2004.01.20
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総合学習で演劇ワークショップ 目黒区立第一中学校

「総合的な学習の時間で、脚本、出演、演出、舞台美術、宣伝まですべて生徒たちだけが手がける演劇のワークショップを行い、2月に上演します。公演に先駆けて生徒たちがプレス発表をするので、ぜひ見に来てください」こんなメールが目黒区立第一中学校の荒川美奈子先生から届いた。12月25日、クリスマスの日、プレス発表が行われるアゴラ劇場に向かった。

 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
荒川美奈子先生
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

平田オリザ氏
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
商店街のはずれにある、駒場アゴラ劇場
 
記者発表の場アゴラ劇場の舞台
 
 
 
 

 井の頭線駒場東大前で下車。駅前の商店街のはずれに劇場はあった。観客50人がやっと入れるほどの小劇場。開始時間には、日刊紙、子ども新聞、演劇雑誌などの記者でほぼ満杯。

 舞台には茶箪笥などが置かれ、ちょっと昔の茶の間といった感じ。そこに生徒たちが半円状に正座している。中央には荒川先生と、アゴラ劇場の支配人であり劇作家・演出家の平田オリザ氏。ホームドラマでも始まりそうな雰囲気の中、記者会見は始まった。

----そもそも荒川先生が演劇のワークショップに取り組んだ背景は?

 「総合的な学習の時間の導入に先立ち、いくつかの学校の研究発表を見学したのですが、どこも判で押したように、環境・福祉・国際理解。せっかくやるなら『おもしろくてためになる』ことをしたい!と思い、私の教材探しが始まったのです」

 そんな折、荒川先生はNHKの番組「課外授業ようこそ先輩」で、平田氏の活動を知る。平田氏は、小学生とのワークショップの中で、芝居という形で自分を表現すること、それを相手が理解できるように対話する能力を高めることを繰り反し伝えていた。

 最近の中学生は、ごく親しい仲間同士でもコミュニケーションが取れない、思っていることをうまく伝えられないと言われて久しい。平田氏の言う「表現」の中に、解決の糸口があるかも知れない。

 「何かひらめくものがあり、オリザさんの著作は全部読みましたし、ワークショップにも参加しました。そして、オリザさんの考える『表現』と私の考える『表現』の方向性が違っていないことを確信したのです」

 奇しくも平田氏は同校の卒業生。劇場も学区内にある。さっそく当たって砕けろの精神でワークショップの講師を依頼、平田氏の快諾を受け、実現にこぎつけた。

----生徒たちが、脚本から出演まですべて担当するまでの経緯は?

 「最初の一年は、一年生を対象に、6回のワークショップを行いました。オリザさんの作った台本を読むところからスタートし、最後にはグループに分かれて対話劇を創作し、体育館の舞台に立つという経験をしました。ここで終りにするつもりだったのですが、舞台の上の子どもたちの顔を見たとき、ここで終るのはもったいない、演劇のすべてを体験させたい、と思ったのです。」

 荒川先生の熱意に平田氏も共鳴し、今年度は平田氏の主宰する劇団の若手スタッフたちも指導に加わることになった。文化庁の芸術拠点形成事業に応募して助成金を得ることができ、活動資金もできた。

 まず、生徒たちに「演劇のすべてを体験させる」ために行ったのは、アゴラ劇場の見学と仕事の体験。生徒たちは役者以外にも、脚本家、演出家、舞台美術、制作、劇場の受付や宣伝などたくさんの仕事があることを知る。

 見学の後は、それぞれにやりたい仕事を選び、担当を決めて分業作業に入る。
 作家チームはシナリオを書く。コンペを行い勝ったチームのシナリオが採用され、平田氏らに添削をしてもらいながら完成していく。俳優チームは劇場の若手演出家に演技指導を受け、制作チームはチケットやチラシを制作する。今回の記者発表のセッティングや配布資料作成は制作チームによるものだ。

----生徒たちに、このワークショップから感じて欲しかったことは?

