2004.02.26
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子どもを被害者にも加害者にもしないために 東京都新宿区立四谷第六小学校

日中の校内で罪もない児童が命を奪われた大阪・池田小学校事件、被害者も加害者もともに少年だった長崎の駿ちゃん事件など、いま日本全国で少年事件が急増している。そんな社会状況を背景に、東京都新宿区立四谷第六小学校では学校主催による『子どもを被害者にも加害者にもしない学校安全シンポジウム』が行われた。

 
 
 
 
会場となった体育館に約50名の保護者たちがつめかけた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

 「新宿区に限らず、全国の学校が少年事件や学校の防犯対策について模索・尽力していると思うのですが、そういった社会状況のみならず、わが校でも、児童の持ち物がなくなったり、持ち物が傷つけられたりといった、事件の芽を感じる出来事が過去にあったんです。校内でのモノ隠しというのは、学校教育に携わっていればそう珍しいことではありません。また学校は犯人探しをする場でもない。ですが、見過ごすことのできない子どもたちからのサインなのではないかと思うんですね。わが校では『いのちの授業』といって、いのちの大切さや、心のあり方を学ぶ指導を行っているのですが、モノ隠し事件のあと、全児童に個別カウンセリングを行い、校長が全学級を回って話しをしました。そんなことからも、子どもたちの安全への取り組みをもう一度考え直すべきなのではないかと、今回のシンポジウムを企画したわけです」

と、コーディネーターも務める三澤伸二教頭は語る。

 シンポジストとして、警視庁新宿少年センター・警部の石動修氏、学校の防犯や被害者ケアに詳しいNPO日本危機管理学総研・理事の浅利眞氏、元四谷第六小学校PTA会長で保護司でもある貫名通生氏の3名を招聘し、学習発表会が行われた土曜日の午後、体育館を会場に行われたシンポジウムには父兄をはじめ、他校PTAなど50名近くがつめかけた。加害者、被害者、父兄・地域の立場に精通する3名のシンポジストが、各々の立場からテーマについて語り、最後に質疑応答が行われるという構成で会はスタートした。

◆子どもを加害者にしないために

 前半のテーマは『子どもを加害者にしないためには』。昨年から新宿少年センターで補導、見回り、少年や保護者のカウンセリングなどを行っている石動氏によると、トラブルに関わる少年には、不登校・イジメ・怠学などの問題がみられることが少なくないという。

「といって、みな同じわけではないんです。あくまで傾向であって、一人、一人がそれぞれに違う悩みを持っている。最近の子どもは、反抗をあまりしません。実はそこに落とし穴があるんですが、思春期の子には必ず反抗期があるものなんです。親はそれを認識しなきゃいけない。それと、子どもたちは自分では責任がとれません。『いいことはいい』『悪いことは悪い』と教えるのは親の責任です。親が子どもの盾になってやらなきゃいけない」

と石動氏。また、子どもが不安定になりはじめているサインとして、言葉遣いがあるという。

『別に』『ふつう』『微妙』、長い会話をせずこのような単語だけを返すようになったら注意が必要とのこと。『親は、自分の過去の経験から子どものことを考えがちだが、子どもは、未来を見て現在を考えている。そこに食い違いが生じて親に反抗するようになる。そこから、犯罪につながる可能性も少なくない』という言葉が重く響く。

 日本危機管理学総研の浅利氏からは、犯罪増加の理由のひとつとして、「機会があるから犯罪が起こる。家はもちろん、学校、地域、町も犯罪を起さない環境にすることが大事」との提案。

 保護司の貫名氏は、「加害者にしないためには、周囲が愛をもって子どもを育てること。また、教師によるたった一言の失言が子どもを傷つけ、学校への信頼を失うこともある」との指摘もなされた。

◆子どもを被害者にしないために

 続く後半は、『子どもを被害者にしないためには』。石動氏からは、被害者でありながら犯罪者にもなってしまう児童買春、援助交際問題について注意がなされる。現在、性犯罪被害者の100%近くが女子だというが、児童買春の場合、被害少女たちの『お金』や『モノ』『ファッション』に対する執着心がひきがねになって起こるケースが少なくないという。

「愕然とするのは、携帯電話やメールの存在に甘えて、子どものことや居場所を知らない親が多過ぎること。携帯では、子どもを引き止められない、守れない

と石動氏。

 次に浅利氏からは、学校やPTA、地域による危機管理対策について、予防活動のみならず“事件が発生したらどうなるのか?”を視野に入れて活動してほしいとアドバイスがある。

「危機管理には4つの条件があります。(1)予防活動 (2)事前準備活動 (3)危機対応活動 (4)事後措置活動です。いまどこの学校や地域を見ても、熱心に行われているのは(1)が中心なのですが、それだけでは危機管理とはいえません。
 私たちは『SARA(サラ)』と言いますが、S(スキャンニング/調査)、A(アナリシス/分析)、R(レスポンス/対応)、A(アセスメント/評価)と、対応だけをしていてもダメなんですね。例えば、校庭に防犯カメラは設置した。設置したけど、その後のチェック(評価)がないので木の枝がカメラを覆っているのに気づかない。これでは防犯の意味がありません。PTAによるパトロールもそうです。わが校、わが地区では何が問題なのか、調査、分析して、対応し、評価する。ここまでの流れができて、やっと危機管理となるんです」

 また、子どもを対象に危機管理ワークショップを行った経験のある浅利氏は、子どもたちの『自己防衛力』にも注目する。

子どもたちを守ってあげる時代から、子ども自身が自分の身を守る時代へと変化しています。24時間365日、親が子どもについて歩くわけにはいきません。だからこそ、子どもたちの自己防衛力を引き出してやることが大事なんです。学校は地域のひとつです。地域が安全なら学校も安全だし、学校が安全なら地域も安全なのです」

 最後に、菅野静二校長がシンポジウムを総括し、

「石動氏の『親は過去の体験から子どもを考えるが、子どもは自分の未来を考えて現在を考える』という言葉、浅利氏による危機管理の注意点、貫名氏の『親も地域も子どもに愛をもって接する』という心強い応援。それらのアドバイスを受け止めつつ、『子どもを被害者にも加害者にもしない学校安全とは?』と考えたとき、私たちにできるのはやはり『教育』なのだとあらためて思いました」

と菅野校長。会場の参加者からの、熱い支持の拍手で閉会となった。 

 少年事件の急増という社会背景のみならず、身近な校内の問題をも公に、学校安全、そして問題解決に取り組む四谷第六小学校の真摯な姿勢に、21世紀の公立小学校の希望を見た気がした。

(取材・構成/寺田薫)

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