教育トレンド

教育インタビュー

2003.07.08
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鈴木光司さん “文壇最強”子育てパパの、実践から生まれた勉強法

日本中を恐怖のどん底に突き落とし、ハリウッド映画にもなった『リング』。作者の鈴木光司さんは「文壇最強の子育てパパ」を自認するほど、子育てに深く関わってきた。現在、高校2年、中学1年ふたりの娘を「子育て中」の鈴木さんに、最近の学校をめぐる状況、個人的にお勧めする勉強法などを伺った。(撮影:大屋美和)

入学前に子どもの免疫力を鍛える

学びの場.com最近学校に関して、いじめや不登校の問題が大きく取り上げられていますが、どんなところに原因があるとお考えですか?

鈴木光司さん子どものクラスメートでもやはり学校に来られなくなる子がいました。これは家庭に問題があるんだと思います。今の子どもは異物との接触をうまくやりくりすることができていない。学校というまったく新しい環境に適応する力がないんです。  新しい環境に置かれれば、異物が向こうからぶつかってきます。それをふつうは免疫能力で取り込んで中和させうまくやっていく。ところが中には異物とぶつかったときに「もう嫌だ」と拒否反応を起こす子がいる。そうならないように免疫力を付けるのは、学校に入る前に家庭でやらなくちゃいけない。  きっかけは学校にあるわけですが、異物と接したときにきちんと処理できない、ということが問題なのだと思います。ところがきっかけが学校にあるものだから「学校が悪い、学校が悪い」という。だけど本当に悪いのは、免疫系統をしっかり家で鍛えなかった、ということなんです。  では家でどうしたらいいかというと、過保護も良くないし、放任も良くない。問題が起きてから騒いでも遅すぎます。常日頃から、たとえば父親が子どもに対して異物として作用し、免疫力を高めることが必要なんです。普段からそういうことをしていないで急に父親がしゃしゃり出ても、それこそ異物の最たるものですから、子どもから拒否されてそれでおしまいです。

短時間に集中して勉強する癖を身につけさせる

学びの場.comいわゆる「ゆとり教育」が始まって、お子さんの学力に不安を抱くようなことはありませんか?

鈴木光司さん僕は自分で子どもに勉強を教えられるから、学校の教育に関して不安になることはありませんが、そうでない家庭は大変だと思います。家庭に経済的な余裕があればほかで勉強させられますが、家庭に経済的なゆとりがなく子どもに対して無関心だったりすると、子どもは完全に置いていかれます。学校はゆとりの教育だといって勉強より体験学習などを重視する。そうすると家庭の状況によって学力の差がはっきり出てしまう。  塾の講師をしてきた体験から、勉強に関しては的確なアドバイスができると思っています。まず大事なのは、長時間だらだらと勉強しないこと。家では娘に「絶対勉強するな」といっています。我が家は夜11時以降は勉強禁止で、11時前に寝るようにしています。ですから8時から勉強を始めるとすると3時間しかない。その限られた時間に集中して勉強させました。それから「学校ではノートも取るな」といっています。ノートは自分のわからないところだけ書けば充分で、ノートをきれいに取っても勉強できるとは限りません。  中学生ぐらいの子どもにとって身につけるべきことは、短時間に集中して勉強することです。娘の友達で「いざとなったら完徹して勉強するからいい」という人もいますが、これはいちばん効率の悪い方法です。小説も同じで、徹夜して書いてもいいものはできません。だから個人的には夜8時以降は仕事厳禁にしています。

学びの場.com短時間に集中して勉強することが大切だというのはわかりましたが、その前提として、子どもが進んで勉強するようにする必要もありますよね。

鈴木光司さん子どもに勉強するモチベーションを与えるのは難しいことです。ふつうの親はこれがなかなかできずに苦労しています。子どもに「どうして勉強しなくちゃいけないの?」と聞かれて、「勉強すればいい大学行けるでしょう」、「どうしていい大学行かなくちゃいけないの?」、「いい大学出たらいい会社は入れるでしょ」、「そのあとは?」で終わりです。  なぜ勉強することが必要なのか、子どもたちに説得力をもって説明できる親がいない。だから子どもも大学入ったら勉強が終わりになっちゃう。そのモチベーションさえうまく子どもに与えることができれば、あとは子どもが勝手に勉強しますよ。  勉強したり学問を身につけるというのは、それによって出世するとかそういうことではなく、知識を得ること自体が楽しいと思うんです。自分の力で深く考えられるのは楽しいことだし、心を豊かにしてくれます。勉強は他人を蹴落とすための手段じゃない。だから娘にも「お前には偉大な使命がある。人類のために貢献しなくちゃいけない」と日頃からいっていますよ(笑)。

受験は二度まで

学びの場.comお子さんはふたりとも公立の中学、高校に通われていますが、現在首都圏では中学受験をする子が約14%程度います。そういう子をもった親に、何かアドバイスはありますか?

鈴木光司さん僕は「受験は二度まで」というのが持論なんです。ダメもとで私立中学を受けてみて、落ちたら公立の中学に行くというのは、ものすごく良くないパターンなんです。それだったら、中高一貫校で必ず入れるところをおさえておくべきです。今までいろんな子どもを見てきて、ダメもとで中学受験をし、失敗して公立に行って伸びた子を見たことがありません。中学で受験して高校でも受験となると、2度目で体力を使い果たしてしまうんです。そこでうまくいい高校に入れても、そのあと伸びない子を何人も見てきました。みんなまったく同じパターンです。  親は、子どもは努力させればいくらでもできると思っていますが、努力するエネルギーには限りがあるんです。だから子どものキャラクターをよく考えて、エネルギー配分に注意する必要がある。中学受験をさせるならば、残りのエネルギーは大学受験にとっておくんです。

子どもとの約束は絶対に守る

学びの場.com最後にご自身の経験から、子どもから信用される父親になるために必要なことはなんでしょう?

鈴木光司さん仕事が忙しくて、子どもと一緒に過ごす時間の取れないお父さんは多いと思います。そういう人にアドバイスをするとすれば、「ポイントをはずさないように」ということです。たとえば阪神大震災の時、子どもが食べようとしたおにぎりを取ってしまうようなお父さん。そんなお父さんは日頃どんなに偉そうなことを言っても、それで信用は失墜です。つまりポイントをはずしちゃったわけです。  それとは逆に、家族が危機的な状況にあるときどこからともなく食料を調達してきて「お前たち、これを食べろ」といえば、普段は怠けてばかりいるような父親でもポイントをはずさなかったから「お父さん、偉い!」となるわけです。忙しくてもポイントをはずさなければ子どもたちから尊敬されるようになれます。  あと、子どもとした約束は絶対守るべきです。反対に、できない約束はしないように。大人は子どもとの約束なんてどうでもいいと思いがちですが、子どもにとって約束はとても大事なものなんです。「次の日曜日ディズニーランドに行こう」と約束しておきながら仕事が入るとそっちが大事だと思って、「接待ゴルフに行かなくちゃならないから」といいがちなんです。でも子どもにとって約束は約束で、そんなの言い訳にはなりません。「お父さんは約束を破った。お父さんは嘘つきだ」となるわけです。  だからもし接待ゴルフが入りそうになったそのお父さんは上司に「子どもと約束してしまったんです」といえれば、そのことを家族の前でいわなくても子どもには伝わるんです。「お父さんは大事な仕事があったのにそれをキャンセルしてくれた」と、ポイントがぐっとアップします。だから会社の上司も、子どもとの約束を最優先してくれるようでないとダメなんです。

鈴木 光司(すずき こうじ)

1957年浜松市生まれ。慶應義塾大学仏文科卒業。1990年『楽園』で小説家デビュー。『リング』『らせん』『ループ』の3部作が大ベストセラーになる。小説だけではなく、自らの子育て体験を元にした『パパイズム』『父性の誕生』『家族の絆』などの著作もある。

取材・構成 /堀内一秀

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