2016.03.01
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アクティブ・ラーニングで学ぶ再生可能エネルギーの未来 小学校出張授業“グリーンパワー教室“

東日本大震災以降、電力の供給・消費への関心が高まっている中、エネルギー自給率のカギを握る再生可能エネルギーへの普及に向けた意識は広がっているとは言い難い。子ども達の未来にとって重要なこの問題に対して、子ども達に理解を促すことはもちろん、解決の担い手であるという主体性を作るためにはどのような授業を設計すべきか。CM制作というプロセスを通して、再生可能エネルギーに対する児童の関心を促す、東京学芸大附属世田谷小学校 沼田晶弘教諭の授業をリポートする。

授業リポート

対象:世田谷区立等々力小学校 5年2組(児童26人)
教科・単元:総合的な学習の時間 生活を支えるエネルギーの今、そして、未来
ねらい:再生可能エネルギーへの仕組みと効果、課題などを知る
授業者:沼田晶弘 指導教諭(東京学芸大附属世田谷小学校)
授業時間:2校時
使用教材・教具:授業者自作のパワーポイント資料、書籍『グリーンパワーブック』から抜粋した資料

もしも電気が無かったら? ~子どもの発言を引き出す

「再生可能エネルギー」という大人にとっても専門的なテーマで、どのように子ども達の授業への意欲を喚起するか。沼田先生はまず「電気がなくなったらどうする?」という問いによって、子ども達とテーマとの距離を近づけることから授業を始めた。

子ども達は、テレビが見られない、冷蔵庫が使えない、エアコンが使えなくなるなど、身の周りの「困ること」を挙げ始める。それをきっかけにして、エネルギーと電力の関係や発電の現状などに話を進める沼田先生。エネルギー自給率の説明では、クラスの人数に置き換えながら、エネルギーの切迫した状況に対する子ども達の実感を促す。

エネルギーと自分達の生活が、子ども達の中でなんとなくつながり始めた所で、沼田先生が「石油がなくなる」という事実を提示すると、子ども達は、先程自分達が挙げた「困ること」が現実の話として返ってきたことに戸惑い始める。

再生可能エネルギーって? ~シンプルな情報を身近な話題で

そこで、その現実を回避する手段として、風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスという再生可能エネルギーについて説明を始める。各発電方法のキャラクターを画面に投影しながら、その特徴やメリット、デメリットを取り上げる。沼田先生はここでも、小学校の近くの商業施設に設置された風力発電設備やソーラー電卓などを例示しながら、子ども達とテーマとの距離をさらに近づけようとする。

今回はたまたま勤務する小学校と近い学校ということもあったが、沼田先生は全く土地勘のない地域の小学校で授業をする際も、事前に「共通言語」を探しておくという。
「共通の話題によって、会話を盛り上げるということも大事ですが、自分達のことを知ってくれている、という印象を子ども達に与えることはさらに重要です。全く手掛かりがない土地での出張授業の場合は、前泊してその学校の先生や現地スタッフから情報を仕入れることもあります」。

さあ、どうする? ~実感を伴う課題の提示

子ども達が再生可能エネルギーとはどのようなものかを理解し始めた所で、沼田先生は、日本という国がいかにそうした発電に適しているかを解説する。化石燃料という点では資源が乏しい国でも、再生可能エネルギーという面では「資源大国」という新しい視点に子ども達の興味はさらに深まっていく。

そして、そうした好条件にも関わらず、日本ではなぜ再生可能エネルギーが普及しないかについて解説する。遠い将来のことゆえに大人が本気になれないという背景を示しながら、「本当に困るはずの皆がやらないとね」と語り掛ける。

本来はこうした「不都合な真実」は子ども達には説明しにくいことだが、沼田先生は気にしない。
「リアルを感じてこそ真剣になるのは大人も子どもも同じです。授業だから、子どもだからといって、大事な情報をオブラートに包んでいては、子ども達に本当に知ってほしいことだという気持ちは伝わりません。そしてこれが次のCM制作でも大きな動機になるんです」。

CMを作って伝えよう~グループ活動と発表

それから、沼田先生独自のトーク術・プレゼンテーション術のレクチャーの後、4~5人のグループに分かれてCM制作が始まる。

CM制作は、五つの再生可能エネルギーの中から、グループで一つのエネルギーを選び、その良さを30秒で伝えるというもの。配られた資料から伝えるべき情報を選び、さらにその伝え方を考える。沼田先生から「インパクトが大事だよ!」というアドバイスを受けて、伝えたいポイントを歌にするグループ、寸劇で表現するグループ、キャラクターに語らせるグループなど、自然と多様な方法が生まれている。

