2014.10.21
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子どものためのワークショップが全国から一堂に集まる 「ワークショップコレクション10 withモノづくり体感スタジアム」リポート ― 青山学院大学・青山キャンパス ―

「ワークショップコレクション10 with モノづくり体感スタジアム」が8月29・30日、青山学院大学・青山キャンパスにて開催された。これは、図画工作や理科をはじめ、国語、英語、算数、社会等、様々な教科につながるワークショップが全国から100以上も集まるイベントだ。紙や鉛筆で取り組めるものから、最新のデジタル機器を駆使するものまで、子どもたちはモノづくりを通して創造力や表現力を刺激されていたようだった。

ワークショップ体験リポート

子どもの知的好奇心をくすぐるワークショップの数々がずらり!

今年で10回目を迎えた「ワークショップコレクション」。手芸や工作、お絵描きといった図画工作系のワークショップをはじめ、物語づくりや算数パズル、浮力の実験、プログラミング体験等、多種多様なワークショップがずらりと並んだ。会場となった青山学院大学・青山キャンパスには8月最後の週末ということもあり、開催期間の2日間に5.7万人もの親子が訪れ大盛況。人気のワークショップでは30分待ちの行列もできるほどだった。今回はこの中から、特に目を引いたワークショップをいくつかリポートする。

【読み方立体図鑑】

出展者:植月 美希・丸谷 和史・渡邊 淳司・安藤 英由樹

タブレットPCで音読の特徴を可視化する

国語科では音読指導が要の一つである。しかし、これがなかなか容易ではない。漢字や句読点を正確に音読することは読み間違いを正せばよいが、「適切な速度で読む」「感情を込めて読む」については的確に指摘しにくい。子どもたちは文章を正確に読むのに懸命なため、速度のことまで気が回りづらいし、自分の音読速度が他人と比べて早いか遅いか、客観的に判断しにくいからだ。

タブレットPC上の文字を指でなぞると、濃く表示される

そこで函館短期大学・NTTコミュニケーション科学基礎研究所・大阪大学では、ITを使って「音読の特徴を可視化」するという、意欲的な研究を推進中だ。この日も、自分の音読を「立体化」して目に見えるようにするという、斬新なワークショップを行っていた。

使用するのは、タブレットPC。まずは画面に表示された文章を、指でなぞりながら読み上げていく。この指の動きの速度をタブレットPCが記録し、折れ線グラフとして可視化する。速く読んだ箇所は高い山に、ゆっくり読んだ箇所は低い山になる。この折れ線グラフを印刷し、文章の横に立てて貼り付ければ、どこを速く読み、どこをゆっくり読んだかが一目でわかる仕組みだ。

  • 印刷した折れ線グラフを切り抜き、文章の横に貼り付ける

  • 自分の音読を可視化し、振り返る

この音読の可視化による最大のメリットは、自分の音読を客観的に振り返ることができる点だ。友だちの音読グラフと比べれば、自分の音読の特徴が一目瞭然。どこを修正すればよいか自覚できるし、教師が指導する際のデータにもなる。「もっとゆっくり」「もっと速く」といった抽象的な指導ではなく、目に見えるグラフを用いた具体的な指導が可能となるわけだ。

また、速度を意識して音読することで、感情を込めて豊かに読めるようになる効果もあるという。研究者によると、感情を込めて読む子は、小さな山が連続するグラフになるそうだ。

さらに、指でなぞりながら読むことで、記憶が定着しやすくなる効果もあるという。現在実証実験中だが、なぞり読みを行うことでテストの点が上がったという結果も出ている。

将来的には、この技術を用いてタブレットPC用の教材を開発することも視野に入れているという。「音読を可視化する」というユニークな手法が、学校現場に導入される日も近いかもしれない。

