意外と知らない"遠隔教育"(第1回) 学びの保障と、その先に広がる家庭学習の可能性
2020年3月から最長で約3か月間、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を目的として、全国の学校で一斉臨時休業が行われました。突然、子供たちが学ぶ場が失われてしまったことに大きな衝撃が走りました。そのような中、各地の学校で、Web会議システムを使って家庭とつなぎ、学びを継続しようという取組が始まりました。
その後も、2021年1月、4月と一部の地域に緊急事態宣言が出され、大阪市の小中学校で自宅でのオンライン学習が原則とされたり、金曜日の午後や土曜日に試行的に実施されたり、家族が感染して登校できない子供に授業を配信するなど、遠隔・オンライン教育は日常の一部になってきました。
今回は、さまざまな遠隔教育について、文部科学省「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証)」の成果として公開された「遠隔教育システム活用ガイドブック第3版(以下「ガイドブック」とします)」の内容を基にご紹介します。
遠隔教育とは
本記事では、Zoom等のWeb会議システム等を使って映像や音声をやり取りしながら、同時双方向型で行う教育を「遠隔教育」と呼びます。ガイドブックには、目的や接続先等によって12のパターンが掲載されていますが、詳細は第2回で紹介することとし、今回は、コロナ禍で急速に身近になった「D 家庭学習を支援する遠隔・オンライン学習」や、「C3 不登校の児童生徒を支援する遠隔教育」、「C4 病気療養中の児童生徒を支援する遠隔教育」の取組について紹介します。
C 家庭学習を支援する遠隔・オンライン学習
2020年3月からの一斉臨時休業の際、全国各地で遠隔・オンライン学習が実施されました。先ほど「遠隔教育」は同時双方向型で行う教育と紹介しましたが、「オンライン教育/学習」は動画や学習システムを活用する同時双方向型でない形態も含みます。
2回目の緊急事態宣言中の2021年2月19日、文部科学省から「感染症や災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対する学習指導について(通知)」が出されました。
この中で、臨時休業・出席停止等によりやむを得ず学校に登校できない児童生徒について、指導要録上の取り扱いとして欠席日数としては記録せず、オンラインを活用した学習の指導を実施したと校長が認める場合、「オンラインを活用した特例の授業」として指導要録上に記録することが示されました。
それでは、一斉臨時休業の際、実際にどのように進められたのでしょうか。すでに1人1台端末が整備されていたなど、家庭学習を支援する遠隔・オンライン学習を実施した学校の取組を振り返ってみましょう。
●オンラインホームルーム
臨時休業が始まった当初は、学校に通えなくなった子供たちは先生や友達と突然会えないことに対して不安感を覚えたり、生活リズムが崩れたりしました。そこで、学校と家庭とをつないで、子供たちとコミュニケーションを絶やさないための遠隔・オンライン学習がまず行われました。
毎日、決まった時間にシステム上に学級の子供たちと担任の先生が集まり、健康観察やミニゲーム等を行いました。たとえわずかな時間でも、先生や子供たちが互いに顔を合わせ、会話する機会を作ることは、不安解消や生活リズムの安定にもつながります。
オンラインとはいえ顔を合わせる機会を作ることは「学校とつながっている」安心感があり、先生や子供たち、そして保護者にとっておおむね好評だったようです。また、オンラインホームルームで機材の使い方やオンラインでのコミュニケーションのとり方等について慣れることができ、その後の遠隔授業もスムーズに実施できたという声もよく聞かれました。
●ツール上で健康観察
対面授業でも使われていた協働学習用ツール(教師用端末から児童生徒用端末に資料を配布したり、端末に書き込んだ内容を他の端末から閲覧できる機能を持つツール)を使って、健康観察を行った学校もありました。子供たちは毎朝、自分の端末に送られてきた健康観察カードに自分の体調やメッセージを書き込んで返却します。担任の先生は、各家庭に電話等で連絡する手間なく短時間に全員の状況を確認できます。
臨時休業の前から1人1台端末環境を使っていた学校では、普段の授業で取り組んできた活用方法をそのまま応用するだけなので、大きな負担や混乱もなく効率的に健康観察を実施できたようです。
●オンライン学習支援
休業が長期化すると、子供たちも学習に対する不安が出てきます。そこで、システムを使った学習支援を行ったり、ツールを使った課題提示等が始まりました。
まずは、先生や黒板をカメラで映し、対面の授業をそのままWeb会議システム等を使って行う「遠隔授業」が始まりました。家庭等にいる子供たちとコミュニケーションを取りながら学習支援を行います。
特に受験を控えている中学3年生の子供たちの中には、突然の臨時休業で計画していた受験勉強のリズムを取り戻せなくなっていた子供もおり、オンラインでも先生から指導を受けられる機会が確保できたことは、大変有効だったのではないでしょうか。
