2018.08.01
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意外と知らない"大規模学力テスト"(第1回) 大規模学力テストの動向

毎年夏には全国学力・学習状況調査の結果が公表されます。また2020年、東京オリンピックの年に、大学入試、特にセンター試験が変わるということを聞いた方は多いのではないでしょうか。日本のこの2つの「大規模学力テスト」には、共通する学力観や狙いがあります。また、大規模学力テストの採点業務には、短期間に大勢の受検者の解答を統一した基準で採点するための、大規模ならではの工夫があります。大規模学力テストの実施や活用に関わる技術や運用面の仕組みについては、今後もテスト問題の多様化や受検層の広がりに応じて更なる進化が期待されます。今回の意外と知らないシリーズでは、3回にわたって大規模学力テストにフォーカスし、その狙いや気になる採点の仕組み、コンピュータを用いたテストの仕組みや採点システムについてご紹介します。

初回は、これまでの学びの場の記事をふりかえりつつ、日常的な学力テストから、代表的な大規模学力テストの動向についてお伝えします。

学校生活におけるテスト

テストというと何が思い浮かびますか。大人になれば、資格・検定試験等を自主的に受検しない限り、テストとは縁遠くなりますね。けれど昔も今も、子供たちの学校生活は、日常的にテストにあふれています。

身近なものとしては、単元別の理解度確認テストや、中間・期末試験といった定期テストがあります。

クラスや教科の担任がテストの採点を行う際には、児童生徒を指導する立場から、○や×だけでなく、答案へのコメント等が書き加えられて返却されることもしばしばあります。テストの返却後に、児童生徒が自身の課題に気づき、問いへの理解を深められるような配慮がなされるためです。教員もまた、テストの結果から単元ごとに児童生徒への定着度を確認することで指導方法を見直されることがあるでしょう。

このように日常的なテストは学習や授業改善に向けた児童生徒と教員のコミュニケーションの一環とも言えます。

日々のテストは学習促進のツールに

8月現在、夏休みを苦手分野克服のための期間と位置づけ、復習に励む児童生徒や、それを見守る保護者の方もいらっしゃることでしょう。成績表だけでは分からない具体的な苦手分野も、個々のテスト結果を見返すと分かります。「テスト勉強」という言葉があり、点数や成績順位が気になるのがテストですが、テストのために一夜漬けのような勉強をさせるのではなく、受け持つ児童生徒や我が子の学習促進にこそテストを活用したいと、多くの教員や保護者の方はお考えではないでしょうか。新しい学習指導要領でもうたわれる「生きて働く『知識及び技能』の習得」のためには、子供たちが自分のペースで、日々の学習に取り組むことが大切です。授業時間がアクティブ・ラーニングの場にシフトしていく一方で、子供たちがその基礎となる授業外学習を充実させていくことが望ましく、日々のテストには子供たちの授業外学習の促進剤としての機能が期待されています。

テストをより活用しやすくするための技術

現在も学校で実施されるテストでは筆記試験が大半であり、たくさんの紙がテストのために日々配布されています。当然のことながら紙で実施されるテストの結果は、答案内容の記録と管理が活用のネックになります。教員にとっては採点も相当な負担です。日々の学習に、テストをより活用するため、テストの実施と管理を容易にし、児童生徒や教員が必要なときに随時、テストの結果を振り返ることができるような技術が、学校現場にも徐々に広がっています。

たとえば、教員の説明や他の児童生徒の発表後、すぐに意見収集・簡単な確認テスト等が実施できるクリッカーや、1人1台タブレットを利用して、児童生徒が自分のペースで市販のデジタルドリルや教員作成の小テスト等の復習に取り組み、教員が個人やクラスの理解度を確認するなど、日常的なテストを活用しやすくするための技術が、これまでの学びの場.comの記事でも紹介されています。(記事の下部に関連記事のURLを掲載しています。)

  • クリッカーの例(EduClick)

    クリッカーの例(EduClick)

  • デジタルドリルの例(株式会社カルチャー・プロ「新・算数基礎がため」)

    デジタルドリルの例(株式会社カルチャー・プロ「新・算数基礎がため」)

大規模学力テストと教育改革

実は今、日本の学力テストは大きく変わろうとしています。「2020年度にセンター試験が変わる」ということは随分前からニュースやインターネットでも話題になっていますね。

