2017.11.08
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小学校外国語科授業・先進校リポート(vol.1) 「聞く・話す」を中心に「読む・書く」を取り入れる ―目黒区立田道小学校 中嶋美那子 主幹教諭― 前編

新学習指導要領の改訂ポイントに、小学校高学年での「外国語科」導入がある。外国語科では、これまでの「聞く」「話す」に、「読む」「書く」が加わり、いわゆる4技能を総合的・系統的に学んで、中学校への接続を図ることが求められている。移行期に先立ち、目黒区では平成27年度より研究校で外国語科授業の開発・実施・検証を進めてきた。今回は、その研究校の一つ、目黒区立田道(でんどう)小学校の授業をリポートする。授業者は、東京都英語推進リーダーでもある中嶋美那子主幹教諭。実践の模様と、授業設計のコツをご紹介する。

授業を拝見!

外国語科でも「聞く」「話す」活動が中心となる

学年・教科6年1組、外国語科
単元:My summer Vacation 夏休みの思い出(全8時間中、本時は4時間目)
ねらい:過去形や動名詞を使い、夏休みに楽しんだことやその感想を、「聞く」「話す」「読む」「書く」ことができる
授業者:中嶋美那子 主幹教諭
ALTジョン・アンスティス 氏
使用教材・教具:ワークシート、イラスト入り英単語カード(名詞・動名詞・形容詞)

目黒区立田道小学校 主幹教諭  東京都英語推進リーダー  中嶋美那子 氏

目黒区立田道小学校 主幹教諭 東京都英語推進リーダー 中嶋美那子 氏

外国語科が始まることに不安な教師は多い。
「やっと外国語活動に慣れてきた所なのに……」
「英語が苦手なのに、文法を教えなければいけないの?」
といった声も聞こえてくる。

今回は、そんな不安を払拭できる授業をリポートする。授業を見せてくれた目黒区立田道小学校の中嶋美那子主幹教諭は、こう言う。
「外国語科は、今までの外国語活動をベースに『読む』『書く』を追加して発展させればいいのです。外国語活動をしっかりやってきた先生なら、外国語科も大丈夫ですよ!」

外国語活動のように様々な学習活動をテンポよく行う

ALT ジョン・アンスティス 氏

ALT ジョン・アンスティス 氏

【1】Greeting(聞く・話す)
「Hello, everyone! How are you?」
ALTのジョン・アンスティス先生が大きな声で挨拶すると、
「I'm fine! And you?」
と、元気よく児童達は答えた。外国語活動でもお馴染みの活動だ。従来なら
「What day of the week is it today?」
「How is the weather today?」
等のやりとりを5分ほど行うところだが、中嶋主幹教諭は1分足らずで打ち切った。
「外国語科は、外国語活動の『聞く』『話す』に『読む』『書く』が加わり、新出の英単語や表現が増えるなど、学ぶことがたくさんあり、また日付や天気は毎朝日直が朝の会で伝えているので、Greetingはあまり時間をかけずサッと次へ進みます」
とのこと。学級担任ならではの工夫だ。事実、今日の授業は様々な学習活動がこの後も控えており、中嶋主幹教諭は一つの活動を短時間で集中して行い、テンポよく次々と切り替えていった。

児童はカードに描かれたイラストの内容を過去形を用いてチャンツで話す

児童はカードに描かれたイラストの内容を過去形を用いてチャンツで話す

【2】Let's Chants(聞く・話す)
今日の授業は、「My summer Vacation 夏休みの思い出」の単元(全8時間)の4時間目。前時までは、夏休みに行った場所や楽しんだこと、その感想などを過去形で表現する単語や例文を学習してきた。まずはその復習から開始。指名した数名の児童に、食べ物や場所のイラストが描かれたカードを渡し、そのイラストに合った内容をチャンツで話させた。例えばカレーのイラストカードならば、
「I ate curry and rice. It was spicy!」
と、過去形を用いてリズムよく発声するのだ。そして、
「You ate curry and rice.」
と相手の話を受け止めたり、
「How about you?」
で話をつないだりして、児童同士の「Small Talk」(※詳しくは後述)に発展させるねらいを持ったチャンツだ。

