2025.06.09
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意外と知らない"中学校技術分野とプログラミング授業"(第1回) 学習指導要領での位置づけや課題

次期指導要領改訂に向けて、小学校では総合的な学習の時間に「情報の領域」を新設する、中学校では現行の技術・家庭科を技術と家庭の二つの教科に分けて、技術の全ての領域に情報教育を盛り込むといった方針が示されています。

今回は、内田洋行教育総合研究所の足利昌俊が、中学校における情報教育/プログラミング教育の課題について解説します。私は2023年から国立大学法人福井大学にて、探究型STEAM教育の授業実践に関する研究を行っており、福井大学教育学部附属義務教育学校にて、技術担当の高井茂嘉先生と一緒に授業実践を進めていますので、同校の取組についても併せてご紹介したいと思います。

中学校でのプログラミング教育の位置づけ

「技術・家庭科」の中で学ぶ

中学校3年間でプログラミングの授業は何時間くらいあると思いますか。現行の学習指導要領では、プログラミング教育は「技術・家庭科」の中の「技術分野」で行うことになっています。

「技術・家庭科」は、中学校で必修となっている教科のひとつで、技術分野と家庭分野を統合した科目です。この教科の歴史は1947年(昭和22年)の新制中学校創設にまでさかのぼり、当初は「職業」や「職業・家庭」と呼ばれていました。その後、1958年(昭和33年)に「技術・家庭科」と改められ、当時は技術分野を男子、家庭分野を女子が学ぶという性別役割分担が明示されていました。しかし、1989年(平成元年)の学習指導要領改訂により男女共修となり、1990年度から本格的に共修が開始され、現在に至っています。

このように歴史の長い「技術・家庭科」ですが、学習指導要領では「技術科」や「家庭科」という単独の教科は存在せず、「技術分野」と「家庭分野」がひとつとなって「技術・家庭科」という教科として位置づけられています。そのため、成績も「技術・家庭科」として評価されます。

授業時数についても、現行の学習指導要領では「技術分野」と「家庭分野」を合わせて、1~2年生で各年間70時間(週2回)、3年生では年間35時間(週1回)とされており、この約半分が「技術分野」の時間となります。

技術分野 領域D「情報の技術」

「技術・家庭科」の「技術分野」は、次の4領域に分けられています。

A「材料と加工の技術」
B「生物育成の技術」
C「エネルギー変換の技術」
D「情報の技術」

プログラミングを含む情報教育は、D「情報の技術」で扱われています。D「情報の技術」には下記の4項目があり、2、3がプログラミングの授業となります。教科書会社が示す時間数目安は合わせて20~22時間程度ですが、ABCに時間を割いてしまい、駆け足で実施することもあるようです。

  1. 生活や社会を支える情報の技術
    情報の技術の見方・考え方に気付き、情報の技術に込められた工夫を読み取る力を養う。
  2. ネットワークを利用した双方向性のあるプログラミングによる問題解決
  3. 計測と制御のプログラミングによる問題解決
    情報の技術の見方・考え方を働かせて、問題を見出して課題を設定し解決できる力を養う。(2・3共通)
  4. 社会の発展と情報の技術
    よりよい生活や持続可能な社会の構築に向けて、情報の技術を評価し、適切に選択、管理・運用したり、新たな発想に基づいて改良、応用したりする力を養う。

教科書の順序に従って授業が行われる学校では、3年生で実施されることが多くなっています。そのため、中学校1~2年生の間、プログラミング教育の機会が全く無い学校も少なくありません。高校入試科目ではないため、3年生の3学期に実施している学校もあります。

また、3年生では「技術・家庭科」は週1回なので、「技術分野」と「家庭分野」が隔週で行われる場合も多く、授業の間隔が空いてしまうことで、前回の内容を思い出す時間が必要となり、実質的な学習時間がさらに減少してしまうという課題もあります。

このような状況のなか、文部科学省は次期学習指導要領の改訂に向け、すべての領域に情報教育の視点を取り入れることや、「技術科」と「家庭科」の分離を検討しています。

もし4領域すべてで情報教育が行われるようになれば、どのような授業が展開されるのか、私自身も大きな期待を抱いています。たとえば、A「材料と加工の技術」では、従来の定規やのこぎりを用いた木材加工に加えて、CADによる図面作成やレーザーカッター、3Dプリンタなどデジタル加工機を用いた授業が行われるかもしれません。B「生物育成の技術」では、温度や湿度のデジタルセンサーを活用した育成や、トラクターの自動運転などの自動化に関する学習が行われることも考えられます。

このように全領域で3年間一貫した情報教育が展開されれば、小学校・中学校・高等学校を通じた連続的な情報教育が実現することになります。さらに、「技術科」と「家庭科」の分離とともに授業時数の見直しが行われれば、中学校での情報教育の時間が拡充される可能性もあります。

福井大学教育学部附属義務教育学校の取組

協働探究学習

現在の学校現場で実践されている探究学習とSTEAM教育は非常に相性がよく、両者を組み合わせることで、現行の学習指導要領でも言及されている「何を学ぶか、どのように学ぶか、何ができるようになるか」や、「主体的、対話的で深い学び」の実現につながる授業設計が可能になります。そのような理由で私は探究型STEAM教育を研究テーマにしており、基礎学力の育成だけでなく、探究力を高める「探究型STEAM教育」が、これからの子どもたちにとって非常に重要な学びになると考えています。

