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2018.01.17
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大杉 住子  大学入学共通テストを語る。

大杉 住子 大学入学共通テストを語る。

質の高い入試問題には、高校生の学習意欲を引き出し、教師の指導改善を促す力があるのです。

大杉住子氏は大学入試センター審議役として、2020年度から始まる「大学入学共通テスト」の作問業務を担う大学入試改革のキーパーソン。記述式問題の導入、英語4技能の評価など、現行の大学入試センター試験から大きく変わる共通テスト。実施方針の発表と試行調査の実施によって、気になる詳細が明らかになってきました。その意義や問われる力、モデル問題のねらいとは? 導入に備え、子ども達の学びや教師の指導はどう変わるべきか? 共通テストが高大接続改革に果たす役割とは? 最新情報を交えて大杉氏に解説いただきました。

大学入学共通テストの概要(※平成29年7月13日文部科学省公表「大学入学共通テスト実施方針」をもとに作成)

【実施開始年度】
2020年度から
※新学習指導要領に基づく2024年度以降の実施方針は2021年度をめどに策定・公表予定

【日程】
1月中旬の2日間

【出題教科・科目】
現行の学習指導要領に基づく出題教科・科目は現行のセンター試験と同じ6教科・30 科目(国語[1科目]、地理歴史[6科目]、公民[4科目]、数学[4科目]、理科[8科目]、外国語[5科目]、専門学科に関する科目[2科目])

※新学習指導要領に基づき2024年度以降は科目の見直しを検討

【出題形式】
国語・数学でマーク式問題に加えて記述式問題を導入

国語:
・記述式問題の出題範囲は古文・漢文を除く「国語総合」

・記述式問題は80~120字程度の問題を含め3問程度。マーク式問題からは独立した大問で出題

・試験時間はマーク式問題と合わせて100分程度(現行80分)

数学:
・記述式問題の出題科目は「数学I」「数学I・数学A」、出題範囲は「数学I」

・記述式問題は3問程度。大問の中にマーク式問題と混在して出題

・試験時間はマーク式問題と合わせて70分程度(現行60分)

【英語の実施方法・評価】
・共通テストの枠組みにおいて民間の資格・検定試験を活用し、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を評価。大学入試センターにおいて「大学入試英語成績提供システム」を設け、民間の資格・検定試験が規定の参加要件を満たしているかどうかを確認し、大学入試における活用を支援する

・「大学入試英語成績提供システム」を通じて提供される試験の受検は高校3年生の4~12月の間に2回まで

・2023年度までは大学入試センターが作問・実施する英語の試験(筆記とリスニングをマーク式問題で出題)も併せて実施。各大学の判断で民間の資格・検定試験と大学入試センター実施の試験のいずれか、または両方の利用が選択可能

新しい大学入試で問われる力

大杉住子氏 大学入試センター審議役

学びの場.com大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では、どのような力が問われるのでしょうか?

大杉住子大学教育の基礎となり、その先の社会で活動していくために必要な学力の3要素のうち、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」が問われます。この共通テストと各大学の個別入試で学力の3要素を多面的・総合的に評価することを大学入試改革は目指しており、各大学の個別入試では、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」も含めた3要素が、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)に応じて多面的・多角的に評価されます。

学びの場.comなぜ今、「思考力・判断力・表現力」が重視されるのですか?

大杉 住子グローバル化や知識基盤社会の進展、人工知能(AI)などの技術革新などの変化が加速度的となり、将来の予測が困難となる社会では、自分が出会った場面で必要な情報を得ながら、身につけた知識を活用し、問題を解決していくことが求められるからです。こうした生きて働く知識・技能を習得する過程でも、実際に活用する際にも、思考力・判断力・表現力は欠かせません。そこで、共通テストでは知識の理解の質と思考力・判断力・表現力を重視しようとしているのです。

大杉住子氏 大学入試センター審議役

学びの場.comよく「知識偏重からの脱却」と言われますが、知識が軽視されるわけではなく、その質が問われるようになると。

大杉 住子そうです。共通テストでは、すべての教科・科目で知識の理解の質を問う問題や、思考力・判断力・表現力を発揮して解く問題が重視されます。ただ、こうした力は現行の大学入試センター試験(以下、センター試験)で全く問われてこなかったわけではなく、これまでも、高校の先生や有識者の方々の意見を踏まえ、思考力などを問うための作問の工夫が重ねられてきました。こうしたセンター試験の蓄積を生かしながら、より深い知識の理解や思考力を問うためのさらなる良問作成に向けた工夫・改善を図るために、共通テストという新たな枠組みに移行することになったのです。選択肢から選ぶのではなく自らの力で考えをまとめ表現する記述式問題を国語と数学に導入するほか、他の教科・科目のマーク式問題についても問題の構成や内容の見直しを行うこととしています。

学びの場.com英語の4技能(聞く・読む・話す・書く)評価も大きな変化です。

大杉 住子小中高を通して英語の4技能をバランスよく育むという英語教育改革の方向性を踏まえ、共通テストの枠組みにおいても、それらを評価することになりました。4技能評価には、大学入試センターにおいて、大学入学者選抜における資格・検定試験の活用を支援するための仕組みとして「大学入試英語成績提供システム」を設け、本システムへの参加に当たって必要な水準や要件を満たした民間の資格・検定試験を活用します。制度変更による影響を考慮し、2023年度までは各大学の判断で民間の資格・検定試験と大学入試センターが作問・実施する英語の試験(筆記とリスニング、マーク式)のいずれか、または両方の利用を選択可能としています。とはいえ、大学入試においても4技能のバランスのとれた評価が行われることが望ましく、国立大学協会も民間の資格・検定試験と大学入試センター実施の試験の両方を課す方向です。

大杉住子氏 大学入試センター審議役

学びの場.com各大学の個別入試における「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価も気になるところです。どのように行われるのでしょうか?