新学習指導要領では、活用頻度の高い基本的な動名詞や過去形を外国語科で学ぶと定めている。外国語活動では過去形を学習しなかったから、これは外国語科ならではの学習と言えるだろう。

【3】Small Talk(聞く・話す)
続いて、中嶋主幹教諭とALTのジョン・アンスティス先生が、先週末の過ごし方について英語で会話を始めた。
中嶋「I went to Ariake stadium. I enjoyed watching tennis.」
アンスティス「I went to Sumida river. I ate boxed lunch. It was delicious. I enjoyed reading Japanese.」

これは、知っている英単語や表現を駆使して、自分の体験や意見・感想などを英語で伝え合う「Small Talk」という学習活動だ。Small Talkは外国語科の検定教科書にも盛り込まれる見込みで、外国語科でぜひ取り組みたい活動の一つである。

Small Talkは本来、児童同士や教師と児童とで行うことが多いのだが、ここでは教師とALTの二人で行った。その理由は?
「『今日はこういう表現を学びますよ』と教師が説明するのではなく、Small Talkで演じて見せて、児童に『学び取らせる』のがねらいです。過去形や動名詞を用いて、どこへ行って、何を食べて、その感想はどうだったかを英語で表現するのだと、児童に把握させようと考えました。また、チャンツを生かして、児童同士のSmall Talkも行えるようにしています」
と中嶋主幹教諭。

ここで、中嶋主幹教諭が今日の授業の目当てを
「夏休みに楽しんだことと、その感想を言ったり、聞いたりしよう」
と、黒板に書き記した。

「camping」と書かれた部分は隠し、絵だけ見せて児童に答えさせる。同様に「reading」「running」「climbing」「talking」「eating」等の動名詞を学ぶ

「camping」と書かれた部分は隠し、絵だけ見せて児童に答えさせる。同様に「reading」「running」「climbing」「talking」「eating」等の動名詞を学ぶ

「楽しんだこと」を表現するのに欠かせないのが、動名詞だ。まずはイラストカードを使って基本的な12個の動名詞の学習を開始した。絵の部分だけを見せて、該当する動名詞を児童に答えさせていたのが印象的だった。例えば、読書している子どものイラストだけを見せて、「reading」と答えさせるのだ。
「教師がいきなり英単語を教えるのではなく、イラストだけを見せて、児童から英語を『引き出す』ようにしています。そうやって学んだ単語や表現は印象に残り、定着しやすいのです」
と中嶋主幹教諭。

ALTの英文を聞いて、該当する絵を指す

ALTの英文を聞いて、該当する絵を指す

【4】Let's Play:ポインティングゲーム(聞く・読む)
この動名詞を様々な学習活動で練習していく。まずはポインティングゲーム。用いるのは、12の動名詞とイラストが描かれた紙のワークシートだ。例えば、ALTが、
「I enjoyed running.」
と言ったら、ワークシート上で「running」と描かれたイラストを探して、指でポインティング(指す)するのだ。動名詞を「聞き」、イラストを手がかりとしながら動名詞を探し、単語を「読む」活動だ。

ALTの英文を聞き取り、該当する絵や単語を線で結ぶ

ALTの英文を聞き取り、該当する絵や単語を線で結ぶ

【5】Let's Listen(聞く・読む)
次に、ALTが発する英語を聞き取り、該当する英語を表したイラストや単語をワークシート上から選び、線で結んでいく活動を行った。例えば、ALTは次のような文を読み上げる。
「My name is Satoshi. I went to island. I ate sushi. I enjoyed camping. It was fun.」
児童はこれを聞き取って、「Satoshi」「島の絵」「寿司の絵」「キャンピングの絵」「fun」を選び、線で結ぶのだ。なかなか高度だが、児童達はしっかり聞き取って、ほぼ全員が正解できていた。