 「演劇は、舞台に立つ人だけが目立って、裏で働く多くの人たちのことは見落とされがちです。生徒たちも舞台に立つことが好きな人ばかりではありません。そういう子どもたちに、裏でもたくさんの人たちが動いていて、どの仕事も重要なのだということを実感して欲しかった。また、準備期間にはそれぞれの役割でばらばらに作業するのですが、最後には、ひとつの演劇という世界に結実するという感動を味あわせてあげたかったのです」
と荒川先生。

 「言葉でしゃべることだけがコミュニケーションの手段ではありません。『しゃべらない』というのも表現方法だし、『そこにいない』ということも一つの表現だと思うのです。中学生は、一般的に人と違ったり突出したりするのを最も嫌う年頃です。そういうことがいじめなどにもつながるのかも知れませんが、いろいろな表現方法があっていいんだ、色々な人がいるから世の中は楽しいのだ、ということを対話劇を通して気付いてもらえればと思いました」
と平田氏。

一方の子どもたちはどんなことを感じたのだろうか。

----今回のワークショップで、職業観というか、将来したい仕事のイメージはつかめましたか?

 「色々な仕事があることがわかって面白かったですが、すぐに将来のことまではわかりません。」

 「各役割で分かれて仕事をしていたら、縦割り的になってコミュニケーションがズレることがおこった。大人の社会ではよく聞くことが実際に自分たちにも起こるんだ、と驚きました」

----苦労したことは?

 「いつもの授業のように決められたことをやればいいのではなく、大変なことばかりでした。グループの中でなかなか意見がまとまらなかったことも苦労しました」

意見が合わない人ととことん話し合ってものごとを決めていく、こんな体験は、今の希薄な人間関係の中ではなかなかできないことかも知れない。

 さて、本公演まであとわずか。うまくいかなかったらどうしよう、と弱気になることもあると荒川先生。

 「でも、私がどんなに弱気であろうとも、彼らはやってのけるでしょう。中学生にはそのパワーがあります。人生で、晴れの舞台に上がって人々に注目される機会はそうそうありません。それを経験したら、この先どんな人生の舞台にあがったときも自信を持って臨めるはず」

 本番で、子どもたちはどんな姿を見せてくれるのか。今から楽しみだ。

 最後に、見どころを各クラスの代表に聞いた。

A組 タイトル<チェンジ☆>

「有名芸能人でわがままな楓は、仕事に嫌気がさしコンサートを前にスタジオから逃げ出してしまう。しびしぶ代役に選ばれた光が楓以上に評判が良く、楓は苛立ちをぶつける。楓の複雑な思いと、その後の心の成長が見どころです!」

B組 タイトル<「s」>

「ある研究所で、『S』という未知の生物が開発されます。『S』を利用してお金儲けをたくらむ研究員たち。ところがある事件が起こり、『S』には秘められた不思議な能力があることがわかる…。『S』の不思議な能力と、研究員たちの勝手な思惑が見どころです!」

C組 タイトル<ベンチの上で…>

「主人公の健太が由美子という女の子と知り合う。由美子の話はなぜか戦争中のことばかりで話がかみ合わない。そこへおじいさんがやってくるがおじいさんには由美子の姿が見えない。おじいさんから聞かされた衝撃な話とは…。時代や世代、時空を超えた家族への思いが見どころです!」


 鑑賞料は300円。有料にしたのは、たとえわずかでもお金をいただくのだから、それだけの価値があるものかどうか厳しく自分に問う姿勢を持って欲しかったのと、それだけの価値を感じて来てくれるということで、誇りを持って欲しかったから。収益は社会に還元する予定だそう。(本公演は終了しました。)

劇団員のスタッフたちと練習に励む生徒たち


 

 

 

 

 

 

 

 

(取材・構成:学びの場.com)

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