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教育インタビュー

2018.04.04
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大胡田 誠・
亜矢子夫妻
障害者と健常者がともに生きる社会を語る。(vol.2)

障害者と健常者が触れ合うことがまずは先。理解はあとからついてくるものです。

子どもの頃からの夢だった仕事につき、職業人として活躍している大胡田夫妻。プライベートでは、2児の親として育児に奮闘中です。そんなおふたりに、夢を叶えるための秘訣や困難の乗り越え方、子育ての方針や将来の夢について語っていただきました。また、弁護士としての業務のかたわら、障害者の人権問題についても精力的に活動している誠さんに、障害者と健常者がともに生きる社会を実現するための具体案についてお話を伺いました。

大胡田 誠・亜矢子夫妻インタビュー動画

「大胡田 誠・亜矢子夫妻 障害者と健常者がともに生きる社会を語る。」ダイジェスト動画 後編

人生で迷ったときは、自分の心が温かいと感じるほうを選ぶ

大胡田誠さんの写真

学びの場.com誠さんは弁護士、亜矢子さんは声楽家と、それぞれ夢を実現されていますね。なりたい職業に出会うことすら難しい昨今、おふたりが自分で職業を選び、実現できたのはすばらしいことだと思います。

大胡田誠弁護士という職業に出会えたのは、両親の影響が大きかったと思います。いま思えば、全盲の弁護士の存在を知ったのも小学生の頃、母親に見るように言われたテレビ番組に出ていたからでした。また、幼少期からりんごの皮むきやアイロンがけ、富士山登頂といった小さな成功体験を積ませてくれたおかげで、やればできるという自信や、できることを見つけて努力を重ねる楽しさを知ることができました。僕はやりたいことしか見えないタイプ。妻に言わせれば、「できないことが見えない障害」らしい(笑)。できない理由ではなく、どうすればできるかを考えるほうが性に合っているようです。

亜矢子目が見えない私にとって歌はかけがえのない友だちのような存在で、人生のさまざまな場面で力となり、支えとなってくれました。音楽の道に進むという子どもの頃からの夢を叶え、自分で作詞作曲をし、ピアノの弾き語りの仕事ができていることが幸せです。演奏をするうえで一番大切にしているのは、納得のいく解釈をしたうえで、曲を自分のものにすること。心の感性を音楽に反映できないと、人には届かないと常日頃思っています。

学びの場.com夢を実現する過程で、困難な時期もあったと思います。支えとなった人や言葉があれば教えてください。

大胡田誠4度目の司法試験に失敗したときは、さすがに心が折れ、もうだめかと思いました。どうしたらいいのかわからなくなっていた自分を救ってくれたのが、「人生で迷ったときには、自分の心が温かいと感じるほうを選びなさい」という母の言葉です。損か得かとか、人からどう見られるかではなく、自分の心が本当に何を求めているのか、心の声に素直に耳を傾けなさいと教えられたような気がしました。もう一度胸に手を当ててみると、やはり「弁護士になって困っている人を助けたい」という心の声が聞こえてきたので、勉強を続けることができました。母の言葉は、いまも迷ったときのひとつの指針になっています。

亜矢子中学に入って学校の人間関係に悩んでいた頃、沼津盲学校のときお世話になった先生が心配して点字で手紙をくれました。そこに書かれていた「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根をのばせ。やがて大きな花が咲く」という言葉がいまも忘れられません。何ごとも芯の強さが大事だと教えてくれた言葉でした。つらいときはその言葉を思い出し、「ここでがんばれば、人生が開けていく。希望をもってがんばってみよう」と自分に言い聞かせています。

学びの場.com「がんばる」という言葉は案外難しくて、励ましているつもりが、受け取る側にはプレッシャーになってしまうときもあるのではないでしょうか。

亜矢子私もまさに、子どもの頃は「がんばる」という言葉にプレッシャーを感じていました。自分としては、毎日学校に行っているだけでも十分がんばっているのに、これ以上何をがんばればいいの、と思ったからです。今思えば、他人と比較してではなく、自分らしく、自分のできる範囲でがんばれ、という意味合いだったのかもしれません。この経験をふまえ、自分がだれかにがんばってと声をかけるときは、「あなたらしく」と前置きを置いて言うようにしています。

障害者と健常者、お互いが声をかけやすい社会に

大胡田誠さんの写真

学びの場.com内閣府の平成29年度版全国障害者白書の資料によると、国民のおよそ6.7%が何らかの障害を有しているといいます。障害をもっている人は決して特別な存在ではありません。まだまだ健常者との間には壁があるのではないでしょうか。

大胡田誠これまでの日本の教育は、人にやさしくすることや相手の多様性を尊重することはなかなか教えてこなかった気がします。また、配慮が必要な人に対して自然に声をかけるということを練習する機会がなかったため、助けたくてもどうしていいのかわからない人がたくさんいます。結果として、社会全体が冷たくなってしまった。弁護士として変えていかなければならないと思っています。

亜矢子困っている側も「助けてください」と言わなければならないと思います。お互いに声を出し合うというシンプルなところから始めたらいいのではないでしょうか。

学びの場.com障害者と健常者の壁を打ち破るための具体的なアイデアはありますか?

