もっと知りたい"生成AIの教育利用"(第1回) 生成AI活用の全体像と、新しく見えてきた3つの役割

昨年度(令和6・2024年度)、本サイトに意外と知らない"生成AIの教育利用"(全4回)を公開してから1年あまりが経ち、生成AIはますます身近になり、学校現場での活用もますます盛んになっています。今年度(令和7・2025年度)、私たちは昨年度の調査分析を発展させ、生成AIパイロット校(令和6年度・第2期)の実践事例に着目して、研究を進めてきました。なお、この研究成果の一部は、2025年11月に開催された第51回全日本教育工学研究協議会全国大会でも報告しています(論文)。
今回から4回にわたって、今年度の研究成果をもとに、この2年間における生成AI活用の変化を踏まえながら、学校における生成AI活用の「今」を明らかにしていきます。本稿(第1回)では、昨年度と今回の調査の位置づけを改めて確認したうえで、「2年目になり、何がどう変わったのか」という全体像と、新たに追加した役割について概観します。
昨年度調査の位置づけ
まず、昨年度紹介した調査・分析結果について整理しておきます。研究のねらいは次の2点でした。
- 教育現場(特に初等中等教育)において、生成AIはどのような役割で活用されているのか。
- 令和5年度の生成AIパイロット校における活用には、どのような特徴があるのか。
生成AIパイロット校(令和5年度・第1期)の成果報告書に記載された全266事例を対象に、生成AIの「役割」に着目して類型化を行いました。その結果、教育利用と校務利用をあわせて、5つのカテゴリ、20項目からなる役割分類を作成しました。
ただし、昨年度調査には限界もありました。ChatGPT が公開されたのは 2022年11月、生成AIパイロット校(第1期)の実証期間は2023年10月から2024年2月までと、ごく限られた期間でした。つまり、生成AIの普及から日が浅い段階で、各校が手探りで取り組んだ実践が中心だったと言えます。この時期の活用は、「とりあえず使ってみる」「可能性を探る」といった性格が強かったと考えられます。
今回調査のねらいと対象
これに対し、今回の調査では生成AIパイロット校(第2期)の事例を対象としました。第2期の実証期間は2024年4月から2025年2月までであり、第1期に比べて期間も長く、学校現場での生成AI活用が一定程度、習熟してきた段階の実践が多く含まれていると考えられます。
分析対象は、文部科学省ホームページに公開されている、令和6年度生成AIパイロット校の実践事例256件です。小学校25校、中学校30校、高等学校10校、中等教育学校1校、合計66校の実践が含まれています。今回の研究の目的は次の2点です。
- 令和5年度と令和6年度で、生成AIの役割にどのような変化がみられるのか。
- 令和6年度の生成AIパイロット校における活用には、どのような特徴がみられるのか。
分析にあたっては、昨年度作成した5カテゴリ20項目の役割分類を土台としつつ、第2期の新たな実践事例を踏まえて項目の見直しを行いました。そのうえで、次の5つの観点から、事例ごとの量的傾向を整理しました。
- 利用種別(教育利用・校務利用)
- 生成AIの役割
- 学校種
- 教科(教育利用の事例のみ)
- 活用段階(教育利用のみ)
①生成AI自体を学ぶ段階
②使い方を学ぶ段階
③各教科の学びの中で積極的に用いる段階
2年目にどう変わったのか ― 全体像
生成AIパイロット校の第1期(令和5年度)と第2期(令和6年度)の実践事例について、「役割」✕「利用種別」で集計した結果を示し、全体的な傾向の変化を確認します。
| 生成AIの役割 | 利用種別 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 校務利用 | 教育利用 | ||||
| カテゴリ | 項目 | 令和5年度 | 令和6年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
| 創造・発想 | ①アイデアを出させる ⤴ | 1 | 11 | 8 | 11 |
| ②生成AIと相談しながら思考を洗練・深堀する | 6 | 7 | 26 | 24 | |
| ③計画や案を作成させる | 17 | 23 | 12 | 8 | |
| ④絵や音楽、物語等を作成させる ⤵ | 10 | 9 | 40 | 23 | |
| 文書・ドキュメント作成 | ⑤文書のたたき台を作成させる | 27 | 23 | 7 | 3 |
| ⑥文章を校正・添削させる | 10 | 16 | 19 | 12 | |
| ⑦要約させる | 4 | 1 | 4 | 2 | |
| ⑧翻訳させる | 2 | 3 | 2 | 3 | |
| 【新】議事録を作成させる | - | 6 | - | 0 | |
| データ処理・分析 | ⑨データを整理・分析させる ⤴ | 14 | 32 | 3 | 6 |
| ⑩画像や動画から情報を読み取らせる | 0 | 2 | 2 | 4 | |
| 【新】ダミーデータを作成させる | - | 3 | - | 0 | |
