教育トレンド

教育インタビュー

2002.08.06
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内閣府男女共同参画局長 坂東眞理子さん 男女共同参画社会から見た教育

少子高齢社会が目前の問題となり、女性の家庭と仕事の両立が、ようやくまじめに議論され始めている。坂東さんは、その女性政策の最前線を常に走り、引っ張ってきた人である。 日本では、外交や経済などの政策に比べ、女性政策は軽視されてきた。「男性は仕事、女性は家庭」「女は国の政策に口を出すべきではない」との意識が官僚や政治家に根強くあったからだ。女性政策の重要性を訴え続け、男女共同参画社会への礎を築く。その坂東さんには、教育の場はどのように映っているのだろうか。

将来の職業で考えるべき「学び」

学びの場.com学校の現場を見ていると、私たちの子供のころに比べてずいぶん「男女差」というのはなくなったのではないかと思います。男の子も「さん」付けで呼んでいたり、家庭科の授業を見たりしてそう思うのですが、まだまだ発展途上なのでしょうか。

内閣府男女共同参画局長 坂東眞理子さん確かに、この10年、20年で大きく変わりました。男女差別撤廃条約批准以来、高校の家庭科がそれまでは女子のみだったのが男女共修になったり、男女混合名簿を採り入れたりしたところも出てきました。
 基本的に先生方の中では、男女を差別してはいけないというようになってきています

学びの場.comたとえば、小学校というものは人生最初の社会ですから、そこで男女の格差がどういう形で子供の中に入っていくかで、子供の人格形成にも大きな影響を与えるかと思います

内閣府男女共同参画局長 坂東眞理子さん女の子と男の子では肉体的な成長の速度が違い、とくに小学校の5、6年あたりでは、女の子の方が先に成長します。ちょうど中学受験の頃ですね。
 これは全国と東京とでは状況が違うかもしれませんが、東京の場合は、受験の低年齢化が進行してしまいました。中学受験というのは東京中心で、地方では高校進学から受験です。
 男の子は、この中学受験で気合いを入れてやるわけです。
 ただこのとき、あるいはもっとあとの大学受験の際に、どれだけ将来の職業を意識しているかというと、大変疑問です。その点は正直な話、日本の遅れている面ではないかと思っています。偏差値でしかいまのところ「学び」を考えていないということですから。  本当は「学び」というのは、知らないことを知る、前にはできなかったことができるようになる、といった本来すごく楽しいことのはずです。その楽しさを知らない子どもたちが増えているのではないかという気がします。これは男の子も女の子も同じです。

女の子も将来のためにきちんと高学歴をつける、ということは必要なのですが、それ以外に学ぶことは楽しいという気持ちをどうしたら持ち続けることができるだろうか、というのは、ひとつの大きな課題です。
 女の子の場合は、以前は、進学に関して親がそれほどシビアではありませんでした。ところがここ数年、女の子に対しても親が必死になってきています。それも良妻賢母を養成するお嬢様学校よりは進学実績のいい学校に向いています。
 昔、私は男の子をもったお母さんを批判していたことがありました。それは「勉強さえしていれば、家のことは何もしなくていい、お料理も、自分の部屋の片づけもしなくていい」というお母さんがいましたから。最近は女の子でも「勉強さえしていれば」という悪い男女平等の母親が増えているのではないかと思います。「女の子だから」と言われると反発するのですが、料理ができるとか、周りのことがきちんとできるとか、生活者としての能力をあたりまえのこととして子ども達に身につけてほしい。男女共同参画社会であればあるほど、大事なことだと思うのです。

人間として大事な3つの力

学びの場.com親が、次の世代をしっかり育てていないということでしょうか。

内閣府男女共同参画局長 坂東眞理子さん人間として大事なことは、職業につく力、生活をする力、コミュニケーション能力ということです。この3つが、子供に伝えなければならない親の責任だと思うのです。
 いまの20代、30代の女性では、後半2つの能力を持っている人は多いですが、残念ながら最初の「職業につく力」というのが欠けていることがよくあります。これは単に職業につくだけではなく、仕事をきちんと続け、稼いでいく力のことです。まだ、正社員になるにも、職業を続けるにも差別があります。
 後半2つは、男の子よりはよかったのに、いまやその2つの能力さえあやしい女の子が大量生産されつつあるのではないか、と少し心配です。  それよりも私がいちばん心配なのは、女の子の中には、もとから降りてしまっている子がいるでしょう? どうせ私は勉強があまり好きではないから、受験してキャリアウーマンも目指せない。そうかといって、いい主婦になりたいという夢もあまりない。男の子に、楽に楽しく、生活させてもらおうと思っている女の子たち。でも、日本の男の子は、そんなには女の子を大切にしませんよね。
 女の子たちがきちんと誇りをもって生きていくためにはどうすればいいのか、これはものすごく大きな課題だと思います。

21世紀の女性は理工系を目指そう!

学びの場.com6月25日に、「科学の進歩と男女共同参画」というテーマで全国大会を行っていらっしゃいますが、男女共同参画と科学とは、どういう点で結びつくのですか。

内閣府男女共同参画局長 坂東眞理子さん私は21世紀に女性がしっかり自立していくためには、職業の分野で通用する能力を身につけなければいけないし、科学技術を理解し使いこなすことが必要だと思っています。
 残念ながら、いま現在、進学率は女の子の方が高いのですが、文科系、つまり、文学部、教育学部、人間科学部、そしてやっと法律、経済のほうに増え始めていますが、とにかく文科系に進んでいます。理工系は相変わらず少ないのです。
 ところが、「手に職」といった経済力を身につけるためには、もっともっと科学技術のほうにいってもらいたい。そしてまた科学技術も、核兵器に象徴されるように、非人間的な方向へ暴走する危険性もあります。それに歯止めをかけるためにも、いろいろな考え方をもった生活者のセンスをもった女性が、作る側に入っていたほうがいいと私は思います。
 ぜひ若い世代にもっと科学技術に興味をもってもらい、身につけてもらいたい。そのための、ひとつのインパクトになればいいと思ったのです。

坂東 眞理子(ばんどう まりこ)

内閣府男女共同参画局長。1946年富山県生まれ。東大卒業後、69年総理府入省。75年、総理府婦人問題担当室(男女共同参画室の前身)が発足した時、一番若い担当官として加わり、78年に日本初の「婦人白書」の編集に携わる。95年、いったん国家公務員を辞めて埼玉県副知事に。98年女性初の総領事として、豪州・ブリスベーンに赴任。2001年より現職。

取材/構成 長橋由理

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