【親子でいっしょに「おこづかいゲーム」】

出展者:一般社団法人金融学習協会

お金を計画的に、自分の裁量で使う大切さを体験

「小学校では、お金の使い方を学ぶ機会があまりありません。そこで親子でお金の大切さを学んでもらおうと、この教材を作ったのです」
 と語るのは、「おこづかいゲーム」を開発した大即(おおつき)富士子さんだ。現在ファイナンシャルプランナー(FP)として活躍する大即さんは、なんと元小学校教諭という経歴の持ち主。FPと教師という二つの職の経験と知識を本ゲームに反映させている。

  • サイコロを振ってコマを進める、すごろく形式のボードゲーム

  • 各マスには買うべき物や行動が指示され、1,000円分をやりくりしてゴールを目指す

「おこづかいゲーム」は、親子で遊ぶすごろく形式のボードゲームだ。プレイヤーの子どもには、スタート地点の「1日目」に、親からおこづかいとして1,000円分のコインが渡される。サイコロを振ってコマを進めて行き、止まった日にちに書いてある物を買うかどうかを判断。ゴールの「30日目」まで、おこづかいをどうやりくりするか考えながら進めていく。

ただし、「必要な物」と「欲しい物」の2種類があるのが、このゲームのミソだ。筆箱やノートといった文房具は、止まったら必ず買わなければならない。お菓子やおもちゃといった「欲しい物」は、買うかどうか自分で考えて決める。

「必要な物」には筆箱セットやノートセット等、学校生活で使う物が設定されている

ゴールした時点で一番多くのお金を持っていた人が勝ちだが、勝負を捨てて自分の欲しい物を買うのもあり。ちなみに、お菓子やおもちゃといった「欲しい物」は、現物が用意されており、ゲーム内通貨で購入し、持ち帰ることができる。だから子どもは迷い、真剣に考えるのだ。

親子で一緒にプレイして、親にも学んでもらうことが狙い

このゲームには、どんな狙いが込められているのだろうか。
「限られた金額の中で、必要な物と欲しい物を、いつ、何を、いくらまで買うか。必要な物と欲しい物のバランスを考えながらお金を使うことの大切さを、子どもに体験してもらうのが狙いです。文房具など必要な物は、おこづかいとは別枠で親が買い与える家庭が多いと思います。でも、必要な物もおこづかいの中から買うようにすることで、お金を大切にし、自分で計画を立てて使う姿勢が磨かれていくのです」(大即さん)。
 親子で一緒にプレイするのも、このゲームのポイントだ。親子で話し合いながらおこづかいの使い方を考えつつ、最終的には子どもの判断に委ねる。子どもにお金を使う責任を持たせることを、親にも学んでもらうという狙いがある。

子どもは真剣に悩みながら買い物をし、学ぶ

「おこづかいゲーム」を用いたワークショップは、東京都の世田谷区や大田区の教育委員会の後援を受け、区内小学校で頻繁に開催されている。これまでに延べ1,500組もの親子が参加したそうだ。
 参加した保護者たちからは、
「子どもにおこづかいの中から文房具等の必要な物を買わせて、使い道を任せるという考え方に共感した」
「単におこづかいを渡すだけではだめなのだとわかった」
「家でおこづかい制度を始める際の参考にしたい」
 等と好評を得ている。子どもたちからは
「面白かった。またやりたい」
「お金の大切さがわかった。自分でおこづかいをやりくりしたい」
 といった感想が出ているという。

【不思議なスケッチブック】

出展者:愛知工業大学 近藤 菜々子・水野 慎士

描いている絵が三次元CGになり動く! 鳴る! さわれる!

