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教育インタビュー

2026.03.09
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栁澤靖明 学校財務から見える教育の課題(後編)

事務職員の職域を開拓

本来、義務教育は「無償」とされている。しかし現実には、給食費や教材費、制服代、修学旅行費など、学校生活にはさまざまな費用がかかり、保護者の負担は決して小さくない。公費で賄われるべき備品を、教員が自腹で負担している実態もある。
今回は、公立学校を取り巻くお金のリアルを探るため、埼玉県公立中学校 事務主幹で、「隠れ教育費」研究室チーフディレクターとして情報発信を続ける栁澤靖明氏に話を聞いた。後編では、働き方改革などを背景に、事務職員の仕事がどのように変化しているのかを見ていく。

公立学校における事務職員の役割とは

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事務職員の仕事内容を簡単に教えてください。

栁澤靖明氏(以下、栁澤)

簡単に言えば、文部科学省が示している「学校組織における唯一の総務・財務等に通じる専門職」という言葉が一番近いと思います。学校教育法には「事務をつかさどる」としか書かれていません。僕自身は、一般企業でいう総務課や財務課、管財課、人事課の一部にあたるような業務を担当している、といつも説明していますね。

ただ、仕事内容は学校によって大きく異なります。文部科学省が示しているのはあくまで標準例で、実際に何を担当するかは各自治体や学校の判断に委ねられているからです。そのため、現場では事務職員が自ら仕事の幅を広げ、役割をつくっていく必要があります。必須なのは、給与や旅費、福利厚生などの業務のみで、そこから先、どこまで業務の幅を広げられるかは、本人の取組次第という部分が大きいです。

逆に、それを自他ともに矮小化させて捉えている、つまり仕事の線引きを手前でしている問題もあります。また、ひとりでどこまでやれるのか──という課題もあります。僕自身は、施設設備の管理や修繕なども積極的に担当しています。例えば体育館前の通路を修繕した際には、子どもや教員が喜ぶ姿が目に見えて、やりがいを感じました。また、学びを深めるため、県内や県外の事務職員会や研究会にできるだけ参加しています。

今でこそ、学校財務に力を入れていますが、校長から「財務は教頭が担当する」と言われ、携わらせてもらえない学校もありました。そうした経験から、約15年前に学校財務取扱要綱をまとめて市の教育委員会に提案し、事務職員が財務を担えるよう制度を整備してもらいました。僕としては、そうやって少しずつ仕事の領域を切り開いてきたという実感があります。

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初任者でも、一人配置のことがあると聞きます。その場合、どうやって仕事を覚えていくのでしょうか。

栁澤

一番大きいのは独学です。僕自身も独学と経験で覚えてきました。そのほかに、全国各地で開催される学校事務の研究会や研修会に参加して、学ぶという方法もスタンダードです。

また、1998年の中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」を受けて、業務の効率化を目的とした「学校事務の共同実施」が始まりました。その進化として、現在では地方教育行政の組織及び運営に関する法律に「共同学校事務室」という組織が定められています。これらは、近隣校の事務職員が集合し、共同で学校事務を行う形態です。後者の場合は、法律に定められた「室長」が置かれます。

お互いの知見や経験を共有できるため、一人配置であっても相談しながら仕事を進められる点はメリットだと感じています。

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事務職員はどのような会議に参加しているのでしょうか。

栁澤

事務職員として現在定期的に参加している校内の会議は、大きく4つあります。

1つ目は企画運営会議で、校長や教頭、学年主任などが集まり、学校全体の方針や運営について話し合う場です。2つ目は教育相談会議で、支援が必要な子どもたちへの対応やサポート方法を検討しています。3つ目はおなじみ職員会議です。

4つ目の制服検討会議は学期に1回程度開催されています。これは制服だけではなく、体操着や通学カバンなどの学校指定品について検討していく会議です。「隠れ教育費」の代表的なものでもあります。

いずれも事務職員が参加していない学校もあると思います。しかし、前で述べたように標準的な職務の遂行を考えると必要不可欠でしょう。

また、事務職員が主管する会議として、学校財務委員会(予算会議)というものもあります。隔月で実施し、主幹教諭と各学年の会計担当者に集まってもらい、私費の管理状況や未納対応、公費の執行計画や要望などを整理しています。

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教員の他に、スクール・サポート・スタッフも増えてきました。事務の仕事を支援してもらうこともありますか。

