未来の教室で、学びの意欲が高まる授業 筑波大学附属小学校「国語」・「図画工作」
教育現場におけるICT活用の実証研究を進める、筑波大学附属小学校。5年後、10年後の教育のあり方を模索することを目的として設置された「未来の教室」には、無線ネットワークを構築、40人の児童が1人1台のタブレット端末を利用できるほか、複数のスクリーンに画面を投影できるなど、先進的な学習環境が整備された。5年生国語と2年生図画工作の授業をリポートする。
5年生 国語「いろいろな漢字の読み方」
ICTによって授業に余裕が生まれ、考える時間がより充実
本時では、子どもたちが大好きな漢字クイズを使って、漢字には色々な読み方があることを学ぶ。動画コンテンツを見て、クイズの解き方を確認した後、いくつかの例題にチャレンジし、最後には、自分たちでクイズを作った。
導入で、タブレットPCに、「明」の字を書かせる。
「この字の読み方を知っているだけ書き出しましょう」
「できたら、隣の人と見せ合って」
「音読み、訓読みを合わせて何個あった?」
テンポよく授業は進んでいく。
「二人で合わせて1個の人、2個の人」
3個で手を挙げる人が一番多く、5個では手を挙げる人がいなくなる。
「教科書の136ページを見て」
巻末の漢字のリストには、11もの「明」の読み方が並んでいる。
「うそ! こんなにあるの!?」
漢字には色々な読み方があることを、身をもって感じた児童たち。
そこで、「わくわく漢字伝」の動画を見せる。児童たちの視線が正面の電子黒板に集中する。画面には、漢字の熟語のクイズが出る。中央に、ブランクの四角があり、その周囲に「植」「作」「人」「荷」四つの漢字が並んでいる。中央にどんな漢字を入れれば、四つの熟語が完成するかというクイズだ。
答えは「物」。すべての熟語を読んでみると、「植物(しょくぶつ)」「作物(さくもつ)」「人物(じんぶつ)」「荷物(にもつ)」となり、「物」には、「もつ」「ぶつ」という二つの読み方があることがわかる。
同様のクイズを二つ繰り返した後、今度は隣の人と相談しながら、自分たちでクイズを考える。あらかじめ先生が作っておいたワークシートには、白いマスだけが描いてある。ここに、中央だけ空けて、残り四つの漢字と、どっち向きに読むかを示す「→」マークを書く。
子どもたちは、少しでも難しい問題を考えようと真剣だ。あるグループは、「上」←?←「先」という問題を考えた。
「これ、先生もちょっとわからないな」
と青山教諭。答えは「頭」。よし、もっと難しい問題を考えるぞ! と色めき立つ児童たちだが、ここで時間切れ。続きは次回となった。
授業を行った青山教諭に、授業のねらいや、ICTの利点などを伺った。
――児童1人1台のタブレットPCを使用したねらいは?
青山教諭 ICTの「C」を意識し、隣の人と相談して漢字を調べたり、クイズを考えたり、互いに交流しながら学習するよう授業を組み立てました。最初は1人1台でPCを使って個人作業をさせ、クイズを作るときには、一人のPCでは漢字の読み方を調べ、もう一人のPCではクイズを作るように指示し、隣の人と共同作業にしました。
また、全児童に1人1台PCが実現すれば、PCを持ち帰って残りの作業は家庭でする、ということも可能です。今後は授業中だけでなく、家庭学習など、学校外の学習でいかにPCを活用させるかが課題になると思います。
――ICT活用の利点を一つあげるとしたら?
青山教諭 動画で授業の内容を説明したり、従来は児童一人ひとりが前に出て発表しなければならなかったことを、電子黒板で一斉提示できるなど、授業のテンポがアップしたことです。このため、授業に余裕が生まれ、子どもたちが考える時間を多く取れるようになったことは最大の利点です。
指導面では、児童の画面が教師用PCで一覧できるので、一人ひとりに応じた指導ができる点がいいですね。ただ、この機能に頼りすぎて、児童とのリアルなやりとりが減ってしまうようではいけないと思います。
――今後の課題は?
