2022.05.09
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GIGA×働き方改革で学校が変わる! 学校現場改善セミナー

文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」。2021年度末時点で98.5%の自治体で全学年の児童生徒への「1人1台端末」支給が完了している。学校現場にはICTをより活用した令和型の教育への転換が求められ、教師のあるべき姿も変化している。インクルーシブ教育システム構築が推進されており、教室では多様な子どもたちの個別ニーズへの対応もこれまで以上に求められている。ここ数年は、コロナ対策にも追われおり、戸惑いながらも何とかこなしているという状態が日常となりつつある。

学校現場が直面しているさまざまな課題をどのように乗り越えていくのか、教育の最前線で30年以上活躍してきた二人の講師が登壇し熱弁をふるった。2022年4月2日に名古屋で開催された「学校現場改善セミナー」の様子をリポートする。

講座1:子どもも教師も笑顔になる!「GIGAスクール時代」の授業・学級づくり(玉置崇先生)
講座2:女性教師だからこその教育がある!これからの教師論(多賀一郎先生)
講座3:職場が明るく「上機嫌」になる!スクールリーダーの人間関係づくり(玉置崇先生)
対談:「今の学校現場を改善するためには?」(玉置崇先生×多賀一郎先生)

講座1

GIGAスクール構想をどのように捉えるか

最初に登壇したのは、小学校教諭、中学校教諭・教頭・校長、教育委員会を経て、現在は岐阜聖徳学園大学教育学部で教鞭をとる玉置崇教授だ。玉置教授は、文部科学省「教育の情報化に関する手引き」作成に携わるなど、ICT活用について熟知しており、文部科学省「GIGAスクール構想」最前線にいる第一人者の一人だ。

ICT活用が進みやすい学校の“土壌”

岐阜聖徳学園大学教授 玉置 崇 氏

GIGAスクール構想を実現している学校にはどのような特徴があるのか、玉置教授は次のように解説する。 

「GIGAが進んでいる学校の土壌には共通する性質があります。それは学び合う職員集団・分福(ぶんぷく)です。」と解説した。

玉置教授はこれまでの経験から、1人1台端末を学校全体に導入するとき、「学校の教師全員が学ぶ集団になっているか、教師同士がお互いに学んだことを共有できるかがポイント」だと指摘する。何よりも、「ICTを導入・活用するのは子どもたちのため」という共通の目的意識を持っているという。

GIGAスクール構想とは何か

「GIGAスクール構想と言うと、抵抗感のある先生がまだまだ多い印象です。そこで、GIGAスクール構想をイメージしやすいように1人1台端末・高速ネット回線・クラウドという3つの言葉に言い換えたいと思います。」

 “GIGAスクール構想”を学校に定着させるためには、まず先生たちがGIGAスクール構想の意義を理解しなければいけないと玉置教授は語り、次のように解説した。

GIGAスクール構想の3つの要素
  • 1人1台端末
    「なぜ1人1台端末なのか、それは端末を道具、文房具として活用するためです。ICT端末は“子どもにとっての文房具”です。1人1台の端末があれば興味があることを調べたり、メモしたり、いろいろなことに活用できるのです。これによって個別最適な学びに近づき、先生がそこにいなくても、自分で自分の学びを見つけることが可能になるのです。」
  • 高速ネット回線
    「そして、なぜ高速ネット回線なのか。それはデータをストレスなくやり取りして子どもたちの協働学習を促進するためです。」 
    高速ネット回線があれば、端末上で協働学習することが可能となる。つまり、子どもたち同士で学び合う環境が実現するのである。
  • クラウド
    「なぜクラウドなのか、それは端末変更への対応も可能で、学びの連続化を可能にするから」
     昨今のコロナ禍では長期間自宅待機となることもある。そこで活用されているのが「クラウド」だ。生徒が端末からインターネット上にある“クラウド”にアクセスして、学校でも自宅でも子ども同士で学級新聞を作るなど、協働学習を可能にしている。クラウドであれば、端末が故障してもデータを新しく作り直す必要はない。それまで蓄積してきた自分のノート、資料などをそのまま活用する“学びの連続化”が可能になるのだ。

先生は学びのきっかけを創る

優秀な先生が子どもたちを教え導くという従来のスタイルではなく、先生は子どもたちに「学びのきっかけを創る」という新しい教育スタイルを目指すべきだ。 

ただ、課題があるのも事実である。 まずは、先生たちの中には端末に慣れていない人が少なくないという課題がある。先生たちが子どもの頃にはなかった新しい教育スタイルであるため、最善策を模索している状態だ。玉置教授は、教師の研修でも積極的に端末を利用する大切さを訴えたとのこと。先生たちが実際に端末の機能を体験し、その価値を知ることが第一歩となる。また、参加者のある教師は、「自分の目の届かないところで子どもたちが端末を利用するということに不安がある」と率直に語った。 