栁澤

今はそんなにありません。というのも、当校は1学年に250人もいる大規模校で事務職員がもう1人配置されており、2人で業務を分担できているためです。あ、でもつい先日、「生徒証」作成を手伝っていただきました。来年度から生徒手帳から生徒証へ変更するため、データ整理と印刷までは事務職員が担当し、ケースに入れて配付する作業をお願いしました。自作することで家庭の費用負担も減らせました。

ICT化や働き方改革で変わる学校事務の現場

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コロナ禍やICT導入、教員不足、働き方改革などを受けて、職務内容や働き方に変化はありますか。

栁澤

コロナ禍をきっかけにオンライン会議が増えました。学校現場ではまだ対面を好む風潮もありますが、移動に時間やコストをかけずに済むため、オンライン開催を提案しやすくなったと感じています。

また、資料のデータ化が進んだことで、仕事の進め方も大きく変わりました。以前は会議のたびに資料を印刷して綴じて配布していましたが、現在はデータ共有が中心となり、こうした作業はほとんど不要になっています。

購入希望物品の申請も紙からデータに切り替わり、見積依頼なども効率化され、業務負担は大きく軽減されました。

一方で、働き方改革については課題も感じています。本来は業務の効率化や改善が目的のはずですが、現場では必ずしもそうなっていないように見受けられます。廃止にするか、引き続きやるかという”ゼロかイチ”の選択も多いですね。

ほかの視点として費用面の問題もあります。例えば、教材費などの集金を集金代行サービスに委託する学校が増えていますが、その手数料が保護者負担に上乗せされている場合が多いので、結局家庭の負担が増えているんです。働き方改革の一環とはいえ、未払い金の督促業務の費用を保護者に押し付ける形といえなくもないこの方法は、本来のあり方ではないと感じています。働き方改革として推進するのであれば、保護者負担によるそれではなく、しっかり公費負担で導入していくべきです。多くはありませんが、そういう事例もあります。

事務職員の可能性を広げるために、教員とは異なる専門性を磨き続ける

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今後挑戦したいことなどを教えてください。

栁澤

事務職員がどこまで学校活動や教育行政に関わっていけるのかを試すことです。その経験をもとに、モデルケースとして示せる形にしたいと思っています。だからこそ、自分の専門領域を広げていくことが、今の一番の目標です。

学校に必要だけれど、現状不十分なところがあります。例えば、リーガルリテラシーの面です。著作権の扱いなどはまだ曖昧な部分があり、現場でサポートできる人が必要です。しかし、知識がなければ正しく指摘することもできません。そのため、10年前に大学の通信教育課程で法学部に入学して学び直し、僕自身のリーガルリテラシーを広げました。教育学系の学びとして始めた大学院も今月で修了します。また、少し前に『学校安全がよくわかる本』(学事出版)という本を編著しました。特に専門性があるわけではありません。はじめに戻りますが、これも独学です。そのため、防災士などの資格取得も視野に入れています。

現在、高等教育における学校事務職員の養成課程はごくわずかです。教員と同じように、学部や修士で養成が進んでもいいのではと思っています。

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ありがとうございました。

記者の目

物価高の影響で、教育費は子育て世帯にとってますます重い負担になっている。共働きが当たり前になった今、「明日、空き箱を持ってきてください」といった急な準備に戸惑う家庭も少なくないだろう。
今回の取材を通して、学校の工夫次第で、家庭の負担を減らしながら学びを充実させることは十分可能だと感じた。できることから見直していく姿勢が、これからの学校には求められていくのではないだろうか。

栁澤 靖明(やなぎさわ やすあき)

埼玉県公立中学校 事務主幹/「隠れ教育費」研究室チーフディレクター

埼玉県の小・中学校に20年以上事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信している。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などの研究をライフワークとしている。若手事務職員の交流を目的に全国学校事務ユースCommunity〈いちごの会〉を主宰(2011年~)。

著書に、単著『事務だよりの教科書』(学事出版2023年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス2016年)【日本教育事務学会「学術研究賞」受賞】、共著『学校事務職員の実務マニュアル』(明治図書2025年)、『教師の自腹』(東洋館出版社2024年)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス2019年)【日本教育事務学会「研究奨励賞」受賞】、『保護者負担金がよくわかる本』(学事出版2015年)など。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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