青山教諭 ICTを活用することで、前の学習を見直すことが簡単にできますし、1年から6年までの学習履歴が残せる。授業で作成したファイルをどのように整理・保存するかは課題ですね。
【青山先生に聞く! ICTの利点】
POINT(1)
授業がテンポよく行え、時間に余裕ができる
POINT(2)
教師用PCで、児童一人ひとりの状況を把握できる
POINT(3)
学習の履歴を残すことができる
2年生 図画工作 「見立てからお話をつくる」
製作のプロセスを共有することで、新しい発想が生まれる
本時では、デジタルスクールノートを使って描いた簡単な図形を出発点に、子どもたちが自由に絵を加工して、3場面の短いお話を作る。作品を作るプロセスや、できあがった作品を一斉提示して、みんなで鑑賞も行った。
今回の授業では、2人に1台のタブレットPCを利用して作品づくりを行った。まず、西村教諭がデジタルスクールノートで描いた簡単な図形を電子黒板に提示する。
「これと同じ図をタブレットPCに描いてみよう」
と教諭。子どもたちは、慣れた様子で指で画面をタッチして、同じ図をタブレットPC上に完成させる。
「これは何に見えるかな?」
「お餅みたい」
「人」
などの声があがる。
「この図に自由に描き足して、『○○みたい』というのをもっと、○○らしくしてみよう」
金網を描き加えて、火鉢で焼かれるお餅を表す子、手足をつけて宇宙人を表す子、○を描き加え、それを目にしてカエルを表す子など、さまざまな作品ができていく。
児童たちの作品は、ランダムに電子黒板に表示され、作品が仕上がっていく様子をリアルタイムで見ることができる。面白い絵が映ると笑いが起こることも。
「作品ができたら、その絵からお話ができるように、2枚目、3枚目も描いてみよう」
スーパーに買い物に行く雪だるまの話、怒った顔が最後には笑顔になるカエルの話など、たくさんのお話ができあがった。
授業を行った西村教諭に、ICTを図画工作で活用する利点、今後の期待などを伺った。
――PCの台数は足りているのに、なぜあえて2人に1台に?
西村教諭 1人1台なら最初から最後まで自分のしたいようにできますが、2人に1台だと、意見を言い合い相談しながら作らなければなりません。しかも、男女のペアにしたので同性同士より、意見の食い違いが起こりやすい。そこをどうやって折り合いをつけるか、そんなことも学べる場になればいいと思いました。
――作業中、児童たちの画面が電子黒板にランダムに投影されていましたね。
西村教諭 従来の授業では、できあがった作品を壁に貼りだすことで初めて、他の人の作品を共有することができました。でも、ICTの機能を使えば、製作中の段階から、他の人がどんな作品を作っているのか、リアルタイムで見られます。何をどう作ったらいいかわからないという子も、電子黒板に投影される作品を見て、「ああ、こうすればいいんだ」と気づくことができます。他人の作品から新しい発想が生まれることもあります。
投影される作品にはPCの番号は示されていますが、氏名は表示されないので、誰の作品かはわかりません。匿名だからこそ、先入観なしで他の人の作品が見られることもいいと思います。
――他の時間にはどのようにICTを活用しているのですか?
西村教諭 特に鑑賞の時間で、大変有効に使っています。従来なら、教科書に載った小さな写真を各自で見るしかありませんでした。ICTを活用すれば、電子黒板に大きく作品を投影し、クラス全員で共有し、共感することができます。
製作の時間では、手直しが簡単なので、何度でも試行錯誤ができることがICTの最大の利点です。絵具などの従来の道具と同じように、新しい道具の一つとして、使いこなしてほしいと思います。
――今後どんなことをやりたい?
西村教諭 将来的には、ネットを介して作品を発表し、他校とも共有できたり、共同製作ができるといいですね。
【西村先生に聞く! ICTの利点】
POINT(1)
製作のプロセスを共有できる
POINT(2)
大画面で作品を鑑賞し、共有・共感できる
POINT(3)
気軽に何度も試行錯誤ができる
取材・文・写真:石井栄子
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