意外と知らない"中学校技術分野とプログラミング授業"(第2回) 福井大学教育学部附属義務教育学校の学習展開

第1回で紹介したように、福井大学教育学部附属義務教育学校(以下、福井大学附属)では、8年生の3月から9年生の10月にかけて、下記の4つの単元で、D「情報の技術」の授業を行っており、私はT2として授業実践を進めています。第2回では、T1の高井茂嘉先生のコメントとともに学習展開を紹介し、情報教育の展望についても考えたいと思います。
1.コンピュータの仕組みを解明しよう!(3月)
生活や社会を支える情報の技術
時 | 学習内容 | 学習活動 |
---|---|---|
1 | 自分の目的に合ったコンピュータを探そう | 様々なコンピュータの中から、性能や仕組みの違いを比較しながら調べていく。 |
2 | コンピュータで使われている情報とは何だろう | デジタル情報の特徴を調べ、データ処理方法について考えていく。 |
3 | Web ページの仕組みとは何だろう | 情報通信ネットワークの構成や仕組みなどを調べていく。 |
4 | 情報を正しく使うために大切なことは何だろう | 現在社会において情報モラルの必要性を調べていく。 |
コンピュータや情報通信ネットワークの仕組みについて、ワークシートを活用しながら学習を進めます。
情報の技術の見方・考え方に気付き、情報の技術に込められた工夫を読み取る力を養います。教科書の内容の知識を習得するだけでなく、この後の授業で問題を見出して課題を設定できるよう、授業設計を行います。
2.メッセージアプリを開発しよう!(4月)
ネットワークを利用した双方向性のあるプログラミングによる問題解決
時 | 学習内容 | 学習活動 |
---|---|---|
1 | 双方向性のあるプログラムとは何だろう | 簡単なメッセージアプリをプログラミングしていく。 |
2 | 使用者目線のメッセージアプリを開発しよう | 使いやすさや分かりやすさを考えながら、使用者の目的に合わせたメッセージアプリをプログラミングしていく。 |
3 | 情報セキュリティについて考えよう | メッセージアプリにID やパスワード、暗号化などセキュリティに関する機能をプログラミングしていく。 |
1時間目は、プログラミングアプリ「toio Do」の双方向性拡張機能を使用し、簡単なメッセージアプリの制作を行います。たった8個のブロックで作成できるため、Scratchが初めての生徒でも簡単に作成可能です。
2時間目は、情報技術の見方・考え方を働かせ、前時に作成したメッセージアプリの問題点を見出し、効果音、メッセージの翻訳、合成音声(メッセージの読み上げ)などの機能を用いて、課題解決に取り組みます。
3時間目では、作成したメッセージアプリを使用し、情報セキュリティに関する体験型の授業を行います。なりすましの危険性やパスワードの重要性、ネットワーク盗聴の危険性などの問題について、どのように解決を行うべきかを一つ一つ議論し、実際にアプリの改変を行います。
問題点 | 解決方法 |
---|---|
誰から届いたメッセージかわからない。 | 受信パケットのヘッダー情報から、送信者のIPアドレスを取得し、メッセージの送信者に応じてアイコンが自動的に変わるように改変した。 |
なりすましができた。 | 個人認証サーバを使用し、IDとパスワードでログインしないとメッセージの送受信ができない仕組みに改変した。 |
個人認証サーバのパスワードが簡単であったため、他人に解読されてしまった。 | 危険なパスワードとは何か、パスワードの管理方法はどのようにすべきかを話し合い、適切なパスワードの運用を行った。 |
「ネットワーク盗聴」の危険性に対応していない。 | パケットを暗号化し、送信する仕組みに改変した。 |
-
IPアドレスを使用したメッセージの送信ブロック
-
受信メッセージ(パケット)のヘッダー情報参照のブロック
-
メッセージの暗号化(シーザー暗号)のブロック
高井先生のコメント
今回の授業で使用したプログラミングアプリ「toio Do」の双方向性拡張機能は、非常に簡単に扱うことができました。基本のメッセージ交換アプリはすぐに作成できたため、ソフトウェアの操作説明に多くの時間を割く必要がなく、生徒自身が考え、手を動かす時間を多く確保できた点が非常に良かったです。
また、基本のメッセージ交換アプリの作成後に行った問題解決の活動では、生徒一人ひとりが異なる問題設定を行い、それぞれ異なるアプリを作成していたため、多様性のある学びを実現できたことも大きな成果でした。