スケッチブックに描いた絵がモニター上で三次元CGに変わっていく

色とりどりのペンを握り、白い紙のスケッチブックに思い思いの絵を描いていく子どもたち。するとどうだろう。モニターに映し出されたその絵が、描いていくそばから動き出した。うずまき模様はバネのように跳ね、ハートマークはぽっこり盛り上がって花びらが舞い、緑の直線は木のように立ち上がり、チャイムのような音が鳴った。

これは、愛知工業大学のワークショップ「不思議なスケッチブック」での制作中のシーン。子どもが絵を描いている紙のスケッチブックをWebカメラで撮影し、その色や形を同大学が開発したソフトウェアが認識し、自動かつリアルタイムに三次元CG化するのだ。

スケッチブックを揺らすと、ぽっこり盛り上がったハートマークがぶるぶる揺れる

それだけではない。この三次元CGに触ることもできるのだ。膨らんでいるハートマークの上を手でなでると凹み、木のように立った緑の線を手で押すと倒れる。さらにスケッチブックを手で揺すると、三次元CG全体がぶるぶると揺れた。子どもたちは、
「すごい、すごい!」
 等と驚きながら、様々な絵を描き、どんな三次元CGに変化するかを色々と試していた。このような不思議体験を試行錯誤することで、子どもたちは創造力をどんどん高めていくようだ。まさに、モノづくりを体感するプログラムだった。

主催者に聞く

創造的で、柔軟な考え方を育てていく場を提供

「ワークショップコレクション」を主催する特定非営利活動法人CANVASのディレクター・小林千草氏に、本イベントの意図や学校現場で活用するためのポイント等を伺った。

学びの場.com 「ワークショップコレクション」は今年10回目とのことですが、どのような目的で開催されているのでしょうか?

特定非営利活動法人CANVAS ディレクター 小林千草 氏

小林千草 デジタル時代の新しい学びをファッションショーのようにポップに伝えられないか? それが、「ワークショップコレクション」の始まりでした。“世界初”のこども向けワークショップに特化した博覧会イベントとして、2004年にスタートしました。日本各地で子ども向けにワークショップ等の活動をしているプレイヤーをつなげたい、日本中のすべての子どもたちが創造・表現活動に参加できる環境をつくりたいといった目的で、年に一度(時期不定期)開催を続けております。来年以降も開催予定です(場所・時期は未定)。

学びの場.com 最近のワークショップには何か傾向はありますか?

小林千草 出展するワークショップの傾向としては、数年前より、プログラミングを活用したワークショップや、ダンスや演劇等の身体的なワークショップが増えてきたように感じます。個人的な意見ですが、どちらも個人の創造力・表現力が大きく出る分野なので、表現や発信が重視された現代においては、注目する方が多いのかもしれません。

学びの場.com なるほど。参加者の反応はいかがでしょうか?

小林千草 来場者の方からのアンケートを見ますと、「(自分の)子どもがこんなに作ることに夢中になっている姿を初めて見ました」「電子工作の分野が好きだったなんて知らなかった」等、子どもの新たな面を知る良い機会になっているようです。

学びの場.com 今回、実に多くのワークショップを見ました。学校現場でも活用できるとよいですね。

小林千草 ワークショップは、教科の垣根を超えて横断的な学び、また人と一緒に学ぶ協調性が重視された手法です。学校の学び方とは異なる性格の学び方ですが、どちらも子どもたちにとって必要な学びの環境だと考えます。可能であれば、子どもたちの身近にある学校の中に、どちらの学び方も共存された環境があることが、子どもたちに創造的で、柔軟な考え方を育てていくのだと思います。創造的な学びの場をより増やして、いつかは学校で活用していける機会を作っていきたいと思っております。

記者の目

今回ワークショップコレクションを取材して驚いたのが、その来場者の多さだ。夏休み中とはいえ、平日の金曜日にもかかわらず、多くの親子連れが会場を訪れていた。今年で10回目を迎えたワークショップコレクションの人気の高さがうかがえた。また、出展者の幅広さも特徴的だった。放送出版等のマスコミ業界や、大手通信やソフトウェア開発等のIT企業、大学、NPOまで多様な出展者がずらりと並んでおり、「ワークショップの実施者同士の交流の場」としてもにぎわっていたようだ。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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