締め切り時間が近づいてくるとグループそれぞれでリハーサルが始まる。練習を他のグループに見られないよう、注意を払っている様子が微笑ましい。

そしていよいよ発表。

視線が気になって覚えていた台詞をすっかり忘れてしまったり、逆に台詞に集中しすぎてジェスチャーを忘れてしまったり、時間を気にするあまり飛ばしてしまったり。30秒で自分達が「推す」エネルギーのメリットやデメリット、お勧めのポイントを伝えることは子ども達には難しかったようだ。ハプニングだらけの内容だったが、どのグループもよく表現が工夫されており、「再生可能エネルギー」という堅苦しいテーマを忘れるほどの楽しい発表となった。

子ども達に何がどう伝わったか? ~授業の成果とポイント

授業後のアンケートでは、子ども達から次のような声が寄せられた。
「その場所に合ったエネルギーがあることがわかった」
「バイオマス発電は便利だけど食材を使うのは残念です」
「ネットでもっと調べてみようと思う」
「エネルギーで地球温暖化が防げることを学んだ」
「自分でも新たな発電方法やエネルギーを見つけてみたい」
 子ども達はCM作りを楽しむだけではなく、しっかりと授業の意図する所を捉えていた。

再生可能エネルギーという身近ではないテーマの授業に、子ども達が正しくかつ楽しく取り組めたポイントとしては、
1.CM制作というフレーム
2.常に身近なモノやコトに置き換える
3.使わせるための情報提供
 という3点が挙げられる。一つめと二つめについては先に示した通りだが、三つめについて少し補足したい。

沼田先生の授業のほとんどはパワーポイントで進められ(資料a)、細かなデータや情報について説明することもなければ、教科書のようなものもない。CM制作という段階になったところで、CMの要素となりそうな情報をまとめた資料(資料b、c)を各グループに配るのである。

多くの情報を渡さざるを得ない授業で、沼田先生はそれを説明したり、読ませたりするのではなく、「伝えるために使う」という目的を与える「アナザーゴール」の手法を使うことで、子ども達の中に深く情報が吸収されることにつなげている。

  • 資料a

  • 資料b

  • 資料c

授業を終えて

等々力小学校の秋吉校長先生のコメント

「子ども達の生き生きした表情、一生懸命発表する姿から、子ども達が沼田先生のメッセージをしっかり受け取ったことを感じ取りました。現在、『ESD』『アクティブ・ラーニング』の重要性が叫ばれています。今回の授業をきっかけに、学んだことを明日からの生き方に直結できる授業展開を本校でも模索していきたいと思います」。

沼田先生のコメント

「今回は地元なので共通の話題を多く取り入れることができました。近くの商業施設にある小さな風車群。子ども達はその存在を知りながらも、風力発電と気づいていなかった。しかしそれに気づくと、ノートをとったり、資料を読んだりと一気に意欲を高めて取り組んでくれました。今回の授業で、子ども達が身近にあるのに気づかないことに気づいたこと。未来について考えるようになったことはとても嬉しいです。日本の未来は明るいですね」。

記者の感想とまとめ

こうした社会課題を取り上げる授業では、子ども達がどれだけリアルに感じられるかが重要となってくる。沼田先生は、わかりやすく説明するためだけでなく、子ども達の気づきを継続させるために、身近なことに置き換えている。将来にも続くような課題に、理解以上の意欲を子ども達が見つける上で最適な授業形態であり、これがまさにアクティブ・ラーニングの活用の姿と言えるのではないだろうか。

なお、この授業は資源エネルギー庁による「グリーンパワープロジェクト」の一環として企画され、千趣会の会員からの基金によって運営されているもの。2014年7月から全国の小学校で出張授業を実施している。

授業は沼田先生の設計によるもので、再生可能エネルギーという子ども達の関心の薄いテーマを、CM制作という子ども達の主体的な活動を中心とした授業にすることで、同テーマへの理解や深い思い入れにつなげることに成功している。

記事:音なぎ省一郎(「なぎ」の漢字は、さんずいに和) (株式会社ダイヤモンド社)/写真:株式会社千趣会/協力:東京学芸大附属世田谷小学校 沼田晶弘教諭、 世田谷区立等々力小学校の皆さん、株式会社千趣会、株式会社ダイヤモンド社

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