共通テストを終えて
従来のセンター試験が廃止され、初の「大学入学共通テスト」が行われました。初めての試験であるのにコロナ禍でのイレギュラーな対応も加わっての実施となりました。実施側もそうですが、受験生にとっても例年以上に緊張した試験となったかもしれません。
さて、実施前には試行調査などもあったわけですが、実際に試験を終えて感じたことをまとめてみました。
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭 山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路
導入の経緯
そもそも従来のセンター試験をやめて新たな試験を導入することになった経緯は何だったでしょうか?
大きな変化の時代にあって、それに対応する力を身につけるため、高校・大学における教育や大学入試の改革の必要性が叫ばれるようになりました。そのような状況下で平成24年6月に文科大臣から「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」諮問され、平成26年12月に「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」答申が出されました。同様に平成25年6月に審議を開始した教育再生実行会議においても、同年10月に「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」という第四次提言がなされました。
簡潔に言えば、新たな時代に対応する力を身につけさせるため、高大接続改革として、(1)高校教育、(2)大学教育、(3)大学入学者選抜の3つについて抜本的な改革を行うというものでした。現状としては高校や大学の教育が大学入学者選抜の大きな影響下にあり、以下のような課題があるとまとめられています。
① 高校教育
小・中学校に比べ知識伝達型の授業に留まる傾向があり、学力の三要素を踏まえた指導が浸透していない。原因として、多くの大学入試における学力評価が、学力の三要素に対応したものとなっていないことがある。
② 大学教育
授業の形態は一方的な知識の伝達・注入のみに留まるものが多く見受けられ、多様な学生が切磋琢磨する環境にもなっていない。また、自分が将来社会で活動することと大学で受ける教育がどのように関係しているのかが明確でないことが多い。
③ 大学入学者選抜
測定しやすい一部の能力や、選抜の一時点で有している能力の評価にとどまり、高校でつけた力や大学で学ぶために必要な力を評価するものになっていない。また、点数による客観性の確保を過度に重視し、そうした点数のみに依拠した選抜を行うことが「公平」であるという、従来型の「公平性」の概念が社会に根付いている。
以上のような議論を踏まえ、大学入学者選抜については、次のような具体的な改革の方向性が示されました。
(1)大学入学共通テストの導入
現行の大学入試センター試験を廃止し、大学で学ぶための力のうち、特に「思考力・判断力・表現力」を中心に評価する新テストを導入し、各大学の活用を推進する。
(2)個別試験は多面的な選抜方法
各大学が個別に実施する試験においては、学力の三要素を踏まえた多面的な選抜方法をとるものとし、具体的な選抜方法に関する事項をアドミッション・ポリシーにおいて明確化する。
当初は記述式や英語の民間試験の導入なども予定されていましたが、様々な議論を経て見送られ、先般実施された大学入学共通テストを迎えることになったわけです。
変わったか?
実際に初めての試験が行われたわけですが、当初の趣旨を踏まえたものになっていたでしょうか?私の専門は「地理」ですので、「地理B」に関して感じたことをまとめたいと思います。
(1)センター試験
共通テストでは「思考力・判断力・表現力」を中心に評価するとなっているわけですが、「地理B」に関して言えば、従来のセンター試験においてもその傾向はありました。地理などの地歴・公民を暗記科目と考えている人もいるかもしれませんが、もともとセンター試験の「地理B」では語句を問うような設問はありませんし、教科書の知識の暗記のみで解答できるような設問もほとんどありませんでした。図表の読み取りや学んだ知識を活用して自ら思考する必要のある設問が多く、コツコツ暗記が得意という人にとっては、それが得点に直結するわけではないので、面くらう受験生も多かったと思います。
何がどこにあるのか?(地理的な見方)だけでなく、なぜそこにあるのか?(地理的な考え方)を考えるというところが地理の面白さでもあり、私自身が地理の教員を目指すきっかけでもありました。そういう意味では、地理の教員にとって、センター試験から共通テストへの変化の趣旨は、以前から大切にしていたものでありました。
(2)共通テスト
図表の読み取りが多い傾向は同じですが、その図表読み取りに時間がかかるものも多く、ぱっと見て解けるような設問はありません。マーク式といっても、2~3の要素の組み合わせを判定する設問が多く、たまたま正解するということは少ないのではないでしょうか。
また、探究的な学習の場面を想定した設問文や資料も見られ、教科書・資料集で頻出の資料ばかりではないので、普段から様々な資料に触れ、それを自分の力で読み解く経験を積んでいるかどうかがセンター試験以上に重要だったと思います。正解に至るまでの道のりが長いことから、普段の授業で安易に「答え」を求める習慣がついていると、正解にたどり着く前に途中でダウン…ということになりかねません。
(3)これから
以上のようなことを踏まえると、これからの授業や高校生の地理の学習はどうなっていくのでしょうか?(もちろん、共通テストのためだけに学習するわけではありませんが…)
共通テストの内容はその趣旨のとおり、「思考力・判断力・表現力」が重視されていたと言えると思います。ただ、思考したり判断したり表現したりするためには、前提となる知識や技能は必須となります。また、その学びをより深めるためには、主体性を持って多様な人々と協働する態度も重要です。つまりは、学力の三要素がバランスよく必要となり、それが普段の授業の中で実現されているかどうかがカギになると思いました。
再来年度の入学生からは新学習指導要領が完全実施され、地歴公民は科目も一新され教科書も新たなものに変わります。そこで急に変わるのでなく、改訂の趣旨を踏まえた授業づくり、生徒の学習支援を行っていきたいと思いました。
まだまだ受験シーズンは続きますが、コロナ禍でも頑張っている全国の受験生を応援したいですね!最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
高橋 英路(たかはし ひでみち)
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。
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