大胡田誠まずは障害者が摩擦を恐れず、社会の中で果敢にチャレンジしてかないといけない。そして社会は挑戦者を受け止め、支援する仕組みをつくっていく必要があります。日本は何かを理解してから行動に移したがりますが、本来は順番が逆だと思う。障害者と健常者が触れ合うことが先で、理解はあとからついてくるものです。実際に社会の中で障害者が活躍している姿を見せることでしか、社会は変わらないと思います。

亜矢子私は小学校・中学校でスクールコンサートを開催することが多いのですが、コンサートだけだとどうしても一方的な発信になってしまいがちです。もっと子どもたちと直接対話して夢や悩みを共有できるような、触れ合いの活動を増やしていきたいです。

結婚、子育て、そして将来の夢について

大胡田誠さんの写真

学びの場.comお互いを伴侶に選んだ理由を教えてください。

大胡田誠求めるより与えようとしてくれるので、この人だったら一生一緒にいても間違いないと思いました。いまでも、心の底では(笑)僕を最優先で考えてくれているのではないかと感じています。

亜矢子一緒にいると安心感があり、何事も否定せずに受け入れてくれる器の大きさに惹かれました。心配性の自分に対し、誠さんはマイペース。あれこれ悩んでいても、誠さんから「たいしたことじゃないよ」と言われると心が軽くなります。

学びの場.com子育ての方針や一番大切にしているのはどのようなことですか?

大胡田誠仕事柄、家で子どもと過ごす時間を取るのはなかなか難しいですが、時間の量は質でカバーしたいと思っています。一緒に過ごす時間はスキンシップをとったり、たくさん会話することを心がけています。また、子どもの言うことは最後まで聞き、いい加減な対応をせずにきちんと受け止めてからボールを投げ返すようにしています。子どもは大人が思っている以上に様々なことを考えていて、難しい言葉さえ使わなければ、大人と同様のキャッチボールができると最近わかってきました。

亜矢子自分の態度や行動をごまかさず、人間対人間として子どもと対峙したいと考えています。つい上から目線で叱ってしまうこともありますが、子どものほうが正しかったときは親である私が謝ります。子どもたちにも嘘をついたり隠しごとをせず、正直でいてほしいと願っています。

大胡田夫妻の写真

学びの場.comお子さまたちは、ご両親の障害についてどのように受け止めていますか?

大胡田誠いまのところ、自然なこととして受け止めてくれています。電気がついていたら教えてくれたり、落とし物を拾ってくれたりと、子どもたちなりに親を助けようとしてくれているのが伝わってきますね。親と子ではありますが、お互いの苦手なことを自然と補い合っている関係です。

学びの場.com今後、どのような大人になってほしいですか?

亜矢子いろいろなバックグラウンドをもつ人を受け入れ、誰とでも付き合えるようになってほしいですね。障害のある人ない人に限らず、外国人、はたまた将来宇宙人が地球に来るようなことがあれば(笑)、仲良くなってしまうくらいの多様性を身につけてほしいです。

ピアノを弾きながら「地球のダイヤモンド」を亜矢子さんの写真

学びの場.com最後に、おふたりの今後の夢をお聞かせください。

大胡田誠カリフォルニア大学バークレー校に留学し、障害者のための公民権法「アメリカ障害者法(Americans with Disabilities Act:ADA)」の法体系と関連する訴訟の実態を勉強したいです。短期であれば家族にも一緒に来てもらい、アメリカでの生活を体験させてあげたいとも考えています。

亜矢子紅白歌合戦に出たいです(笑)。直近の夢としては、自分のオリジナル曲を楽譜におこし、合唱用にアレンジして、全国の学校のみなさんに歌ってほしいと思っています。

関連情報
『地球のダイアモンド』CDジャケットの画像

画像を拡大すると歌詞を確認できます

『地球のダイアモンド』
作詞:名古屋市立明豊中学校一同、大石亜矢子/作曲:大石亜矢子

2014年に初披露された、亜矢子さんと名古屋市立明豊中学校の生徒たちの合作。「命は生きている限り輝くダイアモンド」「一人ひとりが地球の宝物」といった生徒たちの言葉を歌詞に織り交ぜながら、亜矢子さんが曲を完成させた。「命の大切さ」をテーマに、生きることの意味を問いかける。明豊中学校では音源化されたCDが全生徒に配られ、毎年歌い継がれている。

プロフィール

  • 大胡田 誠さんの写真

    大胡田 誠(おおごだ まこと)

    1977年、静岡県生まれ。先天性緑内障により12歳で失明する。筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の中学部・高等部を卒業後、慶應義塾大学法学部を経て同大学院法務研究科(法科大学院)へと進む。8年間かけて2006年、5回目のチャレンジで司法試験に合格。全盲で司法試験に合格した日本で3人目の弁護士になった。現在、つくし総合法律事務所に所属し、一般民事事件や企業法務、家事事件(相続、離婚など)や刑事事件などに従事するほか、障害者の人権問題についても精力的に活動している。著書に、松坂桃李主演でテレビドラマ化された『全盲の僕が弁護士になった理由』(日経BP社)、『今日からできる障害者雇用』(共著・弘文堂)、夫婦共著の『決断。全盲のふたりが、家族をつくるとき』(中央公論新社)。

  • 大石 亜矢子さんの写真

    大石 亜矢子(おおいし あやこ)

    1975年、千葉県生まれ。男女の双子として早産で産まれる。1200グラムの極低出生体重児だったため、保育器の高濃度の酸素によって網膜が損傷する「未熟児網膜症」により失明。2歳のとき静岡県沼津市に移住。筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の中学部・高等部を卒業後、武蔵野音楽大学声楽科卒業。ソロによる歌唱のほか、ピアノの弾き語りによる演奏活動を行う。また、盲導犬の啓発活動などを行うかたわら、夫で全盲の弁護士の大胡田誠とともに「全盲夫婦によるトーク&コンサート」を各地で開催している。6歳と5歳の一男一女の母。本名は大胡田亜矢子。

インタビュー・文・写真・動画:学びの場.com編集部

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