2021.06.14
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意外と知らない"遠隔教育"(第2回) ICTを活用した令和の日本型学校教育

第1回では、文部科学省「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証)」の成果として公開された「遠隔教育システム活用ガイドブック第3版(以下「ガイドブック」とします)」の内容を基に、遠隔教育の12パターンの中の「D 家庭学習を支援する遠隔・オンライン学習」や、「C3 不登校の児童生徒を支援する遠隔教育」、「C4 病気療養中の児童生徒を支援する遠隔教育」の取組について紹介しました。
第2回では、2021年1月26日に出された中央教育審議会の答申に例示されている遠隔・オンライン教育に照らしながら、その他のパターンの事例を紹介します。

令和の日本型学校教育における遠隔教育

2021年1月26日に、中央教育審議会から「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」が公表されました。中央教育審議会の答申は、今後の教育施策の方向性に大きな影響を与えるものですが、その中で遠隔・オンライン教育が大きく取り上げられました。

第Ⅱ部各論に、「6.遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方について」という章が設けられています。そこでは、これからの学校教育を支える基盤的なツールとして、ICTが必要不可欠なものであるとした上で、「ICTを利用して空間的・時間的制約を緩和することによって、他の学校・地域や海外との交流なども含め、今までできなかった学習活動が可能となる」と示されています。

また、第1回で紹介した、新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒への遠隔・オンライン教育等についても、「児童生徒や保護者が ICTを活用しつながることで心身の健康状態や学習状況の把握が可能になるなどの成果が見られたほか、学校間や関係機関間での連携においても活用が進められた」としています。

さらに、「今後は、教師が対面指導と家庭や地域社会と連携した遠隔・オンライン教育とを使いこなす(ハイブリッド化)ことで個別最適な学びと協働的な学びを展開することが必要である」と示しています。

答申では、さらに細かく具体的な活用方法についても提示されています。

中央教育審議会の答申の例示 ガイドブックの分類
④教師の対面指導と遠隔授業等を融合した授業づくり 学習活動の質を高めるため 児童生徒の発達の段階を踏まえ、学校の授業時間内において教師による対面指導に加え目的に応じ遠隔授業やオンデマンドの動画教材等を取り入れた授業モデルを展開するべきである。 A1 遠隔交流学習
A2 遠隔合同授業
B1 ALTとつないだ遠隔学習
B2 専門家とつないだ遠隔学習
⑤高等学校における遠隔授業の活用 高等学校における同時双方向型の遠隔授業の実施について単位数の算定、対面により行う授業の実施などの要件の見直しを行い教師による対面指導と遠隔授業を融合させた柔軟な授業方法を可能とし多様かつ高度な学習機会の充実を図るべきである。 B3 免許外教科担任を支援する遠隔授業
B4 教科・科目充実型の遠隔授業
⑦児童生徒の特性に応じたきめ細かな対応 (前略)ICTを活用した学習支援と対面指導や教師を派遣する形を組み合わせた訪問教育を受ける児童生徒の学習機会を充実すること、遠隔技術を活用した自立活動の支援について実践的に研究を進めることが必要である。(後略) C1 日本語指導が必要な児童 生徒を支援する遠隔教育
C2 児童生徒の個々の理解状況に応じて支援する遠隔教育
C3 不登校の児童生徒を支援する遠隔教育
C4 病気療養中の児童生徒を支援する遠隔教育

このように、これからの学校教育では、学習活動の質を高めるために、遠隔授業を取り入れることが求められるようになります。

遠隔教育の分類

それでは、具体的に遠隔授業をどのように活用すればよいのでしょうか。遠隔教育にはどのような活用方法があるか、見ていきましょう。ガイドブックでは、第1回で紹介したように、遠隔教育を実施する目的や接続先等を基に12パターンに分類されています。