探究的な活動だけでなく、知識や技能の基礎についても、しっかりと身に付けることができました。座学ではなく、実際に手を動かすことで、学びを自分事として捉えることができた点も印象的でした。「ネットワークを利用した双方向性のあるプログラミング」というテーマを、限られた3時間という授業時数の中でここまで深く学べたことは、大きな成果であったと感じています。
3.未来を創る自動化システムをプログラミングしよう!(5月)
計測と制御のプログラミングによる問題解決
時 | 学習内容 | 学習活動 |
---|---|---|
1~2 | プログラミングの仕組みを考えよう | 基本的な処理を使って、様々な課題に対してプログラミングを通して解決していく。 |
3 | 身の周りの自動化システムを調べよう | 身の周りに存在する自動化システムを探し、その仕組みや処理の方法を調べていく。 |
4~8 | 自動化運転システムをプログラミングしよう | 自分たちで課題を設定し、toio を使い解決に向けたプログラミングをしていく。 また、自分たちのプログラムをグループで話し合ったり、全体で共有したりしながら、よりよいプログラムへと改良を加えていく。 |
1~2時間目に、toioカリキュラムの「ロボットを動かそう」を使用し、ロボットの基本動作を学ぶと同時に、プログラミングの基本である「順次」「反復」「分岐」や、迷路探索の基本アルゴリズムである「右手法・左手法」をアクティビティ図を使用して学習します。
順次 | 「1マス進む」「右をむく」「左をむく」などの基本動作のブロックを組み合わせ、キューブをゴールに到達するプログラムを作成します。作成したプログラムを作って実行し、動作と照合することを通して、プログラムは上から順に処理されることを学びます。 |
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反復 | 「〇回繰り返す」のブロックを使用し、同じ動作を繰り返すアルゴリズムを作成します。順次処理で同じ動きを実現する場合のプログラムと比べ、繰り返しの処理によって、プログラムを簡略化できることを学びます。 |
分岐 | 前方のマスに障害物が「ある場合」、もしくは「ない場合」の条件を使用したアルゴリズムを作成します。一方向のみに曲がる迷路の場合は、簡単なアルゴリズムでゴールに到達できることを学びます。 |
右手法・左手法 | 分岐のプログラムでは、「右だけ」や「左だけ」の一方方向にのみ曲がる迷路しか使用できません。そこでもっとも簡単な迷路探索アルゴリズムとされている「右手法・左手法」を学習します。「右手法・左手法」とは、ロボットに対して左右どちらかの障害物を有無を確認し、障害物をたどってゴールを探索するアルゴリズムです。最初に先生が実行したロボットの動きを観察し、生徒に「右手法・左手法」のアクティビティ図を考えたのちに、プログラムの作成を行います。 |
3時間目に、「計測と制御のプログラミング」による問題解決型の授業展開として、生徒自身が移動ロボットを使用した自動化システムに関する問題設定を行います。自動配送ロボットや自動配膳ロボットなどの身の回りの自動化システムについてグループで調べ、課題の設定を行います。
4~8時間目には、ロボット制御の基本プログラムの作成後、toioに搭載されているさまざまなセンサによって計測した情報や、「双方向性通信」による注文アプリの使用を通じて、より高度な自動化システムの構築に挑戦します。
【基本プログラム】下記の3動作をずっと繰り返す。
- 配送センターで荷物を受け取り、配送先の指示を受ける。
- 配送先に移動し、荷物を降ろす。
- 荷物を降ろしたら、配送センターに戻る。
光学センサで荷物が載せられたことを認識し、下のキューブで指定の場所まで移動し、上に乗せたキューブのタイヤを使用して自動で荷物を降ろすプログラム
高井先生のコメント
基本となる「順次」「反復」「分岐」といったアルゴリズムの学習から始まりましたが、授業の中で生徒たちから「どんな迷路でもゴールに到達できるアルゴリズムを作りたい!」という声が上がり、主体的な問いによって学びがより深まっていきました。ロボットの制御においても、誤差が少なく、「1歩進む」「右に曲がる」といった動作が、たった1つのブロックで簡単に実現できるため、非常に授業が進めやすかったです。