「学級経営は、“子どもたちは愛されている存在だ”と伝える営みでもあります。先生と子どもたちが如何につながっているかということが大切です。1人1台端末にすることで子どものやっていることを認めていく、そして活躍の場を与える。そんな意味で、GIGA端末を上手に使うと、本当にいい学級や学校ができると思います。」と話を終えた。

講座2

教師はマルチプレーヤーを目指す

次に登壇したのは、私立小学校に 30 年以上勤務し、現在は教育アドバイザーとして全国で講演活動をしている多賀一郎先生である。2021年の文部科学省調査によると、教員全体に占める女性の割合は小学校62.4%、中学校44.0%、高等学校32.9%と年々増加しているが、校長に占める女性の割合は小学校23.4%、中学校8.6%、高校8.4%と、まだ男性中心の世界とも表現できる学校現場。これからの学校教育に適した教師の特質は何か、教師にとって本質的に大切なものは何かという点について解説した。

父性と母性で考える

多賀 一郎 氏

「昔と違って、今の世の中“良い先生”のイメージがよく分からなくなってしまっています。さまざまな教師像があり、イメージできなくなっているのが今の時代ではないか」と指摘する。

以前は、「子どもをビシッと育てる」「熱血教師」というのがあったが、やはり力で押さえつけるという背景があり、それを子どもに感じさせて指導をしていた。しかし、力による体罰はもちろん、精神的な体罰も絶対に許されるものではない。

また、特別な支援が必要な子どもの増加など、子どもたちの多様化も大きい。従来のように、男性教師のイメージ・父性原理でギュッと締め付けるという方法は成立しなくなっている。

実際、女性の多い小学校の現場でも、やはり男性が目立つのも事実だ。また、女性には身体面、家庭での負担面でのハンディがあるのも事実である。また、保護者からの女性教師、男性教師に求める要素も異なっている。そうしたことを理解したうえで、男性教師は女性教師を認めていく必要があると多賀先生は言う。

「私は、教師には男性と女性という分け方ではなく、父性と母性と考えるのがいいと思います。父性的な性質と母性的な性質、どちらも教師には必要なのです。女性だって父性的な性質が必要ですし、男性だって母性的な性質が必要です。つまり、教師はマルチプレーヤーが理想ということです。」と多賀氏は説明した。

例えば、子どもが危険な行為をしているとき、女性教師であっても最終手段として「大声で注意」することが必要だ。これはどちらかというと父性に該当する。また、子どもたちの声に共感し、受容していく姿は母性的なものである。これまでは父性が中心である教師が多かったが、これからは父性も母性も兼ね備えた教師が求められている。

自己分析で自分はどちらが強いか確認

「まずは自分が父性、母性のどちらがより強く出やすいのかを考えてみましょう。子どもたちに厳格なイメージを与えているでしょうか。それとも、包み込むような印象を生徒に与えているでしょうか。」

父性とは、厳格で教え導くというイメージであり、母性とは癒やし、安らぎといった包み込むような性質のこと。「男性、女性に関係なく、父性も母性も教育には必要なのです。これが偏ってしまうと、子どもたちへ影響が出てしまう」と指摘する。父性に偏ると子どもの心が萎縮してしまう可能性がある。また、母性だけに偏ると生徒は甘やかされ、自律しにくくなってしまう可能性がある。バランスをとって生徒に接することが学級づくりのコツだという。

学級づくりは母性でスタート

「学級づくりは順番が大切です。私は、新学期には母性でスタートし、徐々に父性を加えていくのが良いと思っています。これが良い学級づくりのポイントです。」と助言する。

最初に接する際には、子どもたちを受け止めることを優先して安心感を持たせることが大切だ。どうしても、「最初は厳しくしないと」と思ってしまいがちだが、子どもを無条件に受け入れる母性からスタートすると、意外と上手くいくようだ。多賀先生は、長い経験から「母性を十分に示された子どもたちは、ルールを大幅に逸脱することが少ない」という。

講座3

忙しい先生たちを元気づける秘訣、即時評価とは

玉置教授は36年間の教師生活の中で、教頭も校長も6年ずつ経験してきた。校長先生・教頭先生は管理職として、どのように最前線の先生に接することが大切なのか。玉置教授自身の経験を基に、スクールリーダーの役割について考える。