「Pardon?」「Slowly, please.」等の教室英語の一覧表が貼ってある

「Pardon?」「Slowly, please.」等の教室英語の一覧表が貼ってある

【6】Let's Play:作文ゲーム(読む・話す)
そして、中嶋主幹教諭は英語でこう指示した。
「Please clean up your desks! Make groups!」
これを聞いた児童達は、サッと机の上を片づけ、3~4人でグループを作った。このように、中嶋主幹教諭は学習活動の指示や声かけを、「教室英語(Classroom English)」と呼ばれる簡単な英語で行っているという。
「教室英語を用いることで、英語を学んでいるのだ! という雰囲気を作れますし、『聞く』力も育まれます。私の使う教室英語を真似する児童も多く、『話す』力の育成にもつながります。ただし、授業をオールイングリッシュで行うのは私にも児童にもレベルが高すぎるので、細かい指示などは日本語で補足しています」。

教室内には「Thank you」「Excellent!」「Pardon?」などの教室英語一覧表が貼ってあり、児童は学習活動の中で「Great!」「What?」など教室英語を使って相手を褒めたり、コミュニケーションしたりしていた。

名詞・動名詞・形容詞のたくさんのカードの中からグループで話し合って5枚選び、英文を作る

名詞・動名詞・形容詞のたくさんのカードの中からグループで話し合って5枚選び、英文を作る

さて、ここで行うのは「作文ゲーム」。まずは各班に名詞・動名詞・形容詞のカードを1枚ずつ配り、このカードを使って英文を作らせる。例えば「sea」「swimming」「wonderful」のカードなら、グループで話し合って「I went to the sea. I enjoyed swimming. It was wonderful.」の文を作り、グループ内で声を出して読み上げ、練習した後、発表するのだ。

さらに難易度を上げ、名詞(場所、食べ物)・動名詞・形容詞が描かれたカードを合計30枚ほど各班に配った。たくさんのカードの中から5枚選び、整合性のある英文を作るのだ。ある班は、机の上にすべてのカードを並べて、名詞・動名詞・形容詞に分類してから、どんな文を作るか話し合い、「mountain」「climbing」「hard」「rice balls」「delicious」を選択。「I went to the mountain. I enjoyed climbing. It was hard. I ate rice balls. It was delicious.」の文を作っていた。

【7】Let's Read and Write(読む・書く)
授業はここで終了。「ん? 外国語科ならではの『書く』活動は?」と首を傾げていると、
「『書く』活動は、15分間のモジュール学習で主に行っています」
と、中嶋主幹教諭が教えてくれた。次のモジュール学習(1回15分・週2回)の時間に、本時で使った名詞・動名詞・形容詞をワークシートに「書く」練習を行うそうだ。
「ただし、いきなり書かせるのではなく、まず今日の授業を振り返り、使った単語や文を復習し、皆で読みます。そしてワークシートに薄く印刷された単語や文をなぞり、次に見本を見ながら書き写します。つまり、『前時に学んだ英語を聞く・話す・読むで復習』→『なぞる』→『書き写す』の順番で、『書く』活動を行うように心がけています」
とのことだ。

授業者に聞く

小学校外国語科はあくまで音声中心。「聞く」「話す」から始める教育です

冒頭で中嶋主幹教諭が言った通り、確かに外国語活動がベースになった授業だった。授業の流れは外国語活動によく似ており、外国語科ならではの学習活動もあったが、「読む」「書く」活動よりも圧倒的に「話す」「聞く」活動の方が多かった。では、外国語科の授業はどのようにつくっていけばいいのだろうか。ここからはインタビュー形式でお伝えしよう。

「読む」「書く」が入っても、外国語活動の経験や技術が活きる

目黒区立田道小学校 主幹教諭 東京都英語推進リーダー 中嶋美那子 氏

目黒区立田道小学校 主幹教諭 東京都英語推進リーダー 中嶋美那子 氏

――外国語活動に「読む」「書く」を追加して発展させたのが外国語科、とおっしゃいましたが、多くの先生方はこの「読む」「書く」が加わることに、とても不安を感じています。