また、「計測と制御」の学習では、toioに搭載されている豊富なセンサーについて説明した上で、それぞれが異なる課題に取り組むことができました。例えば、「回転寿司のロボットで、自動的にお皿を降ろしたい」や「リモコン(micro:bit)でロボットに命令を出したい」といった、教師の想定を超えるような自由で創造的な発想が多く見られ、大変驚かされました。
4.想いをかたちに!プログラミングで挑むロボットダンス!(7~10月)
研究開発校としての新規開発授業(発展)
令和6年度の作品例(※音声を削除してますが、CUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」が流れています。)
これまでの学びを総括し、「社会の発展と情報の技術」についてまとめた後、学んだ知識をいかして創作活動を行います。この単元では、STEAM教育における「Art(芸術)」の要素も取り入れ、人を喜ばせたり楽しませたりすることを目的とした創作活動を展開しました。
「双方向性通信」と「計測と制御」の両方の知識を活用して、グループで協働しながらロボットダンスを題材に創作活動を行います。
時 | 学習内容 | 学習活動 |
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1 | 最終課題を考えよう | これまでの学びを振り返って、toio を使って新たな問題解決ができないか話し合う。 |
2 | 最終課題の構想を考えよう | 絵コンテを用いて構成やコンセプトを制作し、今後の見通しを立てていく。 |
3~6 | 最終課題を解決するためのプログラミングしよう | 目的に沿ったプログラムを制作していく。 また、自分たちの制作したプログラムをロボットの実装とともに共有しながら、よりよい動きへと改良を加えていく。 |
7 | これからの情報化社会について考えよう | これまでの学びを振り返り、よりよい生活の実現や持続可能な社会の実現に向けて、情報技術との関わり方について考えを深めていく。 |

授業風景
1~2時間目に、グループに分かれて、ロボットダンスの構想を練ります。
3時間目から複数台のロボットが同期をとり、ダンスを行うプログラムの作成に取り組み、6時間目に完成した作品の動画を撮影し、最終発表を行いました。
7時間目に、これまでの学びを振り返り、よりよい生活の実現や持続可能な社会の実現に向けて、情報技術との関わり方について考えを深めていき、中学校技術分野における情報の技術、プログラミングの授業を総括します。
令和6年度の作品例2「フライドポテト」(音楽も生徒が作曲)
高井先生のコメント
生徒たちが自分の「やりたいこと」を表現することを通して、非常に楽しく授業を進めることができました。ダンスにとどまらず、寸劇や作曲に取り組むグループもあり、それぞれの個性が活かされた創作活動となりました。
これまでの経験では、プログラミングやロボットに関する授業は女子生徒の関心があまり高まらないことが多かったのですが、今回の創作活動では、バックミュージックの選定にこだわったり、ロボットのデコレーションを楽しんだり、動画撮影とその共有に積極的に取り組んだりするなど、むしろ女子生徒の方が主体的に楽しんでいる様子が見られました。
試行錯誤を何度でも気軽に行うことができる環境の中で、生徒たちは失敗を恐れず、笑い合い、喜び合いながら活動しており、私自身も授業を心から楽しむことができました。
このロボットダンスの授業は、グループでの協働的な探究学習の視点からも、非常に有意義な内容であったと感じています。
※本授業内容の詳細は、東京書籍技術分野指導書「プログラミングの手引き編」、開隆堂出版技術分野学習指導書「実践事例編」をご覧ください。
情報教育の加速に向けて
小学校では2020年度からプログラミング教育が始まり、GIGAスクール構想(GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略)により、全国の児童・生徒に一人一台端末が配布され、ネットワーク環境の整備も進められました。
高等学校では2022年度から、プログラミングやデータサイエンスに必要な統計処理、情報リテラシーなどの知識を学ぶ「情報Ⅰ」が必修科目となり、2025年1月に行われた大学入学共通テストでは、新設された「情報Ⅰ」を約28万人が受検しました。
