意外と知らない"教科等横断的な学び"(第1回) 学習指導要領にみる「横断的」とは
みなさんがご存知の通り、昨年(2025年)9月に次期学習指導要領に向けた論点整理が公表され、今年度にかけて改訂のための議論が活発化しています。現行の学習指導要領も改訂後9年目となり、「次期学習指導要領」の姿が近づいてきたこの時点であらためて、現行の学習指導要領でカリキュラム・マネジメントが必須化されたことで存在感を増した「教科等横断的」という言葉に着目してみたいと思います。
第1回では、「横断的」という考え方がどのように示され、どのような意味で用いられてきたのかを紹介します。
「教科等横断的」の意味の変遷
世間一般でとりあげられる際には「教科横断学習」など表現に若干の揺れが見られる場合もありますが、その多くは、現行の学習指導要領で使用されている「教科等横断的な学び」「教科等横断的な視点」という言葉を念頭に用いられていると推測されます。
このため、まずは各学習指導要領における「横断」という言葉の使われ方を確認し、意味の変遷について見通しを立ててみたいと思います。
「横断/横断的」という言葉は、平成10(1998)年度告示の学習指導要領で「総合的な学習の時間」が創設された際に登場しました。なお、「教科を横断する教育活動」という考え方自体は以前から存在し、大正時代や昭和20年代に試みられましたが、学校間格差が大きく、あまりうまく機能しなかったという経緯があります。
平成10(1998)年度告示の学習指導要領
平成7(1995)年4月、文部大臣(当時)から中央教育審議会に向けた諮問文「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の中で、「21世紀に向けて,国際化,情報化,科学技術の発展,高齢化,少子化や経済構造の変化など,我が国の社会は大きく変化」していることを理由に、「国際化,情報化,科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方」に対し、検討の必要性が示されました。
この検討をもとに、学習指導要領告示に先立ち平成8(1996)年度に示された中央教育審議会第一次答申のなかでは、これからの学校教育の目指す方向として「横断的・総合的な学習の推進」がおかれ、そのなかで、全人的な「生きる力」をはぐくむため、「横断的・総合的な指導を推進」する必要性が明記されます。
平成10年度 総則 第3 総合的な学習の時間の取り扱い より
これを受けた学習指導要領では、
①:自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる
②:学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする
という2つのねらいを持たせて、国際理解、情報、環境、福祉・健康といった、当時から社会的な要請が高まっていた課題などを学習活動として取り組むための「総合的な学習の時間」が設定され、現在にまで続く「横断的な学び」の源流が見られます。
ただし、このときには「各教科等のように内容を規定することはしないことが適当」という答申内容を受け、「総合的な学習の時間」という用語の設定とその授業時数の記載によって、その考え方とねらいが示されるにとどまりました。
その後、「教科等横断的な学び」を具体的な教育活動として実践することの難しさが改めて明らかになり、平成15(2003)年の一部改訂で「総合的な学習の時間の一層の充実」と項目が明記されました。
平成20・21(2008・2009)年度告示の学習指導要領
平成20・21(2008・2009)年度告示の学習指導要領では「総合的な学習の時間」の項目としての独立とともに、「総合的な学習の時間の目標」が明記されることとなり、平成10年度に示されていた「ねらい」が「目標」に変化します。
また、構成要素としてあらたに「探究的な学習」と「協働的」が加わり、「”生きる力”をはぐくむ」という趣旨自体に変わりはないと考えられるものの、育成すべき力が明記され、目標の達成のためにより具体性が求められるような位置づけになっていました。
平成20年度 総合的な学習の時間 第1 目標 より
現行の学習指導要領
そして、現行の学習指導要領(2017~2019/平成29~31年告示)では、より上位の取組となるカリキュラム・マネジメントを構成する3つの側面のうちの1つとして「教科等横断的」な視点が求められると定義されるようになったことが確認できます。
平成29年度 総則 第1 小学校教育の基本と教育課程の役割 より
改訂に先立ち行われた中央教育審議会(初等中等教育分科会)では、カリキュラム・マネジメントが「学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策」として挙げられ、その中で「各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと」を、カリキュラム・マネジメントの一側面として捉えています。
また、改訂の要点としても、「学習の基盤となる資質・能力や、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を教科等横断的な視点に基づき育成されるよう改善」と解説されており、教育活動の基盤として「教科等横断的」という要素が求められるようになったことがわかります。
加えて、「横断的」という言葉が、現行の学習指導要領で「教科等横断的」という用語に変わり、現行学習指導要領では他にも「(前略)各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。」とあることから、以前では特定の学習活動の枠組みのように扱われてきた「横断的」という言葉が、現在では、教育課程の編成やカリキュラム・マネジメントといった、大きな枠組みの中の構成要素としてとらえることが求められるようになったと言えるでしょう。小中学校の「解説 総則編」付録6には、カリキュラム・マネジメントの参考資料として、13のテーマについて、関連する各教科の内容が掲載されています。
