2019.04.10
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

意外と知らない"高等学校の多様化"(第3回) 高等学校のこれから

2020年度から新しい大学入学共通テストが始まり、高等学校の授業内容も大きく変わろうとしています。
第3回は、高等学校の課題に対する、先進的な専門高校の事例について紹介します。

●高等学校の課題とは?

第1回でご紹介したとおり、日本では1991年以降にさまざまな制度を導入し、学科再編等を進めてきました。近年は社会構造・産業構造の変化に対応しうる高等学校の教育内容のあり方の検討が喫緊の課題となっています。いったい、どのような変化が高等学校に影響をもたらしているのでしょうか。

社会変化①:人工知能による職業の代替可能性

今後10~20年後、日本の労働人口の約49%が就いている業務は、技術的には人工知能やロボット等による代替可能性が高いと推計されています。一方、「芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業」については、代替が困難な傾向があるとの結果が出ました。
これらのことから、学校教育では、生徒に知識・技能を身に付けさせるだけではなく、人工知能等には代替できないような、知識を基盤として新しく何かを生み出す力や、他者と議論し協力し合って何かを成し遂げる力を身に付けさせることが求められると考えられます。

社会変化②:少子化による人口減少

近年、「少子化」という言葉が叫ばれていますが、どのくらいの人数が減っているかご存知でしょうか。職業構造の転換に直面する将来世代の人口は少子化によって減少していくと言われており、日本の15~19歳の人口は、596万人(2018年6月1日現在)から339万人(2065年)に減少すると推計されています。
15~19歳の人口が減少することにより、高等学校が学校を維持運営できるだけの生徒数を確保することは次第に困難になっていくと考えられます。特に専門学科は、下の図のように時代の変化に応じて学科数が大きく変化しているため、高等学校は受験者のニーズに応えられる、魅力的な特色を持つ学校へと変革するとともに、学級数や学科数等を再検討することが求められるでしょう。

このような高等学校が抱える課題に対し、どのような取組がされているのでしょうか。

●先進的な専門高校の取組 ~時代の変化に対応した学科編成の検討~

ここからは、時代の変化に対応した「専門高校」の取組事例をご紹介します。前述した社会変化に伴い、職業人に求められる専門性が高度化・多様化しているため、専門高校への期待がさらに高まっていると言えます。
今回は、工業高校と家庭科高校について、まず現行の高等学校学習指導要領における目標を確認します。その後、そこで目指されている人材を育成するための社会的な動向や先進的な取組について、複数の視点から見ていきます。

工業高校の取組

現行の高等学校学習指導要領では、 「主として専門学科において開設される各教科」としての「工業」の目標は以下のように示されています。

工業の各分野に関する基礎的・基本的な知識と技術を習得させ、現代社会における工業の意義や役割を理解させるとともに、環境及びエネルギーに配慮しつつ、工業技術の諸問題を主体的、合理的に、かつ倫理観をもって解決し、工業と社会の発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育てる。

ここには、今日的課題を踏まえ、工業に関する基本的な知識・技能を習得しているだけでなく、それらを活かして主体的かつ創造的に課題解決ができるような人材を育成することが明確に示されています。
また、高等学校学習指導要領に示された目標の変遷を辿ると、基礎的な知識・技能の習得を中心とした目標から、上に示したような生徒の主体性や工業の発展に資する実践的な態度の習得までを目指すものに変化していることがわかりました。これは、産業構造の変化に伴い、工業高校卒業者に期待される姿が、製造工場での技術者にとどまらない多様な就職を想定したものに変化していることを意味していると考えられます。

工学共通教育としての情報関連教育

文部科学省の「大学における工学系教育の在り方について(中間まとめ)」には、情報科学技術の基礎教育の強化と先端人材教育の強化が掲げられており、以下のように示されています。

AI、ロボット等などの技術革新を社会実装につなげるためには、情報関連分野の学生のみならず、非情報関連分野の学生にあっても情報関連教育は必須である。また義務教育段階でのプログラミング教育の必修化や、情報技術の急激な発展を踏まえれば、工学系学部初期段階における一般教養教育や専門基礎教育・工学共通教育としての情報教育の強化充実を図るべきである。

この資料では、大学教育において、非情報関連分野の学生でも情報関連教育は必須であると指摘されています。義務教育段階でのプログラミング教育の必修化等を踏まえ、専門的な工業教育の初期段階にある高校教育においても同様に、学科に共通した情報分野の教育が必要であると考えられます。

参考事例1

電子機械科の設置:川崎市立川崎総合科学高校

工業高校において、機械分野、電気分野、情報分野を総合的に学ぶ学科としては「電子機械科」が挙げられます。3つの分野をバランス良く総合的に学習することで、情報化など社会の変化に対応して機械と電子に関する知識と技術を学習するとともに、先端産業で活躍できる新しい技術にも対応できる人材を育成しています。また、幅広く学習ができることに加え、多岐にわたる資格取得にも挑戦できるという特長があります。
電子機械科は、1982年に愛知県立豊田工業高等学校に創設されたのをはじめとして、2005年には170校(全日制)設置されています。
ここでは、川崎市立川崎総合科学高校の電子機械科についてご紹介します。