「小1プロブレム」「中1ギャップ」という言葉があるように、幼・小、小・中間など学校段階間の接続の難しさと重要性についてはこれまでも意識されてきたことですが、今回は、学習指導要領改訂と連続したかたちで、高校→大学入試→大学のあり方を一括で改革しようという、「高大接続改革」が進められています。そして、義務教育段階から大学教育まで一貫して「社会とのつながりを意識した学び」の実現が目指されています。

社会とのつながりを意識した学びは「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」と呼ばれています。そこで想定されている社会は、グローバル化、少子高齢化、人口減少がさらに進んだ20年後の日本社会です。そのような社会を支える人材が身につけておくべき学力として「思考力、判断力、表現力」が重要視されています。子供が社会に出た後、国内外の多様な人々と働きながら、長い人生を豊かに生きる、そのために必要な学力と考えられています。

学力テスト、特に国が関与するような大規模学力テストには、テストの実施によって今後目指していく新しい学力がどのようなものかを知らしめ、学校教育と子供たちの学習へ、変化を起こすことが期待されてきました。抽象的な学力について、その力を発揮する場面を設定し評価することで、たとえ評価できる側面は限定的だとしても、受検者やそれを指導する教員が具体的な学力を伸ばすヒントを得ることができるのが学力テストです。

全国学力・学習状況調査

今年で12年目になる文部科学省が行う全国学力・学習状況調査。毎年4月に全国の小学6年生と中学3年生が一斉に調査問題に取り組みます。すべての公立小・中学校が参加するため、受検者数がそれぞれ100万人を超えます。まさに「大規模学力テスト」と言えるでしょう。この調査については、以前にも学びの場.comで詳細にご紹介しています。調査の特徴として、記述式問題(正答が1つではなく、様々なバリエーションの解答が想定される問題)の出題があります。

「意外と知らない"全国学力・学習状況調査"」でも触れていますが、この調査は3年おきにOECD「経済協力開発機構」が実施している国際比較学力テストPISA(Programme for International Student Assessment)の影響を受けています。PISA参加国は2000年の開始から年々増え続け、どの国も自国の成績を強く意識しています。先進国においてはPISA調査の成績が教育政策に少なからぬ影響を与えているようです。日本のみならず、世界の公教育システムがグローバル化への対応を求められていると言えます。(PISA調査については、篠原真子氏インタビュー記事もご覧ください。)

全国学力・学習状況調査は義務教育の現状把握と改善が主たる目的なのですが、悉皆(しっかい)調査として、該当学年の全ての児童生徒を対象に実施されていることもあり、受検する児童生徒への教育指導の改善にも役立てることが期待されています。問題作成や結果の分析を担う国立教育政策研究所では、2009年度から毎年、授業の改善・充実を図る際の参考となるよう,授業のアイディアの一例を示す「授業アイディア例」を教育委員会や学校に配布しています。また、自治体や学校でも調査結果を活用するための研修・ワークショップが広がりをみせています。

このような中、2018年度からは教育委員会や学校における調査結果の活用をより一層促進するために、結果提供が夏休み前の7月中下旬と1ヶ月程度前倒しになりました。それと同時に調査結果のより詳細な分析を目的として、解答類型(解答を分類するカテゴリー)は最大10個程度だったものが40個程度まで増やされました。

漢字の問題の解答類型の例(平成 29 年度 全国学力・学習状況調査小学校 国語 解説資料 P.37より)

漢字の問題の解答類型の例(平成 29 年度 全国学力・学習状況調査小学校 国語 解説資料 P.37より)

計算の問題の解答類型の例(平成 29 年度 全国学力・学習状況調査小学校 算数 解説資料 P.20より)

計算の問題の解答類型の例(平成 29 年度 全国学力・学習状況調査小学校 算数 解説資料 P.20より)

また、2019年度から毎年実施される国語、算数・数学、3年に1回程度の理科に加えて、これも3年に1回程度の実施ということで英語が追加されることとなり、今年の5月に英語の予備調査が実施されました。この英語調査の特徴は、学習指導要領で従来から示されている4技能のすべてについてテストを行うというところです。特に「話すこと」については、口述式問題という形式が初めて導入されることになりました。口述式問題の採点については、以前のフィージビリティ調査(実行可能性調査)で各学校での教員による採点が試行されましたが、採点基準の統一が難しいため、他の筆記テストと同様に委託業者が採点を行うことになりました。

