2021.12.06
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新科目「公共」私たちの社会において法はどのような役割を果たしているのか?(前編) 題材「チケット不正転売禁止法にあなたは賛成・反対?」

2021年11月5日に、国立教育政策研究所教育課程研究指定校(公民・2年目)である、福井県立若狭高等学校1年2組(文理探究科)で実施された公開授業を取材した。
授業者は松村一太朗教諭(以下、松村教諭)。福井県の弁護士と教員でつくっている福井法教育研究会とも連携し、2022年度4月の新学習指導要領スタートを踏まえた単元開発を行っている。

新科目「公共」について

2022年度からスタートする新科目「公共」と、既存の「現代社会」にはどのような違いがあるのだろうか。「現代社会」では取り扱う社会問題を知識として得て深めていくという方式であったが、「公共」では、まず人間と社会の在り方についての見方・考え方を習得し、そのうえで翻って社会問題を熟慮するという、いわば内容に関する理解と見方・考え方に対する理解を同時に深める学びの方式をとる。

選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたこともあり、高校生にとっても政治や社会がより切実性をもって感じられるように主権者教育を行うのが1つの柱になっている。

高校1年生が切実性をもって議論できるテーマ選び

本単元「私たちの社会において法はどのような役割を果たしているのか?」の導入では、テーマパークのシングルライダーのシステムをどう思うか、USJのエクスプレスチケットをどう考えるかなどを考えた。

本時では、チケット不正転売禁止法を具体例に考えていく。思考を深める過程で、多角的に見る、また対立意見との議論を通して熟慮する姿勢を身に着けていくのが「公共」の目的の1つでもある。

これらのテーマは、現在の高校1年生に身近にある問題として切実性のあるテーマであり、生徒自身が興味・関心をもって取り組める題材ということで選択したものである。体験したことがある問題や身近な問題が切実性をもって受け入れられやすいとのことだ。

単元計画は下記のとおりである。

単元計画

【法に関する小単元】
第1~2時 私たちの社会において法はどのような役割を果たしているのか?
     ~テーマパークにおけるシングルライダーにあなたは賛成・反対?~
第3~5時 私たちの社会において法はどのような役割を果たしているのか?
     ~ チケット不正転売禁止法にあなたは賛成・反対?(※本公開授業は第5時)

【法と経済に関する単元】
第6時    市場経済の仕組み
第7時    国民所得と経済成長
第8時    戦後日本経済の歩み
第9~14時 各項より事例を選定し、思考・判断・表現させる
     ・中小企業とその役割
     ・日本の農業と食糧自給
     ・公害の発生と防止
     ・消費者問題と消費者保護
     ・雇用関係と労働関係の改善
     ・社会保障と国民福祉

授業を拝見!

3段階で行われた授業デザイン

グループで議論し、問題提起でさらなる熟慮を

本公開授業の小単元「チケット不正販売禁止法にあなたは賛成・反対?」は若狭高校のオリジナル単元である。

今回の公開授業はチケット不正転売禁止法の賛否を考える授業として3時目の授業となる。1時目では特に詳細な資料を提示せず生徒の第1印象で賛否を問う議論が交わされている。

2時目の授業では一般的な賛成・反対の立場の意見を提示したうえで、賛否をもう一度問うた。

そして、本時では、2時目終了段階で考えた自身の意見を共有し、さらに新たな視座を与える資料を見て、最終的な判断をさせた。つまり生徒に3段階にわたって賛否を決定してもらっているのである。

3段階にする目的は思考の深まりを意識させたいからだと松村教諭は言う。「公共」の授業で学ぶ「効率」と「公正」は人間と社会の在り方についての見方・考え方の1つとして位置づけられている。

そこで、本時では、自分とは異なる意見を踏まえて熟慮し、さらに自分とは異なる立場の人と粘り強く対話し、その中で自分が大事だと思う価値観を認識させることを目標とした。

実践的な授業の中で生徒自身の変革を目指す

授業開始後約20分間は生徒から記述方式で集めた意見を板書して一覧表に示し、全体像を整理していった。次に、追加資料を配布したうえで、4人程度の小グループに分かれて議論する時間をとった。議論中はどの生徒も活発に意見を交換し記述式のプリントに自分なりの考えを細かく記入していく。どの生徒も生き生きと議論しているのが印象的だった。15分程度議論させたのち、あらためて賛成か反対かを思考させる。そのような流れの授業の中で答えはあくまで生徒自身に出させていた。

もちろん、そのプロセスの中で松村教諭の果たす役割は重要となる。自分で稼いだお金を自由に使って何が悪いのだという生徒にさらなる熟慮を求めていろいろな話をする、ヒントを投げかけ、1学期に学習したロールズの『正義論』を思い出させる、それでも期待する反応が得られないことがある。しかし、言うべき時に必要なことを伝えておくことが自分の役目なのだと松村教諭は語る。

今後のさらなる思考の深まりを期待する展開へ

本時までは、法の重要性や意味を考えることをテーマとした授業であったが、次時以降は経済分野の内容の中で、法との緊張関係を考えていく。ここで導入した「公正」と「効率」についてどう理解を深めていくか、また法と経済の関係性をどう捉えていくかを見取る予定である。

「公共」の授業に正解はない。生徒が自ら導き出した答えが、賛成であるにせよ、反対であるにせよ、どちらも間違いではないその答えに自分なりの責任を負わなくてはならないのだ。それこそが若狭高校の「公民としての資質と能力」なのかもしれない。そこに「公共」という授業の可能性があるように思われる。

後編では、授業研究会と松村教諭へのインタビューをリポートする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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