ベテラン教師だって褒められたい

新任校長の頃、校長室にやって来た国語の先生に「校長って、いわば中小企業の社長ですよね。社長がずっと校長室の中にいては学校が回っていきません。」と言われた。ショックだった。それまで校内を回ったり、新人教師を気にかけたりはしていたが、経験の長いベテラン教師と積極的にコミュニケーションをとることは意識しておらず、この国語の先生がどんな人なのかもわかっていなかった。

意識してみると、この先生はあまり同僚との交流もなく、職員室よりも図書室にいることが多いとわかった。図書室で声を掛けると、彼女はクラスごとの“国語通信づくり”に勤しんでいたという。大変な労力が掛かる仕事だ。授業が終わるたびにA4の紙に子どもの発言をまとめて、次の授業づくりの資料を作成していたのだ。実際に授業を見たところ、本当に分かりやすく上手な授業をしていると実感したそうだ。

その後、ほかの先生方に“国語通信づくり”の話をしてみたところ、同僚からのこの先生に対する印象も変化したという。どんな教師でも積極的にコミュニケーションを図ることの大切さが分かる事例だった。

即時評価の効果とは

褒めるべき部分が見つかったら、すぐに褒める。それが即時評価だ。授業を見たとき、全校集会で先生がいい話をしたとき、すぐに褒めるだけで雰囲気が変わるというのだ。褒めるといっても、長々と話をするというわけではなく、一言「ありがとう」「良かったよ」というのみで良い。先生方は忙しく、時間が経ってしまうと、褒めるチャンス自体を逃してしまう。

一言だけでも「褒める」と意識すると、そこから先生たちとのコミュニケーションが生まれることもある。スクールリーダーは、常にアンテナを張るようにすると良いと語った。そうすると、さまざまな情報を得ることができ、学校全体の様子を把握するのに役立つそうだ。

先生が勉強している姿、研修に参加している姿を学校のホームページで発信するのも良い方法だ。外部発信という役割もあるが、内部発信という役割もある。先生の努力する姿を発信することによって、リーダーが先生を認めていることを示しているのだ。

職員室活性化係やベテラン教師の対比研修会など、ユニークなアイデアも非常に有効だった。学校の先生に動機づけを与え、モチベーションを高める仕掛け、それが学校全体の活性化につながっていくのだ。

「先生たちのあふれる個性を活かすことが大切。バラバラの形や異なる大きさの石の組み合わせをバランス良く積み立てる石垣のような学校組織が理想の形ですね。」と当時を振り返った。

対談

学校現場を改善するには

今の学校現場は、課題が山積みになっている。授業時間の増加、GIGAスクール構想による1人1台端末の導入、小学校の英語教科化など、最前線に立つ教師は業務に追われている。そうした現場を改善するには何が必要なのだろうか。多賀先生、玉置教授の対談が行われた。

多賀先生「学校現場ではやることが多すぎます。道徳も教科になり、ICTも活用し、英語もやる。業務が減るどころか、ますます増えている。学校が主体的に業務を効率化する必要があると思います。」

玉置先生「そうですね。忙しくなってきたときに、コロナが追い討ちを掛けたような印象です。思い切って、やめるところは全部やめるぐらいの意気込みが必要かと思います。」

多賀先生「実は、私が勤務していた私学には、ある程度の自由や融通性があります。でも、公立の場合、各校長の裁量でできることが少なくないとはいえ、硬直化してしまっているように見えます。柔軟性が非常に少ないというのが、公立学校の問題かなと感じます。」

玉置先生「実際に、本気で効率化を求めたら、公立学校でも思い切った改革に成功した地域・学校があります。校長先生が裁量権を活かしきれず、あまり主体的に動けていないことも問題かなと思います。」

多賀先生「そこですね。校長先生が教育委員会の指示どおりに動くことしかできていないと思います。もっと学校現場で組織的に動いてもいいのではないかと思います。校長先生が指揮をとって柔軟に改革をしていく意識を持つと、現場が少し変化するのではないかと思います。」

玉置教授も多賀先生も自身の経験から、校長が現場に対してできることはたくさんあることを知っている。お二方は厳しい意見を持ちつつも、そこには現場の先生を思いやる心があった。

記者の目

学校現場改善セミナーを取材し、印象に残ったのは「新しい教育形態に奮闘する先生たちの姿」だった。GIGAスクール構想をはじめ、インクルーシブ教育の広まり、働き方改革など、従来とは異なる教育スタイルの導入が急速に進んでいる。先生たちは業務に追われ、じっくりと子どもたちに関わることができない中で、解決策を模索している。校長などスクールリーダーが率先して先生たちに関わることによって、学校を活性化し、子どもたちがより成長していくことを改めて実感できたセミナーだった。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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