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教育インタビュー

2018.07.18
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池田 伸子 グローバル人材の育成を語る。

言語はツール。文化の違いを乗り越えるには、他者との摩擦を恐れない強さも必要です。

池田伸子氏は立教大学の国際化推進を担う副総長。同大学の異文化コミュニケーション学部では2008年の開設時から教鞭を執り、多くの学生を次々に社会へ送り出している。法務省の発表によると、日本に在留する外国人の数は増加の一途を辿り、2017年末には過去最高を更新。もはや多文化共生社会の実現は急務となっている。これからの時代に求められるグローバル人材や、その育成に高等教育が果たす役割、立教大学や異文化コミュニケーション学部の取り組みについて、池田氏に語っていただいた。

多文化共生社会の担い手となる人材育成を

学びの場.com社会のグローバル化が進み、日本でも多文化共生の重要性が叫ばれています。

池田 伸子最近、特にクローズアップされているのは、外国にルーツを持つ子どもの問題です。私はかつて日本語学校で教師をしていました。当時の生徒は自分の意思で日本へやってきた大人でしたから、こちらが少し手を貸すだけで、異文化の中で生活する困難を乗り越えられていましたが、子どもの場合、もっと大きなサポートが必要です。ボランティアの方々や小中学校の先生方に話を聞くと、放課後に日本語指導や学習支援のための居場所づくりをしようにも、周囲の協力が得られず、思うように進まないことも多いと言います。これは、多文化共生の重要性を頭で理解していても、実際に自分がそうした状況に置かれた時、「こうすべきだ」と思っていた行動がとれないためです。自分にも起こり得る問題であることに気づいていない人が、まだまだ多いと実感しています。

学びの場.comそんな中、日本の高等教育には、どのような人材育成が求められているのでしょうか?

池田 伸子これから国境を越えた人の行き来はますます活発になり、AIやビッグデータなどのテクノロジーもどんどん進化していくでしょう。そんな社会の変化を敏感に察知し、言語や文化が異なる多様な人々の価値観を受け入れ、協働しながら、その場その場の課題に柔軟に対応していけるような人材を育成することが求められると思います。

学びの場.com立教大学は育成すべき人物像として「グローバルリーダー」を掲げています。あえて「リーダー」としたのはなぜですか?

池田 伸子多様なバックグラウンドを持つ人々と協働していくためには、チームをまとめて皆の力を引き出すリーダーシップが求められるからです。と言っても、先頭に立って皆をぐいぐい引っ張っていくような、画一的なリーダーの育成を目指しているわけではありません。状況によっては、誰かのサポートをすることが必要な場合もあるでしょう。その時々で自分に求められている役割を理解し、それを果たしていける人。学生一人ひとりを、そんなしなやかなグローバルリーダーに育てることを目指しています。

学びの場.comそうした人材を育成するために、大学全体で特に力を入れていることは?

池田 伸子語学の習得や留学などの海外体験に加えて、リーダーシップをスキルとして身につける本学独自の「グローバル・リーダーシップ・プログラム(立教GLP)」を展開しています。全学部生が履修できる全学共通科目の積み上げ式プログラムで、少人数のグループワーク形式により課題解決に取り組みます。国内での日本語と英語でのプログラム、海外でのプログラムと段階を踏むことで、どのような状況でも適切にリーダーシップを発揮できるようなトレーニングを積めます。

学びの場.com科目ごとに与えられた知識を詰め込むことに終始しがちな高校までの学びとは、大きく異なりますね。

池田 伸子そもそも大学は探究的な学びが展開されるべき場所。学んだことを自分の中に引き出しとして増やしていき、それを色々な分野と関連づけ、臨機応変に活用して課題解決に役立てられるような学びを重視しています。

学びの場.com立教大学の中でも、異文化コミュニケーション学部は非常に高い入試倍率を示しています。人気の理由はどこにあるのでしょう?

池田 伸子全員留学を打ち出した異文化コミュニケーション学部は、本学の国際的なイメージを象徴するような学部だからではないかと思います。観光学部など他にもグローバル系学部はありますが、本学部は言葉を使ったコミュニケーションを軸に、通訳・翻訳や国際協力・開発、言語教育といった切り口で異文化同士をつなぐ架け橋となるような人材の育成を行っている点が特徴です。日本語で論理的に考え、表現する力や、英語で読み、書き、対話する力を鍛えながら、もう一つの言語と文化について学び、他者を多角的に理解する力を身につけます。

学びの場.com2016年度には学部内にDual Language Pathway(DLP)という選抜コースが設けられました。その目的は何ですか?

池田 伸子一つは、海外の大学院で学んだり、海外の企業で活躍したりできる人材の育成です。日本語の力を磨くと共に、専門科目をすべて英語で学び、卒業研究(論文)も英語で作成することで、より高度な英語力を身につけることを目指しています。もう一つは、外国人留学生を増やし、学部内の多様化を図ること。日本語を母語としない学生は、1年次から集中的に日本語を学習することで、高度な日本語力を身につけることができます。DLPは主に秋季の国際コース選抜入試に合格した学生を対象としていますが、一般入試で入った学生でも1年次の終わりに一定の条件をクリアしていれば編入が可能です。

知識と体験を結びつける実践的な学び

学びの場.com異文化コミュニケーション学部の海外留学研修は最短でも半年、DLPでは1年とのこと。学生にはどんな変化が見られますか?

池田 伸子日本国内ではマイノリティになる経験はできませんし、親元を離れたことのない学生にとっては、何から何まで自分一人でやらなくてはいけない生活も初めてのこと。学生達はある程度の語学力を身につけた上で留学に臨むのですが、それでも思いもよらない挫折を味わうことがあります。

学びの場.comどのような挫折体験ですか?

