2025.12.22
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もっと知りたい"生成AIの教育利用"(第2回) 2年間の実践データからみる生成AI活用の変化とその背景

1回では、令和5(2023)年度と令和6(2024)年度の生成AI利用のカテゴリ別の実践事例「件数」の変化と、新たに追加した3つの役割について紹介しました。
2回となる本稿では、全事例に対する各項目の割合の変化に注目し、令和5年度と令和6年度で生成AIの「役割」がどのように変化したのか、もう少し丁寧に見ていきます。

増えた利用方法と、減った利用方法

「どの項目が全体の中でどれくらいの割合を占めているのか」という観点で分析した結果、特に目立ったのが、次の3項目です。

  • アイデアを出させる
    令和5年度 2.7% → 令和6年度 6.7%
  • データを整理・分析させる
    令和5年度 5.0% → 令和6年度 11.6%
  • 問題を生成させる
    令和5年度 8.9% → 令和6年度 3.6%

「アイデア出し」と「データ整理・分析」は、およそ倍程度に割合が増加している一方で、「問題生成」は半分以下に割合が減少していることがわかります。その背景には、どのような要因が考えられるのでしょうか。

割合が高まった役割① ― アイデアを出させる

まず、「アイデアを出させる」役割の割合が、令和5年度の2.7%から令和6年度の6.7%へと大きく増加している点に注目します。

具体的な事例を見てみましょう。この実践では、意見文を書く活動の前段階として、課題設定の候補を生成AIに挙げさせています。(なお、後半でAIに推敲を行わせている部分は、「生成AIに文章を校正・添削させる」の項目として別途カウントしています。)

このように、子どもたちが悩みがちな「テーマ決め」「課題設定」の部分を生成AIに補助させ、重点を置きたい「意見文を書く」という活動にしっかりと時間を割けるようにしています。

ゼロからアイデアを絞り出すのは、大人でも子どもでも負担の大きい作業です。まずは生成AIの力を借りて幅広くアイデアを出し、その後で人間が取捨選択し、考えを深めていく。このような、「発想の出発点」として生成AIを活用するスタイルが、令和6年度にはより一般的なものになってきていると考えられます。

割合が高まった役割② ― データを整理・分析させる

次に、「データを整理・分析させる」役割の割合が、令和5年度の5.0%から令和6年度の11.6%へと大きく増加している点です。校務利用・教育利用それぞれの具体的な例を見てみます。

校務利用の事例では、アンケートの回答データを生成AIに読み込ませ、その内容を整理し、傾向を要約させるような使い方が見られました。自由記述の回答をカテゴリごとに整理したり、主な意見を抽出したりする処理を生成AIに担わせるものです。

教育利用の事例では、学校内で発生したけがの記録を生成AIに読み込ませ、「けがの種類」や「けがが発生した場所」などで集計させる使い方が報告されています。その結果をもとに「どこに危険が多いのか」「どのような対策が必要か」を考察する活動につなげていました。

データ整理・分析は、もともと人手と時間がかかる業務であり、負担の大きい作業です。そこに生成AIを活用することで、

  • 短時間で大まかな傾向をつかむことができる
  • 児童生徒に「データから読み取る」「データから考える」経験をより簡単に提供できる

といった利点が得られます。

「アイデア出し」と同様に、「データの整理・分析」も、生成AIの得意分野に属する役割です。令和6年度においてこの項目の割合が増加していることは、生成AIの特性を踏まえつつ、日常業務や学習活動の中で、より実用的な課題解決の手段として位置づける実践が増えてきたことを示していると考えられます。

割合が低下した役割 ― 問題を生成させる

一方、「問題を生成させる」役割の割合は、令和5年度の8.9%から令和6年度の3.6%へと大きく減少しています。

具体的な事例として、生成AIに算数・数学の練習問題や英語の穴埋め問題などを作成させる実践が見られました。しかし、事例の記述を丁寧に読むと、問題の難易度が学習者の実態と合わない、解答例に誤答が混じるといった課題も報告されています。

こうした経験を通じて、少なくとも「問題生成」という役割に関しては、生成AIにすべてを任せるのではなく、教員側が生成AIに対する指示をかなり細かく指定したり、生成された問題を一つひとつ吟味・修正したりする必要があるという認識が広がってきた可能性があります。