A1 遠隔交流学習、A2 遠隔合同授業

離れた学校の子供たちとつなぎ、例えばそれぞれの地域のことについて発表しあう活動等を通じて、それぞれの地域の特徴や共通点、相違点等を知ったり、社会性やコミュニケーション力を養ったりすることができます。

サシバという渡り鳥について、飛来地の小学校同士をつなぎ、自分たちの地域 における渡り鳥の活動の様子を調べ、まとめた上で、相手校に対してそれを発表し、地域特性による様子の違いを伝え合った。

ガイドブックP.25より転載

また、小規模校や少人数学級では、多様な子供同士が発表しあったり学びあったりする機会を作ることが難しいですが、他校のクラスとつないで合同で授業を行うことで、そのような活動を行うことができます。

中学校社会科の「地方自治」において、相手校の地域の課題を明らかにした上で、その課題を克服するための政策案を立案し、相手校に対して提案した。また、その提案を基に、政策案について議論しあう活動を行った。

ガイドブックP.31より転載

B1 ALTとつないだ遠隔学習、B2 専門家とつないだ遠隔学習

外国語の授業ではALT(外国語指導助手)の支援が大変効果的ですが、ALTの配置によっては毎授業支援できるわけではありません。そこで、他校や教育センター等のALTとつないで授業に参加してもらうことで、ALTの指導を受けられる頻度を高めることができます。

毎時間、授業の冒頭10分間のみALTとつなぎ、会話を行う活動を行った。話し手の生徒がスピーチを行っている間、残りの生徒はALTと共に聞き手に回ることで、全ての生徒が活動に参加できる。

ガイドブックP.42より転載

また、学習指導要領でも、教育課程の実施に当たって地域の人的・物的資源を積極的に活用するなどして、社会に開かれた教育課程の実現が求められています。直接、地域の方々や専門家を直接学校まで来てもらわなくても、授業に参加してもらうことができます。

博物館とつないで、学校周辺の土地について考える理科の学習を行った。

ガイドブックP.50より転載

B3 免許外教科担任を支援する遠隔授業、B4 教科・科目充実型の遠隔授業

小規模な中学校、高等学校では、教員の数も少なく、教科によっては、該当する免許状を持った教員が配属されない可能性もあります。そんな場合、都道府県教育委員会の許可を得て、別の教科の免許状しか持たない教員が当該教科の指導を行うことがあり、これを免許外教科担任制度と呼びます。当然、免許状を持っていない教員が教えるわけですから、それを教える先生にとっても非常に負担が大きいです。そこで、他校の当該教科の免許状を持っている先生とつなぎ、授業を支援してもらうことができます。

三島村は、3島に4つの義務教育学校があり、中学校数学の免許状を保有しているのは4校で1名しかおらず、他の3校は臨時免許状を持つ教員が授業を担当している。臨時免許状を持つ教員も、交通や旅費等の事情で研修にも行くことが難しい。また、どの学校も対象の生徒が1、2名しかおらず、意見の交流や考えの比較・検討ができない状況にあった。そこで、年間109時間のうち96時間の授業で、4校を同時につないだ遠隔授業を実施した。

ガイドブックP.57より転載

高等学校では2015年度より遠隔授業が可能となり、当該免許を持った教員がいなくても遠隔授業を行うことで教科・科目を開設することができます。答申「⑤高等学校における遠隔授業の活用」で示された遠隔授業がこれに当たります。

徳島県では過疎化、少子化の急速な進行により高等学校の小規模化が進んでいますが、小規模校での進学から就職まで多様な進路希望がある中、各教科・科目等の専門知識を有する教員を十分に確保できていないという課題があります。そのような課題に対応するため、総合教育センターや他の高等学校と小規模校をつないで、教科・科目充実型の遠隔授業の通年実施を行 いました。教科・科目充実型遠隔授業の実施体制を確立することで、小規模校においても生徒のニーズに応じた選択科目を維持することができます。

