2019.10.30
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小学生にLGBTQを教えたら、予想外の展開が!

LGBTQとは性的マイノリティ(少数者)のこと。L=レズビアン。G=ゲイ。B=バイセクシャル。T=トランスジェンダー。Q=クイア。LGBは性的指向、Tは性自認、Qはセクシュアリティに違和感を持つ人の総称。最近は、SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity=性的指向と性同一性)という言い方が国際的に使われるようになっています。
私はもう数十年来の筋金入りのアライ(=LGBTQを理解し支援する人のこと。英語のアライアンス(同盟、提携)からきた言葉)なので、積極的にLGBTQについての教育を小学校に取り入れたいと考えています。

東京都内公立学校教諭 林 真未

授業実施までの道

統計的に、LGBTQ=性的マイノリティは20人に1人の割合と言われています。となると、小学校の1クラスの児童数は30人前後ですから、その素質を持っている子どもは、クラスに数人はいるわけです。
筋金アライ教師としては、「その子たちが何も知らないまま、中学生、高校生になって、自分の性的特性に気づいた時、ひとり苦しむことのないようにしてやりたい」と常々考え、機会あるごとに、「男の子が女の子を好きになるとは限らないよ」とか「身体は女の子でも心が男の子という場合もあるよ」とか、地味にLGBTQ的認識を、子どもとの会話に忍ばせてきました。
最近になって、東京都の初任者研修、中堅研修等に、性的マイノリティ理解が必ず組み込まれるようになったり、啓発動画が作られたり、公立中学や都立高校で、女子の制服ズボン選択が認められたり(残念ながら男子の制服スカート選択はまだ許されていませんが)、我が区の教育長主催研修に、アライの活動家が招かれたり……。一昔前とは、ずいぶん様相が変わってきました。
「これは、もう公的なお墨付きを得たと考えてもいいよね。堂々と学校の授業でそのことを扱っていいってことだよね!」そう考えて私は、実践を一歩進めて、LGBTQの授業をしよう、とその方法を模索しました。

とりあえずインターネットを検索してみたら、なんと、ゲイをカミングアウトした小学校の先生がいるではないですか! しかも東京在住!「この方をゲストに呼ぼう!」私はすぐにそう決意し、校内の合意を得にかかりました。

学年をご一緒している先生方は、私の習性をよく御存じなので、「マミ先生またユニークなこと言い出して」と笑いながら、すぐご理解くださいました。管理職の先生方も反対する理由はありません。なにしろ、東京都も板橋区も、性的マイノリティの問題を教育するよう奨励しているのですから。

校内の了承を得た私は、担任していた3年生の総合的な学習の時間で「まちの人々のダイバーシティ」というテーマを設定し、様々な社会的マイノリティのゲストをお呼びして、その方々の現状や生きづらさを学ぶ授業を計画しました。そしてその一環として、彼を招くことにしたのです。

私は、SNSを通じてその先生=シゲ先生(鈴木茂義さん)に連絡を取りました。今ではテレビにも出て、全国的に活躍をしているシゲ先生ですが、その頃はまだ、ウェブ上に情報が出始めたばかりで、このときが人生初のLGBTQに関わる授業だったそうです。̪

ゲイをカミングアウトした小学校教師・シゲ先生登場

シゲ先生は長身で爽やかな印象の方。授業もとてもお上手で、初めて会った子どもたちがどんどん授業に引き込まれていきます。

カミングアウトして職を辞するまでは、バリバリ担任をしていた方なので、しっかりとした指導案まで作ってくださっており、もう45分全面お任せ状態です。

授業の中でゲイであることを伝える設定なので、子どもたちはLGBTQに関する授業とは知りません。そもそも、シゲ先生がLGBTQと教育を通じて伝えたいのは、あなたも大事、あなたの隣の誰かも大事、ということ。お互いを認め合う土壌があれば、LGBTQ理解はスムーズに確実に浸透していくはず。だから、授業のタイトルは「なかよし大さくせん」。
今思うと、初めての授業で、シゲ先生のコンセプトがすでに色濃く出ていました。

参考「なかよし大さくせん~目に見えるちがい 目に見えないちがい~」授業内容

ねらい
人々の性が多様であることを理解する。
●自分の生き方も他者の生き方も同じように大切であることを知る。
人々と共存することについてポジティブに考え、自分にできることを考えることができる。

流れ
ゲストがクイズ形式で自己紹介をし、
その中で性の多様性についても伝え、
それに対する質問を通してLGBTQ理解を深め、
人には目に見えるちがい、見えないちがいがあることを理解し、
いろんなちがいを持つ人と仲良くする方法を考え、
自分の考えを伝え合う。

子どもたちの見事なスルーっぷり

私たち大人としては、シゲ先生が「好きな人が男性だから結婚できない」とカミングアウトしたところに子どもたちがひっかかって、それに対する質問がたくさんあって、LGBTQ理解を深める……予定だったんですけど。子どもは、こちらの予想と反して、そんなことにはぜんぜんひっかからなかったんです……。

「ぼくにはすきな人がいます。でも、その人とけっこんできません。それはなぜでしょう?」というシゲ先生の問いかけに、「けっこんしている人だから」「ペットだから」など次々と答えていく子どもたち。そして最後にシゲ先生が、「答えは男同士だから」と教えると、教室が騒然となる。
という予定だったのに、実際には「へーー」と軽く反応するだけで終わってしまい、こちらが想定したひっかかりどころを、子どもたちは見事にスルーしてしまったのです。
そしてただ『ああ、正解でちゃったか』『じゃあ、次の問題で頑張ろうっと』『クイズ面白いから、もっとたくさん問題出して!』と言わんばかりの顔で待っている。

あのシーンを見た時の、じわじわと湧きあがる得も言われぬ感覚は忘れられません。というわけで、授業は、LGBTQに重きを置いた内容というより、文字通り「なかよし大さくせん」として成立してしまったのでした。

ストレート(異性愛者)なのかゲイ(同性愛者)なのかってことよりも

シゲ先生曰く
「子どもたちには、ぼくがゲイであるかどうかっていうことよりも、休み時間に一緒にドッジボールをしてくれる先生なのかどうかっていうことの方が、ずーっと大事な情報なんですね」
男同士で好きになるというのは”普通”ではないという感覚は、子どもたちのなかにあるとは思うのですが、だからといって、大してこだわるところじゃないらしいのです。

それより、シゲ先生の楽しい授業で、クイズに答えることが続けたい。もっといろいろ教えてほしい。休み時間に遊んでほしい。給食を一緒に食べてもらう時も、シゲ先生の取り合い。昼休みには、文字通り鈴なり状態。遊んで遊んでの大合唱。
ゲイをカミングアウトすると「気持ち悪い」なんてひどい言葉を浴びせられたり、なんとなく避けられてしまったり、なんてことがあると聞きます。でも、少なくともこの時の3年生たちは、全くそんなことはなかったです。それどころか、もうホントに全員が、最後までシゲ先生と触れ合いたくて仕方がないという様子でした。

偏見がない、って、こういうことなんですかね……。

イラスト 有田りりこ

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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