教育トレンド

教育インタビュー

2020.05.20
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守谷市教育委員会 緊急事態の時こそ“心の安定”を支えるICT活用を

子どもたちの学びの心を止めない

新型コロナウイルス感染拡大の予防策として、2020年2月28日付けの文部科学省の通知を受け、全国のほとんどの教育機関において臨時休業の措置が取られた。休校期間における子どもたちの学習フォローとしてICTの迅速な活用が叫ばれる中、学校でICTを日常的に活用している自治体では、休校中どのような取組を行っているのだろうか。
特定警戒都道府県にある(取材時)茨城県守谷市では、2014年から全国に先駆けてテレビ会議システムを活用した中学校区での学校間交流授業、猛暑時やインフルエンザ流行時における教室からの全校集会への参加など遠隔教育を推進してきた。2016年には市内の全13小中学校に、電子黒板(普通教室完備)やタブレット端末(3人に1台)、家庭でも利用できるオンラインデジタル教材を整備し、恵まれたICT環境を積極的に活用した教育活動を展開している。今回の臨時休校中のICT活用について、教育委員会指導主事・嶋田知成氏にお話を伺った。

⼦どもたちが少しでも楽しい時間を過ごせるように

「守谷市学びのチャンネル」

守谷市教育委員会 指導主事 嶋田知成氏

学びの場.com休校要請を受けて、まずどのような対応をされましたか?

嶋田指導主事(以下、嶋田)文部科学省の通知を受けて、守谷市では速やかに対策会議を開催し、3月2日からの小中学校の休校を決定しました。急な要請だったので、教育委員会は方向性は示しましたが、各学校に実態に合わせて対応してもらうしかなかったのが正直なところですね。
守谷市では登校日は設けず、家庭学習用課題は、定期的に保護者の方々に校舎の昇降口まで取りに来ていただく方式を採っています。

4月に入って、守谷市が推進するMORI・TECH(守谷型EdTech)の「社会に開かれた教育課程」の取組の1つとして、教育委員会でYouTubeに「守谷市学びのチャンネル」を開設し、32件の動画を一気に作成・アップしました。開設後10日間でチャンネル登録者数は250人まで伸び、約6500件のアクセスがありました。

学びの場.comどのような授業の動画を配信しているのですか。

嶋田どちらかと言うと、国語や算数などの学習教科より、体験・実験型の授業に重きを置いています。子どもたちに、家庭の中でできる体験や学びを通して、学ぶことへの興味・関心を高めてもらうのが主な目的です。チャンネル内には、理科、図工、音楽、英語の4つの再生リストがあります。

学びの場.com授業動画はどのように制作されているのですか。

嶋田動画の内容については現場の先生方からアイデアを出してもらい、教科担当の先生に作ってもらっています。動画自体は、ICT支援員が動画を撮影・編集しアップロードしてくださっているので、とてもスピーディーに展開することができ、先生方も積極的に楽しみながら作っていらっしゃるのを感じています。

例えば、英語の授業動画は守谷市のALT(外国語指導助手)の先生が作っていますが、授業というよりも歌ったり体を動かしたり、一緒に楽しめる内容になっています。人気なのは、図工の「絵手紙」動画です。再生回数も600回を超えています。(取材時)これも担当の先生から「子どもたちに絵手紙を描くといいのでは?」と提案してもらったことがきっかけで作られました。
現場を知っている先生が、子どもたちを思って企画を考えてくださっていますので、かなりみなさん見てくださっているようですね。

学びの場.com授業動画の作成・配信について、現場に戸惑いは無かったのですか。

嶋田守谷市では、2014年から保幼小中高一貫教育「きらめきプロジェクト」を実施しています。その中で学校間での交流が増え、他校の先生との打合せや、子どもたちの交流にテレビ会議システムを使うようになりました。その経験もあって、先生方に抵抗感は無かったようです。

オンラインを上手に工夫して使いながら、子どもや保護者の心の安定をはかる

守谷市で蓄積してきたテレビ会議システム活用の知見

「MORI・TECH(守谷型EdTech)」

学びの場.com「MORI・TECH」について、具体的な内容を教えてください。

嶋田「MORI・TECH」はプログラミング教育を中核とした学校教育改革プランです。電子黒板(普通教室完備)やタブレット端末(3人に1台)などの恵まれたICT環境を積極的に活用し、新しい時代に必要な情報活用能力を育成します。

1つ目の「守谷スマートスクール・プログラム」では、小学校1・2年生「楽しむ」、3・4年生「気づく」、5・6年生「つくる」、中学生「役立てる」とテーマを設定し、企業・団体や地域の専門家の協力を得ながら、学年に応じたプログラミング的思考力を身に付けられるようにしています。

2つ目の「テレビ会議システムを活用した遠隔教育の推進」では、他校とつないで同じ課題に取り組んで発表し合うということも行いました。オンラインで他校の子どもたち同士がつながって授業を行うと、市内にある地域差を間近に体験するというおもしろい効果がありましたね。例えば、駅前と農村部の違いが見えてくることで、バラバラのピースだったものが一体感を生み出していく。これは「時間と距離」を解消できるオンラインならではのメリットだと思います。

3つ目の「オンライン学校・家庭連携サポートシステム」では、家庭学習にも活用できるオンラインのデジタル教材を用意しており、家庭のパソコンやタブレット端末からどの学年でも自由に学習ができます。この教材によって、子どもの学習の進行状況を学校と保護者が共有できるようになっています。

学びの場.comテレビ会議システムは、授業以外でも活用されているのですか。

嶋田猛暑時やインフルエンザ流行時に、教室にいながら全校集会に参加するといった活用もしています。
今では、各学校の保健室にタブレット端末を置いて、頭や顔にけがをした際は、ビデオ通話で家庭に連絡できるようにしました。