池田 伸子例えば、韓国に留学したある学生は、カフェでアイスティーを注文したのに買うことができませんでした。甘さの度合いを尋ねられていたのですが、その時は何回聞き返してもわからなかったため、あきらめたそうです。また、フランスに留学した学生も似たような経験をしています。買い物をしたスーパーのレジで店員から何か聞かれるが、わからない。実は、店が来客の地域属性を調べるため郵便番号を質問していたのです。

彼らはこのような体験によって、他者とコミュニケーションをとるためには、その国の文化や習慣を知ることも必要だと身をもって感じたようです。帰国後、自身の体験を振り返り、どう対応すればよかったか等を考え、その後の学びにつなげています。

学びの場.com貴重な体験を積むのですね。

池田 伸子「語学」「コミュニケーション」というとソフトな印象がありますが、価値観の違いを乗り越えていくためには、そうした思いがけない出来事や他者との摩擦にもたじろがない強さも必要です。そこで本学部では、留学とは別に、発展途上国や狩猟を生活の糧にしている人々の生活を体験できるプログラムも設けています。スイッチを押せば電気がつき、蛇口をひねれば水が出てくる日本の生活は当たり前のものではないと知ること。違う人間同士が100%理解し合うことは不可能だとわかった上で、よりよい関係を築くために試行錯誤すること。そんな経験を通してタフな精神力を身につけてほしいと考えています。

学びの場.com多文化共生を知識と体験の両面から学び、実践に結びつけていくと。

池田 伸子異文化コミュニケーション学部は1学年145人と規模が小さく、1学年全員が一つの教室に集まって学ぶことも可能なので、一人ひとりの海外体験をシェアして皆が気づきを得ることもできます。4年間を無為に過ごして卒業する、という事態には陥りにくい学びの仕組みがあるので、個人差はあるにせよ、皆、大きく成長して巣立っていっています。

学びの場.comそうして身につけた力を、卒業生達は実社会でどのように発揮しているのでしょうか?

池田 伸子就職先で多いのは、海外勤務のチャンスの多い航空会社や旅行会社。日本の良いものを世界に発信したいと、メーカーの営業や企画を目指す学生も多いです。最近では、新たな価値を生み出すベンチャーやIT関連企業への就職も増えています。いずれも語学力、コミュニケーション力、タフな精神力、課題解決力、リーダーシップなど、本学部で身につけた力を活かせる場だと思います。

グローバル系学部選びのポイントは「科目」と「規模」

学びの場.com他大学にもグローバル系学部は多数あります。大学・学部選びで留意すべきポイントは?

池田 伸子グローバル系学部と一口に言っても、政治、経済など、学部によって軸となる分野があるはずですから、科目のラインナップを見ていくとよいと思います。例えば、本学の異文化コミュニケーション学部は言語によるコミュニケーションを軸にしているので、「コミュニケーション」という言葉を冠した科目が豊富に用意されています。

もう一つ着目すべきは、学部の規模。4年間で何を身につけて社会に出て行くかを考え、それに沿って選択科目を選び、学んでいくことはとても重要です。しかし、学生自身が意識するだけでは、興味・関心のままに色々な分野をつまみ食いして、何も深く身につけることなく終わってしまう危険性もあります。本学もそうですが、学部の規模が大きすぎないことで、教員が学生一人ひとりに目を配り、要所要所で軌道修正をしやすいというメリットがあるのです。

学びの場.com異文化コミュニケーション学部のアドミッション・ポリシー に「入学者に求める知識・技能・姿勢・体験」が示されています。この中の「姿勢」について、もう少し詳しく教えてください。

池田 伸子「姿勢」の項目に「様々な文化背景・生活体験を有する人たちと良好な人間関係を構築し、協働的に作業ができる素地があること」とありますが、その評価基準は、他者の意見を受け止め、それを踏まえて自分の意見を考えられるかどうか。秋季入試では面接やグループ面接を取り入れ、好き勝手に自分の考えを述べるのではなく、他者の話を聞く姿勢を持てるか、他者の話にしっかりと耳を傾けて言わんとすることを理解できるか、という点を見ています。

学びの場.com最後に、立教大学への進学を目指す子を持つ保護者や進路指導教員へのメッセージを。

池田 伸子立教は、大学全体で国際化に力を入れており、すべての学生に世界への扉が開かれています。インターンシップから短期の海外体験、留学までバリエーションも豊富ですし、専属の国際交流コーディネーターを配置したグローバルラウンジでは、いつでも留学に関する相談が可能。外国人留学生も多く、様々な国際交流イベントも行われているので、学内でも異文化体験ができます。また、都心の大学には珍しく、池袋と新座にまとまった広さのキャンパスがあることも大きな魅力。空き時間に仲間とベンチに座って語り合ったり、学食で過ごしたりするひとときは、大学生活をいっそう充実したものにしてくれるでしょう。そんな活気あふれるキャンパスで、学生の皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。

池田 伸子(いけだ のぶこ)

立教大学 副総長(国際化推進担当)
1986年、国際基督教大学教養学部卒業。1997年、同大学大学院教育学研究科(視聴覚教育専攻)博士課程後期課程中退。2000年、博士号(教育学)取得。九州大学留学センター助教授を経て、2002年に立教大学経済学部助教授に着任。2004年、同教授。2008年、同大学異文化コミュニケーション学部教授。2012年、同学部長、異文化コミュニケーション研究科教授に就任。2018年より現職。

インタビュー・文:吉田教子/写真:言美歩

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