2020.10.12
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意外と知らない"教育とAI"(第1回) AI(人工知能)とは?

ここ数年のAI(人工知能)技術は目覚ましい発展を続け、私たちの生活にも身近な存在となっています。教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語であるエドテック(EdTech)という言葉がありますが、教育の場においてもAI技術を活用する取り組みが進んでいます。そこで、「教育とAI」について3回に渡ってご紹介します。第1回は、AI(人工知能)の歴史と、AIの技術の1つである機械学習についてご紹介します。

AIの歴史

近年、AI技術は実用化が進み、あらゆるところでAIをアピールした製品やサービスが登場してAIブームのような状況です。AIはごく最近登場した技術のように思われるかもしれませんが、実は今の状況は「第3次」のAIブームであるということはあまり知られていないでしょう。AI分野の研究と実用化に関しては苦難の連続であり、今日まで「ブーム」と「冬の時代」を繰り返してきました。

「AI」という言葉がはじめて登場したのは1956年にアメリカで開催されたAIに関する会議とされています。この会議のあと60年代に第1次AIブーム、80年代には第2次のAIブームが起きますがいずれも広く実用化されるまでには至らず流行と呼ぶには程遠いものでした。その後しばらくAIの研究は冬の時代を迎えますが、2012年6月にGoogleが猫を認識できるAIを開発したことをきっかけに今日の第3次AIブームの時代が訪れます。ディープラーニング(Deep Learning)というアルゴリズムを使うことで、コンピュータが猫の画像を認識する精度が劇的に改善したことは人工知能の研究者に衝撃を与えました。このディープラーニングの登場によりAI技術の実用化が進み、私たちの身近なものにも活用されるようになってきました。

人工知能とは?

そもそも人工知能(Artificial Intelligence)とは何でしょうか。実は、人工知能の定義には明確なものはなく、人工知能の専門家の間でも、様々な見解があります。そのような中で共通する部分をまとめると、「人工知能」とは、「人間と同じ知的作業をする機械を工学的に実現する技術」といえます。

これは、たとえば作業ロボットの胴体、腕、足、などのハードウェア自体は、機械工学的な技術ですが、それらを動かすために必要なソフトウェアが人工知能の技術にあたるといえるでしょう。

機械学習とは?

機械が人間と同じような知的作業をおこなうためには、機械に自ら学習し判断させることが必要になります。人間は経験から学習しますが、機械は経験から学習することはできないので、経験の代りにデータから学習します。このようにデータから特徴やルールを機械(コンピュータ)自らに見つけさせる仕組みのことを「機械学習」と言います。

機械学習の主な用途は、分類や予測をすることです。分類とは、例えば、動物の画像をコンピュータに読み込ませてその画像が「犬」なのか「猫」なのか正しく識別させることであり、また、予測とは、昨日までの売上データから明日の売上げを予想することです。機械学習は、人間が特徴やルールをコンピュータに教えるのではなく、与えられたデータからコンピュータ自らが学習し、特徴やルールを見い出してそれをもとに判断し分類や予測を行います。

学習と予測の基本的な流れ

コンピュータが機械学習により学習と予測を行う方法には主に、「教師あり学習」、「教師なし学習」、「強化学習」の3つがあります。

「教師あり学習」はあらかじめ正解がわかっているデータを与え、そこから特徴やパターンを学習する方法です。ここで言う「教師」とは学校の先生という意味ではなく「正解データ」のことを指します。例えば、犬か猫どちらかの正解がわかっている画像データ(猫の画像には、ねこ、犬の画像には、いぬといったように、正解のラベルが付けられている画像)を大量に用意し、これらの画像からコンピュータが自ら特徴やルールなどを見つけて学習します。そして、正解がわからない画像データ(正解のラベルが貼られていない画像)に対してこの画像が犬と猫のどちらかを判断して分類できるようにします(図2)。

図2(教師あり学習の例:犬猫画像の学習と分類)

「教師なし学習」とは、「正解データ」を与えない学習方法のことです。「教師あり学習」とは違って、正解データが与えられないので、データに潜む規則性をコンピュータ自らが独自に発見して学習する方法です。

