2017.11.22
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小学校外国語科授業・先進校リポート(vol.2) 教師に求められるのは英語力よりも指導力 ―目黒区立田道小学校 中嶋美那子 主幹教諭― 後編

新学習指導要領の移行期に先立ち、平成27年度から外国語科に取り組んでいる目黒区立田道(でんどう)小学校。前編ではその授業の様子と、授業者・中嶋美那子主幹教諭による「外国語科は、外国語活動に『読む』『書く』を追加し、発展させたものでいい」という授業づくりのコツをお伝えした。後編では、外国語科の授業計画・単元計画・年間指導計画づくりのポイントや、教師に求められる力について語っていただいた。

授業者に聞く

外国語科は怖くない。小学校教師なら必ずできる!

外国語科の授業の流れは算数に、内容は国語に似ている

目黒区立田道小学校 主幹教諭 東京都英語推進リーダー 中嶋美那子 氏

目黒区立田道小学校 主幹教諭 東京都英語推進リーダー 中嶋美那子 氏

――前編の最後に、中嶋主幹教諭は「外国語科の授業のつくり方は、算数に似ている」とおっしゃいました。詳しく教えて下さい。

中嶋美那子(敬称略 以下、中嶋) 算数では、最初にその単元のねらいとなる公式や考え方といった基礎的・基本的な知識・技能を習い、練習問題で活用し、最後に応用問題を解くという流れです。この流れは、外国語科でも同じ。まず、新出単語や表現など、その単元のねらいとなる知識・技能を習い、それらを様々な学習活動で練習して定着させる。そして、それらを応用して思考・判断・表現する活動を行います。私は外国語科の指導案をつくる時は、算数で指導案をつくるコツやポイントを思い出して活かしています。

――算数に似ているとのご指摘は、とても意外でした。言語教育だから国語に似ているのかと思っていました。

中嶋学習の内容は言語を扱いますから、国語に重なる所ももちろんあります。特に、コミュニケーションに関する国語の単元と共通点が多いです。国語の授業でも、相手と会話する時のポイントとして「目を見て話す」「はっきりした声で」「相槌を打ったり、うなずいたりする」を指導しますよね。外国語科のコミュニケーションのポイントも、全く同じです。

また、外国語科ではワークシートに英単語や表現を「書く」活動を行います。ワークシートを回収して赤を入れて戻すのは、国語の漢字指導と同じです。文字を使って人に何かを伝えるには、初期段階で丁寧に指導することが必要だと思います。だから国語の内容や、その時の指導方法を取り入れるといいと思います。

――少し話を戻しますが、先程「学習内容が進むにつれ、習った単語や表現を使って、思考・判断・表現する」とおっしゃいましたが、これは?

中嶋新学習指導要領では、育成すべき資質・能力が「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう人間性」の3つの柱で整理されました。このため、外国語科も3つの柱に基づいて、単元計画を立てる必要があります。 まず「知識・技能」を習得した上で、その知識・技能を活用して思考・判断・表現する活動を行って「思考力・判断力・表現力」を磨き、最終的には積極的に英語を使って伝えようとする「人間性」を養おうと心がけています。 今日見ていただいた単元も、全8時間中4時間目までは知識・技能の習得が中心で、新出の英単語や表現に慣れ親しむ時間です。そして慣れてきたら、新出の英単語や表現を使って、思考・判断・表現する活動を増やしていきます。そして最終的には、自分の夏休みの思い出を英語で伝えるプレゼン資料を自由に工夫して作り、ブース形式で発表する活動に取り組みます。

――単元計画には、モジュールも含まれていますね。

中嶋はい。本単元は全8時間ですが、うち6時間は45分授業で、残りの2時間分は15分のモジュールを6回行います。本校では外国語科を年間70時間行い、うち50時間分を45分授業で、20時間分をモジュールで行います。モジュールは週2回、5時間目の前に行っています。

――新学習指導要領も、外国語科の授業時数を確保するためにモジュールを活用しようと推奨しています。モジュールではどんな学習をするのですか?

