2024.10.14
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

意外と知らない"大学入試"(第1回) 2020年度から始まった大学入試改革

皆さんは大学入試と聞くとどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。大学入試は、文部科学省による高大接続改革に伴う大学入試改革の一環として、2020年に大学入試センター試験に代わる大学入学共通テストが開始し、入試区分が一般入試・AO入試・推薦入試から一般選抜・総合型選抜・学校推薦型選抜へと変更となり、入学者に求める学習成果において学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)の考え方がより明確に盛り込まれるなど、初等中等教育の政策ともリンクし、多様な動きを見せています。
直近では、2025(令和7)年度入試で教科「情報」が大学入学共通テストに追加されることや、理工系学部の募集に女子枠を設置する大学が増えているなど、現在進行形で変化しています。
中央教育審議会での議論等を経て、法改正も伴い動き続けている大学入試ですが、それらの動きを踏まえ、各大学が入試を実施していくにあたり、各年度の入試実施の大方針とすべき文書のひとつに文部科学省が公表する「大学入学者選抜実施要項」があります。今回は、この文書の内容を見ながら一般的な入試の流れや近年の大学入試の動きをあわせて見ていきたいと思います。

1 大学入学者選抜実施要項について

「大学入学者選抜実施要項」(以下「実施要項」)ですが、こちらは毎年6月初頭に文部科学省高等教育局大学教育・入試課大学入試室より公表される文書です。各年度の大学入試のルールブック的な位置づけとなり、各大学は本要項に従い、当該年度の入試を実施します。

2024年10月時点の最新版である、2024年6月5日付の「令和7年度大学入学者選抜実施要項」(以下「令和7年度実施要項」)に記載されている内容について主だったところを見ていきたいと思います。

なお、入試の年度の呼び方は、入学する年度を示しています。例えば、「令和7年度入試」であれば令和7年度に入学する受験生向けの試験となります。(文部科学省の資料では、「令和〇年度実施」という、入学年度ではなく入試自体を実施する時期を用いた表記も使われることもあります。)

(1)各入試区分と実施時期

大学入試の1年の流れ

※2025(令和7)年度入試の場合

ⅰ)総合型選抜

本選抜は、旧AO入試の流れを引き継ぐもので、詳細な書類審査や面接等を組合せて入学志願者の能力、意欲等を評価・判定する入試区分となります。令和7年度実施要項では、実施のスケジュールについて以下のように定められており、最初に募集、実施がされる入試区分です。

 入学願書受付:9月1日以降
 判定結果発表:11月1日以降

ⅱ)学校推薦型選抜

こちらは、高等学校が在学中の学習成果を評価した上で、学校長が大学に対して行う推薦に重点を置いた試験区分となります。本入試区分のスケジュールは以下のように定められています。

 入学願書受付:11月1日以降
 判定結果発表:12月1日以降

総合型選抜、学校推薦型選抜ともに、個別学力検査、大学入学共通テストの利用、小論文・面接、資格試験の結果等のいずれかを活用し、学力の検査を必ず実施することが求められています。以前のAO入試、推薦入試の時代には、入学者選抜実施要項にこれらの記載がされていない時期もありましたが、大学に入学する者としての学力担保の一環として、現在ではすべての入試区分で記載されるようになりました。

なお、総合型選抜、学校推薦型選抜は年内に実施・結果がわかるケースが多いことからこれらをあわせて「年内入試」と呼ばれることもあります。

ⅲ)一般選抜

こちらは、大学入学共通テストや各大学が実施する教科・科目に係るテスト等に重点を置いた入試区分です。ひと昔前は、大学入試というとこの入試区分による試験が大半でした*ので、大学入試と聞いてこの入試区分を思い浮かべる方も多いかと思います。本入試区分のスケジュールは以下のように定められています。

 個別学力検査の試験期日:2月1日~3月25日
 合格者の決定発表:~3月 31 日

国立大学や公立大学は実施要項に加え、それぞれ入学者選抜についての実施要領が公表されており、各大学はそれらに従い試験を実施します。また大学入学共通テストを活用する大学向けの実施要項があります。

*例えば2000年度入試では、一般入試65.8%、推薦入試31.7%、AO入試1.4%、その他(専門高校・総合学科卒業生入試、社会人入試、帰国子女・中国引揚者等子女入試など)1.1%でした。(n=592,878人)

(2)三つのポリシー

実施要項には「アドミッション・ポリシー」という言葉が多数登場します。この言葉は、大学における教育方針を示す「ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)」、「カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・ 実施の方針)」、「アドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)」のいわゆる「三つのポリシー」の1つです。