項目 内容
創立 1963年(川崎市立工業高等学校として)
→1993年 川崎市立川崎総合科学高等学校に名称変更、学科を新設改編
住所 〒212-0002 神奈川県川崎市幸区小向仲野町 5-1
生徒数 687名(男子497名、女子186名)(2018年5月1日現在)
学科 情報工学科、総合電気科、電子機械科、建設工学科、デザイン科、科学科
電子機械科の特徴
  • 実習などを通して、機械の内容をベースに電子・機械・情報の基礎を学ぶ。
  • 座学では、機械設計や製図、機械材料、原動機、自動車について、また、電子部品や電子回路など電子の基礎、 さらにC言語などのプログラミングについて学ぶ。
  • 実習では、旋盤、フライス盤、そしてCAD/CAMによる機械加工、溶接、エンジンなどの機械に関する実習、 ロボットを動かすための駆動回路やセンサなどの電子分野の実習を行うほか、ロボットの制御やセンサの情報処理についても実際に製作して学ぶ。
電子機械科の進路実績 大学:東京海洋大学 神奈川大学  神奈川工科大学 関東学院大学 千葉工業大学 等
専門学校:神奈川県立職業技術校 東京工科専門学校 東京自動車整備 東急自動車整備 等
就職:IHI マリンユナイデット キヤノン 東急電鉄 東芝 JFE メカニカル・鋼板 等

第2回の記事で述べたとおり、近年、専門高校は就職率だけではなく進学率にも注目されています。専門高校では普通科と比較して専門的な授業が多いため、大学進学に必要な5教科の授業が少ないですが、「専門高校だから大学進学が不可能」ということでは決してありません。学力試験を課さずに面接や小論文、高校の成績等で評価する仕組みが整ってきており、近年の大学入学者の半数近くは、一般入試ではなく推薦入試やAO入試による合格者です。しかし、いずれの入試においても、専門高校から大学進学を目指す場合には、自分の力で大学進学に必要な学力をつけていくことが重要です。
川崎市立川崎総合科学高校の工業科の課程では、2年生から就職・専門学校を目指す「エンジニア/クリエイターコース」と、大学進学を目指す「進学サポートコース」に分かれます。「進学サポートコース」では、専門教科と大学進学後に必要な理数科目をバランスよく履修できます。2017年度の卒業生進路状況を見ると、就職者は約3割、進学者は約6割であり、進学者のうち約8割の生徒が4年制大学に進学しました。

参考事例2

企業と連携した取組:愛知県立愛知総合工科高校

工業高校の生徒が現場に即した実践的な能力を身に付け、勤労観や職業観を培うため、また企業のニーズにあった能力をもった生徒を育成するために、近年では産学連携の教育が活発化しています。愛知県立愛知総合工科高校は、市町村が設置し、民間団体が運営する公立学校(公設民営化学校)としたことで、柔軟な雇用形態を可能にし、熟練技術者から直接指導が受けられるようにしました。公立学校運営の民間への開放については、グローバル人材の育成や個性に応じた教育のため、2015年7月に国家戦略特区法が成立しています。
ここでは、企業と連携した取組を行っている、愛知県立愛知総合工科高校についてご紹介します。大学等から20名、企業等から26名(15社)の教員が来て講義や実習を行っています。
項目 内容
開校 2016年4月(愛知県立愛知工業高校と愛知県立東山工業高校を統合)
住所 〒464-0808 愛知県名古屋市千種区星が丘山手107
生徒数 本科(全日制3年制課程)1181名、専攻科(全日制2年制課程)70名 2018年5月1日現在
学科 本科:機械加工科、機械制御科、電気科、電子情報科、建設科、応用化学科、デザイン工学科
専攻科:産業システム科、先端技術システム科
設立のねらい
  • 少子高齢化社会の進展による生徒数の減少や、厳しい財政状況を踏まえ、既設校の再編整備を進める。
  • 愛知県のものづくりの発展に必要な人材、産業基盤を支える高度熟練技術者・技能者を育成する。
特徴
  • 本科入学の際には10学級400名を一括募集・入学し、1年次では前期に共通の各工業科の基礎を履修し、後期からコース制による専門科目を学んだ上で、2年次から専門学科に分かれる
  • 専攻科は、国家戦略特区を活用し、公設民営化学校として2017年4月から名城大学が運営している。民間団体が教員を雇う仕組みにして、企業との兼務や出向など柔軟な雇用形態を可能にしている。

家庭科高校の取組

現行の高等学校学習指導要領では、「主として専門学科において開設される各教科」としての「家庭」の目標は次のとおり記載されています。

家庭の生活にかかわる産業に関する基礎的・基本的な知識と技術を習得させ、生活産業の社会的な意義や役割を理解させるとともに、生活産業を取り巻く諸課題を主体的、合理的に、かつ倫理観 をもって解決し、生活の質の向上と社会の発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育てる。

