2021.04.05
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意外と知らない"カリキュラム・マネジメント"(第3回) ~新年度に何から始めるか、年間スケジュール例の紹介~

第1回と第2回では、カリキュラム・マネジメントの三つの側面から、カリキュラム・マネジメントのポイントを紹介してきました。
第3回では、新年度に入ってから、実際にどのように進めていくと良いか、年間スケジュール例に沿って考えていきたいと思います。

カリキュラム・マネジメントモデル

育成を目指す資質・能力を育むため、長期的な視点でカリキュラム・マネジメントを捉えることが重要ですが、具体的にどのように進めていくと良いのでしょうか。

文部科学省「次世代の教育情報化推進事業(情報教育の推進等に関する調査研究)」の令和元年度成果報告書「情報活用能力を育成するためのカリキュラム・マネジメントの在り方と授業デザイン」(以下、「成果報告書」とします)と、そのダイジェスト版である「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成<体系表例とカリキュラム・マネジメントモデルの活用>」(以下、「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成」とします)に【情報活用能力育成のためのカリキュラム・マネジメントモデル】というものが掲載されています。(それぞれ第3章P.83、P.9)

これは、タイトルの通り、情報活用能力を育成するために作成されたモデルではありますが、情報活用能力に限らず、カリキュラム・マネジメントを長期的に捉える際の参考として活用できますので、これを参考に解説していきたいと思います。

3つの時期×三つの側面

このモデルでは、縦軸(表側)に大きく「準備期」、「実践期」、「改善期」の3つの時期が設けられています。「実践期」、「改善期」はそれぞれ1年以上と想定されており、年度をまたいで数年継続する場合もあります。また、育成を目指す資質・能力が同じでも、改めて整理し直したり、再スタートする場合には、もう一度「準備期」に戻る必要があるでしょう。

また、横軸(表頭)には第1回と第2回の記事で紹介した「カリキュラム・マネジメントの三つの側面」がキーワードとして整理されています。長期的な視点でカリキュラム・マネジメントを捉える場合も、常に3つの時期、三つの側面を意識して考えることで、より良いカリキュラム・マネジメントにつながるでしょう。

年間スケジュール例

同上 P.10より転載

「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成」の「カリキュラム・マネジメントモデル」の隣のページには、「年間スケジュール例」も掲載されています。

横軸(表頭)は「カリキュラム・マネジメントモデル」同様に「カリキュラム・マネジメントの三つの側面」で整理されており、縦軸(表側)は前年度及び1年間の流れを示しています。「前年度までに準備しておくこと」という箇所は、「カリキュラム・マネジメントモデル」の準備期にあたります。

この「年間スケジュール例」に沿って、何月にどのようなことを行えば良いのか、各項目を解説します。

◆前年度(準備)

同上 P.11より転載

まず、年間スケジュールという名前にも関わらず、「前年度までに準備しておくこと」という箇所にたくさんの項目が書かれています。

第1回や第2回の記事の内容と重複しますが、カリキュラム・マネジメントを進めていくために、まずは何を目標とするのか明確にし、共通理解をもったうえで、体制及び環境整備を行っておくことが、準備段階として求められています。このとき、全ての学年や教科等とのつながりを意識することが重要です。

◆4月(新学期)

同上 P.12より転載

新学期に入ってからは、目標として掲げた資質・能力を育成するため、「年間指導計画に基づいた実践」が始まります。ここでは、確実な実践が行えるよう、2つのポイントが記載されています。

1つ目は「アンケート・テスト(実態把握)」です。

育成を目指す資質・能力について、新入生がどの程度身につけた状況で入学してきたか、また進級した児童生徒は前学年までにどの程度身につけているか、という実態を把握します。実態を把握することができると、どの部分を重点的に育成すべきか明らかになり、「振り返り」の際にも、4月時点と比べて学期や年間を通じてどの程度成長したか確認することができます。

実態把握の方法は、目標とする内容によりますが、アンケートやテストなどが考えられます。具体的なアンケート項目などは、先進的な自治体や学校などがWeb上に公開している場合もありますので、検索して参考にすると良いでしょう。集計ツールも一緒に公開されていることもあります。

同上 P.12より転載

2つ目は「共通理解を図るための校内研修」です。

前年度までに、校内の全教職員との共通理解ができている場合でも、新たに学校に異動してきた先生や、新任の先生もいるかもしれません。新年度のタイミングで改めて共通理解を図るとともに、全教職員でカリキュラム・マネジメントを進めていくということ(全ての学年・教科等で意識すること)を再度確認し、1つ目の「アンケート・テスト(実態把握)」の結果を共有したうえで、同じ目的地を目指す気持ちを共有しておくことが重要です。