大杉 住子現在、文部科学省の大学入学者選抜改革推進委託事業などを通じて評価方法を模索する色々な動きが出てきています。例えば、東京工業大学が毎年夏に開催している高校生を対象とした合宿「高大連携サマーチャレンジ」は、グループワークによる実験等を通じて多様な課題にチャレンジしてもらい、基礎学力と発想力・独創性・グループワーク力等を評価するものとして注目を集めています。また、関西学院大学は他7大学と連携し、高校生の日常的な活動の成果を評価の基盤とするポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」を開発、全国の大学での活用を目指して運用を開始しています。

試行調査に見る、モデル問題のねらい

出典:平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等「国語問題」より

出典:平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等「国語問題」より

学びの場.com昨年11月、共通テストの導入に向けた試行調査(プレテスト)が実施されました。国語の記述式問題の題材には実社会で用いられる実用的な文章が使われています。そのねらいは何ですか?

大杉 住子現代の社会生活で用いられる実用的な文章の内容を的確に読み取り、自分の考えをまとめることは、大学教育や社会参画の基礎となるものだからです。今回は実用的な文章の中から、生徒会規約という法律的な構成を持つ文章を取り上げました。条文により構成される法律的な文章の特徴は、文脈に沿った主張が繰り返されることはなく、一つの情報は一度しか出てこない点にあります。場面に応じて必要な情報を自ら考えて判断することが求められます。

問題では、この規約を踏まえて生徒会が部活動について話し合う場面を設定しました。生徒会への生徒の要望を示したデータや、学校側への生徒の要望をまとめた校内新聞といった複数の資料を用いて、テキストの内容を把握した上で精査・解釈し、それに基づき考えを形成する力を問うています。

学びの場.com複数のテキストや資料を用いた読み取りは、マーク式問題にも見られました。

大杉 住子今回の試行調査では、近代以降の文章(論理的な文章、文学的な文章、実用的な文章)、古典(古文、漢文)のいずれについても複数テキストを題材としました。資料には図表や写真を含むものもあり、それらを文章と関連づけ、解釈する力が問われます。また、古文・漢文ではあえてなじみの深い「源氏物語」と「太公望」を取り上げつつ、出題の仕方に工夫を凝らしました。源氏物語では表記の異なる2つの写本と、それらにまつわる注釈書を題材に、太公望については司馬遷の『史記』を取り上げるのみならず、関連する漢詩やその説明文、絵画を提示し、それらの比較を通じて漢文の理解を問うています。

なお、試行調査では全ての分野について複数のテキストを扱う場合の例を示す必要がありましたので、文章量が多くなっていますが、実際の試験問題は試行調査の結果を踏まえ、テキストの量のメリハリを大問ごとにつけていくことになると思います。

出典:平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等「数学Ⅰ・数学A」より

出典:平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等「数学Ⅰ・数学A」より

学びの場.com数学のモデル問題には、どのような意図があるのでしょうか。

大杉 住子数学的な見方・考え方を働かせて問題を解決する過程を重視した問題になるよう工夫しています。例えば、記述式とマーク式が混在する数学I・数学Aの必答問題では、コンピュータのグラフ表示ソフトを使った授業場面を設定し、二次関数の係数の値の変化に伴ってグラフが移動する様子を考察させています。

このほか、一次関数や二次関数を活用して文化祭で販売するTシャツの価格を決めるといった、実社会での課題解決を想定した問題も出されました。数学II・数学Bの選択問題でも、薬を服用したときの有効成分の血中濃度について漸化式を立てて考察したり、ポップコーンの内容量についての確率分布を考え、母平均を推定したり、必要な標本の大きさについて考察したりする力を問うような、日常生活とのつながりを意識した問題も取り入れています。

学びの場.com歴史では世界史と日本史を横断した問題、理科では実験・観察の過程を意識した問題と、他の教科・科目にも多くの工夫が見られました。

大杉 住子あくまで試行調査の問題構成や内容でそのまま共通テストに受け継がれるものではなく、実際には今年11月に実施される試行調査の構成や内容をお待ちいただきたいと思いますが、こうした知識の理解の質を問う問題、思考力・判断力・表現力を発揮することが求められる問題がこれまで以上に重視されることは変わりません。大学入試センターのホームページでは、試行調査で出題されたモデル問題だけでなく、小問ごとのねらいや問いたい資質・能力、作問のねらいとする思考力・判断力・表現力を科目別にまとめたイメージなども公開しています。題材や資料の新規性に目が行きがちですが、先生方はそこで働かせなければいけない知識や思考力等に着目し、子ども達に育んでいってほしいと思います。

