2020.12.16
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「Lifelong Learner」を育てるー学ぶ力を育てるための評価ー(No.5)

前回は、現在学校で行われている観点別評価の考え方についてお話しました。しかし、現在の観点別評価で多くの先生が一番悩むのは「関心・意欲・態度」ではないでしょうか。今回は、新学習指導要領における新しい「学びに向かう力・人間性等」という観点についてお話しながら、何のために評価をするのかについて考えてみたいと思います。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

「関心・意欲・態度」という観点をどのように評価しているか。

教員になったばかりの頃、初めて評価をつける私に先輩の先生が言っていたことがあります。それは「挙手の回数を評価材料にするのはよくない」「宿題を提出日までに出せたかだけでなく、その中の取り組みの様子も見る必要がある」といったことでした。それから約10年。「関心・意欲・態度」の評価材料についてはいつも悩んできました。今の私が主に評価材料にしているのは、大きく3つあります。

・国語のワークや漢字ワークの取り組み(ワークのチェック)

・授業中の課題に取り組んでいる様子(プリントのチェック、観察)

・ノート等における自主的な学習の取り組み(ノートチェック)

前回お話したように、もちろん評価基準をきちんと設定して、説明を求められれば対応できる状態にしています。しかし、こうした評価を行いながら心のどこかはいつも少しもやもやしていました。

それは、

「これは『教科に対する意欲』ではなく『評価に対する意欲』なのではないだろうか」

ということです。

自主的な学習をするのも、宿題をしっかりこなすのも、私の教科である国語に関心があるからではなく、ただ高い「評価」がほしいという思いがモチベーションになっているだけなのではないか。

そもそも「教科に対する関心があるかどうか」は生徒それぞれの好みや特性にも関わってくる主観的な部分なのにも関わらず、どうしてA、B、Cという客観的な根拠に基づく評価をつけなければならないのだろうか。

私は一体「関心・意欲・態度」を何のために評価しているのだろうか。

そんな疑問は必ずどこかにありました。この記事を読んでくださっている先生方の中にも同じような思いをお持ちの方がいらっしゃるのではないかと思います。

「学ぶ態度」ではなく、「学び方」がどの程度身に付いているかを評価する。

そんなもやもやを抱えている中で告示された新学習指導要領では、これまでの4観点(国語では5観点)を3観点に統一するという変化がありました。3観点とは、

〇知識・技能  〇思考・判断・表現  〇主体的に学習に取り組む態度  です。

これまでの「関心・意欲・態度」の観点は「主体的に学習に取り組む態度」と文言が改められました。 「『指導と評価の一体化』のための 学習評価に関する参考資料」(令和2年3月 文部科学省 国立教育政策研究所)では、この「主体的に学習に取り組む態度」について次のように書かれています。

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「主体的に学習に取り組む態度」の評価に際しては,単に継続的な行動や積極的な発言を行うなど,性格や行動面の傾向を評価するということではなく,各教科等の「主体的に学習に取り組む態度」に係る観点の趣旨に照らして,知識及び技能を習得したり, 思考力,判断力,表現力等を身に付けたりするために,自らの学習状況を把握し,学習 の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら,学ぼうとしているか どうかという意思的な側面を評価することが重要である。

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例えば積極的に挙手をして発言をしている、きれいにノートをまとめることはできる、といった生徒の行動は、「性格や行動面」に関する事項です。新学習指導要領では、こうした点については授業内での言葉かけをするなど「個人内評価」としてフィードバックし、観点別学習評価(いわゆる通知表に記載する評価)としては含めないとされています。

 

そして、観点別学習評価として着目するべきなのは次の2点であるとされています。

① 知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとしている側面

② ①の粘り強い取組を行う中で,自らの学習を調整しようとする側面

つまり、自分が今どのような力を身に付けているかを自分で把握し、その力をさらに伸ばすために授業で学習したことをどのように活用すると効果的かを考え、実際に活用したり実践してみたりした結果を振り返る、という流れを繰り返すことによって、自分の学習を客観的に捉える力を身に付けさせることを大切にしているのです。これは、これまでの「関心」「意欲」「態度」という心理的な観点ではなく、「学び方」という生徒の非認知能力を評価することになります。

私自身は、これは非常に大切な転換だと考えています。それは、「主体的に学習に取り組む態度」を適切に評価することによって、生徒自身のものごとを「学ぶ力」を伸ばすことができると考えるからです。生徒が自分の力を伸ばしたいと考えた時に、どのように自分の力を把握すると良いのか、どのような取組を行えば良いのかが分かっていれば、様々な学習に活用することができるはずです。

では、この「主体的に学習に取り組む態度」をどのように評価していくと良いのでしょうか。これにいては、様々な学校で取り組まれていると思いますが、次回私が今取り組んでいることについてご紹介できればと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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