中嶋45分授業で「聞く」「話す」した単語や表現を、モジュールで「読む」「書く」活動を中心に行います。モジュールは独立した活動ではなく、45分授業の内容とつながっています。とは言え、15分間ずっと「読む」「書く」活動を行うのではなく、まずはチャンツ・児童同士のSmall Talk等で「聞く」「話す」活動をして、45分授業で習った単語や表現を復習してから、「読む」「書く」活動に移行します。

――モジュールのコツは?

中嶋たった15分しかないので、行動をパターン化し、効率的に進行できるようにしています。例えば、日直が始めの合図をしたらすぐ取りかかることを徹底し、習慣化するのです。そういう意味では、モジュールで大事なのは日頃の学級経営ですね。「はい、皆さん、席について!」「静かにして!」と、学習体勢が整うのに5分もかかってしまったら、もう10分しか残っていません。学級経営がうまくいっており、学習規律が整っていることがとても大事です。

――授業づくり、単元計画とお聞きしてきましたが、年間指導計画の立て方についても教えて下さい。

中嶋今年度は目黒区が文部科学省の資料を基に研究校用に試作した年間カリキュラムをベースにしています。区の年間カリキュラムを基に本校で試行し、良い点や課題を話し合って区教育委員会にフィードバックしています。 年間指導計画を立てる時に大事なのは、「この子ども達に、どんな英語力をつけさせたいか」です。その思いを形にしたのが、日々の授業であり、年間指導計画です。これはどの教科にも通じることです。他の教科と同じという意味では、「学びのスパイラル」も心がけています。

――「学びのスパイラル」とは?

中嶋既習の知識・技能を、新たに学ぶ知識・技能と関連づけることで、より理解が深まり、広がっていく。これが学びのスパイラルです。例えば、以前の単元で習得した単語や表現を、新たに学ぶ単語や表現と併せて活用する学習活動を意図的に行います。 また、繰り返し練習が大切なのも、他の教科と同じです。外国語科では、習得すべき単語や表現が外国語活動より増えます。過去形や動名詞もその一つです。漢字や九九を何度も練習して定着させ、その後活用させているのと同じです。従って、繰り返し練習できるように様々な学習活動を計画する必要があります。例えば、「I like~ing.」という表現なら、チャンツで練習したり、Small Talkでこの表現を使って話し合わせたり、「I like~ing」という表現が出て来る絵本を読み聞かせたり、「I like-」を使った文章を書かせたり、手を変え品を変えで練習する機会を設け、定着を図っています。

――外国語科では「評価・評定」を行う必要がありますが、田道小ではどうしていますか?

中嶋児童の行動観察やポートフォリオ、振り返りカード、ワークシートなどから、4技能について到達度を一人ひとり見取るようにしています。今年度まではそれらを所見で書き表していましたが、来年度からは三段階評価を行います。ただ現時点では文部科学省から評価方法について詳細が示されていませんし、目黒区としてもまだ方針の詳細を決定していないので、それらの情報を待って評価規準を設定していこうと思っています。

児童と一緒に楽しみながら、教師も成長すればいい

――これから外国語科を始めようとする先生方は、何から着手すればいいでしょうか?

中嶋最初は文部科学省が公表している指導案を参考に、授業を行ってみるといいと思います。今日の授業も、文部科学省が作成した『小学校外国語活動・外国語 研修ガイドブック』に載っている指導案を、ほぼそのまま実践してみました。 新学習指導要領もぜひ読んでほしいですね。私も最初はどんな授業をすればいいのか手探り状態だったのですが、公示された新学習指導要領を読んで、「なるほど、こういう授業にすればいいのか」と方向性がつかめました。 ワークシートなど教材についても、文部科学省が外国語科用に開発した教材が次々出てきていますし、『Hi, friends!』の教材にも外国語科で使えるものがたくさんあります。文部科学省は年間指導計画例も先日発表しました。今後も次々と外国語科で使える資料を出してくれると思いますから、それを参考にするといいでしょう。

