2015.06.16
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意外と知らない"全国学力・学習状況調査"(vol.3)

全国学力・学習状況調査について詳しく知る3回シリーズの最終回は、調査結果から何を読み取り、それらをどう活用すべきかについて言及します。

調査結果をどう“使う”か

全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)の結果は、どのように活用することができるでしょうか。連載第1回目で述べたように、平成25年度から全国 学力調査の実施要領が一部変更され、自治体が自らの裁量で調査結果を公表することができるようになりました。しかし、結果公表を巡る自治体の対応は以下の 通りそれぞれ異なっています。
文部科学省「平成26年度全国学力・学習状況調査の結果公表に関する調査結果(平成26年12月)」より作成

文部科学省「平成26年度全国学力・学習状況調査の結果公表に関する調査結果(平成26年12月)」より作成

調査結果を多面的に見る

第2回目に「はしの長さ」の問題の調査結果を参照した 際に、小学校算数B全体の正答率は6割程度だが、問題によって正答率にばらつきがあること、解答類型を詳しく見ることで子ども達のつまずきのポイントを把 握することができると述べました。しかし、毎年ニュースを騒がせているのは平均正答率であり、その都道府県別順位のことばかりです。しかし、国立教育政策 研究所のウェブサイトで公表されている調査結果は、それだけではありません。

例えば、児童生徒質問紙・学 校質問紙は、年によって一部質問が入れ替わることがありますが、基本的に毎年同じ尋ね方をしているため、経年での比較をすることが可能です。児童生徒質問 紙の結果を見ると、「5年生までに・1,2年生のときに受けた授業では,本やインターネットを使って、グループで調べる活動をよく行っていたと思います か」「5年生までに・1,2年生のときに受けた授業では,学級の友達との間・生徒の間で話し合う活動をよく行っていたと思いますか」という項目は、概ね年 を経るに従って肯定的回答(当てはまる・どちらかといえば当てはまる)をしている児童生徒の割合が増加しています。グループで調べる、話し合うといった主 体的な活動を取り入れた授業は、ここ5年間で、多くの学校現場で取り入れられるようになってきていることがわかります。

5年生までに・1,2年生のときに受けた授業では,本やインターネットを使って、グループで調べる活動をよく行っていたと思いますか

さらに、クロス集計を見ることで、質問紙と教科の調査 を組み合わせた結果を見ることができ、質問紙への回答状況がどのように教科の平均正答率と関連するのかを、グラフ等から把握することができます(もちろ ん、こうした質問項目への回答の裏側にある “第三の変数”があることは考慮に入れなければなりません)。

例えば、「学級の友達との 間・生徒の間で話し合う活動を通じて,自分の考えを深めたり,広げたりすることができていると思いますか(平成26年度新規)」について、回答ごとの児童 生徒の教科に関する調査の平均正答率をクロスした結果が以下の通りです。グループで調べる、話し合う等の活動についてポジティブに捉えることができている 児童生徒の全教科での平均正答率が高くなっていることがわかります。

学級の友達との間・生徒の間で話し合う活動を通じて,自分の考えを深めたり,広げたりすることができていると思いますか

ここから考えられることは、主体的な活動を取り入れる ことは多くの学校現場で進められているという成果が見られる一方で、それを学力につなげていくためには、「考えを深める・広げる」といった主体的な活動の 意味や価値を児童生徒にしっかりと実感を伴った形で伝えていかなければならないということです。

このように、公表されているデータでも、調査結果を多面的に見ていくことで、教科学力だけでない教育の状況、児童生徒の課題を把握することができ、これを基にした教育施策の改善、授業改善を試みることが可能になります。

学校運営のPDCAサイクルを回すために

全国学力調査のデータを、学校評価・学校運営に活かす ことも重要です。2005年の新書『学校評価』では、ニュー・パブリック・マネジメントの事例としてイギリスやアメリカの学校評価制度を引きながら、学校 評価を学校関係者間の情報共有プロセスとして捉え、コミュニティの中でより良い学校を作っていくために、ルール=組織(コミュニティから自生した約束事や 了解事項)・ロール=制度(メンバーが果たすことを期待されている役回り)・ツール(メンバー間のコミュニケーションと情報共有の手段や仕組み)の整備を していくべきだと述べられています。しかし、教員は日々の教育活動や校務に忙しく、学校評価のためのアンケートを学校自身が行うことは容易ではありませ ん。また、調査結果を意味のあるものにするためには、都道府県内で同じ調査票を用いて比較可能にするなど、一定の範囲内で調査のスキームが共有されている 必要があります。そこで、全国学力調査のデータを利用する意味が出てきます。

開発されたアンケートおよび学力調査の集計・分析を支援するプログラ ムSQS (Shared Questionnaire System)およびSMP (School Management Platform)は、宮城県・岩手県・群馬県等の教育委員会で試験的に運用され、一定の成果を挙げています。

慶應義塾大学SFC研究所「学校評価支援システム『かんたん課題分析データベース 利用マニュアルSTEP3:分析の解説』」より転載

慶應義塾大学SFC研究所「学校評価支援システム『かんたん課題分析データベース 利用マニュアルSTEP3:分析の解説』」より転載

学校評価のための学力調査の目的は、客観的なデータを得ることでは必ずしもありません。嘉悦大学の木幡敬史氏は、学校評価を行うことで、データを基に自校 の子ども達の実態を分析し、改善を行っていくというコミュニティのPDCAサイクルを実践できるようになることが重要であると述べています。大事なのは、 調査結果を絶対的なものとせず、議論の素材、共通理解のための土台として扱うことだと言えるでしょう。

まとめ

全国学力調査は、ペーパーテストおよび質問紙という形 式上、子どもが身につけている資質・能力のあくまで一側面を捉えるものであるという限界を意識しつつも、特にB問題には国際学力調査にも目配せをした「真 正の評価」が問われるような意欲的な問題が見られること、平均正答率だけでなく設問ごとの解答類型への反応率や質問紙調査とのクロス集計等を多面的に見て いくことで教育の課題が明らかになってくることを述べてきました。

恐らく必要なのは、学力調査 の結果を学力調査だけで判断しないことでしょう。児童生徒の学力や学習状況について、最も近くで見て理解しているのは、現場の先生方です。一つの数値で あっても、児童生徒の普段の様子によって、意味づけは変わってくることでしょう。授業場面での子ども達の反応や、定期テスト等の結果、保護者との会話に加 えて、全国学力調査“も”指導に利用するという意識の持ち方が良いのだと思います。調査結果は、児童生徒や保護者、あるいは先生方同士で話し合うための、 あくまで素材なのです。

参考資料

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 平野 智紀

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