2020.07.13
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意外と知らない"教育におけるデータ活用"(第3回) 教育データ可視化システムを導入するには

第1回、第2回で「教育におけるデータ活用」の概要と、総務省、文部科学省が2017~2019年度に行った教育データ活用による学校教育の質向上の実証事業(総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」、文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業/エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」)について紹介しました。
第3回では、実証事業で利用されたような教育データ可視化システムの導入手順と、それを導入する上での留意点について紹介します。

教育データ可視化システムとは

学校の中には様々なデータが蓄積されています。例えば、校務支援システムに入力された出欠席情報、成績情報、保健室利用記録や、児童生徒が利用するドリルシステム、アンケートシステムのデータなどがあります。また、その他にも、これまでは紙で収集・保管されてきたデータもあります。

教育データ可視化システムは、そうした学校内のデータを連携し、集約して可視化したり、分析したりすることを可能にするシステムです。文部科学省「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」には、「校務系データや授業・学習系データなど、様々なデータを分かりやすく見えるようにしたシステム」とあります。

これまでも、例えば表計算ソフトを使ってグラフを作成したり、文書作成ソフトを使ってプリントを作成したりして、様々な仕方でデータの可視化は行われてきたと思います。それらに対して、教育データ可視化システムは、複数のシステムで管理されているデータを掛け合わせたり、可視化されたデータを分析したりできることが特長です。

導入手順

総務省と文部科学省が行った実証事業の成果を踏まえてまとめられた、教育データ可視化システムを導入するための4つの手順を紹介します。

① 現在の課題・なりたい姿の検討

まず、「学校や教育委員会で抱えている課題」、「なりたい姿」などの洗い出し及び整理を行います。
どのようにデータを可視化したいかや、可視化したデータをどのような教育活動に活用したいかが曖昧だと、有用な可視化を行うことができません。

「教育の質向上」「授業改善」のような大きなレベルの目標ではなく、例えば「若手教員が学校の教員の半数以上を占める学校もあり、若手教員の育成と、ベテラン教員のノウハウ継承がうまくいっていない」という課題がある場合、「若手教員の学級の情報を、ベテラン教員がいつでも閲覧できるようにし、適宜助言したり情報共有したりできるようにする」など具体的な目標設定を行うことが望ましいです。

② 保持データ・足りないデータの確認

次に、そうしたデータ活用を実現するために、学校の中で利用することができるデータを確認します。一部のデータは既に保持しているデータだったり、デジタル化したりして利用できるようになるデータもあるはずです。足りないデータは、新たに収集します。

例えば、不登校傾向の児童生徒について情報共有したいのであれば、出欠簿や、保健室の来室記録など、校務支援システムに保存されているデータが必要になります。児童生徒の学習意欲について情報共有したいのであれば、学期末に出す通知表の評定だけでなく、宿題の提出状況、小テスト結果など日々の学習に関するデータも収集できると良いでしょう。

また、児童生徒の個人情報を扱う場合は、自治体が定める個人情報保護条例や教育情報セキュリティポリシーに則る必要があります。自治体によっては、個人情報を活用するためには保護者の同意を取得したり、個人情報保護審査会に諮問を行ったりする必要があるため、そうした個人情報を取扱う場合のルールについても予め確認しておきます。

③ データ活用の企画・調査

利用できるデータを確認したら、次は具体的にそれらのデータをどのように活用するかを検討します。効果的だと思われるデータ活用のパターンを予測して、そのために必要なデータの種類や、データの紐付け・加工の方法を整理しておきます。

進級してつまずいている児童生徒の支援を行いたい場合は、昨年度のアンケートと今年度のアンケートの回答を比較することで、つまずいている児童生徒を見つけることができるかもしれません。そのためには、アンケートのデータの他に、昨年度と今年度の学籍情報が必要になります。昨年度の1年2組3番の回答と、今年度の2年3組1番の回答が同じ児童生徒のものであるということが分かれば、アンケートの結果から、進級後に回答が下降傾向である児童生徒が見つけられます。