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を

大杉住子氏 大学入試センター審議役

学びの場.com共通テストで問われる力を身につけるために、高校ではどのような学習指導が必要でしょうか。

大杉 住子共通テストの問題は、学習指導要領に示されている高校教育で育成を目指す資質・能力から、大学教育の基礎力となるものに光を当てて出題されます。知識の理解の深まりと思考力等の育成を目指すことは、現在改訂作業が進められている新学習指導要領から新たに加わるわけではなく、現行の学習指導要領にもしっかりと示されているものです。各教科・科目の目標を踏まえつつ単元を見通し、どのような知識の理解を深め思考力等を鍛えるのか指導のねらいを明確にして、題材の選択や学習場面の設計を行うこと、そして各教科・科目や総合的な学習の時間などにおける探究活動を通じて、身につけた知識や思考力等を様々な場面で主体的に活用する機会を設けることが重要となるでしょう。これは全国の優れた授業の事例として既に先生方が展開されていることでもあり、いわゆる「主体的・対話的で深い学び」の実現に直結する指導であると言えるでしょう。

学びの場.com高校教育の基盤となる小中学校で取り組むべきことはありますか?

大杉 住子同じく「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を通じて、生涯にわたって必要な力の育成につなげていただければと思います。この「主体的・対話的で深い学び」が新学習指導要領に盛り込まれた背景には、国際的に高い評価を受けている日本の先生方の授業研究の営みを可視化し、共有していこうという意図があります。ミドル層の先生が減少し、指導技術がかつてのように若い世代へと伝わりにくくなっている今、学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の視点を全国的に共有し、日本の学校教育のよさをしっかりと受け継いで、新しい時代に向けてさらなる改善を図っていくためのマニュアルとしての役割も担っています。

今回の大学入試改革は、そうした「主体的・対話的で深い学び」に向けた先生方の指導の成果をしっかりと受け止める入試にしていこうという改革でもあります。例えば、今回の試行調査の問題のねらいと、全国学力・学習状況調査のB問題のねらいの共通点を感じていただいた先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

共通テスト導入の意義と、高校・大学の学び

大杉住子氏 大学入試センター審議役

学びの場.com共通テストの導入は、高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革を目指す高大接続改革において、どのような役割を果たすのでしょうか。

大杉 住子そもそも大学入試は単に子ども達を順位づけするためのものではありません。大学入学者選抜実施要項にも記されているように、大学がアドミッション・ポリシーに応じて、子ども達が高校までに身につけた力を発展・向上させ、社会へ送り出すことを前提として、各大学が入学者に求める大学教育の基礎力を多面的・総合的に評価することが、大学入試本来の役割です。そうした役割の中で出題される入試問題の質は、そのまま「大学としてどのような問題を解決できる力を重視しているのか」というメッセージになります。そのためにセンター試験から共通テストへと、多くの作問委員の先生方が努力を重ねてきているのです。

学びの場.com質の高い入試問題は、高校や大学の教育にどのような影響を与えるのでしょう?

大杉 住子共通テストの問題を通して「大学入学時点で求められる力はどのようなものか」を示すことは、高校生の学習意欲や高校の先生の指導改善に大きく影響すると考えられます。「主体的・対話的で深い学び」の成果が評価できるような質の高い問題を出題すれば、学習や指導改善のベクトルがそちらへ向かうことになり、そうして高校教育の学習成果が高まれば、大学教育の基礎やその先の社会で活動していくために必要な力の育成につながるでしょう。それは、学習指導要領に基づく高校教育から、各大学の教育理念を反映したカリキュラムに基づく大学教育への接続とは一体どのようなものであるべきかを考え実現していくことでもあるのです。

学びの場.com小中高の先生はもちろん、保護者の方々も、高大接続改革の全体像の中で共通テストの意義や役割を捉えていく必要があるのですね。

大杉 住子そうです。これまでのような入試の難易度のみならず、これからの進路選択では大学の教育内容やカリキュラムを通じて身につく力がより重視されるようになるでしょう。アドミッション・ポリシー(入学者受入れ方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)という大学教育の3つの方針を手がかりに、大学がどういった力を求め、どのような教育をしようとしているのかを認識し、生徒やお子さんの進路指導に役立ていただきたいと思います。

大杉 住子(おおすぎ すみこ)

大杉 住子(おおすぎ すみこ)

独立行政法人大学入試センター審議役
1997年、文部省(現・文部科学省)入省。幼児教育、大学教育、キャリア教育など教育分野を中心に担当し、ユネスコ教育局アソシエイトエキスパート、愛媛県教育委員会保健スポーツ課長、在イタリア日本国大使館文化学科アタッシェなども歴任。2014年から文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長として学習指導要領改訂の中核を担い、2017年4月より現職。2020年度から実施される「大学入学共通テスト」の作問に関する業務に携わっている。

インタビュー・文:吉田教子/写真:赤石 仁

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