――「英語が苦手なのに、教えられるだろうか」と不安な先生方も多いですが。

中嶋児童と一緒に英語を楽しみながら学び、上達していけばいいと思います。本校の先生方も、最初は「私、英語は苦手なのに……」と、とても不安がっていました。でも授業を積み重ねていくうちに、先生方の英語力もメキメキ上達していきました。英語が上達してくると、授業も楽しくなりますよ。今ではALTに積極的に話しかけて、英語で会話している先生方も多くいらっしゃいます。

写真右:ALT ジョン・アンスティス 氏

写真右:ALT ジョン・アンスティス 氏

小学校教師はとても忙しいので、「この上さらに新たな教科をやらなければいけないなんて……」と気が重いと思いますが、外国語科は教師も楽しみながらできます。自分も成長できる喜びがあります。「教師は児童より英語が上手でなければ」「児童の前で、下手な英語を話せない」なんて考えは捨てましょう。教師が失敗を恐れて萎縮したら、児童にも伝染してしまいます。児童も「僕は英語が下手だから」と尻込みし、失敗を恐れて英語を使わなくなってしまいます。これでは、私達が受けた英語教育の二の舞いになってしまいますよね? たとえ英語が下手でも、頑張って学ぼうとしている姿を児童に見せることが大事。私も英語がそこまで得意ではありませんから。専門は社会科でしたので。

――そうなのですか? とても上手に教室英語を使っていましたし、てっきり元々英語が得意なのかと。

中嶋未だに「先生の発音おかしい」と、英語圏からの帰国子女の児童達に指摘されますよ(笑)。でもくじけずに、「今は下手だけど、先生も勉強して上手になるよ!」と、教室英語を使い続けてきました。教師が頑張って英語を使っている姿を児童達に見せられるのも、教室英語の良さですね。ALTに英語を教わりながら、英語で伝えようと一生懸命頑張っている姿を見せ、児童に「先生みたいに頑張ってみよう!」と思ってもらいたい。児童のお手本になりたいと思います。

――その甲斐あって、児童も成長していますか?

中嶋伸びていますよ!「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能が着実に向上しています。ALTからは「田道小の児童は、とても発音がいい」とお墨付きをいただいていますし、ALTや担任が英語で指示しても、大体聞き取れています。英語で自分の考えを表現し、伝えようとする力や姿勢も身についてきています。

――3つの柱の「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」が向上しているのですね。「学びに向かう人間性」についてはどうですか?

中嶋「英語で話したい!」「もっとうまくなりたい!」という意欲が高まっているのを、肌で感じています。英語を使うことに全く抵抗がなく、私が急に英語で話しかけても、知っている限りの英語を駆使して、なんとか英語で応答しようとしてくれます。

――最後に、これから外国語科に挑む先生方に、励ましのメッセージをお願いします。

中嶋小学校の教師なら、外国語科も絶対大丈夫! と私は確信しています。小学校の教師は、国語や算数はもちろん、道徳や体育まで、一人で様々な教科を担任していますよね。教科だけでなく、情報モラル教育や交通安全教育、最近ではオリンピック・パラリンピック教育など、様々なテーマでの授業や指導を求められますが、その度にすべて実現してきました。なぜならどんな教育テーマだろうと、授業の流れや指導のコツはあまり変わらないからです。 外国語科で教師に求められるのは、英語力よりも指導力です。授業をつくる力、単元計画や年間指導計画をつくって計画的に指導する力、発問や声かけなどの指導技術、上手に学級経営する力、こういった指導力があれば、たとえ英語が苦手でも、外国語科はうまくいきます。児童も必ず成長できます。自信を持って、取り組んで下さい。そして外国語科を楽しんで、児童と一緒に成長しましょう!

記者の目

「『そうは言っても、先進校だからできるのだろう』とは、思わないで下さい。外国語活動をやってきた先生方なら、外国語科も必ずできます!」と、中嶋主幹教諭は何度も念押しした。「マスコミの報道に惑わされず、自信を持って下さい」とも、力強く語ってくれた。中嶋主幹教諭の話はとても具体的で、例え話もうまく、説得力にあふれていた。中嶋主幹教諭の言う通り、外国語科は心配いらない。自信を持って、外国語科を始めてみよう。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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