学習指導要領の中で具体的な教育活動のあり方が示され、教育課程の編成の時点からと、時を追うごとにより上位で、広範囲にまたがる言葉として扱われるようになっていったことで、「”生きる力”をはぐくむ」という学習指導要領の目的を達成するため、時とともにその評価と重要性が増し続けている言葉であるととらえることができます。
「教科等横断」と似た言葉との比較
「教科等横断的」という言葉自体は近年になって定着した用語ですが、考え方として「複数の教科にまたがるなど、特定の教科で定義が難しいような資質・能力などを育むための学習活動」としては以前から存在しています。そのため、次のような単語が様々な資料のなかで「教科等横断(的)」と近い意味で使われていることがあります。
「合科的・関連的な指導」
現在の学習指導要領の中でも引き続き用いられており、特に小学校低学年における、生活科と他教科等の接続の文脈で用いられている用語です。
平成29年度 小学校学習指導要領解説 生活編 より
ここでいう合科的な指導とは、各教科のねらいをより効果的に実現するための指導方法の一つで、単元又は1コマの時間の中で、複数の教科の目標や内容を組み合わせて、学習活動を展開するものである。また、関連的な指導とは、教科等別に指導するに当たって、各教科等の指導内容の関連を検討し、指導の時期や指導の方法などについて相互の関連を考慮して指導するものである。
生活科という教科特性に即して、特定の単元や1コマの時間にまで踏み込んだ表現がなされており、総則でも「指導計画の作成等に当たっての配慮事項」に記載があることから、カリキュラム・マネジメントの観点でも位置付けられた概念であることがわかります。
また、指導のあり方としても「生活科の学習成果を他教科等の学習に生かす」「他教科等の学習成果を生活科の学習に生かす」「教科の目標や内容の一部について、これを合科的に扱うことによって指導の効果を高める」ことが求められており、考え方としては「教科等横断的な視点」に近しいものの、特に生活科という特定教科を柱に、かなり具体的に授業デザインへ踏み込んで使われる特徴があります。
「クロス・カリキュラム」
学習指導要領上で厳密な定義がなされた用語ではありませんが、言葉の通りカリキュラムの内容として、教科等横断的な教育活動を実現するための方策を指して用いられる言葉です。
また、教科等横断的な教育活動を実施する理由としてある「物事を多面的・多角的に理解する力」を育むという目的のために「クロス・カリキュラム」を扱う研究もあり、「カリキュラム」という名前が付くことで、単に「教科等横断」というよりも大域的な枠組みが意識されると考えることもできるでしょう。
「教科間連携」
こちらも学習指導要領の中での定義は見られませんが、「複数の教科同士を結びつけること」そのものを指すため、世間一般でかなり広い意味で用いられています。
単元の設定や学習活動、あるいは特定の資料を指して用いられる場合もあり、指すものの大きさが前後の文脈に大きく依存するため、これ自体に特定の定義があるというよりも、複数の教科同士を結びつけようとする要素を指す用語となっています。
「STEAM教育」など、特定の分野に対する学習活動を指す用語
「STEAM教育」も現在ではかなり広い意味で使われる単語ですが、学習指導要領との関連の文脈でみると、令和2年度に示された中央教育審議会答申のなかで「各教科での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な教育」とされており、STEAM教育が「教科等横断的な学習」の一例と扱われています。平成10年の時点で、情報分野が「横断的な学習活動」と考えられていたことをふまえても、「教科等横断的な学習」の一分野としてとらえることができるでしょう。
この他にも「環境教育」や、「地域学習」というような、各地域や時代の中で登場し使用される用語は、それぞれに異なる定義がありながらも、実質的には「教科等横断的な学び」の具体的な実践例として、現代的な諸課題に関する特定の学習活動を指す言葉として扱われてきたと考えられます。
総合的な学習=教科等横断的な学習?

「教科等横断的」という言葉の使われ方を見てみると、国立教育政策研究所による研究「『現代的な諸課題』を扱う教科等横断的な単元の開発と実践」のなかで、教科等横断的な取組について
- 『総合的な学習(探究)の時間』などに見られる探究的な課題設定とその解決をはかる場合
- 複数の教科がそれぞれの学習活動を充実させて行う場合
の2つに大別しており、特に後者についての課題意識が確認されています。
本調査研究は令和4(2022)年度に行われたもので、これまで長い間「総合的な学習の時間」という特定の学習活動のなかで取り扱われていた「教科等横断的」という言葉が、カリキュラム・マネジメントの階層で用いられ、教育課程の編成時点から求められるようになったことで、従来から独立していた教科同士に対しても「教科等横断的な視点」を向けることが求められるようになったことがうかがえるのと同時に、それを具体的な教育活動として実践する部分で、近年になっても課題意識が残っていたことがうかがえます。
学習指導要領の改訂経緯からも、「教科等横断的な視点による学習活動」の代表例といえば、多くの人がまずは「総合的な学習の時間」をイメージすることになると思います。
しかし、現在では総合的な学習の時間のみを切り出して「教科等横断」ととらえるだけでは、現在教育課程全体の中で求められている「教科等横断的な学び」の姿を十分に捉えきれなくなってきています。近年では、各教科の目標や内容の関係を見通しながら、カリキュラムとして構想していくことが、より具体的に求められるようになったと言えるでしょう。
次回は、「総合的な学習の時間」にとどまらない「教科等横断的な視点による活動」の具体例を紹介しながら、実際の授業や評価のイメージをもう少し具体的に描いていきたいと思います。
参考資料
構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 小林 純一
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