教師の仕事の一丁目一番地
学生時代に監督に名前を呼ばれた経験から,教師が児童生徒の名前を覚える重要性を痛感しました。
名前を呼ぶことで,児童生徒は認められたと感じ,教師との信頼関係が深まると考えています。
目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝
超絶大! ネームコーリング効果
私は20年ほど前,4年間だけ北関東の地で生活をし,体育会のサッカー部に所属していました。
大学3年生のとき,S先生が私の大学サッカー部の監督になりました。S先生は当時,定年退職間近の59歳の小学校教員。同大学サッカー部の大先輩。大学を卒業後は,県内で公立小学校教員となり,県のサッカー界に長く携わってこられました。
「Sと申します。サッカー部を強くしていきましょう!」
この程度のあいさつをされたと記憶しています。部員はそれぞれ名前だけ伝えて,すぐ練習に入りました。シュート練習で私がゴールを決めたときでした。ゴールキーパーとの1対1の練習ですから経験者にとっては決めて当たり前の光景です。ここで思いもよらぬ声が飛んできます。
「小清水! ナイスシュート!」
一瞬,我が耳を疑いました。「ナイスシュート」にではなく,「小清水!」にです。会話もしたことのないS監督から,いきなり名前を呼ばれたのです。数秒ですが,「えっ!?」と立ち止まった後,とにかくうれしかった,認めてもらえたという思いが全身を駆け巡りました。
教師になった今ならわかります。S監督は,自己紹介で初めて部員の名前を知ったのではありません。きっと,いや絶対に、前日までに部員名簿に目を通し,全員の名前を暗記していたに違いありません。ネームコーリング効果(名前を呼ぶことで心理的距離が縮まり、信頼関係が深まる効果)は絶大です。その後,監督はわけあって1年間で退任されました。
涙が止まらない,20年後の衝撃
東京出身の私は大学卒業後すぐに東京に戻り,小学校教員となりました。都内で教員となり,結婚して子どもを授かり,昇進し,公私ともに少々忙しい日々を送っていました。北関東への足も自然と向かなくなっていました。
そのような中,母校の大学サッカー部70周年創立記念祝賀会のお知らせが私の元に届きました。県内随一のホテルでの祝賀会。私は41歳。20年振りに周年行事に参加しました。100名弱が参加する盛大な会でした。
S元監督が上座にいらっしゃいました。現在79歳になられていました。開宴から30分ほどしたころ,知り合いの先輩と共に,ビール片手にS先生のもとへ挨拶に行きました。
「S先生,お久しぶりです。20年前にお世話になっ...」
「おっ!小清水っ!元気か?」
私は,そのときの感情をはっきりとは思い出せません。ただ,ウルッときたことだけは鮮明に記憶しています。恩師が自分のことを覚えてくれている。数多くいる部員。20年前。1年間だけの付き合い。
20年後の衝撃。久々にウルッときました。
これらの体験から,私は次のことを断言できます。
「教師の最も大切な仕事は,子の名前を覚えることである」
ネームレター効果,ネームコーリング効果などと言われますが,理屈ではなく私が実感を伴い腹の底から理解した事実です。いくつになっても,教え子を名前で呼べる教師。どんなにテクノロジーが発達しても,これに勝るものはありません。
教師の仕事の一丁目一番地
この話を教育サークルの仲間に話すと,Y先生からこんな返答がありました。
「今年は,4月初日の出会いからかましてやるぞと,『子どもの顔+フルネーム+よいところ』を完璧にインプットして臨みました。拍手が起こり、『何でわかるんですか?』『覚えてくれたんですか?』と子どもたちは笑顔で答えてくれました。幸先よいスタートとはこのことだなと感じました」
A先生は次の工夫をされていました。「ネームコーリング効果,今年度は特に意識しています。また,私の場合は『苗字+さん』で呼ぶことでアンガーマネジメントしています。『苗字+さん』に続く言葉が乱れることはあまりないと実感しているため,意識的に『苗字+さん』で呼んでいます」
続いてM先生。「名前を間違えてしまったらどうしようという不安な気持ちから,慣れるまで積極的に名前を言えていませんでした。それは覚えようという意識が低かっただけで,会った人の名前を絶対に覚えて呼ぶという意識を持てば,S監督のような方に近付けていけるのではないかと感じました。明日からは名前とともに挨拶をすることを習慣化できるようにチャレンジしていこうと思います」
先生方,ぜひ,子どもたちの名前で呼んでください。委員会やクラブ等,月に1回しか会わない子たちの名前を呼んであげてください。廊下ですれ違った異学年の子たちの名前を呼んであげてください。卒業生が学校に来たら,名前を呼んであげてください。口には出さないかもしれませんが,子どもたちは幸せになります。皆さんの身近な世界が変わりますように。

小清水 孝(こしみず たかし)
目黒区立不動小学校 主幹教諭
フープ1本でできる運動を3つ以上言えますか?
現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう!
NPO教育サークル「GROW5th」代表。
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