「強化学習」は、「正解データ」は与えませんが、良い解を出すと報酬を与える方法です。コンピュータは得られる報酬が最大化されるように学習していきます。

データとアルゴリズムを適切に選択してコンピュータに学習させると、これまでの人間の経験や勘を頼りにしてきた方法とは比較にならないほどの効果を発揮します。機械学習を使うメリットは、大量のデータを高速に処理できる点にあります。また大量のデータから人間では見つけることができない新たな視点での特徴を探し出すことができます。

AI技術が発展した背景

AI技術が発展してきた背景には、ハードウェアとソフトフェアの双方の技術の進歩があります。機械学習のアルゴリズムでは複雑な計算処理が必要となりますが、これを実行できる十分なコンピュータ資源が確保できるようになり「ハードウェア」での課題が克服されたこと。また、「ソフトウェア」の部分では、機械学習を実行するためのプログラムを記述するプログラミング言語の環境が整備されたこと。これによりたくさんの人が機械学習のアルゴリズム開発に参加できるようになったことが挙げられます。開発されたプログラムはオープンソースとしてすぐに世界中に公開されるため、新しいアルゴリズムの開発競争が起きている状況です。

機械学習の身近な実践例

機械学習のアルゴリズムがオープンソースとして公開されているということは、一部の研究者や企業の利用に限られたものではなく、誰もが実際のプログラムに触れることができます。少し難易度は高くなるかもしれませんが、プログラミング教育で興味を持った子どもたちが自分でプログラミングしてAIを体験することも可能なのです。子ども向けにはプログラム言語Scratch(スクラッチ) 注1 を使って機械学習プログラミングを体験することができるライブラリなども公開されています(ML2Scratch)。

(注1)Scratchとは、Scratch財団がマサチューセッツ工科大学(MIT)と共同開発する、8〜16才を対象にした無料の教育プログラミング言語及びその開発環境。難しいプログラミングの構文の書き方を覚えていなくても、簡単にプログラムを開発できることが特徴。

では実際に個人の方がAIプログラミングを私たちの身近なところで活用されている事例をご紹介します。未来の学びコンソーシアム事務局が発行するリーフレット「小学校プログラミング教育必修化に向けて」では、農業とAIの取り組みとして、農家の方がキュウリの仕分け作業を行うためにAIを活用している事例が紹介されています。

キュウリ栽培を行う農家の小池さんは、収穫したキュウリの選別作業にAIを活用されています。キュウリを大きさや形、色によって各カテゴリ(図4)に分類するには知識と経験が必要で、多くの時間と人手をかけて作業していました。そこで、AIを活用してキュウリの仕分け作業をサポートするシステムを考え、自らプログラミングをして開発し作業の効率化を図ったそうです。台の上に置いたキュウリをカメラで撮影し、その画像からコンピュータが自ら判断して適切なカテゴリに分類してくれます。このシステムでは、Raspberry Pi(ラズベリーパイ) 注2 を使用して、機械学習による画像認識のアルゴリズムが応用されています。

(注2)Raspberry Pi とは、教育での利用を想定してイギリスのラズベリーパイ財団によって作られた比較的安価に入手できるシングルボードコンピュータ。ラズパイとも呼ばれる。プログラム言語Python(パイソン)が動くので機械学習のプログラムを動かすことができる。

小池さんは、このシステムを作った経験から、農家のようなこれまでプログラミングにあまり関わっていなかった分野の人もプログラミングを学び活用することで身の回りの生活を便利にすることができると述べられています。AI技術は小池さんの例ように、一個人のレベルにおいてもプログラミングして活用できるようになっています。

まとめ

今回は、AI技術の歴史的な背景やAIが機械学習というアルゴリズムで記述されたコンピュータのプログラムであること、また機械学習はデータから分類や予測を行うことを目的としていることなどがわかりました。またAIの画像認識技術を使った活用例として、キュウリ農家での仕分け作業に使われている事例をご紹介しました。

あらゆる産業で導入されるようになったAI技術ですが、次回は、教育分野での活用について取り上げます。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 河村征宏

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