オンライン学習支援では、対面授業と同じように45分、50分続けて授業を行うのは、子供たちの集中力や目の疲れなどからみて負担が大きかったようです。直接指導の時間を10~30分程度に抑え、システムのチャット機能を併用したり、学級全体に対する一斉指導の後、分からないところがある子供だけが残って個別指導するなど、オンライン学習支援ならではの取組も生まれました。
●ツールを使った学習支援
子供たちが家庭で自学自習できるよう、さまざまな手段で教材や学習課題の共有が行われました。例えば、臨時休業中に対面で授業するはずだった内容について教師が学習動画を作成し、YouTube等にアップすることで、子供たちはそれを頼りに学習することができました。
また、協働学習用ツールを活用して学習課題の配信や提出をしたり、質問を送受信することも有効です。
学習動画を作成するのは少し手間がかかりますが、家庭学習用コンテンツとして視聴されるなど、臨時休業が終わってからも有効活用されたようです。
感染症や災害等は、いつどこで発生するか分かりません。先に紹介した「感染症や災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対する学習指導について(通知)」でも、非常時にも学習を継続できるようICT環境を整備しておくとともに、平常時から端末の家庭への持ち帰りを行うなど、非常時を想定した備えをしておくことが大事であると示されています。これから備えとして「遠隔教育」を試みるという学校は、これらの事例を参考にしてみてはいかがでしょうか。
C4 病気療養中の児童生徒を支援する遠隔教育
家庭等にいる子供への遠隔教育は、コロナ禍以前からも行われていました。
例えば、病気やけがで入院したり自宅療養している子供は、その間学校に通って学習することができません。文部科学省では、2018年9月20日に出した「小・中学校等における病気療養児に対する同時双方向型授業配信を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(通知)」の中で、「小・中学校等において、病院や自宅等で療養中の病気療養児に対し、インターネット等のメディアを利用してリアルタイムで授業を配信し、同時かつ双方向的にやりとりを行った場合(同時双方向型授業配信)、校長は、指導要録上出席扱いとすること及びその成果を当該教科等の評価に反映することができることとする。」と示しています。
自宅療養や入院中の子供にとって、学校に行けないことは同世代の子供たちの社会と隔絶してしまうことにほかなりません。遠隔教育によって「学校とつながれる」というのは単に学業を支援するという意味だけでなく、病気やけがを克服しようとする励みにもなるのではないでしょうか。
C3 不登校の児童生徒を支援する遠隔教育
また、小中学校で不登校傾向にある子供たちの数は年々増加しており、生徒指導上の課題となっていますが、そういった子供たちを支援する手段の一つとしても、遠隔教育は活用され始めていました。
文部科学省から2019年10月25日に出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」では、個々の状況に応じて、ICTを活用した学習支援等を活用し、教育機会を確保することを求め、義務教育段階の不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合、一定の要件を満たせば、校長は指導要録上出席扱いとすることができることが示されています。
家庭だけでなく教育支援センターに通う子供と在籍校をシステムでつなぎ、教育支援センターから授業に参加したり、担任の先生と面談したりする取組も行われています。
また、コロナ禍での遠隔・オンライン教育には、これまで不登校だった子供たちも参加しやすい、積極的に参加できたという声もありました。学習意欲に応えて、再開後も配信を続けている学校もあります。
今回は、主に学校と家庭等にいる子供たちとをつなぐ遠隔教育について紹介しました。遠隔教育はさまざまな課題やニーズに活用できる可能性があります。次回は、遠方にいる講師とつないで、自校だけでは実施しにくい専門性の高い教育を行うなどの活用方法や、これからの学びの中での位置付け等についてご紹介します。
関連情報
遠隔教育についてもっと知りたい方へ
内田洋行教育総合研究所 遠隔教育研究成果レポートページ から、文部科学省YouTubeチャンネルの動画(遠隔教育事例紹介、始めよう遠隔教育)や、ガイドブックをご覧ください。
構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 井上信介
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
関連記事
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)