教育トレンド

教育インタビュー

2002.06.04
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マンガ家・(財)日本宇宙少年団理事長 松本零士さん 時間は夢を裏切らない。夢を決してあきらめないで

日本では子どもの理科離れが急速に進み将来を危ぶむ声がささやかれているが、子供が宇宙に憧れる気持ちに変わりはないだろう。とくに多感な少年時代、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』を読んで宇宙に憧れ、理科系に進む子どもはこれからもたくさん出てくるに違いない。そんな子どもたちの宇宙への夢を育み続けてきた松本零士さんが自分の子ども時代を振り返り、先生方や子どもたちへのメッセージを語ってくれた。

好きこそものの上手なれが教育の始まり

学びの場.com松本先生はずいぶん若い頃からマンガ家として活躍していらっしゃいますから、学校でもずっとマンガを描いていらっしゃったような印象を受けますが、どんな子ども時代をお過ごしになったのですか。

マンガ家・(財)日本宇宙少年団理事長 松本零士さんこの前、中学高校の頃のノートが出てきたんですよ。代数とか解析とか英語の授業内容が書いてある中に、かならずマンガがたくさん描いてありました。それも全ページに。勉強と趣味をごっちゃにしていたのですね。
ですから、先生によっては授業中に私の首根っこをつかむ人もいましたし、「おいお前、いつか映画を作ったら呼んでくれよ」といってくれた先生もいました。総じてマンガを描いていることでひどく怒られた思い出はありません。

学びの場.comというと、やはり勉強はせずにほとんどマンガばかり描いていらっしゃったのでしょうか。

マンガ家・(財)日本宇宙少年団理事長 松本零士さん当時、英語の先生に、「そんなにマンガが好きならアメリカのマンガを読め」といわれましたが、言われる前に段ボール一杯持っていたのです。好きなものに遭遇すると、何が書いてあるのか知りたくてたまりませんから、辞書を持ち出して翻訳するわけです。そうやって中学生の頃からマンガの翻訳をしていました。マンガのセリフの上に紙を貼って翻訳を書き込んだりして。今から読んでみても、なかなか正確に翻訳しているんですよ。
そんな風にして、高校生ぐらいになると自分が興味を持っている分野に限っては、英文でも不自由しなくなりました。飛行機や宇宙の本なら自分が知っている単語がどんどん出てきますから、だいたい理解できるようになります。そうやっていくと、好きな分野であればイタリア語でもドイツ語でも、ある程度わかるようになるのです。 「好きこそものの上手なれ」というのは本当にそうです。だから私は、教育というのは趣味から導入してあげるのが、教わる子にしてみればいちばんハッピーなんだと思いますね。導入部分の間口をうまく選ばせてあげることができれば、子どもも拒絶反応を起こさずに「習う」という世界に入っていけるのではないでしょうか。

あとは個人の、何が好きかという方向性です。だから私は、学校の運動会で順位をつけないのはイヤなんです。走るのが得意な子は、そこでしか実力を発揮できないことがある。勉強では負けても、走ることなら誰にも負けない、というプライドがあると思うのです。それが認められれば自信につながる。そういうふうに、各人がもっている資質のいいところをほめてあげることはとても大事だと思います。「走るならこいつがいちばん」「喧嘩ならおれがいちばん」でいいんです。それが生きていく上での自信につながるのですから。

子どもたちに励ましの言葉をかけてやってほしい

学びの場.comご自身の経験を振り返って、先生方へのアドバイスをいただけますか。

マンガ家・(財)日本宇宙少年団理事長 松本零士さん先生は、子どもたちに励みになるような言葉をかけてあげることがいちばんいいと思います。子どもたちがめげたりしないような、励ましの言葉を。子どもが悪いことをしたときには怒ってもいい。その後フォローすればいいんです。「おまえはやればできるんだぞ」と。私もよく言われました。「おまえはやればできるのになぜやらん」。この「やればできる」と言われることが救いになるんです。
実は高校生の時に、自分は見捨てられた、と思ったことがあります。デビューするときで仕事が忙しかったため勉強をあまりせず、期末考査で順位が一気に150番くらい下がったのです。それで職員室に呼ばれました。そうしたら先生は答案用紙をぽいと投げて、「まあいいか、帰れ」と言ったんです。そのときに「おれは見捨てられたんだ」と強く思いました。めちゃくちゃ怒られた方がまだましでした。それでこれからはマンガを描くのをやめて少し勉強しようかと思ったんですが、家に帰ったら「入選おめでとう」の電報が来ていて、すべて吹っ飛びましたが(笑)。

若さは無限の宝

学びの場.comいま学校に通っている子どもたちには、どんなメッセージを送りたいですか。

マンガ家・(財)日本宇宙少年団理事長 松本零士さん若いときにはそれだけで、若さという無限大の宝物をもっています。どんなに名を成した人でも、歳をとれば残り時間がわずかしかありません。それに比べれば、小学生、中学生、高校生の子どもたちは、無限大の宝物をもっているのです。
宇宙少年団で毛利さんの打ち上げを見に行って、スペースシャトルが上がっていくとき、私の目の前に少年のつむじが見えたんですね。その時「ああ、これぐらいの歳の時に見たかった」と心底感じました。 また、大人の義務として、若者にできない約束をするな、ということを言いたいですね。もし甘い言葉をかけて裏切ることになったら、その悔しさを子どもは生涯忘れません。そのことを一生歯ぎしりしながら思い出すでしょう。 これは普遍の真実だと思っていますが、私の好きな言葉で「時間は決して夢を裏切らない」というのがあります。この言葉には続きがあって、「だから、夢も時間を決して裏切ってはならない」というのです。そしてもうひとつ「自分の夢が大切なら、人の夢も大切にしろ」。だから、たとえ考え方や指向性が違う人がいても、お互いに励まし合え、ということです。私はこの言葉をずっと信じてやってきました。

それから、コンプレックスを抱きそうになったときに思い出してほしい言葉もあります。「今日おれをばかにしたやつが、自分の長い人生にとって一体何であるか。ゴミだ」と。そう意地でも思ってもらいたい。悔し紛れでもいいからそう思えば、それでいいのです。自分の精神を守ることが一番大切ですから、自分がノイローゼになるくらいなら、人をノイローゼにしてでも自分を守るべきです。物事はいいように解釈すればいいんです。そして「明日の自分は今日より強い」と信じることです。

松本 零士(まつもと れいじ)

本名:松本晟(あきら)。昭和13年生まれ。子どものころからマンガを描き、昭和29年、『蜜蜂の冒険』で第1回新人王を受賞しマンガ家としてデビュー。『男おいどん』『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』『キャプテンハーロック』など、独自の作風で多くのファンを獲得する。平成6年、財団法人日本宇宙少年団理事長に就任。

取材/構成 堀内一秀

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