2019.04.08
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意外と知らない"高等学校の多様化"(第1回) これまでの制度改革

日本の高等学校への進学率は1974年に90%を超え、2018年度の学校基本調査では通信制を含めると過去最高の98.8%となっています(高専等を含む)。生徒の能力・適性、興味・関心、進路等の多様化に対応するため、文部科学省はさまざまな制度を導入してきました。2025~2035年頃には、(2015年の)日本の労働人口の約49%が就いている業務は、技術的には人工知能やロボット等による代替可能性が高いとの推計結果も話題となる中、専門高校や高等専門学校(高専)にも改めて注目が集まっています。
そんな高等学校(後期中等教育)の現状について、3回にわたって紹介します。第1回は、主な制度改革を振り返ります。

●高等学校の多様化

「高等学校」と聞いて、どのくらいの種類を思い浮かべることができますか。時代の変化に合わせて学科再編や学校の新設が行われている現在の高等学校の姿は、みなさまが通っていた頃とは大きく変化しているかもしれません。文部科学省は1991年以降、単位制高校や総合学科、中高一貫教育校、学校外学習の単位認定制度等、さまざまな制度を導入してきました。
近年の主な制度改革
1988年 単位制高等学校の導入(定時制・通信制)
1989年 定時制・通信制の修業年限の弾力化(4年以上→3年以上)
1993年 単位制高等学校の全日制への拡大
学校間連携、学校外学修の単位認定(①)の導入
1994年 総合学科(②)(普通教育・専門教育の選択履修を総合的に行う学科)の導入
1998年 学校外学修の単位認定対象範囲の拡大
1999年 中高一貫教育制度(③)の導入
2005年 学校外学修等の認定可能単位数の拡大(20→36単位)
2010年 外国の高等学校における履修に関する認定可能単位数の拡大(30単位→36単位)

多様な高等学校の姿をより詳しく知るために、表の中にある以下の3つの制度改革について見ていきましょう。
①学校外学修の単位認定
②総合学科
③中高一貫教育制度

①学校外学修の単位認定とは?

高校生の能力や適性、興味・関心等の多様化の実態を踏まえて、生徒が在学する高等学校での学習成果に加え、各学校長の判断によって学校以外の場所で学修した成果を単位として認定する制度のことです。在学する高等学校以外の場における、体験的な活動等の成果をより幅広く評価できるようにすることで、高等学校教育の一層の充実を図ることを目的としています。
・学校外における学修の単位認定の変遷
年度内容
1993年度~ 専修学校における学修の成果や技能審査の成果について、単位認定が可能となる
1998年度~ 大学・高等専門学校・専門学校・社会教育施設などにおける学修の成果や、ボランティア活動・就業体験(インターンシップ)・スポーツ又は文化に関する分野における活動に係る学修の成果についても、単位認定が可能となる
2005年度 認定できる単位数の上限が20単位から36単位に拡大される(法令が定める卒業に必要な単位数74のうち半分近くを認定できるようになった)
下のグラフの推移のとおり、1998年度から2010年度にかけて学校外学修の単位認定制度を導入した学校数が、着実に増加しています。特にボランティア活動等に係る学修の単位認定実施学校数は、20校(1998年度)から504校(2020年度)にまで増えており、校外での学びを積極的に応援していることがわかります。
ボランティア活動等に係る学修の単位認定例
和歌山県立海南高等学校(大成校舎)の普通科では、第2学年の福祉コースでこの制度を取り入れています。「社会福祉基礎」の科目において、県立紀北養護学校育成会のボランティア養成講座の中で活動を行うことで、1単位認定されます。
静岡県立吉原高校の普通科と国際科には、「ボランティア実践」という科目があります。希望者のみ、社会福祉施設、保育所・幼稚園、国際交流協会で、高齢者の介助や乳幼児の世話の手伝い、そして外国人の子供の学習支援を行っています。年間35時間以上の計画的、継続的なボランティア活動により、1~2単位が認定されます。

そのほかにも、実習科目や、総合的な学習の時間に就業体験を行う等、さまざまな特色ある取組をしている学校が増えてきています。

②総合学科とは?

