2020.11.19
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社会的事象をグッと自分に近づける社会科の発問の工夫

社会科の授業の進め方に悩んでいる先生方の声を多く聞く。最近よく聞く悩みの一つとして、「授業が、資料から分かったことを発表するだけで終始してしまう」や「考えが広がったり深まったりしない」がある。
よく見かける授業の流れとして、提示された学習問題を解決するために、子どもたちは教科書や資料集等の資料を読み解く。そこから分かったことや考えたことを発表し合う授業が展開されていく。しかし、ただ考えを出し合うだけの「発表会形式」になっていることに問題があるのではないかと考える。また、学習する内容が遠い場所のよその出来事で終わってしまう傾向もある。そこで、今回は「発問の工夫」を通した授業改善について提案したい。

陸中海岸青少年の家 社会教育主事 村上 稔

1つ選択させる発問 「~のよさを1つ選ぶとしたら何か(どれか)」

資料から分かったことや考えたことを発表させ、板書していく。黒板に様々な子どもの声が並んだところで、このように問うのである。「1つ」と限定的に問うことで、学習課題に対する自分の考えを子どもたちがじっくり再構成する時間となる。例を挙げる。

6年 単元「平和で豊かな暮らしを目指して」
・東京オリンピックを開催したことのよさを1つ選ぶならどれか

1964年東京オリンピックを開催したことのよさとして、資料をもとに次の3つの考えが出た。
①国民を元気づけたよさ 
②経済が成長できたよさ 
③世界に平和をアピールできたよさ
これらの中から1つを選ぶ。それぞれが選んだ理由を発表し合い、友達の理由への賛成や反対意見が出始める。

① 「国民を元気づけたよさ」を選んだ理由
女子バレーボールの視聴率の高さ。敗戦で沈んだ感情の国民を勇気づけることができた。スポーツのもつよさ。スポーツ観戦をすること、日本の活躍で国民が元気になれた。

②「経済が成長できたよさ」を選んだ理由
新幹線や高速道路など、急速に国内の環境が変化できた。

③「世界に平和をアピールできたよさ」を選んだ理由
聖火リレーの最終走者を、広島原爆投下の日に生まれた方が務めた。「戦争を繰り返してはいけない」の世界へのメッセージになった。

他にも多くの考えが出る。どれが正解というものはない。大切なことは、自分なりの根拠をもって選ぶことだ。

もしも自分だったら…発問 「もしも自分が〇〇だったら、どう思うか」

追究活動には意欲的に取り組むが、どこか他人事として学習対象を捉えることが多いのではないかと考える。
そこで、「もしも自分が〇〇だったら?」と問うことで、一気に自分事として捉えることができるようにしていきたい。

6年 単元「武士の政治が始まる」
・(頼朝の死後)もしも自分が御家人だったら、幕府と朝廷とどちらにつくか

黒板に「幕府」か「朝廷」かネームプレートを貼らせて、討論をする。その後、北条政子の訴えや承久の乱とその結末を知り、改めて御家人と将軍との結びつきの強さや御恩と奉公の関係について考えることができた。

5年 単元「未来とつながる情報」
・もしも自分が学校HP管理者なら、次の情報からどれを載せるか
情報モラルについて、情報を発信するうえで大切なことを教科書をもとに学んだ。その後、4枚の資料を提示(意図的に情報モラルに反するものも含めた)し、このように問うた。視点が情報発信者となることで、より主体的に考えることができた。


学習のねらいやゴールを踏まえながら、より深く考えさせていきたい場面で発問を工夫し、子どもたちの思考を活性化させていきたい。上記の2つの発問は、どの学年のどの単元でも使い勝手がよいものではないかと思っている。

村上 稔(むらかみ みのる)

陸中海岸青少年の家 社会教育主事


前任校では、社会科を専門として授業実践を積み重ねてきました。2020年4月から学校現場を離れ、社会教育主事として勤務しています。社会科の授業研究や社会教育全般について発信していきたいと考えています。

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