インプロのススメ
ある集団で何かをやろうというとき、そこが安心・安全の場でなければ、なかなかうまくいきません。逆に、安心・安全の場が確立されている集団であれば、何をやってもうまくいく!どんなやり方でも効果が数倍!といったことが期待できると思います。私が取り入れている「p4c」では、誰も否定されることなく、ありのままを受け入れてもらえ、自分の考えを率直に述べられる空間を「セーフティ」と呼んでいます。この重要性やその構築に向けた方法については、以前記事を書いているので、そちらもあわせてご覧ください。
https://www.manabinoba.com/tsurezure/017496.html
「セーフティの構築」
今回は、上の記事で少し触れた「インプロ」という手法について紹介したいと思います。
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭 山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路
インプロとは
インプロとは、「即興劇」などと訳され、台本のない劇のことで、周囲の動きや雰囲気を読み取って、何らかのアクションをします。台本がないので、正解はなく、各自が判断をして対応していくことになります。当然うまくいかないことも多いのですが、そういう特性を逆に利用し、「失敗を受け入れる」「自分と異なる考えの人がいる」といったことを体感することができます。このため、もともとは俳優の練習などで行われていたそうですが、現在では学校教育や企業教育など、幅広い場面で活用されています。
勤務校でも、今年度はインプロ仙台PAGE☆ANT代表の山本力 氏に来校いただき、何度か専門的な見地から指導いただきました。取り入れる場面としては、オリエンテーションの集団づくりや授業の冒頭、グループワークの準備運動といったところが想定されます。今回の記事も、そのときの実践などを、私が教員としての目線で感じたことを中心に書いています。
拍手回し
皆が輪になって立ち、隣の人の方を向いて拍手(1回)をします。それを次々に繰り返して、拍手を送っていきます。慣れてきたら、途中で逆回しにしても良いことにしたり、隣の人以外に飛ばして回しても良いことにしたり、少しずつ複雑なルールを加えていきます。
また、輪を2つ以上作って、その輪の中で失敗した人は別の輪に移動するといったバリエーションもあります。ただ、ここでの「失敗」とは、間違えたということではありません。間違えた人に「あぁ~!」とリアクションしてしまったり、自分が間違えたと考えて流れを止めてしまったりした場合が「失敗」になります。なので、多少ミスがあっても許容し、互いにミスを補いながら進めていくことが求められます。
実際の生活でもミスはつきものですが、ミスがあったからすべてが終わったなどということは稀で、何とかなるものですよね。ですから、この活動でも、ミスを楽しみながらやるということが大事だと考えます。
割り箸を使ったワーク
2人1組に割り箸を1本配付し、割り箸の両端をそれぞれの人差し指で支えます。割り箸1本だけだとかなり不安定なので、この状態で立っているだけでも厳しい人もいるかもしれません。が、その状態で教室内を動いたり、他のペアの間をくぐったりするなど、少しずつ複雑な動きを入れていきます。さらに、割り箸を追加で配付し、他のペアとドッキングさせて4人1組、6人1組・・・と、人数を増やしていくこともできます。
不安定な状態で繋がっているため、ペアの相手の動きをよく見ていないと容易に動くこともできません。なので、上述した「拍手回し」以上に、相手の動きを観察したり、声を掛け合ったりすることが求められます。また、自分がこのように動こうと決めて相手の動きを予測しても、その通りにならないことも多く、「他の人が自分の思った通りに行動してくれるとは限らない」とか「自分の考えだけが正解じゃない」といったことに気づくこともできます。
ワンワード
数名で1グループを作り、1人が1文節ずつ話してストーリーを作っていきます。
例えば、
Aさん「私は」
Bさん「今朝起きたら」
Cさん「ビックリしたのが」
・・・
といった具合になります。
話の続きが思いつかない場合は、両手を挙げて「もういっかい」と宣言し、最初からやり直すことができます。これも、他のワークと同様に、他人の話をよく聞いていないと成立しません。また、他人は自分が意図したように話してくれないといった体験をすることもできます。
ただ、こうしたワークをやる際は、言語よりも身体的なものの方がハードルは低いとされます。つまり、場の雰囲気が温まっていない段階で、「これどう思う?」と言葉で解答を求めるよりも、「Aだと思う人?」と手を挙げさせるといった活動の方が取り組みやすいということです。そういう意味では、最初に紹介した「拍手回し」や「割り箸を使ったワーク」は身体的な活動で、初対面でも比較的取り組みやすいです。が、ワンワードは言語的な活動になりますので、前者を行った後や、そうした素地が十分にできている集団に対して有効と思われます。
留意点
いくつか留意点はそれぞれのワークの説明にも書きましたが、すべてに共通して言えることがあります。それは、こうしたワークを紹介すると、教員にありがちなのが、ワークをやる目的(私の場合は「失敗を受け入れる体験」「セーフティの構築」)よりも、ルールを守らせてゲームを円滑に進めることに注力してしまうケースがあるということです。
私も気をつけているのですが、ルールを守れない生徒に注目したり、ルールを守らせようと介入したりするのは、本来の趣旨とは違います。あくまで失敗を楽しむことを目指しているわけなので、細かいところにこだわらず、生徒たちの表情を見てあげるべきだと思います。
ということで、今回は「インプロ」の紹介でした。勤務校では、オリエンテーションや授業の冒頭、SHRなどで取り入れ、生徒たちの評判も良好です。担任しているクラスの入学当初の集団づくりでは、インプロのワークでかなり助かった部分があります。また、大人同士でも楽しめるワークなので、職員間でもぜひ!?
高橋 英路(たかはし ひでみち)
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。
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