2019.12.11
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『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』 主人公たちの成長を丹念に綴った傑作

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』と『カツベン!』をご紹介します。

1作目はアニー賞を10部門獲得!!

北米のアニメ業界にはピクサー、ディズニー、ブルースカイなど、大きなアニメーションスタジオがいくつかある。そんな北米を牽引するスタジオのひとつがドリームワークス・アニメーションだ。
『シュレック』や『マダガスカル』『カンフー・パンダ』シリーズなどが有名なスタジオだが、日本では知る人ぞ知る代表作がこの『ヒックとドラゴン』シリーズ。
まだドラゴンと人間が反目しあっている時代、種を超えて深い絆で結び合った少年ヒックと、ドラゴンの中でも小型だが最強と言われるナイト・フューリー種のトゥースが紡ぐ物語だ。
2010年に1作目となった『ヒックとドラゴン』が公開されるや、北米での人気はうなぎのぼり。さらにアニメ界でのアカデミー賞と言われるアニー賞では、作品賞にあたる長編アニメ映画賞を筆頭に、10部門を獲得している。
当初はこの1作で終わる予定だったが、あまりの人気に続編製作が決定。続編『ヒックとドラゴン2』(2014年)は、なぜか日本ではビデオスルーになってしまったが、公開を求める署名運動が日本でも起きたほど、熱狂的に迎えられていた。この続編もアニー賞の6部門を獲得している。
では、このシリーズの何がそんなに素晴らしいのか。それはこの映画が絵空事ではないリアリティを伴う作品として作られている点だ。

絵空事ではないリアルな痛みを伴うエンタメ作

例えば1作目。ドラゴンに襲われて村を焼かれたり、家畜を奪われるなど、痛い目に合わされている人間たちは、ドラゴンを目の仇にしており、殺すことしか考えていない。勇猛なバイキングたちの長の息子として生まれた少年ヒックは、頭は切れるが体力的には軟弱で他の男たちのように直接ドラゴンとの対決はできないので、武器を使ってトゥースに傷を負わせた。
尻尾の尾翼部分を破壊されたことでトゥースは自力では飛べなくなるが、もともと心優しいヒックは、トゥースを助け、自分の知恵で機械仕掛けの尾翼を考案。それをキッカケに彼らは親友的な関係になり、実はドラゴンは人間側の出方次第で変わることを発見する。
つまりドラゴンは常に牙を剥いて暴れるような敵ではなく、むしろおとなしい生物であったのだ。
そのことに気づいたヒックは、なんとかドラゴンと人間の共存ができないかと思いを巡らすようになる。その過程で血も涙もない、ある巨大で凶悪なドラゴン(他のドラゴンたちを力でねじ伏せてコキ使っていた)を倒すことになったヒックは、よりトゥースとの絆を深めるが、戦いで自分の片足を切断するような大怪我を負ってしまうのだった。
義足の人間と義尾翼のドラゴン。ただのハッピーエンドではない切なさも伴うこの結果が、因果応報な実世界の一端を感じさせ、『ヒックとドラゴン』は誰が見ても傑作というべき作品になったのだ。


第3作ではヒックたちが新天地を求めて冒険の旅へ

そんなシリーズの第3弾となるのが12月に公開の『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』。
第1作で過ちを認め、仲良しになったドラゴンとバイキングたち。
しかし3作目ともなると、理想的な共存関係になったものの、今度はドラゴンが増えすぎてバイキングたちの住む島が手狭になってしまうという現実問題が訪れる。しかもドラゴンを狙う最凶ハンターが出没し、ドラゴンたちを守るには新しい住処を見つけるしかない……。
成長して今やバイキングたちの長となり、少年から青年になったヒックは、考えた末に亡き父が語っていたドラゴンが生まれ出る場所だという聖地を目指すことにする。
一方トゥースは最凶のドラゴンハンターが放った罠、メスのライト・フューリーの出現で状況が一変してしまう。初めての同種、しかも異性との出会い。それまで人間と共に生きてきたトゥースは、いわゆる野生の呼び声で、ヒックよりもライト・フューリーと一緒にいたいという気持ちを抱いてしまうようになるのだ。
つまり今回描かれるテーマは“大人になるということ”についてなのだ。1作目、2作目ではヒックも、彼と同じ年頃のバイキングの若手たちも本当に子供というイメージだった。逆にいえば子供だからこそ、無茶をしていても受け入れられていた。しかし彼らも大人となり、ましてやヒックは、バイキングたちの長にもなっている。全員をまとめ、導くための決断も必要だ。無茶をするのはもはや難しい。
成長するためには、様々なことを切り捨てなければならない。どんなにトゥースと共に過ごしたいと思っていても、トゥースにはトゥースの生活がある。ドラゴンたちもそれぞれに人生がある。そこは理解していかねばならないのだ。

大人になるとはどういうことか、話し合ってみたら!?

