  • 手が挙がる
  • 配りものをする
  • 授業に参加する
  • 当番活動に従事する


これらは当たり前に見られる光景。ついつい「当たり前だよね」と特別な光景として目に映らなくなってきます。しかしこれらすべてが逆になったらどうでしょうか?

  • 教師と目が合わない
  • 返事ができない
  • 手が挙がらない
  • 配りものをしない
  • 授業に参加しない
  • 当番活動に従事しない


想像しただけでぞっとします。学級集団としての機能を失いネガティブな行動が続出することでしょう。ということは、子どもたちの一見すると当たり前の行動は学級が集団として維持していくため、集団としての機能の果たしてくため、もっといえば学校というシステムが機能していく上で欠かせない行動なのです。そう考えると、子どもたちが毎朝学校に来る、この行動に対しても「ありがとう」と言いたくなります(大型連休明けや、夏休み明けに「休みが続いて学校へ行くのが面倒だなって思っただろうけど、よく来てくれたね」と声をかけたことのある先生方、きっと多いはずです)。

行動が広がる

学級だよりの特別版「今週のありがとう」の一部抜粋。個人が特定できないよう画質を落としています。

「ありがとう」と教師が声をかける子ども、そしてその子どもの行動はどんどん広がっていきます。30人の子どもたちが教室にいます。いろんな「ありがとう」と伝えたくなる行動を子どもたちは見せてくれます。

写真は時々発行する「今週のありがとう」です。「ありがとう」という言葉を全員に一度に伝えたい時に発行する学級だよりの特別版です。一人一人書かれている内容が異なります。同じ場面(掃除なら掃除)であっても、ある子を道具の使い方で紹介したらある子は片付けの仕方など書きぶりが変えてあります。仲間の行動がモデルとなり子ども達1人ひとりの行動がよりポジティブな方向へ広がり、そして高まっていきます。友だちの行動を真似する場面が見られたら、その場面も「人のまねができるなんてうれしいなあ。自分を伸ばそうとしているね。ありがとう」という声掛けにつながっていきます。

ある調査によると「ありがとう」という言葉は日本人が選ぶ最も美しい言葉です。このような日本社会のもの見方・考え方は子どもたちのものの考え方・見方に影響を与えます。子どもたちも「ありがとう」という言葉にポジティブな印象をもっていることでしょう。心理学の考え方の1つとして「貢献感」が幸福の本質として挙げられることもあります。「ありがとう」という言われる子どもたちは自分が他者に貢献できているという感覚をもつことでしょう。

「ありがとう」という教師も気持ちが良い、いわれる子どもたちも気持ちが良い。4月のスタートがきっと気持ちよくきれるはずです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

篠田 裕文(しのだ ひろふみ)

佛教大学大学院博士後期課程1年
修士課程を修了し博士課程に進学しました。修士時代に学んだこと、学校現場で実践したことを書き綴りたいと思います。

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