「ディプロマ・ポリシー」はどのような力を身に付けた学生に学位を授与し卒業させるかを、「カリキュラム・ポリシー」はそういった学生を育てるためにどのようなカリキュラム編成としていくかの方針を、「アドミッション・ポリシー」はさらにそのカリキュラムを履修していくにあたり、入学する学生にどのような学習成果を求めるかを示したものです。

「三つのポリシー」については、大学において策定し、運用していくことの重要性が中央教育審議会でも度々議論され、各大学の判断にて作成・運用がされていましたが、2017(平成29)年に学校教育法施行規則が改正され、各大学は「三つのポリシー」を策定し、公表することが義務付けられました。学校教育法施行規則改正の前年である2016年には、各大学がこれらを一貫性のあるものとして策定・運用ができるようガイドラインが中央教育審議会により公表されました。

このうち、アドミッション・ポリシーが求める「学習成果」は、実施要項等では①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性を持ち、多様な人々と協働しつつ学習する態度とされております。これらの観点は、「学力の3要素」として長らく中央教育審議会等でも議論をされてきた内容であり、2020年度から順次実施されている小学校、中学校、高校の新学習指導要領でも3つの柱として整理され、具体的に指導・評価が実践されている内容となります。このことからも大学入試が初等中等教育とも密接に連動していることがわかります。

(3)入試区分毎の大学入学者数

多様な入試区分での入学者の評価が進む中、近年では、総合型選抜、学校推薦型選抜による大学への入学者が約半数にのぼるとの調査結果が出ています。

これは、入学者の学習成果を多面的・総合的に評価することが求められるようになったことのほか、18歳人口の減少により大学間での学生獲得競争がより熾烈になっており、早期に学生を確保できる総合型選抜、学校推薦型選抜の活用が進んでいることが考えられます。

学校推薦型の募集人数は、学部等募集単位ごとの入学定員の半数以下と定められていますが、近年、首都圏では系属校になるなど「特定の私立大学への推薦枠」を持つ私立の中高一貫校が増えているというニュースを目にしたこともあるのではないでしょうか。

18歳人口の減少は以下に示すとおり、2008(平成20)年には124万人でしたが、2023(令和5)年では110万人となっており、ここわずか15年で10%以上減少しています。

大学進学率の上昇もあり、大学入学者数はここ数年横ばいを示していますが、多くの大学は学生確保に苦労をしており、2024年9月13日に日本私立学校振興・共済事業団が公表したデータによると私立大学の約6割が定員割れをしているとのデータが示されています。学生募集を停止する大学も出てきています。

今後の推移をみますと、さらに15年後の2038年では86万人となり、現在より20%以上落ち込む見込みとなっており、さらに厳しい状況となることから、留学生の拡大など各大学による入学者確保に向けた取組が加速することが予想されます。

なお、日本学生支援機構が実施している「外国人留学生在籍状況調査」によると、2023年5月1日現在の外国人留学生数は約28万人で、日本政府は2033年に40万人まで拡大する目標を掲げています。

2 大学入学共通テストと大学入試におけるCBTについて

近年の大学入試に係る大きな動きとしては、2020年度入試から大学入学共通テストが開始したことが挙げられます。大学入学共通テスト開始にあたっては、記述問題や英語の外部検定試験活用など様々な検討がなされ、世間からも大きな注目を集めましたが、そのひとつとしてCBT(Computer Based Testing)化の検討も進められました。大学入学共通テストのCBT化については、国内外の各種試験のCBT化の動向を踏まえ、高大接続改革や情報教育の振興といった観点から大学入試センターによって検討が進められました。

検討の結果として、大学入学共通テストでは、単なる学力試験・調査等をはるかに超える実施水準が求められることや、受験環境、トラブルが生じた場合の対応体制の構築、CBTを用いることによる社会全体の理解など数々の課題を高いレベルで克服する必要があり、CBT導入については引き続き調査研究に取り組んでいく、という結論が出されました。

このように大学入学共通テストでは見送られたCBT化ですが、大学入試以外の各種試験では、基本情報技術者試験や実用英語技能検定(英検)などすでに大規模でCBTで実施されている試験があるほか、司法試験が2026年度からデジタル化すること、全国学力・学習状況調査が2027年度から全面的にCBTで実施することが決定するなど、各種試験でCBT化の流れが加速しています。こうした中、個々の大学でも、CBTを活用した入試の事例が出てきています。次回は、この点について掘り下げて紹介します。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 櫻井 賢治

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop