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教育インタビュー

2019.03.13
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船橋 力 海外留学で身につく“グローバルリーダー”の力とは?(前編)

海外での思いがけない“修羅場”を乗り越えて、変化への対応力を身につけてほしい。

2013年10月にスタートした『トビタテ!留学JAPAN』は、官民協働の留学促進プロジェクト。民間企業・団体・個人からの100%出資による返済不要の奨学金制度で若者の留学を支援する本プロジェクトの目的は、グローバル化が加速する今後の日本を牽引する"グローバルリーダー"を育てることです。今回は、前編で、プロジェクトディレクターを努める船橋力氏に海外を体験することで得られる力について伺い、後編では実際に留学した子どもたちの海外体験を紹介します。

官民協働で、未来のグローバルリーダーを育成する。

学びの場.com『トビタテ!留学JAPAN』の概要を教えてください。

船橋 力『トビタテ!留学JAPAN』(以下、本プロジェクト)は、文部科学省と民間企業等が協働し、留学を通じて世界で活躍するグローバルリーダーを育てる国家プロジェクトです。私はそこでディレクターとしてプロジェクトの推進を任されています。主な取り組みは返済不要の給付型奨学金で高校生と大学生の留学を支援する「日本代表プログラム」。行先や目的を決め、自分で2週間~2年間の留学プランを立てるという自由度の高いものとなっています。

また選考基準は、成績が良い、英語力のある人が優先されるといったものではなく、本人のパッション、好奇心、独自性の3つを評価します。実際のトビタテ生(本プロジェクトで奨学金を得た学生)の中にはもともと英語が話せない子もたくさんいます。私たちが期待していることは、海外というアウェイな環境で、自分のやりたいこと叶えるために、苦労や葛藤を乗り越える経験をすること。私はこれを“修羅場体験”と呼んでいます。この経験で得る対応力や解決策を模索する力は、国や民間企業等が求めているグローバルリーダーとして必要な素質で、語学力よりも大切なことです。2020年までに1万人の若者を海外に飛び立たせることを目標に、現在6,000名のトビタテ生を輩出しました。

学びの場.com 今までになかった取り組みですね。プロジェクトを立ち上げた経緯を教えて下さい。

船橋 力2013年から国や民間企業等の間でグローバル人材が足りないと叫ばれるようになりました。一方で、2004年を機に海外留学する日本人は減少し、新入社員の約60%が海外で働きたくないと答えたという調査結果も出ています[1]。こういった世の中の動きと若者の動向の乖離から、2013年4月当時の文部科学省の下村大臣とともに「今の日本の若者に何が足りないのか」と日本の教育について議論をしました。

学びの場.comどんな議論がされたのですか?

船橋 力これからの未来の子どもたちの世代は、どこで働いても、どんな仕事に就いても、どの世代であっても、外国人に囲まれながら生活をする時代がやってきます。そして、その未来について今から準備できることは、全員とは言わなくても、意欲のある若者には海外に行く機会を与えられないかと。また、これは国だけでなく、民間企業等や学校も巻き込んだオールジャパンで取り組んで若者を育てる仕組みとなるべきだとお話したところ、下村大臣に賛同していただき現在の組織ができたのです。

南米育ち、途上国開発、海外駐在…豊富な海外経験も通用しなかった「ダボス会議」。

インドネシアの孤児院にてボランティア活動を行う留学

学びの場.comグローバル人材を育成するために、「意欲のある若者には全員海外に行く機会を与えられないか」と意見を出されていますが、この言葉の背景には船橋さんのご経験があるのでしょうか?

船橋 力私は「体験に勝る教育はない」と思っています。そのきっかけは、大学の卒業旅行で体験型のスタディツアーに参加したときのことです。スラム街に泊まったり、原住民の村に滞在したり……とても貧しい暮らしをしながらも彼らの歌や踊り、生き生きとした彼らの様子を見ていろいろと考えさせられました。日本は経済的に豊かだけど心は貧しいような気がしましたね。そしてこうしたリアルな海外に触れることで、「知らないことって危険だ」と考えるようになりました。日本に帰国して貧困問題などを友人に話すと「1ヶ月前はそんなこと言ってなかったじゃん」って言われるほど、自分の中で何かが変わったんです。このときから、「体験」「体感」が自分の中のキーワードになっています。

学びの場.comスタディツアーをきっかけに自身の考え方がかわるような体験をされたのですね。社会人になってからは現在に至るまでにはどのようなことがあったのですか?

船橋 力1994年の大学卒業後は商社に入社し、途上国の開発に当たり、インドネシアに1年間駐在して働いていました。2000年には、先程お話した卒業旅行の経験などもあり、体験型教育事業をしたいと考えてウィル・シードという会社を立ち上げました。

イタリアにて絵画を学ぶ留学

学びの場.comやはり海外や教育という分野で活躍されるグローバルな仕事をされていたのですね。

船橋 力はい、自分自身「自分はグローバル人材だ」と思っていました。ですが、2009年にヤンググローバルリーダーに選出され、2011年と2012年にダボス会議(スイスのダボスで開催される世界経済フォーラム)に参加する機会をいただいたとき、世界が大きく変わっていたことに気づかされ、危機感を覚えました。2000年の会社立ち上げから約10年間国内で仕事をしているうちに、途上国だと思っていた国は大きな発展を遂げ、日本の存在感がなくなってしまっていたのです。かつては日本人というだけでもてはやされる時代もありましたが「Japan passing(日本は終わった)」と言われて相手にされませんでした。グローバル人材だと思っていた自分が、海外からの同世代の出席者との会話にもついていくことが出来ず、「これはまずいな」と思いました。

学びの場.com語学力が不足していたから会話についていくことが出来なかったのですか?