校外学習先で火山噴火や洪水などの災害が起きた際にも、「無事です」という電話やメールだけでなく、ビデオ通話で姿を見られると保護者も安心するでしょう。こういった場合に備えて、平時からキャンプファイヤーや遠足の昼食の様子などを配信することも考えています。

病気等で毎日登校するのが難しい児童の家庭と学校を、算数と給食の時間につなぐようにしたこともあります。登校できない日はふさぎ込みがちだったそうですが、子どもの気持ちはもちろん、保護者の気持ちも明るくなり、安定したそうです。
オンラインによって勉強をさせようとするのではなく、あくまで気持ちの安定につながる使い方を意識してきました。

ICTのメリット・デメリットを知ったうえで慎重な対応を考えて

授業動画の一方的な配信では、本質的な教育にはならない

学びの場.com休校期間が延長されましたが、教科学習のオンライン授業についても計画されているのですか。

嶋田守谷市では各学校のICT環境がある程度整っているので、それらを活用してオンライン授業を進められないか早々に検討しました。WiFi環境は9割の家庭にあり、タブレット端末の貸出も可能です。しかし、ハードルになるのは受け手(子どもたち)側の環境がバラバラであることです。

例えば、Web会議ツールのZoomを使うにしても、タブレット端末なのかパソコンなのか、WindowsなのかiOSなのかの違いによっても操作性・利用できる機能などが異なり、せっかく授業を行ってもうまく操作ができなかったりつながらなかったりして、子どもたちにストレスをかけることになります。
また、Zoomではオンライン時に背景画像を設定することができますが、うまく設定できずに各家庭の様子や位置情報が映り込んでしまう場合も考えられますよね。こういったプライバシーの対策についても、きちんと考えなければいけないと思います。

これまでテレビ会議システムを活用した授業を行ってきたからこそ、そういったストレスが授業にとって大きな壁になることを実感していますし、Zoom上で先生が30人以上もいる子どもたちの様子を把握するのは不可能だと分かっています。
保護者の方々からも、「いつオンライン授業を始めるんですか。」という問い合わせが来ていますが、学習を早く進めることに気を取られて、子どもたちの不安を増長させるようなことがあってはならないと考えています。

学びの場.comオンライン授業を実施するにあたって気をつけるべきことは、Wi-Fiやタブレット端末を用意できるかだけではないんですね。

嶋田オンラインを使うことは、一言で言うと「簡単」。だからこそ、考えなければいけないことがたくさんあるんです。私自身も「MORI・TECH」のプロジェクト以来、Zoomなどのツールを何度も使ってきましたのでオンラインでのメリットやデメリットについては随分とわかってきました。
正直に言うと、オンラインの授業動画はすぐにでも作ることができますが、問題は受け手側です。流す方は結構簡単なんです。でも、受け手が慣れていないところに授業を一方的に流して、これで教科書のページが進んだからOKという判断を下すのは危険でしょう。 まずは、ICTに頼っていきなり授業をひとコマするのではなく、「オンライン朝の会」など、オンラインの操作や感覚に慣れることがまず重要だと思います。保護者にも参加してもらってオンラインで昼食会をしたり、じゃんけんぽんをやってみたりするのもいいですね。アナログとデジタルを組み合わせることによって相乗効果が生まれるのではないでしょうか。
アナログとデジタルの中で少しずつステップアップして、「守谷市学びのチャンネル」のような動画をあらかじめ見ていた子どもたちが、少しずつZoomによる授業を受け入れることができるような、組み合わせによる工夫を重ねていくことが大事だと思います。

そういった意味で、守谷市では学習の進行よりも、まずは子どもたちの心の安定をはかることを優先しています。新型コロナウイルスの感染が拡大している影響で、普段どおりの生活ができない子どもたちが少しでも楽しい時間を過ごせるような工夫を心がけて、休業中のICTの活用を進めています。学力は取り戻せても、心はなかなか取り戻せませんからね。

アナログとデジタルを組み合わせて「仲間や集団」を意識しながら育んでいく

学習意欲を刺激する

学びの場.com今後、ICTを活用したオンラインでの教育活動について構想はありますか?

嶋田新型コロナウイルスの影響は、子どもたちだけではなく先生側にもありました。今の時期ですと通常、新任の先生方の研修を行っていますが、現在は集まることができません。そこで守谷市では、新任の先生方にZoomを使って「なりたい先生像について」のグループディスカッションを行っていただいたところ、とても刺激になったようです。研修自体を取りやめるのではなく、あきらめずにオンラインでできることをやってみようと考えています。

茨城県教育委員会から授業動画の配信が始まり、連休明けに希望者にはDVDも配布されましたが、1人で学習するのはなかなか難しいと思います。カラフル学舎の加藤みつる先生の「オンライン自習室」のように、オンラインで「自分だけじゃない」「誰かと一緒に考えている」というように、「仲間や集団」を感じられる工夫ができればと考えています。

教科書を進めることが目的になってしまい、動画の授業を見せて終わりといったものではなく、「子どもたちの学びの心を止めない」という姿勢を忘れずに取り組みたいですね。

記者の目

全国的にも早くからICTの活用を授業に積極的に取り入れてきた守谷市だからこそ、「ICTに依存しない」という強い意志を感じられた。また、オンライン授業をやったということにとらわれて、子どもたちの理解やコミュニケーションという本質的な部分がおろそかになってしまう可能性にも触れ、あくまでもサブ的な利用であることを意識していることが印象的だった。学習の進行も大事だが、何を優先するべきかを忘れてはならない。

取材・構成・文:学びの場.com編集部

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