大学入学共通テスト

2020年から実施される大学入学共通テストは、高大接続改革の中で、最も注目を集めるトピックです。現行の大学入試センター試験は、大学入学希望者の約8割、志願者数約56万人規模のテストです。利用大学は国立大学で100%、私立大学で約90%です。このように大学入試の基盤として機能しているセンター試験の改革により、高校の授業と高校生の学習態度に影響を与え、加えて各大学の個別試験や入試のあり方を新しい時代にふさわしいように変えていくことが大学入学共通テストの狙いです。(大学入学共通テストについては、大杉住子氏インタビュー記事もご覧ください。)

センター試験の前身である国立大学共通第一次学力試験は、入試問題から難問奇問を排除した良質な問題により高校段階までの基礎的学習到達度を判定するために1979年に導入されました。そのセンター試験が今、高大接続改革において、「思考力、判断力、表現力」を中心とした学力を評価するテストに変わろうとしています。

具体的には、国語と数学Ⅰへの記述式問題の導入と、英語4技能評価に向けた民間資格・検定試験の利用が始まります。また、マーク式問題のみの出題を継続する科目も含め、すべてに共通する方針として、問題の場面設定について、生徒の実生活における課題解決で「思考力、判断力、表現力」が発揮されるような場面が意識されています。

大学入学共通テストにおける記述式問題の導入で課題となるのは、自己採点と、文字を書くことが困難な受検生への配慮です。

自己採点用の資料の例(大学入試センター「自己採点用ワークシート【国語】」P.5より)

自己採点用の資料の例(大学入試センター「自己採点用ワークシート【国語】」P.5より)

センター試験の自己採点結果は、受検者の出願大学の決定に影響を与えます。2017年度試行調査では、具体例を含めた自己採点用の資料が準備されましたが、国語の記述式問題では67.0~77.4%の一致率となっています。国語の記述式問題については、マーク式問題の配点とは別に、段階別評価が採用されますが、受検者に対する採点基準の説明方法については検討を続けるとのことです。

センター試験においてはこれまでも必要に応じて、様々な受検上の配慮を申請することができましたが、記述式問題の解答で文字を書くことが困難な受検生に対しては、パソコンを利用した解答を認めることについて具体的な実施方法等が検討されています。

英語については、これまでのセンター試験では「聞く、読む」の2技能のみをテストしてきていました。リスニング導入時の経緯を踏まえ、さらに2技能を追加する試験を一斉実施することは難しいという判断がなされ、推薦入試等で活用されている複数の民間の英語資格・検定試験を審査のうえ、採用することになりました。ただし、2023年度までは、センターが作成する試験と民間資格・検定試験のうち、各大学でいずれか、又は双方を利用できることになっています。受検者が在学生の場合、原則3年生の4月から12月までの間に受検した2回までの結果を大学に提供することになります。今年3月には参加要件を満たしていると認定された23の資格・検定試験が公表されました。日本での実績があっても、4技能を一律に評価しない(筆記試験合格者のみに口述式試験を課す)場合は参加が認められないことなどが注目されました。

英語の民間資格・検定試験の活用方法については様々な課題があるとされ、現在も検討が続けられています。

さて、全国学力・学習状況調査において義務教育段階で導入され、定着してきた「思考力、判断力、表現力」を問う学力テストが、大学入学共通テストを皮切りに大学入試へ広がろうとしています。また、英語ではコミュニケーション能力育成の機能強化を目指した4技能テストが導入されることとなりました。日本の学力テストの問題に、多様な解答が存在し正解が1つではない「記述式問題」と受検者1人1人の「声」を解答とする「口述式問題」が広がろうとしています。

多様な解答が予想されるこれら2つのタイプの問題、大規模学力テストでの採点はどのように行えばいいのでしょうか。

内田洋行ではこれまで、全国学力・学習状況調査の中学校調査と、2018年度の英語予備調査を受託しています。次回は、その経験をふまえ、大規模学力テストにおける採点の仕組みについてご紹介いたします。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 足立智子

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