2005.06.06
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品川区、志木市、世田谷区の教育改革とは

6月2日(木)から4日(土)まで、有明の東京ファッションタウンで開催された「New Education Expo東京」。3日間の会期中には、文部科学省や大学などから講師が招かれ、幾つものセミナーが行われたが、その中の大きなテーマの一つが、これから日本の教育がどう変わるべきであるかを語る「教育改革」。そこで、4日のセミナーから品川区教育委員会教育長の若月秀夫氏、志木市立志木小学校校長の金山康博氏、世田谷区教育委員会教育長の若井田正文氏の3氏が語られた内容を取り上げます。

若月秀夫氏
若月秀夫氏

◆小中一貫教育実現までの流れを報告 品川区教育委員会教育長 若月秀夫
 学校選択制や小中一貫教育などを盛り込んだ教育改革「プラン21」を進め、いよいよ来年4月に小中一貫校の1校目が開校となる品川区。今回のセミナーでは教育長の若月秀夫氏が、その改革の底流にある考えを発表した。若月氏によると、学校選択制を実施することばかりに目が行きがちだが、あくまでも選択制は教育を改善するための手段に過ぎないとのこと。だから、学校選択制が実現すれば、教育改革が成功するというのではなく、そこから学校を変えていこうというのが若月氏の考えとなる。

 さらに、学校選択制を支えるために、学校を正しく判断する基準が必要として、外部評価者制度や学力定着度調査が生まれてきた流れがあり、小学校と中学校を受け持つ外部評価者からの、小・中が一体化していないのではないかという意見がきっかけで、小中一貫教育という考えが出てきたとのこと。こうしたことから、品川区の教育改革は行政だけが引っ張ったものではなく、外部の声を取り入れたものだったということが分かる。

 また、品川区が小学1年から中学3年の全ての児童・生徒を対象に行ったアンケート調査結果からは、子どもの自我が芽生え意識も大きく変わるなど、小4と小5の間に心の壁のようなものが見られ、不登校も中学に入学した時点で急激に増加するというデータが出ている。

 こうした小学校と中学校の間にある溝に子どもが落ち込むのを防ぐのが、小中一貫教育の背景にある。新聞では品川区の学校が4・3・2制になると報じられたが、若月氏によれば、それはカリキュラム上の区切りに過ぎず、9年制の一貫した流れを採用したいというのが、正しい解釈だという。この5月には品川版の学習指導要領が完成したが、心の教育を行う市民科や、小学校1年からの英語科があるなど、興味深い内容となっている。この改革が区レベルでも特別な教科が作れる先進的な事例になるか、その行方が注目される。


金山康博氏
金山康博氏

◆クラスの適正人数を考えて少人数学級を作る 志木市立志木小学校校長 金山康博
 実際に学校で進められた教育改革の事例として報告を行ったのは、埼玉県志木市立志木小学校の金山康一校長。志木市は教育に関して先進的な町として知られているが、今回は、特に「25人程度学級」の実施について詳細をご紹介いただいた。

 金山氏は、1クラスに40人が適正とか多いとかの根拠は何なのか、結論を簡単に出してしまう前に、果たしてクラスの適正人数は、どれぐらいか論ずるべきではないかと力説する。それも、子どもの発達段階に応じて学年ごとに適正人数を考えることが重要なポイントとのこと。現行の人数で問題ないとする意見と、少ないほうが良いとする二極的になりがちだった少人数学級の論議に対して、少なすぎても問題で、子どもの成長段階に合わせた適正な人数があるという考えは実践的なものと感じられた。実際に志木小学校では入学前の幼稚園の年長クラスの人数などを考慮に入れて判断した結果、適正人数は25人程度と割り出し、1・2年生に限って実施されることになった。この実施に向けて県教委の同意をもらうための条件は、費用は市町村費で負担することと、県教委配当数の範囲で行うことだったという。

 そして、実際に少人数学級を実現させるためには、市費負担で非常勤講師を増やすとともに、余裕教室となっていた部屋を普通教室に戻す必要などがあった。さらに、普通教室の数が増えるということは、テレビや教卓などの教材備品も増やすなどの準備が生じたという。この少人数学級を全学年に拡充したかった金山氏は、教育特区の申請を行い、これが認められたことで担任を増やすことが可能となり、3・4年でも28人程度の学級が実現した。改革の成功には、地域住民の教育に対する意識が高かったという背景があると思われるが、こうした改革が全国一律に広がるものになるかどうかが課題と言える。

 

若井田正文氏
若井田正文氏

◆日本語を通じ哲学や伝統文化を学ぶ 世田谷区教育委員会教育長 若井田正文
 戦後日本の教育は大きな方向で間違ったものではなかった。そのため全く新しいものにするのではなく、今までの教育を基本ベースにして手直しをしていくというのが、若井田教育長が語る世田谷区の教育改革の方針。そのため、世田谷区では学校選択制も採用されていないが、これは近くの学校に不満があるから遠くの学校に通うのではなく、問題があるのなら近くの学校の環境を良くするべきではないかとの考えが根底にある。さらに、その学校を選ぶ新入生が少なかった場合、上級生が自分の学校に不信感を持つことを危惧してのことだという。

 小中一貫教育に関しても、小学校6年で最高学年を迎え、それが中学校で後輩なるという体験が大事で、小学校と中学校の差を無くす必要は無いのではないかというのが世田谷区の考え。先に紹介した品川区の取り組みとは、対極にあるように思われるが、どちらも子どもの成長を考えての上であるということに変わりは無い。校長に経営者としての意識を持たせるべきであるとか、少人数教育を推進するなど、共通した取り組みも多いが、子どもの意識や環境が変わるのに合わせて、それぞれの自治体が、教育環境も変えていこうという動きが見られる。

 また、世田谷区の代表的な教育改革といえば、「日本語」教育特区があげられる。これは日本語を通じて、物事を深く考え、自己を表現する力を身に付け、日本文化を大切にする心を分かってもらおうというもの。例えば小学校3・4年では、狂言師の野村萬斎氏の協力のもと日本の伝統芸能を学び、中学では新たに哲学の領域が設けられることになる。若井田氏によれば、あえて国語ではなく日本語と呼ぶのは、既存の国語という教科に縛られては、自由な活動ができなくなるからとのこと。すでに指導内容は内閣府に提出されており、今年度と来年度で教材が作成とカリキュラムが作成され、平成19年度からの全校実施が予定されている。

(取材・文:田中雄一郎)

 

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