これまで、教師の指示を集中して聞くことが苦手な児童が多い学級を担任したことがあります。授業中のみならず、朝の会・帰りの会で連絡をする際などでもおしゃべりをやめられなかったり、手いたずらなどをして話を聞けなかったりすることが数多くありました。はじめの頃は、そういう状態になった際に言葉で注意をするようにしていました。しかし、うまくいきません。
よく子どもたちの様子を観察していると、教師である私が児童全体に向けて言葉で注意をしても、その声が児童一人ひとりには届かず、おしゃべりをしている児童にとっては私の声が騒音の一部に聞こえているようでした。この状態でいくら大声を出しても逆効果になってしまいます。
そこで、画用紙に端的な指示を書いたものを何種類も用意し、黙って児童にその表示を見せるようにしました。
「静かに聞こう!」
「今は何をするとき?」
「まっすぐに並ぼう!」
「すぐに準備をしよう!」
「はみがきにとりかかろう!」
などの表示を用意しました。すると、児童は私が大声で注意をしていたときと比べて、指示通りに動けることが多くなってきました。最初はおしゃべりをしてしまったり、手いたずらをしてしまっていたりする児童も、私が無言で表示を出すことで、「先生は何かぼくたちに言いたそうだぞ。」と気がつきます。そして、画用紙に書いてある表示を見て、私の指示を理解してくれます。
これまでは、「児童は話を聞いて当たり前」「話を聞けないのはそれまでのしつけが悪いからだ」と思うところがありました。しかし、児童の現状を把握し、どのようにすれば少しでも改善できるのかということを考えていかなければならないと思うようになってきました。
この取り組みは、校外学習などの際にも活用できます。多くの人が集まる場所では、大きな声で指示を出すことができません。そんなときにあらかじめ用意しておいた表示を児童に示すことによって声を出さなくても児童に指示を出すことができます。これからも、児童の視覚に訴える有効性を生かして指導を行っていきたいと考えています。
菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
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