こうして可視化したデータを児童生徒への声掛けや保護者面談で活用するなど、活用方法まで含めて検討できると良いでしょう。

④ シミュレーションやトライアルの実施

最後に、上記で定義したデータを実際に収集してみて、表計算ソフトなどで簡易な可視化を行ってみます。可視化したデータを利用する先生方にヒアリングをするなどし、効果的なデータ活用ができる表示方法を検討します。

1人ずつ情報を確認したい場合は、ポートフォリオのような形でその児童生徒に関する情報を一画面にまとめて表示するのが分かりやすいですが、学級全体の傾向を確認するためには、折れ線グラフや表形式(心配な回答・点数を赤字で強調するなど)で、学級全体の情報を一覧できる形で可視化した方が分かりやすいです。

そうしたシミュレーションやトライアルを繰り返して、教育データ可視化システムを実際に構築していきます。

いろいろな可視化方法(文部科学省「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」より)
  • P.15より転載

  • P.22より転載

  • P.29より転載

  • P.40より転載

留意点

データの収集や加工を効率的に行う仕組み作り

教育データ可視化システムを構築する上で、留意すべき点が2点あります。

1点目はデータの収集や加工を効率的に行う仕組みを整えることです。教育データ可視化システムは、一旦データ活用の方法さえ決めてしまえば、自動的にデータの可視化を行うことができます。

例えば、校務支援システムのデータを更新するだけで、教育データ可視化システムのデータも更新されるなどです。そのためには、学校の中の様々な場所に保管されているデータを、自動で一か所に集約する仕組みを構築する必要があります。保健室の利用記録が保健室にあるパソコンでしか見られないのであれば、そのデータを定期的に取り出して、可視化システムに取込むような仕組みを整備します。その際、児童生徒の機微な情報が含まれる校務支援システムや保健管理ソフトのデータは、児童生徒が利用するドリルシステム等のデータよりもセキュリティの厳しい場所に保存されていることが一般的なので注意が必要です。

IDの紐付け

システムごとにバラバラのIDを紐づける

2点目は、児童生徒の名簿情報と各システムで管理されるIDの紐付けを行う必要があることです。IDとは「対象を別の対象から区別するために付けられる情報」のことで、コンピュータが児童生徒を識別するために、各システムでは児童生徒1人ごとに異なるIDが付与されています。クラスの名簿情報で言えば、出席番号にあたるものが、各システムでも児童生徒に割り当てられていることになります。教育データ可視化システムでは、各システムのデータを連携して可視化するために、それぞれのシステムで付与されているIDがどの児童生徒のものなのかを紐付けておく必要があります。

IDの紐付けには、各システムで付与されているIDと教育データ可視化システムで利用するIDが紐付けられた台帳を、教育データ可視化システム内で保持しておく方法が一般的です。この方法であれば、教育データ可視化システムを導入する以前から、何らかのシステムを利用している場合でも、IDの紐付けを行うことができます。また、将来的には、紐付けられたIDを用いて、校務支援システムの名簿情報をその他のシステムに共有する仕組みも検討されています。それを利用すれば、校務支援システムに名簿情報を登録するだけで、各システムを利用することができるようになり、より簡単にデータ活用を行うことができるようになります。

以上、教育データ可視化システムの導入手順と、導入する上での留意点を紹介しました。ただ、必ずしも初めからこれらのシステムを全て構築する必要はありません。まずは、一部のデータだけでも可視化をしてみて、有用なデータ活用の方法が見つかったら、更に掛け合わせられるデータが無いかなどを検討して、段階的に教育データ可視化システムを構築していく方法が効果的だと思われます。今後、新しいシステムを導入したり、学校内で活用できそうなデータがあったりする場合は、それらの活用方法も検討してみてはいかがでしょうか。

構成・文:内田洋行パブリックソリューション開発部システムアーキテクト課 相沢優

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