2017年に開校した福井大学教育学部附属義務教育学校(以下、福井大学附属)では、1年生から9年生(小学1年生から中学3年生に相当)までの9年間にわたって、全教科・領域において協働探究学習に取り組んでいます。また、2018年からは文部科学省の研究開発校として指定され、「社会創生プロジェクト」という新たな授業の研究も進めています。「社会創生プロジェクト」では、子どもたちが自らプロジェクトを設定し、そのプロジェクトに向けて仲間と共に協働探究を行い、プロジェクトを達成していくような学びを展開しています。子どもたちは各教科の学びと社会創生プロジェクトの学びを往還しながら、「自立・協働・貢献」に関する資質・能力を培い、予測不能な未来社会を生き抜くための「社会を創る力」を身に付けています。

学校全体でこのような協働探究活動を重視しており、子どもたちが自らテーマを考え、計画を立て、解決に取り組む文化が根付いています。私も技術担当の高井茂嘉先生とともに、2023年から福井大学附属において、協働探究学習を基盤とした情報教育の授業研究を行っています。授業設計の際には、「協働的な学び」になるよう、以下の点に注意しています。

  • 児童生徒が自分の端末内での作業に没頭しすぎないよう、「対話的」な授業になるよう配慮する。
  • グループ学習を行う際には、プログラミングが得意な児童生徒だけが作業を行い、他の児童生徒が見ているだけの状態にならないようにする。

プログラミング授業

福井大学附属では、8年生の3月から9年生の7月かけて、下記の4つの単元で、D「情報の技術」の授業を行っています。

  1. コンピュータの仕組みを解明しよう!
  2. メッセージ交換アプリを開発しよう!(双方向性)
  3. 未来を創る自動化システムを開発しよう!(計測と制御)
  4. 想いをかたちに!プログラミングで挑むロボットダンス!(発展)

プログラミング授業では、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントのtoio™(トイオ)を研究教材として使用しています。toio™は、Scratch3.0と同じブロック型のプログラミングアプリ「toio Do(トイオ ドゥ)」を用いています。このtoio Doは、「双方向性拡張機能」を組み込むことで複数の端末間で通信ができ、複数人で同期したプログラムの実行が可能です。この機能を活用することで、グループのメンバー全員で協力しながらプログラムを作成し、全員のロボットを同期させて動かすなど、協働的に問題解決や作品制作を行うことが可能になります。「個別最適な学び」だけでなく「協働的な学び」も支える教材といえます。

※ "toio"および‘‘トイオ"は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
※ Scratchは、MITメディア・ラボのライフロング・キンダーガーテン・グループの協力により、Scratch財団が進めているプロジェクトです。 Scratchのサイトから自由に入手できます。

プログラミング教材について

「プログラミング教材 toio™」

プログラミング教材toio™は、下記の特徴を備えた、2つの車輪を備えた小さなキューブ型の移動ロボットです。

  • 絶対位置制御で簡単に使用できる。
  • 小学校低学年から中学校、高校まで幅広い学年、幅広い授業で使用できる。
  • 小型で一人一台の導入に最適。

このロボット「toio™ コア キューブ(以下、キューブ)」は光学センサを内蔵し、専用のマットと組み合わせることで、誤差蓄積がない絶対位置の取得や制御を実現しています。簡単な命令で指示どおり繰り返し正確に動くため、ロボット制御のための微調整の作業が不要で、アルゴリズムの学習に集中して取り組むことができます。

また、キューブは、ブロックや工作物を自由に取り付けてテーマに合わせた形に変えられるほか、タブレットPCとBluetoothで通信し、自由にプログラミングを行うことができます。多様なプログラミング言語をサポートしており、Scratch3.0と同じブロックを使用したブロックプログラミングだけでなく、JavaScriptやPythonなどのテキストプログラミングも使用することができる。幅広い学年、幅広い授業で使用することが可能なプログラミング教材です。

「toio™カリキュラム ロボットとまなぼう」

toio™カリキュラム「ロボットとまなぼう」とは、toio™ を使用したカリキュラムをまとめたサイトです。小学校、中学校、高等学校で使用できるカリキュラムを無償で公開しており、中学校技術において、技術の見方・考え方を働かせ、問題を見いだして課題を解決する、自由な発想力や創造力を育てるカリキュラムも公開しています。また、すぐに授業で使用できるサンプルプログラムやその解説のほか、toio™の基本的な使い方、運用方法なども公開しています。

授業の内容については、第2回で紹介します。

工学博士 足利昌俊(あしかが まさとし)

株式会社内田洋行 教育総合研究所 主任研究員
国立大学法人福井大学 教育・人文社会系部門教員養成領域 特命講師

東京大学大学院 太田研究室にて、生物の脳・神経活動をシステム工学の視点で解析し、人工知能に応用する研究で博士号を取得。その後、株式会社内田洋行にて公教育における教材の研究・開発を携わる。2022年からクロスアポイントメント制度で、福井大学にて、探究型STEAM教育の研究も行う。

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