船橋 力語学、教養、ディベート、情報量…どれも不足していたのですが、特に情報量でした。日本は“情報鎖国”で、国内にあふれる情報に偏りがあることを痛感しました。日本では海外のニュースは1割程度で、内容はどのメディアでもほぼ同じ。一方海外では9割が国外のニュースということも少なくありません。海外の人たちは日本国内で起きていることをよく知っていました。こういう状況でしたから、私はどんどん無口になってしまって、胸が打ちひしがれるほどでした。ただ、彼らの話を聞いてとてもワクワクしたのも事実です。日本にはないようなユニークなことをやっている人が多く、知らなかったことをたくさん教えてもらいました。こういった体験は日本の中ではできないと、改めて思い知らされる出来事でした。

学びの場.comそれが今回のプロジェクトに繋がっているのですね。

船橋 力この経験を2013年4月、本プロジェクト立ち上げの機会となった議論の場で、下村大臣にお話しました。グローバリゼーションと言われて久しいですが、私がダボス会議で感じた以上に、ITやテクノロジーが発展し、今後もっと時代の流れは早くなるでしょう。インターネットの普及で情報が溢れ、時代の流れも加速して、答えのない世の中に向かっていきます。だからこそ、自分の目で見て、耳で聞いて、人と話して…自分で考えることが大切だと。留学を通して、世界がどう変わっているのかを自ら体感する本プロジェクトは、自分で考える力を養うきっかけになると思っています。

2週間の海外体験で人は大きく成長します。チャレンジできる社会が求められています。

アメリカでのスポーツ留学。陸上トレーニングの様子

学びの場.com本プロジェクトがスタートしていますが、実際に留学したトビタテ生はどう変化していますか?

船橋 力トビタテ生として留学した子を見ると、たった2週間でも問題意識が芽生えて帰国してきます。例えば、ニュージーランドに行って「なぜこの国では女性が当たり前のように働いているのだろうか」、オーストラリアに行けば「なぜこんなに移民が多いのか」、途上国に行けば「なぜ路上で生活している人がこんなに多いのだろうか」など。ある子は、「ホームステイ先のお母さんは“男性”でした」とか日本との差異にぶつかります。このように留学時の自分の目的よりも、実際に目にしたこと、感じたことで新たに自分のテーマが見つかることは少なくありません。

学びの場.com留学する本人の目的や興味が変わっていることもあるということですか?

船橋 力はい、そうですね。それでいいと思っています。もちろん選考の時点では本人のパッション、好奇心、独自性を評価し、それを叶えるために、海外での修羅場を乗り越えることを期待しています。ただ実際には予想もしないところでつまずいたり、新しい発見に出会うことも多々あります。例えば、全く違う目的で留学したけれど、生活していく中で日本の文化が知られていないことに疑問が湧いて、日本文化を輸出したいと考えるようになったという子もいました。こうした様々な差異に触れて変化に対応する経験が、この先の未来を“生き残る力”になると思います。

学びの場.comまずは海外に行っていろいろ見ること、感じることが大切だということですね。ただ、高校生の場合には、先生に留学の知識がなくて対応できない、生徒自身も部活などで自由な時間がないなど留学に積極的になれない理由も耳にしますが…。

船橋 力留学のご経験がない先生は、自分の体験したことがないことを生徒に勧めることに引け目を感じられる方もいるかもしれませんね。でも留学は最大の「主体的・対話的で、深い学び」です[2]。こちらが何もしなくても、必ず何かを学んで帰ってきます。毎日「勉強しなさい」というよりも学びたい意欲が高まる機会です。生徒自身に留学したいという意志があるなら、ポンッと肩を押して応援してあげてください。

また、部活などで忙しいという子なら、本プロジェクトを活かしてさらに専門性を高めることができます。テニス部に所属しているなら「本場の海外のテニスクラブのトレーニング方法を学んで、更に強くなりたい」でもいいのです。本プロジェクトは柔軟に対応できるので、スポーツ留学を始め、ボランティアや、学校に通わないプランでも大丈夫なので、留学に対する希望を諦めないでほしいです。

学びの場.com最後に今後の目標や、読者へのメッセージをお願いします。

船橋 力「日本代表プログラム」は、留学を通して日本のリーダーとなり得るモデルを輩出することが目的です。経済、文化、技術、社会問題…あらゆるジャンルで活躍できる多様なリーダーが求められています。そのためにまずは2020年までに1万人を輩出するという目標を達成し、留学が当たり前の世の中を作りたいと思っています。

また、高校生や大学生といった若者には、留学にあたって保護者や先生、地域の方など様々な支援も必要となってくるでしょう。特に高校生についてはこんな調査結果も出ています。都道府県別に留学経験のある高校生の人数を調査したところ、どんなに多い地域でも、全体の2%程度しかいませんでした。[3]周りの大人のちょっとした支援だけで子どもたちの可能性がぐっと広がるはずです。たった2週間の海外体験で人は大きく変わりますから、ぜひこのチャレンジを応援できる社会を一緒に作りましょう!

船橋 力(ふなばし ちから)

幼少期、高校時代を南米で送り、1994年上智大学を卒業。同年、伊藤忠商事株式会社に入社し、発展途上国の開発に従事。インドネシアに1年間駐在した経歴も持つ。2000年人材開発や子どもの教育支援を主軸にした株式会社ウィル・シードを設立。2009年世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤンググローバルリーダーに選出。現在は文部科学省・官民協働海外留学創出プロジェクト『トビタテ!留学JAPAN』のプロジェクトリーダーを務めている。

構成・文・写真:学びの場.com編集部 写真提供:トビタテ!留学JAPAN

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