意外と知らない"高等学校の多様化"(第1回) これまでの制度改革
日本の高等学校への進学率は1974年に90%を超え、2018年度の学校基本調査では通信制を含めると過去最高の98.8%となっています(高専等を含む)。生徒の能力・適性、興味・関心、進路等の多様化に対応するため、文部科学省はさまざまな制度を導入してきました。2025~2035年頃には、(2015年の)日本の労働人口の約49%が就いている業務は、技術的には人工知能やロボット等による代替可能性が高いとの推計結果も話題となる中、専門高校や高等専門学校(高専)にも改めて注目が集まっています。
そんな高等学校(後期中等教育)の現状について、3回にわたって紹介します。第1回は、主な制度改革を振り返ります。
●高等学校の多様化
近年の主な制度改革 | |
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1988年 | 単位制高等学校の導入(定時制・通信制) |
1989年 | 定時制・通信制の修業年限の弾力化(4年以上→3年以上) |
1993年 | 単位制高等学校の全日制への拡大 学校間連携、学校外学修の単位認定(①)の導入 |
1994年 | 総合学科(②)(普通教育・専門教育の選択履修を総合的に行う学科)の導入 |
1998年 | 学校外学修の単位認定対象範囲の拡大 |
1999年 | 中高一貫教育制度(③)の導入 |
2005年 | 学校外学修等の認定可能単位数の拡大(20→36単位) |
2010年 | 外国の高等学校における履修に関する認定可能単位数の拡大(30単位→36単位) |
多様な高等学校の姿をより詳しく知るために、表の中にある以下の3つの制度改革について見ていきましょう。
①学校外学修の単位認定
②総合学科
③中高一貫教育制度
①学校外学修の単位認定とは?
年度 | 内容 |
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1993年度~ | 専修学校における学修の成果や技能審査の成果について、単位認定が可能となる |
1998年度~ | 大学・高等専門学校・専門学校・社会教育施設などにおける学修の成果や、ボランティア活動・就業体験(インターンシップ)・スポーツ又は文化に関する分野における活動に係る学修の成果についても、単位認定が可能となる |
2005年度 | 認定できる単位数の上限が20単位から36単位に拡大される(法令が定める卒業に必要な単位数74のうち半分近くを認定できるようになった) |
ボランティア活動等に係る学修の単位認定例 |
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和歌山県立海南高等学校(大成校舎)の普通科では、第2学年の福祉コースでこの制度を取り入れています。「社会福祉基礎」の科目において、県立紀北養護学校育成会のボランティア養成講座の中で活動を行うことで、1単位認定されます。 |
静岡県立吉原高校の普通科と国際科には、「ボランティア実践」という科目があります。希望者のみ、社会福祉施設、保育所・幼稚園、国際交流協会で、高齢者の介助や乳幼児の世話の手伝い、そして外国人の子供の学習支援を行っています。年間35時間以上の計画的、継続的なボランティア活動により、1~2単位が認定されます。 |
そのほかにも、実習科目や、総合的な学習の時間に就業体験を行う等、さまざまな特色ある取組をしている学校が増えてきています。
②総合学科とは?
では、総合学科にはどのような特徴があるのでしょうか。
総合学科の特徴の1つに、キャリア教育を重視していることが挙げられます。全ての生徒が原則入学年次に履修する「産業社会と人間」という科目では、生徒一人ひとりが自分の将来就きたい職業や生き方について深く考えるとともに、教員がその実現に向けた学習計画を立案することを指導・援助しています。「産業社会と人間」の活動は、例えば社会人講師による講話、職場見学・体験、上級学校の見学等があります。
また、普通科や専門学科には無い「総合選択科目」では、例えば絵画、マーケティング、子供の発達と保育等の科目があります。この科目は、総合学科で開設される多種多様な選択科目(共通教科・科目、専門教科・科目)の中で、生徒の科目選択の参考になるよう、体系性や専門性において関連する科目を科目群(系列)としてまとめて開設しています。
普通科・専門学科と総合学科を比較してみると、総合学科の各学校に開設されている選択科目の内容は実にさまざまです。総合学科がある学校は、個性豊かで特色のある教育を行っているようですが、具体的にどのような時間割で授業を受けているかが気になりますね。よりイメージを膨らませるためにも、総合学科の時間割の例を見てみましょう。
・総合学科の時間割(例)
下の図の緑色の部分は「共通必修科目」であり、入学した生徒全員が学ばなければならない科目を示しています。1年次はほとんどが「共通必修科目」ですが、2年次からは選択科目(黄色の部分)が増え、3年次には、3分の2が選択科目になります。一人ひとりが、それぞれの進路や興味関心に沿った時間割を作成しています。
③中高一貫教育制度とは?
・中高一貫教育校の種類
中高一貫教育校は、国立、公立、私立といった設置区分だけでなく、実施形態や入学者の決定方法によってさまざまな種類があります。
- 中等教育学校…一つの学校として、一体的に中高一貫教育を行うものです。
- 併設型の中学校・高等学校…高等学校入学者選抜を行わずに、同一の設置者による中学校と高等学校を接続します。例えば、県が県立中学校と県立高等学校を、市が市立中学校と市立高等学校を、学校法人が私立中学校と私立高等学校を併設する場合等が該当します。
- 連携型の中学校・高等学校…市町村立中学校と都道府県立高等学校等、異なる設置者間でも実施可能な形態であり、中学校と高等学校が、教育課程の編成や教員・生徒間交流等の連携を深めるかたちで中高一貫教育を実施します。例えば、市と県、市と学校法人、異なる二つの学校法人等で実施することが考えられますが、同一の設置者が実施することも可能です。
・中高一貫教育の利点と留意点
中高一貫教育にはさまざまな利点がありますが、一方で留意すべき点もあります。1997年6月の中央教育審議会第2次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について<要約>」には、以下のような利点と留意点が挙げられています。進路を決める際に確認したいですね。
<利点>
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<留意点>
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参考資料
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理
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