2020.11.05
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「Lifelong Learner」を育てる~評価の在り方を考える~(No.3)

「理想的な学習者」とはどのような生徒の状態を指すのかを考えた時、「学習に対するモチベーション」がキーワードとして浮かび上がってきます。「自分が勉強をする理由」が外側との比較ではなく、内側にある状態をいかにつくるかが大切なのではないでしょうか。今回はそのための学習評価の在り方について触れてみたいと思います。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

「小学校から中学校に上がって良くなかったこと」とは…

先日授業の一環で、生徒に中学校生活についての意識調査を行いました。その項目の一つに「小学校から中学校に上がって良くなかったことは何ですか」というものがありました。「友達との関係が広がった」「教科ごとに先生がかわる」「定期考査がある」「制服がある」「部活動がある」「自分の自由にできることが増えた」の6つの項目に対して複数回答を可としたところ、43%の生徒、つまり、約半数の生徒が「定期考査がある」の項目に〇をつけていました。やはり定期考査の存在は中学生に大きなプレッシャーを与えているようです。また、「今悩んでいることや困っていることは何ですか」という質問については、「テスト勉強が大変」「自由時間が少ない」という2つの項目に〇をつけている生徒が多い傾向にありました。

確かに、自分の中学・高校時代を振り返ってみても、常に9教科(高校にいたってはさらに複数の教科)のテストで低い点数をとらないようにしなければという気持ちは常にありました。学習すること自体は嫌いではありませんでしたが、時間がなくて十分にやりきれないもどかしさは常にあったように思います。このことが、よく学校の勉強が「詰め込み」と言われるゆえんでもあるのでしょう。

勉強の本来の目的はテストで良い点をとることではない。これは、学校の教員であれば誰しもが考えていることだと思います。だからこそ定期考査を廃止するという試みを行う学校も出てきているのだと思います。しかし、全ての学校が定期考査廃止に踏み切れないのは、やはり定期考査に向けた勉強をすることが知識の定着に対する効果を持っているのも事実だからではないかと考えています。それよりも改善すべきは、定期考査の有無以上に日頃の学習評価の在り方ではないでしょうか。

PISAの調査結果から考える、現在の学習評価の実態

2018年に実施されたPISA調査(学習到達度調査、Programme for International Student Assessment)のひとつに「国語の授業の学習環境」というものがあります。この調査は、「国語の授業の雰囲気」「国語の授業における教師の支援」「国語教師からのフィードバックに関する生徒の認識」の3つの観点から行われました。

そのうち、肯定的な回答がOECD平均よりも高かったのは「国語の授業の雰囲気」と「国語の授業における教師の支援」でした。「国語の授業の雰囲気」では、「生徒は先生の言うことを聞いていない」「授業中は騒がしくて荒れている」といった項目に対して否定の回答が多く、授業の雰囲気が良好であることが読み取れます。また、「国語の授業における教師の支援」では、「先生は、 生徒一人一人の学習に関心を持っている」「生徒が助けて欲しいときは、先生は助けてくれる」「先生、生徒の学習を助けてくれている」「先生は、生徒がわかるまで何度でも教えてくれる」といった項目に対する肯定的な回答が多く、教師が生徒に対して適切な支援を行っていることがわかります。

その一方で、OECD平均を大きく下回ったのが「国語教師からのフィードバックに関する生徒の認識」でした。例えば、「先生は、国語における私の長所を教えてくれる」「先生は、私の改善の余地がある部分について教えてくれる」といった項目に対する肯定的な回答はOECD平均を下回っています。唯一OECD平均を上回ったのは「先生は、国語の成績を上げる方法を教えてくれる」のみでした。

このPISA(2018)の調査結果から読み取れることは、落ち着いた雰囲気で授業を行うことができており、先生も熱心に生徒への支援を行っているが、生徒が学習したことに対するフィードバックが不十分であるということだと言えるでしょう。特に、「国語の成績を上げる方法を教えてくれる」という項目に対する肯定的な回答が高いということは、極端に言うと「どうすれば定期考査で点が取れるのか」を教えているということになります。これはある意味で先生が「勉強の本来の目的は、定期考査で点を取ること(=成績を上げること)である」と暗に伝えてしまっているということです。定期考査の在り方を変えることができなくても、このフィードバックの在り方、つまり学習評価の在り方を変えることはできるのではないかと考えます。

新学習指導要領における学習評価について適切に理解できていますか?

ここでよく見直す必要が出てくるのが、新学習指導要領における学習評価の方向性です。学習活動やカリキュラムマネジメントのみならず、生徒の学習に対するモチベーションを引き出すための学習評価を、私たち教員一人一人がよく考えなければなりません。次回の記事では、これからの学習評価をどのように捉えていく必要があるかについて考えていきたいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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