| 学習・問題解決支援 | ⑪チェック・評価させる | 2 | 2 | 13 | 17 |
| ⑫物事を説明・解説させる | 6 | 7 | 19 | 15 | |
| ⑬問題を生成させる ⤵ | 17 | 9 | 13 | 3 | |
| ⑭プログラム・コードを作成させる | 12 | 10 | 10 | 4 | |
| ⑮問題を解かせる/計算させる | 0 | 1 | 9 | 4 | |
| ⑯発音をチェックさせる | 0 | 1 | 4 | 3 | |
| ⑰文章を読み上げさせる | 0 | 1 | 2 | 1 | |
| 【新】学習パートナーとして多面的に支援させる | - | 0 | - | 4 | |
| 対話・コミュニケーション | ⑱ディベート相手をさせる | 0 | 1 | 6 | 1 |
| ⑲ペルソナを演じさせる | 0 | 3 | 3 | 3 | |
| ⑳英会話の相手をさせる | 0 | 1 | 8 | 6 | |
この表からは、昨年度から活用頻度がほぼ変わらない項目もあれば、大きく増加している項目、逆に減少している項目もあることがわかります。例えば、校務利用では「アイデアを出させる」「データを整理・分析させる」の件数が大きく伸びています。一方、教育利用では「絵や音楽、物語等を作成させる」「問題を生成させる」の件数が減少していることが見て取れます。
また、今年度の分析では、既存の5カテゴリ20項目に加えて、新たに3つの役割項目を追加しました。
- 生成AIに議事録を作成させる
- 生成AIにダミーデータを作成させる
- 生成AIに学習パートナーとして多面的に支援させる
いずれも、令和5年度にはほとんど見られなかったか、あるいは他の項目に埋もれていた活用が、令和6年度には明確な傾向として現れてきたものです。以下では、それぞれの役割について、具体的なイメージを簡単に紹介します。
新たに追加した役割項目
1. 議事録を作成させる
1つ目は、会議等の音声・発言記録から、生成AIに議事録を作成させる活用方法です。
具体的には、職員会議や学校運営協議会などの様子をボイスレコーダー等で録音・録画し、その音声データを生成AIに読み込ませます。生成AIは音声を文字起こししたうえで、要約まで行うため、効率的に議事録を作成できます。これにより、議事録作成にかかる時間を短縮し、教員の業務負担の軽減に寄与することが期待されます。
生成AIの活用が進む中で、「音声や動画から情報を読み取れる」という点が現場で広く認識されるようになり、校務の効率化に役立つ手段として評価されてきた結果だと考えられます。
2. ダミーデータを作成させる
2つ目は、架空のデータを生成AIに作成させるという活用です。
たとえば、統計処理に関する授業で実習を行う場合、大量のデータを準備する必要があります。このとき、目的にかなう実データを探してくるのには相当の労力が必要ですし、個人情報を含むデータの場合、取り扱いに細心の注意が求められます。生成AIを用いれば、授業のねらいや題材に即した架空のデータを、短時間で大量に作成することができます。
このような活用は、教員の教材準備の負担軽減につながるとともに、個人情報保護の観点からも有効な方法と言えるでしょう。
3. 学習パートナーとして多面的に支援させる
3つ目は、生成AIを単なる情報提供や答えを得るための道具として利用するのではなく、子どもとの対話を通じて子ども自身が考えを深めていくように導く、いわば「学びの伴走者」として位置づける活用です。
たとえば、事前にAIにプロンプトを設定しておき、子どもの発言や問いに対して「その考えはどう思う?」「別の見方はある?」といった問い返しを行わせることで、思考を促す対話を展開させる事例が見られます。単に正解を提示するのではなく、子どもの考えを引き出し、別の視点に気づかせるような応答を行います。
個別最適な学びが進む中で、単なる知識の提供を超えて、学習者への多面的な支援を行う存在として生成AIを位置づける事例が増えてきたことは、この2年間における生成AI活用の質的な変化を象徴する取組と言えるでしょう。
第2回以降、詳細なカテゴリ別の分析や、教科・学校種・活用段階との関係について、ここで示した分類を手掛かりに、2年間の傾向の変化を詳しく見ていきたいと思います。
参考資料

井上 信介(いのうえ しんすけ)
株式会社内田洋行 教育総合研究所 主幹研究員
内田洋行入社以来、ユビキタスネットワークに関わる研究、システム開発、新規事業の立ち上げに従事。2012年から教育総合研究所に所属。専門分野は、初等中等教育におけるICT活用、とりわけ児童生徒用端末1人1台環境、遠隔・オンライン教育、教育DXなど。文部科学省や総務省の委託事業を多数担当し、実証研究を通じて、現場の実践に根ざした知見の収集分析とモデル構築に取り組んでいる。
また、大学・研究機関との共同研究などを通じて、ICTを基盤とした「学びの質的転換」と学校教育の新たな姿を探究している。国立教育政策研究所文教施設研究センター「創造的な学習空間の創出に関する調査研究(2021-2022)」に調査研究協力者として参画。
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