ガイドブックP.62より転載

C 個々の児童生徒の状況に応じた遠隔教育

外国人児童生徒等、日本語指導が必要な子供たちは年々増加傾向にあり、このような子供たちに対する日本語指導の需要が高まっています。日本語指導を必要とする子供たちが学校に数名しかいない場合、特別に日本語指導をする教員や支援員を配置することは難しいでしょう。そこで、他校等に設置された日本語教室とつなぎ、共に指導を受けられると、子供にとっても有効であり、また現場の先生方の負担を軽減することにもなります。

国語以外の教科でも、授業中に出てくる言葉が理解できないために、十分な学習ができないことがある。1時限の授業の中で、国語や算数、社会など、複数の教科について補習を行い、その中で日本語の習得を図った。

ガイドブックP.70より転載

また、個々の子供たちに対してそれぞれ学習支援員等とつなぐことができると、それぞれの状況に応じたきめ細かい支援を行うことが可能になります。

第1回でも紹介しましたが、不登校や病気療養中の子供たちに対しても、自宅や教育支援センター、病院等と学校をつなぎ、授業に参加したり子供たち同士が交流することができると、より学校とつながることができるでしょう。

これらは、答申「⑦児童生徒の特性に応じたきめ細かな対応」で示された遠隔授業もこれに当たります。

日常的に英語で会話する経験を積むために民間の英会話サービスと連携し、児童生徒が海外に在住している英会話講師と個別につないで英会話を行った。 週2回、朝の時間や放課後に行う課外活動として、実際に海外に住んでいる講師と英会話を行うことで、自分の言葉が通じたり、 講師の言葉が理解できたりした時に大きな達成感を得ることができ、児童生徒の学習意欲の向上につながった。

ガイドブックP.75より転載

D家庭学習を支援する遠隔・オンライン学習

第1回で紹介した、新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒への遠隔・オンライン教育等がこれにあたります。新型コロナウイルス感染症だけにとどまらず、地震等の災害によって学校が閉鎖してしまう状況も考えられるでしょう。こういった不測の事態に備え、子供たちの学びを止めないようにすることが大事です。

遠隔教員研修

遠隔教育は子供たちの学びだけに有効なものではありません。教員研修をWeb会議システム上等で、研修会場に赴くことなく受講できるため、受講する先生方の負担を大きく減らすことができます。また、企画運営する主催者の立場でも、招へいする講師の日程調整が容易になり、また移動費や会場費のコストを削減することができます。現在、多くの公開授業研究会もオンラインで開催されています。

新型コロナウイルスによる会場で密に参集することがなくなるので、新型コロナウイルス感染症対策にもなるでしょう。

遠隔地にいる講師の講演・講義を聴く。地理的な制約を受けることなく、関心のある分野の情報を収集することができる。

ガイドブックP.112より転載

このように、遠隔教育には様々な目的やつなぎ方に応じたパターンがあります。それではこれらの遠隔教育は実際にどのように実施され、どのような効果があるのでしょうか。文部科学省では、これまで「遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証」等の事業を通じて、全国各地の学校を実証校として、様々な遠隔教育の実践を進めてきました。

筆者の所属する内田洋行教育総合研究所は6年にわたり当実証事業の事務局を務めました。実証での取組や成果を基に制作された「遠隔教育システム活用ガイドブック」やパターン別の実践動画には、遠隔授業に必要なICT機器や遠隔授業の具体的な内容、効果、実施する際のノウハウ等がわかりやすくまとめられています。

以下のまとめサイトからご覧いただけるので、ぜひ学習活動の幅を広げる参考にしてください。

関連情報

遠隔教育についてもっと知りたい方へ

内田洋行教育総合研究所 遠隔教育研究成果レポートページ から、文部科学省YouTubeチャンネルの動画(遠隔教育事例紹介、始めよう遠隔教育)や、ガイドブックをご覧ください。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 井上信介

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