結果として、「問題生成」に生成AIを使うよりも、教員自身が問題を作成したり、既存の問題を適切に編集したりする方がよいと判断する場面が増えたのかもしれません。

つまり、令和6年度における「問題生成」の割合の減少は、どの役割であれば生成AIを活用しやすいかを、現場が経験的に見極めてきたプロセスの一端と捉えることができるかもしれません。

利用種別ごとの傾向 ― 教育利用と校務利用

ここまで、全体の割合で見た変化を取り上げてきました。次に、利用種別(教育利用・校務利用)ごとの差異に目を向けます。

教育利用に限定してみると、次の2つの項目は、令和5年度と同様に令和6年度でも高い割合を占めていました。

  • 生成AIと相談しながら思考を洗練・深掘りする
    令和5年度12.4%→ 令和6年度15.3%
  • 絵や音楽、物語等を作成させる
    令和5年度19.0%→ 令和6年度14.6%

前者は、生成AIとの対話を通じて、子どもたちが自分の考えを広げたり深めたりする活用です。これは単なるアイデア出し等の支援にとどまらず、探究活動や問題解決の思考を深める場面など、実際の課題解決の場面で活用されています。

後者は、イラスト・BGM・物語・詩などを生成AIに作ってもらう活用方法です。令和5年度の段階から、この種の活用は一定の割合を占めており、令和6年度においても引き続き主要な位置づけとなっていました。

これらの活用は早い段階から「定番的な使い方」として広く利用されていると見ることができます。教育利用においては思考のプロセスを支える対話的な活用、表現の幅を広げる創造的な活用という2つの方向性が、2年間を通じて重視され続けていると言えるでしょう。

校務利用における傾向

一方、校務利用に限定すると、次の2つの項目が、令和5年度から令和6年度にかけて一貫して高い割合を占めていました。

  • 文書のたたき台を作成させる
    令和5年度21.1%→ 令和6年度13.4%
  • 計画や案を作成させる
    令和5年度13.3%→ 令和6年度13.4%

これらの項目は、行事案内・通知文・研修計画など、教員が日常的に作成しているさまざまな文書や計画の「たたき台」を生成AIに作成させる活用です。業務負担の軽減という観点で早くから注目されていた役割ですが、着実に効果は認められているようです。

小括 ― 2年間で何が「定着」し、何が「見直された」のか

ここまでの内容を簡単に整理すると、次のようにまとめることができます。

  • 「アイデア出し」「データ整理・分析」といった、生成AIの得意分野を活かした実用的な役割は、令和6年度にかけて割合が増加している。
  • 「問題生成」のように、難易度設定や誤答出力に課題が見られる役割は、令和6年度になると割合が低下している。
  • 教育利用では、「思考の洗練・深掘り」「絵や音楽・物語の作成」といった、思考と表現を支える活用が、2年間を通じて高い割合を維持している。
  • 校務利用では、「文書のたたき台作成」「計画や案の作成」といった、校務負担の軽減に直結する活用が、安定して主要な位置を占めている。

言い換えれば、令和5年度から令和6年度への変化は、生成AIの「得意な役割」により比重を置くようになったこと、実際に使ってみた結果「ここはAIに任せるよりも人間が担った方がよい」と判断された役割が見直されてきたことを示していると考えられます。

さて、第3回、第4回では、こうした役割の変化が、具体的な教科や学年、授業場面の中でどのように現れているのかを、個別の実践事例に即して見ていく予定です。

井上 信介(いのうえ しんすけ)

株式会社内田洋行 教育総合研究所 主幹研究員

内田洋行入社以来、ユビキタスネットワークに関わる研究、システム開発、新規事業の立ち上げに従事。2012年から教育総合研究所に所属。専門分野は、初等中等教育におけるICT活用、とりわけ児童生徒用端末1人1台環境、遠隔・オンライン教育、教育DXなど。文部科学省や総務省の委託事業を多数担当し、実証研究を通じて、現場の実践に根ざした知見の収集分析とモデル構築に取り組んでいる。
また、大学・研究機関との共同研究などを通じて、ICTを基盤とした「学びの質的転換」と学校教育の新たな姿を探究している。国立教育政策研究所文教施設研究センター「創造的な学習空間の創出に関する調査研究(2021-2022)」に調査研究協力者として参画。

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