今期のつれづれ日誌ではこれまでの教師生活の中でいただいた心に残る言葉を紹介しています。大切にしている言葉をもう一度思い出しながら、また気持ちを新たにしていこうと考えています。今回は、もう10年以上前に卒業をさせた子どもからもらった言葉を紹介したいと思います。
これまで何度か卒業生を出しましたが、その子たちが今どうしているのかなどほとんど分かりません。時々、卒業アルバムなどを見返しながら当時のことを考えたりすることもあります。しかし、便りがないのは子どもたちの今の生活が充実しているということなので安心しています。
そんな中、毎年正月に私へ年賀状をくれる子がいます。毎回もらう年賀状の中で、
「先生、私は元気です。」
「先生、〇〇大学に入学しました。」
と、近況を伝えてくれます。そして、今年は、
「先生、もう大学生活も終わりです。〇〇に就職することになりました。」
と報告を受けて大変うれしい気持ちになりました。この子の年賀状を読むたびに、当時のことが懐かしく思い返されます。
実は、この子がいるクラスを担任した時に、ある女子児童とうまくいかなくなり、それがきっかけでクラスが学級崩壊のような状態になってしまいました。児童に授業を聞いてもらえなくなったり、クラスの中で様々なトラブルが起こったりしました。保護者の方にも迷惑をかけ、何度も学校へ来ていただいたりもしました。
私自身、毎日苦しかったのですが、その時の校長や同僚の先生の励ましのお陰で何とか卒業式まで担任を務めることができました。しかし、卒業式にはうまくいかなかった子から罵声を浴びせられてしまうなど、自分の教師人生にとって一生忘れられない大きな挫折になりました。今でも、時々何か悩むことがあると、その年のことが急に思い出されて自分に自信が持てなくなることがあります。
しかし、今年、この年賀状をくれる教え子からのメッセージを読みながらこんなことを考えました。
「この子は、もしかしたら私が当時のことを失敗と思ってほしくないと思って毎年近況を知らせてくれているのではないか・・・」
そう思ったときに、いつまでも当時のことで傷ついている自分が恥ずかしくなってきました。1人でも、私の教え子として忘れないでいてくれる子がいてくれるだけで幸せだということに気が付きました。
今年度、新しい学校に異動してなかなかペースに慣れないこともあり、体調を崩し気味でした。毎日、校門で続けているあいさつ運動でも、子どもたちのあいさつが返ってこないと、「もうやめてしまおうか」と考えることも多くありました。しかし、私が今の学校の子どもたち1人ひとりに心をこめてあいさつをすることが、年賀状をくれる子への恩返しにもなるのだと考えました。3学期が始まり、あいさつ運動を再開しました。「おはよう!」と学校の子どもたちに声をかけながら、年賀状をくれる元教え子にも声をかけているつもりでいます。
来年も教え子のメッセージを楽しみにしていたいと思います。
「先生、社会人1年目です。がんばっています!」
というメッセージがもらえるのではないかと思っています。私も教え子に負けないようにがんばっていきたいと思います。

菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
同じテーマの執筆者
-
兵庫県神戸市立桜の宮小学校 特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)
-
京都教育大学附属桃山小学校 教諭
-
大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
-
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
-
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
-
西宮市教育委員会 勤務
-
明石市立高丘西小学校 教諭
-
木更津市立鎌足小学校
-
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
-
愛知県公立中学校勤務
-
大阪大谷大学 教育学部 教授
-
神奈川県公立小学校勤務
-
寝屋川市立小学校
-
明石市立鳥羽小学校 教諭
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
「教育エッセイ」の最新記事