◆8月(夏季休業中)

同上 P.13より転載

このタイミングで一番重要なポイントは「これまでの振り返り」です。

もちろん4月から7月までの間も、週ごとや月ごとなど、定期的に振り返る必要がありますが、この段階で長期的な実践の振り返りを行います。場合によっては夏休みに入る前に、育成状況をアンケートやテストなどで「評価」をしたうえで、振り返ることも考えられます。振り返りを行う際も、全教職員で意見を出し合うなど、全ての学年や教科等を意識することが重要です。振り返った結果、軌道修正する必要があれば改善したり、逆に良い取組があれば積極的に広めるようにします。

この振り返りを基にしながら、他に3つのポイントが書かれています。

1つ目は「機材等の整理」です。

育成を目指す資質・能力のために必要な機材が整備されているか、改めて確認しましょう。年度当初には気づけなかった、実践を通じて必要だと感じた機材や、実践中に故障や破損してしまって使用できなくなった機材を確認し、整理する機会をもつことが重要です。

2つ目は「各種研修」です。

例えば、振り返りである教職員の実践方法が他の学年や教科等でも参考になりそうであれば、その紹介を行う研修や、他校や他地域が公開している先進事例を確認し、実践研究会を行うことで共通理解の深まりを目指すことなどが考えられます。また、使用している機材やアプリなどの使い方について、これまでの実践を踏まえた共有会を行うことも良いかもしれません。

3つ目は「研究授業の指導案検討」です。

これまでの振り返りを踏まえ改善した内容について、夏季休業明けに研究授業を計画し、その指導案の検討を行います。各種研修で学んだ内容をアウトプットする機会にもなり、自分事として考えることで、新たな気づきも見つかるかもしれません。

◆9~10月

同上 P.13より転載

8月にしっかりと振り返りを行ったうえで、9月では実践の改善や評価に関するポイントが書かれています。

「先進的な近隣地域の学校視察」や「外部からの評価」など、外部との関わりに関する取組は、コロナ禍においては工夫や注意が必要ですが、先進的な近隣地域の学校を視察したり、外部からの評価を受けることで、自校の教職員にはない発想や、当事者では気づけない意見を収集することが重要です。

本来であれば、先進的な近隣地域の学校を視察して、その子供たちの実際を目にすることで、自校が目指している方向性・必要性をより具体的にイメージしたいところですが、コロナ禍では、簡単に訪問することは難しいかもしれません。Web会議システムを使って、学校視察や他校との交流を試みることも考えられます。

同上 P.13より転載

また、他校との交流だけでなく、自校内での交流を深めていくことも書かれています。「これまでの授業を改善した実践(学年・教科等横断した研究授業含む)」では、学年や教科等に限定せずに、教員同士が気軽に授業参観できる期間や体制を整えることによって、教員同士の交流が深まることが考えられます。

◆12~1月

同上 P.14より転載

12月には「目標達成に向けた振り返り」という項目が書かれています。これは1月に書かれている「目標達成に向けた抜け漏れない実践」という項目につながるもので、目標に掲げた内容と育成カリキュラムの実施状況を振り返り、年度末に向けて改善するための振り返りです。

また、1月には「アンケート・テスト(評価)」を行うと書かれています。年度初めに実施した「実態把握」と比較して、1年間を通じた育成状況を評価します。またこの結果は、子供たちの評価だけではなく、育成カリキュラムの評価や改善にも活用することが重要です。評価についても、自校だけでなく近隣の学校との連携をして、互いのカリキュラムを評価し合うことも考えられます。

◆2~3月(年度末)

同上 P.11より転載

年度末には、「全体の振り返り」をし、次年度に向けた準備を行います。「育成カリキュラムの修正」はもちろんですが「体制再構築」として、体制の枠組は適切であったか、ということも含めて評価することが必要でしょう。

カリキュラム・マネジメントの活動事例

「年間スケジュール例」の各項目の内容を確認してきましたが、「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成」の次のページには、下のように、ある架空の学校で組織された「情報活用能力育成チームの教員の皆さん」の具体的な取り組みと、情報活用能力育成に詳しい「ジョーホー博士」のアドバイスがチャット形式で日記風に表現されています。ここには「実践記録」が載っており、「LOOK」として成果報告書内の参照先も書かれています。

この活動事例は、情報活用能力の育成に限定されますが、カリキュラム・マネジメントの参考として活用できるでしょう。

同上 P.11、12より転載

同上 P.13、14より転載

3回にわたって、カリキュラム・マネジメントのポイントを解説してきました。各学校、学年、学級でのカリキュラム・マネジメント推進の参考になれば幸いです。

構成・文・イラスト:内田洋行教育総合研究所 研究員 眞鍋悠介

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