ここから、家庭科の専門学科では普通科等で共通して履修する教科としての「家庭」とは異なり、生活産業に対して貢献できる知識と技術を習得した人材の育成を目指していることがうかがえます。「生活にかかわる産業」とは、衣食住やヒューマンサービスなどに関する分野の産業を指します。
ただし、専門教科としての「家庭」が独立して扱われることになったのは平成11年の学習指導要領改訂時であり、「明確なキャリアパスにもとづく職業人の育成という視点は、これまで必ずしも明確なものではなかった」という点に留意すべきです。
学習指導要領の目標である「家庭の生活に関わる産業」で活躍する人材の育成という視点から、事例をご紹介します。

参考事例3

東京都教育委員会 都立家庭・福祉高校(仮称)の新設

東京都立高校が抱える課題の解決を図り、今後の展望を明らかにする「都立高校改革推進計画・新実施計画」(2016年2月策定)に基づき、都立赤羽商業高校を改編して「家庭・福祉高校(仮称)」が2021年に新設されます。本学校の設置検討には以下のような背景があります。

  • 共働き世帯の増加や超高齢社会の到来に伴い、保育や介護分野の人材育成は喫緊の課題である。
  • 食育、生活習慣病予防、医療・介護食の提供、スポーツ栄養やグローバルな食文化等の分野で栄養士や調理師の役割が増加している。
  • 都立高校における家庭系学科には、目的意識をもって入学する生徒が多く、進路選択にも専門性が活かされている。
  • 卒業時に資格取得が可能な家庭系学科の入学者選抜応募倍率をみると、需要が高い状況にある。

家庭・福祉高校(仮称)の設置の基本的枠組み

  • 学科ごとに卒業後の進路を見据え、進学実現や資格取得に向けた学習が実施される
  • 各学年6学級相当(210名)、計18学級相当(630名)の規模を想定する

これらのことから、現在社会に生きる人々の生活において何が求められているのかを踏まえ、生活課題に対応できるような専門的人材を育てるという視点をもつ必要があると言えるのではないでしょうか。

●「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」事業における専門高校の取組

「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」事業とは、専門高校等において、大学・研究機関・企業等との連携の強化等により、社会の変化や産業の動向等に対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人の育成を図る事業です。

本事業は2014年度より実施されており、2018年度は下記の8校が指定校に選ばれています。

設置
種別
学校名 実施
学科
研究開発課題名
公立 栃木県立宇都宮商業高等学校 商業 信用が資本の人づくり
~ビジネス社会の未来を担い、地域を支える人材を育成する新しい商業高校モデル~
公立 千葉県立一宮商業高等学校 商業 「高校生版DMO」の活動を核とした地域観光ビジネス教育プログラムの開発(DMO:「Destination Management/Marketing Organization」の略。「観光地域づくりを行う舵取り役となる法人」)
公立 千葉県立館山総合高等学校 家庭 「家庭」の学びをコミュニティ再生に生かす地域共創人材の育成
―地域での生活を支え、地域の賑わいを作り出す「まちカフェ」プロジェクトへの挑戦―
公立 岐阜県立岐阜農林高等学校 農業 地域の食・農・環境を持続的に発展できる人材育成の研究
─新たな技術や発想を取り入れた農業を創造する”GINO Brand”を目指して─
公立 大阪府立農芸高等学校 農業 学校、地域、社会のリソースを活用した知的財産の創造やESDを通じた、チャレンジ精神豊かな地域創生ジェネラリストの育成(ESD:「Education for Sustainable Development」の略。「持続可能な開発のための教育」)
公立 熊本県立熊本工業高等学校 工業 創造的復興をリードする災害対応型エンジニアの育成
~熊本地震から学ぶ産学官協働による災害に強い人材循環型学校・まちづくりの推進~
公立 大分県立大分南高等学校 福祉 九州から届け!!「福祉(しあわせ)」南風プログラム開発
~ジェネラリストの視点をもつ地域を支える社会福祉リーダーの育成~
公立 鹿児島県立鹿児島水産高等学校 水産 地域に貢献する取組を通して『本物の専門的職業人』を育成するためのプログラム

本事業の過年度の取組も含めると、「地域産業の活性化」と「グローバルな舞台で活躍する人材の育成」という2つの視点をもったものが複数ありました。職業教育を実施するにあたっては、地域と世界という2つの視点を持つことで生徒の視野が広がると考えられます。

●大切なのは本人の学ぶ姿勢

中学校卒業後の進路はさまざまです。卒業後の進路として、普通科・総合学科・専門学科など、幅広い選択肢の中で迷っている子どもは少なくないのではないでしょうか。大切なことは、子ども自身が目標や興味があることを考え、時間をかけて進路を検討することだと考えます。成績や偏差値だけで高等学校を決めるのではなく、夢や希望を考えた進路選択ができたらとっても良いですね。教員や保護者の皆さんは、子どもに幅広い視野を持たせ、自分を活かせるような後悔のない進路を選択できるように、一緒に悩んだり、考えたりしてみてはいかがでしょうか。

参考資料

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop