2004.07.20
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自分の身は自分で守る! 総合学習で防犯をテーマに板橋区立志村第一小学校

子どもや学校を狙った事件が後を絶たない。子どもたちの自己防衛力をより高めるために総合的な学習の時間で「防犯」に取り組んでいる学校があると聞いて取材に出かけた。(2004/06/11取材)

 ここは板橋区立志村第一小学校。校庭の紫陽花がそろそろ花を咲かせている。中に入ると校長室脇のガラスケースの中に、どこかで見たような大きなトランクが。そう、ここは、あのフーテンの寅さんを演じた渥美清氏の母校なのである。ガラスケースの中には、寅さんの写真や山田洋二監督の色紙などが飾られている。

 いきなり話がそれたが、今日の主目的は総合的な学習の時間を利用した「防犯」の授業。場所は図工室。4年生の2クラスの児童が集合している。作業机の上には大きな地図。こどもたちは、これまでに、警察署による防犯教室、怖いと感じる場所を確認するための「まちあるき」、の授業を経てきている。「まちあるき」では、危険と思った場所、安全だと思った場所を地図に記し、なぜそう思ったかを紙に控え、その場所の写真も撮って来た。ピーポの家(110番の家)の場所も確認して来た。今日は、それら調べたことを、大きな地図に書き写し、写真を貼り込んで「地域安全マップ」を作る。最終的には、この情報を、GISソフトを使ってパソコンに入力し、インターネットで公開するという。さあ、いよいよ安全マップづくりのスタート。

 「まず、自分たちが歩いた道をカラーペンでなぞってください。次に、危険だと思ったところに赤いシール、安全だと思ったところに青いシール、ピーポの家があったところには黄色いシールを貼ってくださーい」
担任の先生がマップの作り方を説明。


これは、今回の授業を企画した「NPO法人しょうまち」が作成した完成見本

 

 赤、青、黄色の丸いシールを貼ると、そこから引き出し線を引き、なぜ安全か、危険か、メモしてきたことを転記して、写真も貼る。

子どもたちのメモを見てみると…
「道がすごく細くて自転車とぶつかりそう」「電気がつかなくて恐い」「木が多くて暗い」「ヘンな人がいる」「大人がいるときは平気だけどいなくなるとヘンなことをするおじさんがいる」「刃物のおもちゃを振り回している人がいる」など、かなり心配な状況が浮かび上がってくる。「大声を出してみたが、誰も気づいてくれなかった」「ピーポの家の看板が木に隠れていて見つかりにくい」など、鋭い指摘をする子どもも。

まず、歩いた道筋をマーカーでなぞる。 これは、「まちあるき」の時につくったメモ メモの内容をポストイットに転記して地図に貼る
赤いシールは危険箇所。結構たくさんある 黄色はピーポの家。引き出し線を引き、メモも貼る ポラロイドカメラでたくさん撮って来た写真も貼る

 


「NPO法人しょうまち」理事長。樋野公宏さん
 子どもたちの作業を手助けするのは、「NPO法人しょうまち(商店街とまちづくり研究会)」のスタッフたち。「しょうまち」が今回の授業を提案し、約20時間のプログラムを組み立てた。「しょうまち」は、商店街を単なる物売りの場ではなく地域交流の場として活性化することを目的に、東京大学の大学院生たちが中心となり、平成12年に発足した。昨年度は、地域の大人たちが子どもたちに、手芸や料理、工作、パソコンなどを教える「商店街でものづくり事業」を行った。その活動を通して、地域、学校、PTA、子どもをつなぐ、ということに手応えを感じ、今年度の「地域安全マップづくり」事業が企画されたのである。
 
  さて、子どもたちの地図が完成した。次に、隣の音楽室に移動して、それぞれグループごとに発表をする。

 「自分たちの地図とどこが違うのか、自分が知らなかったことがあるかどうかに注意して聞いてください」と担任の先生。

 なるほど、各グループの地図を比較すると、Aのグループがまちあるきしたコースは赤いシールが多い、Bのグループのコースは青いシールが多く、ピーポの家を記した黄色いシールも多い、などの違いに気づく。半分のグループの発表が終ったところで時間切れ。2~4時間目、計3時間の授業が終了した。

 「今回の授業では、まちの危険箇所を調べるだけでなく、それを自分たちの生活に生かしてもらうことがねらいでした。」と先生。「子どもたちは危険マップ作りの前に、防犯教室もやっています。危険だから通らない、ではなく、危険な道でも、防犯教室で習ったことを頭において、気をつけて通ればいいんだ、と思ってくれればいい。それが生活に生かす、ということなんです」

 


佐々木和廣校長先生
  校長先生に、今回、NPO法人とともに授業づくりをすることになった経緯を聞いた。

 「池田小学校の事件以来、子どもの安全のために、学校でもさまざまな対応を検討してきましたが、結局は子どもが、自分の身を自分で守ることが極めて重要。子どもの意識啓発、安全教育、といったものを授業で取り組めないかと考えていたのです」

 しかし、学校だけでは難しい。そんな時、警察署と、管内の全学校長とが集まり、防犯について話し合う機会があった。そこで、NPO法人しょうまちの安全マップづくりの企画が紹介され、モデル校を探しているという話があり、志村第一小学校が手を挙げたことが今回の発端となった。

 総合学習の「自分のまちを知る」というテーマの中で、工場見学や商店街探検などは今までもやっていたが、今年は、防犯・安全に着目し、総合的な学習の時間年間105時間のうちの20時間を「安全マップづくり」に充てることにした。

 「NPOという外部の団体と、共同で授業を行ったのは初めて」と校長先生。
 互いのねらいを擦り合わせるための「地域安全マップづくり運営委員会」(座長:東京大学工学部都市工学科教授小出治氏)を設け、事前準備を行ってきた。

 「外部の人たちと連携するためは、どうしてもこういった事前準備の手間がかかります。でも、時間をかけただけのことはありました。しょうまちのほうでは、実践の場が得られ、我々としては、防犯の専門知識や、スタッフの協力が得られた。双方にメリットがあったのです」

 児童たちの作った安全マップは、しょうまちのスタッフが作成した、GISソフトに入力し、インターネットで地域に公開。その後、他の学校や地域にも安全マップ作りの活動を広げていくという。危機管理の専門家によると、これからは、警察に頼るのではなく、自分の身は自分で守るという意識が必要な時代だという。また、防犯には地域ぐるみの協力体制が不可欠であり、インフラの整った学校がその拠点となるのは防犯体制として理想的なのだそう。志村第一小学校が、そのモデルとなれば、今回の総合学習の大きな成果となるだろう。

 (取材・執筆:学びの場.com 高篠栄子)

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