学習指導要領では、「情報活用能力」は、言語能力と並ぶ「学習の基盤となる資質・能力」として明記されており、各学年が連続性を持ち、体系的かつ系統的に、かつ教科を横断した形で指導を行うことが求められていますが、分散的な実施となっている学校もあり、次期学習指導要領では、探究的な学びとの連携による改善が検討されています。
なお、小学校段階でのプログラミング教育の目的は、プログラミング言語を習得したり、スキルを身につけたりすることではなく、既存の教科の中で「プログラミング的思考」を育てることとされています。2020年発行の文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」には、プログラミング教育のねらいとして、下記の3つが書かれています。
- 「プログラミング的思考」を育む
- プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータ等の情報技術によって支えられていることなどに気付くことができるようにする。
コンピュータ等を上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりしようとする態度を育む。 - 各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、各教科等での学びをより確実なものとする。
「技術分野」の教員養成
2024年の文部科学省の調査により、中学校における「技術分野」の教員のうち約23%が正規の教員免許を持っていない「免許外教科担任」や、期間限定の「臨時免許」所有者という実態が明らかになり、免許認定講習、複数校指導、遠隔授業などにより、2028年度にはゼロにするという目標が示されました。
では、なぜ技術の正規教員が不足しているのでしょうか。その背景には、技術教員の正規採用数が他の教科と比べて少ないことや、教育学部における教員養成課程で技術を選択する学生が少ない傾向にあることが挙げられます。技術科は他の教科に比べて授業数が少ないため、他教科が専門の教員の兼務で対応しようとするケースが多くなり、それが正規採用数の減少につながっています。その結果、教育学部で技術を選択する学生の減少にも影響していると考えられます。
また、教育学部における教員養成課程では、学生が演習の多い技術、家庭、情報、理科などの教科を敬遠する傾向があることも指摘されています。教員免許を取得するためには、教科ごとに必要な単位数が定められていますが、講義形式の科目が2単位であるのに対し、演習形式の科目は1単位とされており、授業回数が多くなる傾向があります。そのため、演習形式の科目が多い教科は学生にとって負担が大きく、選択を避ける傾向があるようです。
このような状況を受けて、文部科学省では教員の養成・採用・研修の在り方についても見直しを進めており、理科や技術、家庭、情報など実習が多く求められる教科において、科目区分や内容の適切なあり方を検討しています。技術の教員数が増加し、中学校での情報教育の質も大きく向上することが期待されています。
関連情報

高井 茂嘉先生
高井 茂嘉(たかい しげよし)
福井大学教育学部附属義務教育学校 後期課程 技術科教員
2003年より中学校・小学校にて教員として勤務し、学級経営および技術科教育に従事してきた。2020年からは福井大学教育学部附属義務教育学校に赴任し、協働的な探究学習を基盤とした授業実践を展開している。教育実践と並行して、技術科教育におけるカリキュラム開発、教材設計、評価方法に関する研究を継続的に行っている。特に、生徒の主体的な学びを促進する授業デザインや、探究的な学びを支える指導法の構築に注力している。また、福井県技術・家庭科研究会の研究部長として、県内における技術・家庭科教育の研究推進に取り組み、実践と理論の往還を図っている。

工学博士 足利昌俊(あしかが まさとし)
株式会社内田洋行 教育総合研究所 主任研究員
国立大学法人福井大学 教育・人文社会系部門教員養成領域 特命講師
東京大学大学院 太田研究室にて、生物の脳・神経活動をシステム工学の視点で解析し、人工知能に応用する研究で博士号を取得。その後、株式会社内田洋行にて公教育における教材の研究・開発を携わる。2022年からクロスアポイントメント制度で、福井大学にて、探究型STEAM教育の研究も行う。
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