中嶋美那子(敬称略 以下、中嶋) 「読む」「書く」が入るから不安だという先生方は、「自分が中学時代に受けた英語の授業を、小学校高学年でやらなければならないの?」と考えていないでしょうか。でも、それは違います。私達大人が中学校で受けた英語教育は、「読む」「書く」が中心でした。例えば「apple」という単語を読むことから始めて、「りんご」という日本語訳を学び、単語を書く練習をする。そして「りんごを英語で言うと?」と、英訳の練習もしました。 小学校の外国語科は、こういう教育ではありません。新学習指導要領を見ると、外国語科の「読む」の目標にはこう書いてあります。「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味がわかるようにする」と。そして「書く」の目標は、まず「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を書き写すことができる」所から始めると示されています。私達が受けた中学英語とは違い、小学校の外国語科はあくまで音声中心、「聞く」「話す」から始める教育なのです。

――外国語活動も「聞く」「話す」の音声が中心でしたから、外国語科と根本は同じなのですね。

中嶋そうです。外国語科になっても「聞く」「話す」といった音声中心の学習を行う点は変わらないので、外国語活動で培った指導の経験や技術は、外国語科でも活きます。だから、「外国語活動を頑張ってきた先生なら、外国語科も大丈夫」なのです。まずは今までの外国語活動のように、単語や表現の「聞く」「話す」活動を行って、十分慣れ親しませる。その上で、「読む」「書く」活動を少しずつ取り入れればいいのです。

――今日の授業も、名詞や動名詞などを「聞く」「話す」して慣れた上で、習った英単語を「読む」そして「書く」展開になっていましたね。

中嶋授業計画だけでなく、単元計画もそうなっています。この「My summer Vacation 夏休みの思い出」は全8時間の単元で、最初は「-ing」や「It was~」といった新出の単語や表現を、外国語活動のようなチャンツやゲームの中で「聞く」「話す」活動を行い、慣れ親しみます。その上で、習った単語や表現を少しずつ「読み」「書き」、最終的には自分の夏休みの思い出を英語で「書く」「話す」で表現し、皆に伝えます。

――「聞く」「話す」を中心に行うとして、「読む」「書く」の割合はどのぐらいでしょう?

中嶋「聞く」「話す」活動と「読む」「書く」活動は関連づけて行いますから、「ここまでは話す活動、ここからは書く活動」とハッキリ線引きしづらいのですが……おおまかに言えば「読む」「書く」活動は授業時間の2~3割くらいかなと思います。

――「聞く」「話す」と「読む」「書く」を関連づけるとおっしゃいましたが、そのコツは?

中嶋大事なのは、「読む」「書く」活動に、必然性を持たせることです。まず「聞く」「話す」で単語や表現に慣れ親しませ、児童から「読みたい」「書きたい」と欲求が出てきたら、習った単語や表現の「読む」「書く」活動を行うように、授業を計画しています。そうすれば、児童は意欲的・主体的に「読む」「書く」を行いますし、学びも定着しやすくなります。そういう意味では、外国語科の授業のつくり方は、算数に似ていると思います。

――えっ、算数ですか!?(後編に続く)

 

後編では、中嶋主幹教諭に「外国語科の授業のつくり方は算数に似ている」との真意を語っていただくと共に、外国語科の授業や単元、カリキュラムのつくり方などについても詳しくインタビューする。

記者の目

授業を拝見してまず驚いたのは、子ども達の英語力の高さだ。中嶋主幹教諭が活動の指示を「教室英語」で行うと、子ども達はすぐ理解して行動していた。ALTのアンスティス先生が発するネイティブの英語も、聞き取って意味を理解しているようだった。学習意欲も高く、全員が精力的に学習活動に取り組み、懸命に英語でコミュニケーションを図ろうとする姿が印象的だった。


外国語活動とあまり変わらない授業であることにも驚いた。中嶋主幹教諭も、「外国語科は、外国語活動を発展させたものでいい」と、何度も繰り返し強調してくれた。外国語科が始まることに不安を抱いている先生方を、安心させ勇気づけられる授業だったと思う。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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