どうしても若い頃、特に学生の頃は、学校での友人や先輩との生活が長いから、そこがすべてになってしまう。そしてそこで何か起きれば人生のすべてが終わりのような気持ちになってしまう。決して世界が終わったわけではないのに。
でもそれも仕方がないことなのだ。そこ以外を知らないから。長い人生を歩んできた大人から見れば、中学の3年間も高校の3年間もアッという間だと感じる。だから我慢しなさい……と簡単に言うけれど、まだ20年も生きていない身にとっての3年間はあまりにも大きい。そういう学生たちに大人の意見が通じないのは当然ではないかと思う。
だから例えば友人に恋人ができて、自分に対するつきあいが減ると完全にスネてしまったりする。あるいは仲の良い人物に頼まれると、断ることで仲が悪くなることを考慮して断ることができず、そのまま悪い道に走ってしまうなんてこともあるだろう。ちょっとでもラインなどがスルーされると、なんだかもう友情が終わったような気持ちになってしまうことだってある。
でもそんな10代の悩みは、大人になるためのステップだと思ったほうがいい。逆にいえば、そのステップを10代で踏んでいない人ほど、大人になった時に耐えられずに壊れてしまったりする。そういう積み重なりが、時に悲劇ともいうべき事件を起こすのではないだろうか。
本作でもヒックは様々な決断を強いられていく。自分たちが生まれ育った島を離れることだって、相当大きな決断だ。誰だって懐かしい場所を離れたくはないもの。また、恋に目覚めたトゥースを優しく見守っていこうとヒックが決断するのも、彼が成長した証拠ではないかと思う。
つまり、『ヒックとドラゴン』シリーズは3部作を通して、ヒックの成長ドラマを完遂させたのだ。大人となったヒックとトゥースがどうなったのかは観てのお楽しみとして、とにかく成長するということはどういうことなのか、大人になるとはどういうことなのか。そんなことを皆で語れる作品になったのではないだろうか。
そしてアニメーション=子供のモノという、まだまだ偏見の強い北米で、この作品はその偏見を打ち破る1本になったのではないかとも思う。もともとドリーム・ワークスの創始者のひとりであるジェフリー・カッツェンバーグは、ドリーム・ワークス創設時に大人と、子供の中にある大人心に向けて映画を作りたいと語っていたが、ようやくその思いが『ヒックとドラゴン』シリーズで結実したのではないかと思う。そういう意味では、この映画は北米のアニメ業界全体に「大人になれ」「大人向けの作品を作れ」と成長を促した傑作といえるかもしれない。
「止まってはいけないのだ。人間は死ぬまでに常に成長を続けていかないと。」声高ではないけれど、そんなメッセージを優しく伝えてくれた素晴らしいアニメーションだ。

Movie Data

監督・脚本・製作総指揮:ディーン・デュボア
原作:クレシッダ・コーウェル
声の出演:ジェイ・パルチェル、アメリカ・フェレーラ、ケイト・ブランシェット、ジェラルド・バトラーほか 
配給:東宝東和、ギャガ
12月20日(金)より、全国ロードショー
(C)2019 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.

Story

弱虫だったバイキングの少年ヒックと傷ついたドラゴン・トゥースの活躍で、彼らは共存する道を選ぶ。だがドラゴンが増えすぎて、今のバーク島では定員オーパー。しかも最凶のドラゴンハンター、グリメルにトゥースが狙われる。そこで若きリーダーとなったヒックは、父から聞いていた幻の聖地に皆を連れていく決断を。果たして聖地は見つかるか。

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

『カツベン!』

好きなことを仕事にすることは難しい。
そしてそれを続けていくことはさらに難しい。
『カツベン!』に登場するのは、まだ映画が音の無い無声映画だけで、その映画にセリフやナレーションを載せていく、「活動弁士」が映画スター以上に脚光を浴びていた時代。

そんな活動弁士に、子供の頃から憧れていた俊太郎。しかし大人になった彼が参加できたのは、弁士一行として田舎の映画館を巡り、その田舎から金品を盗む泥棒の片棒担ぎだった。
どうにかその泥棒一味から命からがら逃げ出して(ついでに稼いだ泥棒のお金もはずみで持ち逃げした)、辿り着いたのは小さな町の閑古鳥の鳴く映画館・靑木館。
ここで最初は雑用をしていた俊太郎だったが、ある時、代役として立った弁士の仕事で認められるように。だがそれは今までとある有名弁士をマネていた俊太郎に、自分なりの“語り”を求められる発見の場にもなっていく……。

主人公の子供時代からスタートするこの話は、まさに活動写真の時代にふさわしいもので、アクションもあればスリリングな場面もあるし、軽妙なエンタテインメント作品だ。
パッと見はただただ楽しいだけの作品に思う人もいるかもしれない。
けれども根底に流れているのは、底知れない映画愛と、好きを仕事にすることの大変さと、情熱を保つことがいかに大事かということ。
悪事にも荷担してしまった俊太郎が、どんな幕引きを見せるかもポイントだ。憧れているだけではチャンスは来ない。いかにそこに自らアピールして突っ込んでいくかが大事。
そしてそのチャンスをモノにするのは、普段からいかに自分を鍛えているかも大切だということを、この映画は教えてくれる。
本作は特に高校生以上の人に見てほしい。そして自分自身は何をやっていきたいのか、どういう生活をしたいのか。エンタメとしてニヤニヤ楽しんでいただきつつ、そんなことにも思いを馳せてほしいと思うのだ。

監督:周防正行 脚本・監督補:片島章三 
出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊ほか
配給:東映
12月13日より、全国ロードショー

(C)2019「カツベン!」製作委員会

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

最近では新潮社主催の新潮講座で演劇の戯曲講座を2020年4月から開設。

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