国語や数学等の共通教科を中心に学ぶ「普通科」や、工業、農業等の専門教科を中心に学ぶ「専門学科」のほかに、生徒の興味・関心や将来の進路希望にあわせて、幅広い科目の中から生徒が科目を選んで時間割を作成し学ぶ「総合学科」があります。総合学科は、生徒一人ひとりの個性を生かした主体的な学習や、自己の進路志望を深める学修を重視している学科で、普通科、専門学科に並ぶものとして、1994年度から導入されました。学科数は右肩上がりで増えており、2016年4月現在375校となっています。みなさまが住んでいる地域でも、総合学科が設置されている高等学校が増えてきているのではないでしょうか。

では、総合学科にはどのような特徴があるのでしょうか。
総合学科の特徴の1つに、キャリア教育を重視していることが挙げられます。全ての生徒が原則入学年次に履修する「産業社会と人間」という科目では、生徒一人ひとりが自分の将来就きたい職業や生き方について深く考えるとともに、教員がその実現に向けた学習計画を立案することを指導・援助しています。「産業社会と人間」の活動は、例えば社会人講師による講話、職場見学・体験、上級学校の見学等があります。
また、普通科や専門学科には無い「総合選択科目」では、例えば絵画、マーケティング、子供の発達と保育等の科目があります。この科目は、総合学科で開設される多種多様な選択科目(共通教科・科目、専門教科・科目)の中で、生徒の科目選択の参考になるよう、体系性や専門性において関連する科目を科目群(系列)としてまとめて開設しています。

普通科・専門学科と総合学科を比較してみると、総合学科の各学校に開設されている選択科目の内容は実にさまざまです。総合学科がある学校は、個性豊かで特色のある教育を行っているようですが、具体的にどのような時間割で授業を受けているかが気になりますね。よりイメージを膨らませるためにも、総合学科の時間割の例を見てみましょう。

・総合学科の時間割(例)
下の図の緑色の部分は「共通必修科目」であり、入学した生徒全員が学ばなければならない科目を示しています。1年次はほとんどが「共通必修科目」ですが、2年次からは選択科目(黄色の部分)が増え、3年次には、3分の2が選択科目になります。一人ひとりが、それぞれの進路や興味関心に沿った時間割を作成しています。

③中高一貫教育制度とは?

「中高一貫教育」とは、中学校と高等学校の6年間を接続し、6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育課程を展開する教育方式のことを言います。中高一貫教育制度は、これまでの中学校・高等学校に加えて、子どもや保護者等の選択の幅を広げ、生徒の個性や創造性を伸ばすことを目的として1999年度から導入されました。中高一貫教育校も年々増加し、2016年4月現在595校(公立198校、私立392校、国立5校)となっています。

・中高一貫教育校の種類
中高一貫教育校は、国立、公立、私立といった設置区分だけでなく、実施形態や入学者の決定方法によってさまざまな種類があります。

  • 中等教育学校…一つの学校として、一体的に中高一貫教育を行うものです。
  • 併設型の中学校・高等学校…高等学校入学者選抜を行わずに、同一の設置者による中学校と高等学校を接続します。例えば、県が県立中学校と県立高等学校を、市が市立中学校と市立高等学校を、学校法人が私立中学校と私立高等学校を併設する場合等が該当します。
  • 連携型の中学校・高等学校…市町村立中学校と都道府県立高等学校等、異なる設置者間でも実施可能な形態であり、中学校と高等学校が、教育課程の編成や教員・生徒間交流等の連携を深めるかたちで中高一貫教育を実施します。例えば、市と県、市と学校法人、異なる二つの学校法人等で実施することが考えられますが、同一の設置者が実施することも可能です。

・中高一貫教育の利点と留意点
中高一貫教育にはさまざまな利点がありますが、一方で留意すべき点もあります。1997年6月の中央教育審議会第2次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について<要約>」には、以下のような利点と留意点が挙げられています。進路を決める際に確認したいですね。

<利点>
  1. 高等学校入学者選抜の影響を受けずに「ゆとり」のある安定的な学校生活が送れること
  2. 6年間の計画的・継続的な教育指導が展開でき効果的な一貫した教育が可能
  3. 6年間にわたり生徒を継続的に把握することにより生徒の個性を伸長したり、優れた才能の発見がよりできること
  4. 中学校1年生から高校3年生までの異年齢集団による活動が行えることにより、社会性や豊かな人間性をより育成できること
<留意点>
  1. 受験競争の低年齢化につながることの受験競争の低年齢化につながることのないよう、公立学校では学力試験を行わない等、入学者を定める方法などについて適切な配慮が必要
  2. 受験準備に偏した教育が行われることのないよう、普通科タイプの場合には特に配慮が必要
  3. 心身発達の差異の大きい生徒を対象に円滑な学校運営を行うよう、日常の指導や学校運営に当たって、教員が緊密に連携し、きめ細かな配慮していくことが必要
  4. 生徒集団が長期間同一メンバーで固定されることにより学習環境になじめない生徒が生じることのないよう、「ゆとり」の中で、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねること等を通じて豊かな学習を行えるようにすることが必要
  5. また、途中で転学を希望する生徒に対して十分に配慮していくことが必要
いかがでしたか。第1回は、近年の主な制度改革について紹介しました。次回は、専門高校や高等専修学校(専修学校高等課程)、高等専門学校(高専)について紹介します。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理

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